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第4話 ダンジョンに……え? 入れない?

 俺は今、大幅に上がったステータスの検証をするために、相模原ダンジョンのギルドホールへ向かっている。

 相模原ダンジョンは、相模原駅から徒歩十五分と微妙な距離にあるのだが、駅前から無料シャトルバスが出ている。

 俺はバスに乗り込み、五分ほど揺られて相模原ギルドに到着した。


「おお、久しぶりに来たけどやっぱり大きいな」


 相模原ダンジョンギルドホールは約十万平方メートルと、大型ショッピングモールのような広々とした造りだ。

 その中でも特筆すべき点は堅牢さにあり、Aランクモンスターであるハードシェルクラブの甲殻を混ぜた建材は、例え軍用ミサイルを撃ち込まれても傷一つ付けられないと聞く。

 ここが特別なわけではなく、緊急時の避難所としても使用されるため、全国のギルドホールはどこも同じような広さと造りをしているらしい。

 

 そしてギルドの中には、テナントとして各界隈で世界的にも知られる有名店がずらりと並んでいるため、純粋な集客力の面でもこれくらいの規模が必要なのだろう。

 

 こういった事情もあり、ダンジョン発生は町興しにも直結する。

 実際、このギルドホールも平日の昼間から人で溢れていた。


 俺はギルドの中に入り、ダンジョン入場カウンターへまっすぐ向かった。


「いらっしゃいませ。探索者カードの提出をお願いします。」

 

 俺はポケットから探索者カードを取り出し、受付嬢に見せる。

 ――探索者カード、正式名称は探索者ライセンス。

 文字通りダンジョンの入退場や、魔石及びドロップ品の買取に必要な物で、日本では十五歳から取得可能だ。

 ……ずっと使っていなくて、家を出る直前に探し回ったのは内緒だ。ちなみに、見つけた時は埃まみれだった。


「拝見いたします。ランクはFで……あら?」


 受付嬢さんは俺から受け取ったカードをパソコンの様な機械に通すと、何かに気づいたような声を出す。

 どうしたのだろうか?

 

「お客様が最後にダンジョンに入られたのは、13年前となっております。Dランク以下で10年以上のブランクがある方は、ダンジョン講座を受け直していただく義務がございますので、まずはそちらの受講手続きをしても宜しいでしょうか?」


 そんなシステムがあったのか、確かに高校生の時に潜ったきりだったから、それくらいは経っている。

 そしてランクというのは、探索者に定められる力量の目安だったかな。


 俺は受付嬢さんに一番早い時間の席を取ってもらう。


「かしこまりました。試験官を呼び寄せますので、今からですと、30分後の10時からになります。受講は約1時間を予定しており、費用は5千円となります。会場はそちらの通路の突き当たりを右に曲がっていただき、そこから更に突き当たりになります。それでは、説明は以上となります。頑張ってくださいね」


「ご丁寧にありがとうございました。それでは失礼します」

 

 受付嬢さんが丁寧にお辞儀をして説明を終えてくれたので、俺も挨拶を返しその場を離れる。

 

 さて、ダンジョン講座まで30分あるわけだし、軽く何か食べてから向かうとしよう。



★✫★✫



「ふむ、君が再受講希望者の桃谷 天霧くんで間違いないかな?」


「は、はい。そうです。本日はよろしくお願いします」

 

 会場に着いた俺を待っていたのは、半袖半パン姿の、筋骨隆々な歴戦の猛者然としたおじさんであった。

 俺は少し気圧されながらも、なんとか答える。

 だってこの人眼帯してるし、膝とか腕とかにデカい傷痕が大量にあるし。


「私は本日の試験官を務める太田おおた ただしという。そう緊張しなくても良いぞ。再受講と言ってもダンジョン探索での基本知識やマナー、それと注意すべき点の再確認なのだからな」


 俺の緊張が伝わったのか、にっこりと笑って今からすることを教えてくれる。

 見た目の割に優しい人のようだ。でも、笑顔が凄く獰猛です……。


「とはいえ、最後は基礎体力テストがあるからそこで落ちる者もいるがな! なぁに、気合と筋肉があれば怖いものはないさ!」


 ガッハッハと、獲物を見つけた虎のような顔で豪快に笑う太田教官。だから怖いです。あと俺、そんなに筋肉付いてないですよ。


「では早速始めようか。最初の30分はダンジョン講座だ。退屈かもしれんが、重要なことだからな。しっかりと聴くように」


 こうして最初の30分は、ビデオと太田教官による説明で始まった。



 といっても、内容は基本中の基本。

 ダンジョンには首都ダンジョンと一般ダンジョン、それにインスタントダンジョンの三種類があるとか。


 ダンジョンは四人一組のフォーマンセルが推奨であるとか。


 一般ダンジョンはそれぞれ最大階層数が異なり、その深さによってS〜Fのランクで分けられるとか。


 首都ダンジョンは未だ攻略中で、その最大階層数が今も尚更新中であるとか。


 ダンジョンは下の階層へ向かうほどモンスターが強くなり、最下層にのみボスモンスターがいるとか。

 ただし、例外として首都ダンジョンは十層ごとにボスがいるとか。


 探索者ランクは同ランクのダンジョンをクリアするか、ダンジョンの到達階層や討伐モンスターによって昇格するとか。


 一般ダンジョンは、魔石とは別に様々なドロップ品もあるけど宝箱は落ちないとか。

 反対に、首都ダンジョンは魔石以外ドロップしない代わりに、極低確率で宝箱がドロップするとか。


 インスタントダンジョンは、発生から一週間以内にクリアしないとモンスターが地上に溢れるとか。

 

 たとえ誰かがピンチに見えていても、勝手に助太刀をしてしまうと横取りになって揉めてしまうので、手を貸す際は相手から求められるか、こちらから助けが必要かどうかを、相手に確認してから行うとか。

 

 魔石が落ちても直ぐに拾わずに、周囲が安全か確認し、戦闘終了を確認してから拾うとか。

 

 長い探索になると筋肉の有無が如何に大切か身にしみて分かるとか。

 

 その日の筋肉のコンディション次第ではモチベーションが違うから、探索を切り上げるタイミングは慎重に探るとか。

 

 って後半おかしいだろ! しれっと筋肉信仰を布教しないでくれますかね……。


  

 ――こうして30分が過ぎ、いよいよ後半の体力テストが始まる。


 

「さて、それでは体力テストに移ろうか」


 太田教官はそう言って、講座を受けていた部屋から隣の部屋へ移る。

 俺もその後に続くと、学校の体育館のような広い場所に繋がっていた。


「まずは軽く身体データを取るぞ。50m走から始めようか、こちらのレーンの中に入って白線の手前に立ってくれ」


 俺は陸上トラックでよく見るレーンの中に入り、スタンバイする。とりあえず全力で走ってみよう。


「準備できました。いつでも大丈夫です」


「よし、私がゴール位置まで移動したあとに、スタートの合図を出すから全力で走ってくれよ」


 そう言って太田教官はゴール位置まで素早く走り、こちらを確認してから合図を出す。


「スタート!!」


 ――瞬間、俺は全力で駆け出す。

 タタタと走り切り、ゴール位置の白線を越えた瞬間で太田教官はタイマーを止める。


「ふむ、50m6秒95か、普通というかなんというか、探索者としては少し物足りないが……そういえば君はFランク探索者だったな」


 走り出した瞬間から薄々気付いていたが、やはり遅かったらしい。

 全力で走ったんだが、ステータスがオール1の頃と大して変わらないタイムだった。


 ……そうか、ステータスの力は意識して解放しなければ素の身体能力に反映されないんだった。

 これをスムーズに切り替える技術が探索者の基本技能と言われている。

 

 よし、次のテストでは意識して解放してみよう。


 

「次は反射神経のテストだ。こちらの椅子に座ってくれ」


 そう言って案内された椅子に座る。目の前には30個程の小さな黒いパネルと、モニターが付いており、そこにはタイマーと思わしきものが表示されてある。

 

 アミューズメント施設でよく見る、光った所を押していくゲームの機械に似ている。

 あれの小型版みたいな感じだが、こういった試験で見るのは始めてだ。


「これってアミューズメント施設なんかで見るゲーム機に似てますね」


「ああ、君は初めてだったか。これは体力テスト用に最近導入されたばかりでな。構造は似ているが、その精度はゲームとは段違いだぞ」


 こういうゲーム×身体を動かす系は好きなんだよな。某ダンスゲームや、向かってくるブロックをコントローラーで切る某リズムゲームとかも好きだし。

 

「ではルールを説明するぞ。この黒いパネルが次々に光っていくから、そのパネルを押していくだけだ。ただし、全て押していいものではないぞ。光る色にも種類があってな、白と赤は押していいが、緑色は押してはならない。それから後半につれてどんどん光る速さが上がっていくからな。ちなみに、光ってから0.5秒位内に押さなければ、自動的にミス扱いになるからな」


 なるほど、面白いルールだ。発見能力に瞬時の選択能力、押すかどうかの判断力、それらを0.5秒以内に求められる、まさに反射神経のチェックだな。

 

 それに、徐々に速さが上がっていくなら落ち着いてステータス解放を試せそうだ。


「ルールは理解しました。いつでも大丈夫ですよ」


 俺は太田教官にいつ始めても大丈夫だと伝える。


「制限時間は2分。後半30秒は本当に速いから無理だと思うが、頑張ってくれよ。では……開始!」

 

 教官は軽く頷き、一拍おいてスタートの合図を切る。

 

 

 俺は、開始の合図と同時に目を閉じて、ステータスを意識してみる。

 その数値を自分に入れるような感覚を意識する。

 

 その瞬間、時間がゆっくりに感じる。まるで時が止まったみたいだ。

 これがステータスの力なのか? だが、これはやりすぎな気がする。

 

 だって目を開けたらモニターの数字が01:59.64から一切動かないんですけど……。

 目を開けてから体感で10秒くらい経ってる気がするが、まだ動かない。

 とんでもステータスだと思っていたが、ここまでとは思わなかった。

 

 とにかく時間間隔がゆっくりすぎる。この辺も意識して集中すれば……よし、モニターが動き出した。意識すれば微調整もできそうだな。

 

 ようやく目の前のパネルが光り出した。

 俺はそれを問題なく押していく。白白赤白緑……は押さないっと、赤白赤、また緑と……。

 

 お? いきなり同時に2箇所以上が光り出し、光る感覚も短くなってきた。モニターに目をやると、丁度30秒が経過したところだった。

 

 だがそれも問題なく対応していく。凄いな、これがステータスの力ってやつか……。


 1分を経過したところで同時に光る箇所が5箇所以上に増えた。これは少し大変だな。

 俺は再度ステータスを意識して再調整する。

 

 よしよし、まだ問題なく対応できるな。俺はルンルン気分でどんどん押していく。


 そしてタイマーが残り30秒を切った瞬間、太田教官の言った通り、とんでもない速さで光り出す。

 

 うお!? これは本当に速いな! 俺は負けじと、さらに再調整する。


 これ誰がクリアできるんだよ。もう押した瞬間、押した場所が別の色に切り替わってるよ。緑が出るまで全部のパネルを押し続けるゲームみたいになってるぞ。

 

 だが負けてられん! ゲーマーとして、絶対にクリアしてやる!


★✫★✫

 

 ……疲れた、凄く疲れたが、勝った! この鬼設定に俺は勝ったんだ!


 俺はやりきった顔で太田教官の方に顔を向ける。

 

 そこで太田教官は口をパクパクさせながらとんでもないものを見るような顔で表示された結果を見ていた。


「2,000点中、満点!? ミス――0回!? これは一体どうなってるんだ……」 


 一瞬、部屋の空気が止まる。


 ……どうやらゲーム感覚でやりすぎてしまったらしい。

 そういえばテストだったのを、途中から完全に失念していた。

 

 どうにか誤魔化せるか? 今更だが変に目立ちたくない。

 見せる義務はないとはいえ、レベルやステータスを見せろと言われたら敵わない。


「いや、俺昔から反射神経は良いんですよね〜! 最後は太田教官の言う通りめちゃくちゃ速くて、もうパネルも見ずに手当たり次第に連打しちゃいましたよ〜!」


 どうだ? やっぱり少し苦しいか……?

 

「う、う〜む……しかしこれは、Aランク探索者でも満点を取るのが難しいと言う触れ込みなのだが」


「そうだったんですね! まあ、そういうのってどうしても期待が勝つと言いますか、誇大広告とまでは言いませんけど、最近導入されたんですよね? だからまだモニター数が足りてない、みたいな感じだと思いますよ、うん。きっと時間が経てば、他にも同じ結果を出す人が出てきますよ絶対に! ほら、さっきも言いましたけど、俺反射神経だけは自信があって、ゴキブリとか見つけた瞬間素手でさっと捕まえてポイっですよ! いや〜! 俺の筋肉が火を吹きましたね!」


 俺は早口でそれっぽいことをまくし立てる。因みにゴキブリは素手では無理です。あんなの触れません。


「う、う〜む、確かに私が試した時も1,800点はいけたから、確かにその通りかもしれんな。……うむ、とても良い反射神経だった! 君の隠れた筋肉の息吹をしっかりと感じたよ」


 なんやかんや誤魔化せたらしい。もしかしてこの人、筋肉と言う単語を出せば、大体のことは誤魔化せるのでは?


 

 その後のテストは流石に自重して、淡々と程々の記録を出していく。


 そしてついに、次が最終テストのようだ。

 


「うむ。身体能力に問題はなさそうだ。では最後に私と軽く模擬戦をしてもらい、戦闘能力をチェックしたら、本日のテストは終了だ」


 そう言って太田教官は一番広いスペースに移動する。


「さて、桃谷くんは得物は何を使う? 各種武器は取り揃えてあるぞ。剣に槍、刀に斧に、メリケンサックなんて物もあるぞ? この中から好きに選んでくれ」


 そう言って武器を収納してあるスペースに案内してくれる。当然だが全て木製だ。

 当たれば痛いだろうが、そうそう死ぬことはない。当たりどころによってはそれもあるかもしれないが。

 

 といっても武器なんて使ったことは一度もないし、精々授業で剣道をやったくらいだ。

 

 俺は下手に武器を持つより、拳のほうがマシと判断する。


「すみません。俺は武器は使いません。敢えて言うならコレです」


 と、自分の両拳をゴンゴンとぶつけ合うポーズを取る。それを見た瞬間太田教官は目を輝かせる。


「おお! やはり君はこちら側の人間だったか! 分かるぞ。我が肉体が武器、決して折れぬ武器。それが拳だ。全ては筋肉に繋がる。何を隠そう、私も無手だ! やはり桃谷くんは見どころがある」


 分かっちゃいたけど、やっぱりあなたも無手ですか。

 もはやイメージ通りすぎて逆に面白い。

 


「ふむ、それでは始めようか。この円の中に入ってくれ」


 太田教官は、試合用らしき半径十メートルほどの赤い円が引かれている場所まで移動する。

 俺もそれに続きながら答える。


「これは、太田教官に負ければテストは失格ですか?」


 俺の言葉に太田教官はガッハッハと笑いながら答えてくれる。


「そんなわけがないだろう。これでも私は半年前までBランク探索者だったのだぞ? こういってはすまないが、Fランク探索者にそうそう負けることはないだろう。現役を退いたとはいえ、この筋肉は飾りではないよ」


 只者じゃないと思っていたけど、太田教官は探索者として上位の実力の持ち主なのか。

 教官はマッスルポーズを取りながら続ける。

 

「それにこれはテストだからな、勝つ必要はない。私の攻撃にどう対処するのか、逆にどう私に攻撃を入れようとするのか、そういった部分を私が判断するのだ」


 なるほど、流石に試験官に勝利しろなどといった無茶ぶりはないらしい。……良かった。

 

 とりあえずギリギリ戦えるような、そんな感じにステータスを調整すればよさそうだな。

 俺は腕や足をプラプラ振って準備を整える。


「太田教官、胸をお借りします。よろしくお願いします」


 試合前に挨拶と、軽くお辞儀をする。


「うむ。君の全力を私に見せてほしい。準備は良いかな? 君のタイミングで始めてくれて構わないよ」


 ――俺は軽く息を吐いて太田教官へ向かって距離を詰める。

読んでくださりありがとうございます。

面白い! と思った方は、是非評価やブックマーク登録をいただけると、とても励みになります!


なんと日間ローファンタジーの連載中部門で61位にランクインしたみたいです。まだ3話なのにびっくりしました! ありがとうございます!

※本日も3話投稿予定です。お楽しみください。

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