第41話 バレた……?
「つまり……最近出かけていたのは、探索者資格を取るためだったと」
「そうだよ。一昨日が筆記試験で、昨日が実技試験だったってわけだよ」
玄関前での衝撃の告白から場所をリビングに移し、俺は改めて碧依と向き合っていた。
昨日の帰りに、汗だくだった妹の謎が解けたところだ。
三月に誕生日を迎えた碧依には、確かにその資格があるけど、少し早すぎやしないだろうか……
「碧依。探索者っていうのは、死と隣り合わせの職業だぞ? なにか理由があるのか?」
「理由は色々あるけど、それに死と隣り合わせなのも理解してるよ。――それと知ってるついでに言えば、お兄ちゃんが探索者やってるのも知ってるよ?」
「……うん? いまなんて?」
おかしいな。
探索者になる理由を聞いたはずが、何故か俺が探索者をやってることがバレているような発言が聞こえたぞ。
気のせいかもしれないので椅子に座り直し、聞き直すが……
「お兄ちゃん、探索者やってるでしょ。それも最近から」
「ええ!? な、なんで知ってるんだ!?」
どうやら気のせいではなかったらしい。
思わず椅子から立ち上がってしまい、俺の心臓は早鐘を鳴らすように騒ぎ出す。
――み、見られたのか? 家では極力ティアに変身しないように気をつけていたのだが、どこかに落ち度があったのか!?
俺が冷や汗を流しながらあわあわしていると、碧依がゆっくりと立ち上がってキッチンに移動する。
「知ってるも何も、連日大きなバックパック背負ってどこかに行くし、今回のプリンもそうだけど、これ……一番お高いやつだよね? 最近の食材もそうだけど、お高いものばっかり買ってくるから」
碧依はそう言って冷蔵庫からプリンを取り出しながら、まるで名探偵のように推理を披露していく。
つまり最近の羽振りの良さで勘付いたということだろうか。
ということはティアの姿を見られた訳ではない……のか?
俺はハラハラしながら、碧依の動きを追い続ける。
そのままキッチンからこちらに真っ直ぐに戻り、俺の正面に立つ。
「決め手はお兄ちゃんと行ったカフェでの事件だよ。思い直すと、あの時のお兄ちゃん凄い強さだったよね? それでピンときちゃったんだよね」
碧依はおもむろに片手を突き上げて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「そう……お兄ちゃんは探索者なんだってね!」
ビシッ! と俺へと指を突きつけた碧依は、ドヤ顔と共に可愛らしく胸を張る。
「つ、つまり……俺が強かったから探索者だと?」
「うん、そうだよ? むしろ他に何かあったっけ?」
碧依はこちらに指を突きつけたまま、小首をこてんと可愛らしく傾げ、不思議そうにこちらを覗き込んできた。
(…………セーフ!!)
ティアに変身してるところがバレたわけではないことに安堵した俺は、思わず心の中でガッツポーズを繰り出した。
「ま、まあ碧依の読みは当たっているよ。それで結局、どうして探索者になりたいんだ?」
椅子に座り直しつつ改めて理由を問うと、碧依も真面目な表情で対面に座り直す。
「あたしだって別に、バリバリの探索者になりたいわけじゃないよ? 最低限の自衛が出来るくらいでいいの。さっきは紛らわしい言い方してごめんね、お兄ちゃん」
話を聞けば、最近の女子の間では自衛目的の資格取得が流行っているらしい。
昨今の探索者関連の犯罪や迷惑行為が年々右肩上がりだそうで、そういった背景もあるらしい。
確かに、今さっき話題に出たカフェの時のような事件が、もし碧依に降りかかったとしても、切り抜けられるだけのステータスがあれば安心かもしれない。
「そっか……うん。そういうことなら納得だけど、問題は父さんたちが納得するかどうかだな……」
「うん……そうなんだよね」
正確に言えば父さんたちというより父さんが、になりそうだけど。
「ま、理由を話せば大丈夫だと思うよ。とりあえず今日の夜にでも電話してみるか」
「うん。……ところで気になってたんだけど、お兄ちゃんって一度探索者になるの諦めたんだよね? お父さんたちに聞いたんだけど、お兄ちゃんにも名誉があるって言って詳しく教えてくれなかったんだよ」
……恐らくツノウサギにコテンパンにやられた件だろう。
碧依に甘々の父さんでも、兄の威厳を優先して守ってくれていたらしい。
心の中で父さんたちに感謝しながら、恥ずかしい過去をこれ以上触れられない内に誤魔化すことにする。
「それは、俺にも色々と歴史があるというか……そんなことよりそろそろお昼にしないか、もうお腹空いちゃってさ」
「え? ――ホントだ! すぐに作るから待っててね」
俺は正午をとっくに過ぎている時計を見やりつつ、お腹を擦ってアピールすると、碧依はすぐにキッチンへ向かい手際よく調理を始めてくれた。
何とか誤魔化せたことに安堵しながら、碧依の作ってくれた絶品ハンバーグの芳醇な香りに包まれながら、お昼を終えた。
★✫★✫
「さてと、そろそろ電話するか。ちゃんと自分の口からしっかりと言うんだぞ?」
時刻は夜の21時を回ったところだ。
この時間なら、父さんたちは晩御飯を食べ終えて今頃テレビでも見ているだろう。
「う、うん」
こういうのはハッキリと本人の意思を伝えるのが良いと考え、碧依の口から直接伝えさせることにした。
やはり緊張しているのか、その返事はどこかぎこちない。
「大丈夫だ。父さんがゴネても、俺が何とかしてやる。お兄ちゃんに任せとけ」
「うん……お兄ちゃん、ありがとう」
安心させるように碧依の頭に手をポンと置くと、少し緊張が解けたようでにっこり微笑み返してくれた。
俺は一つ頷き、実家へと電話を掛ける。
数回のコール音のあとに出たのは、母さんだった。
『もしもし母さん、天霧だけど…………あ、うん。大丈夫だよ、元気でやってるよ。それと、その碧依から2人に話があってさ……うん。いま代わるよ』
開口一番娘の心配から始まる辺り、やはり大事にされているな。
とりあえず最初の関門だ。まずは母さんを説得させるべく、碧依にスマホを渡す。
碧依は頷きながら、電話の向こうにいる母さんに向かって話しかける。
『もしもしお母さん、碧依だよ。……うん。もう、それさっき絶対お兄ちゃんに聞いたやつでしょ。あのね今日はそういうのじゃなくてね、今日はね、うん……』
こうして何度か近況のやり取りをしたあと、ついに本題に入る。
『今日は相談事があってね……あのね、あたし、探索者の資格取ってもいいかな? ……うん、危険なのは分かってるよ。あのね、取りたい理由はね……』
母さんと何度か言葉を交わし、ついに第一関門突破の瞬間が来たようだ。
『うん。そういうわけなんだけど――ホント!? ありがとうお母さん!! うん。お父さんにも代わって』
――さあ、ここからが本番だ、頑張れ碧依。
そのまま受話器の相手が父さんに代わったようで、碧依は先ほどと同じ説明をするが、やはり難航しているようだ。
碧依の声は段々と防戦一方になる。
『だからさっきもお母さんに説明したけど、みんな取ってるし……それに、パーティーを組めば比較的安全に進めるって講義も受けてるし――――え? それでもお兄ちゃんの例がある?』
――――おっと、どうやら過去の天霧くんが足を引っ張っているらしい。
これは碧依では分が悪いだろう。いや、ホント俺のせいだこれ。
俺は咳払いを一つし、碧依に交代するようにジェスチャーする。
恥ずかしい過去の清算は、当事者の俺がやるしかないだろう。
俺は碧依からスマホを受け取り、受話器に耳を当てた。
『あ、もしもし父さ――『ダメだぞ!!』ん……』
口を開いた途端、父さんは食い気味で割り込むように入ってきた。
……相変わらず碧依の事となると見境がなくなる人だ。
さて、電話を代わったはいいが、正直どう攻略するかを全く考えていない。
キーンと鳴り響く耳をスマホから離しながら、作戦を立てる。
とりあえず、まずは話を聞いてもらおうか。
『父さん? そんな頭ごなしに否定してたら碧依に嫌われるよ?』
『む……いや、頭ごなしではないぞ! まさか忘れたとは言わさんぞ天霧、お前のツノウサギワンターンキル事件をな。あれは今でも母さんとの酒の肴だ』
それを言われると正直返す言葉もないと言うか、そもそも父さん達の間でそんな事件名で呼んでたのとか……
言いたいことが別で出てきたことに、俺はどう答えたものかと、頭を悩ませている間に父さんのマシンガントークは加速を続ける。
『それに、仮に碧依の言う通り、パーティーとやらを組んでダンジョンに行ったとしよう。――いいか天霧、よく考えるんだ。碧依の可愛さに他の男どもが我慢できると思うか? いいや無理だ! そんな危険な場所に碧依を行かせられるわけがないだろう!!』
――うん、もう本当に親バカだ。
とは思うものの、正直それは俺も父さんと同じ意見というか、別に男と一緒だと危険という偏見はないが……
それでも、ダンジョンという閉鎖空間で、可愛い妹にちょっかいをかける輩がいないとも断言できない。
だが、その点に関しては工夫次第だろう。
『そこは女の子たちだけのパーティーで潜るとか工夫すれば大丈夫だよ。というか、碧依は本格的な探索者じゃなくて、自衛目的にレベルを上げるのがメインみたいだから』
『だがダンジョンには他の男どももいるだろう? 出くわして変なことされたらどうするんだ!』
しかし父さんは折れる気配を見せず、まだまだ反論を続けてくる。
確かにそれもあるだろうが、それも心配はない。
俺はハッキリと父さんに向かって口を開く。
『それも大丈夫だよ父さん、碧依は俺が守るから』
そもそもレベルを上げるだけなら、俺が一緒に潜ればいいだけの問題だったんだ。
それこそティアの姿で潜ったっていい。
俺の真剣な様子が伝わったのか、父さんは少し動揺した様子を見せながらも返してくる。
『いや、お前確かステータスオール1だっただろう? そんなのでどう――『守るよ。碧依だけは必ず』……』
俺はもう一度ハッキリとした返事を割り込ませる形で父さんの言葉を遮る。
息を呑むかのような反応を見せた父さんは、そのまま数秒、沈黙を続ける。
『天霧、もう一度聞くぞ。……かつてツノウサギに殺されかけたお前が、それでも碧依を守れると言うんだな?』
『うん、何度聞かれても同じだよ。碧依は死んでも守るし、俺も死なないよ』
何度聞かれても同じ答えを返すだけだ。
そんな俺の意思が通じたのか分からないが、もう一度流れる数秒の沈黙のあとに、父さんから返ってきたのは、清々しい笑い声だった。
『……分かった。いいだろう』
『――え? いいの?』
思わず素で聞き返してしまったが、正直意外だった。
自分で説得しといてなんだが、何故あんな拙い説得で急に考えを改めたのだろうか……?
『お前がそう言うのなら大丈夫だろう。さっきの言葉にはそれだけのものをハッキリと感じたぞ。……どうやらこの5年間でお前も随分と変わったようだな』
俺が黙って聞いていると、父さんはどこか遠くを見るような、そんなしみじみと過去を振り返る声色で続けた。
『本当に変わったな天霧。……ふふ、可愛い子には旅をさせよと言うが、まさしくその通りだったな。まさか、これほど頼もしい男になっていたとはな』
『――あ、うん。……ソウダネ』
ごめんね父さん。あなたの息子は今、頼もしい男とは正反対の存在になってます。
信じて送り出した可愛い息子が、まさか物理的に可愛い女の子になって、ダンジョンに潜ってるなんて思いもしないだろう。
……なんてことは口が裂けても言えないが。
なんにせよ無事に説得が終わったので碧依にサムズアップを向けると、何故か顔を茹でダコのように真っ赤にした碧依がこちらを見上げていた。
父さん『それに今でこそ酒の肴だが、お前が倒れた時は本当に心配したんだぞ。いいか天霧、父さんたちを悲しませるようなことはしないと約束できるな?』
ティア『あ、うん』
父さん『うん? 天霧おまえ…………声変わりでもしたか?』
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