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第36話 癒しは戦いのあとで

天使の献身(ヒール)


「…………」


「あの、もう治りましたよ?」


 カラミティウルフを倒した俺は、逃がした四人組が心配になって戻りの階段の方に向かったのだが、案の定四人組は階段前で休んでいたので、倒したことを報告しておいた。


 今はこうして、一番傷ついていたリーダーと思わしき男性を回復魔法の天使の献身(ヒール)で治療したのだが、何やら反応がない。


 俺がコテンと小首を傾げると、途端に真っ赤になるリーダーらしき男性。


 (……ははーん、どうやら俺の可愛さに照れているらしいな)


 そんな様子を見ていた一人の女性が無表情でリーダーに近づき、その脇腹に強烈な肘鉄を食らわす。


「――いってぇ!! 何すんだ里香!!」

「彼女の前でほかの女の子に照れてるからですー!」



 どうやら2人はカップルらしかった。

 そのまま痴話喧嘩が始まるかと思えば、リーダーがひたすら頭を下げて難なく収まり、里香と呼ばれた女性がお騒がせしましたと俺に頭を下げてきた。

 中々力関係がはっきりしているカップルのようだ。


 触らぬ神に祟りなしと、俺は今の件には深く触れずに残りの三人を治療していく。


「とりあえず皆さん順番に治療しますね」

 

「凄いね、ポーションじゃ治りきらなかった傷が消えていく」

「はふぅ……暖かい光ね」

「このヒール、なんかいつものヒールと違くないですか……? この羽根なんです?」


 因みにヒールの効果は事前に自分で試してある。

 今の俺は噛まれた腕の傷も、引き裂かれた無数の傷も、何一つ残っていない。

 俺のヒールは天使魔法のせいか、淡い金色の光と共に降ってくる白い羽根が患部に触れる事で治るようだ。



「仲間を治療してくれてありがとうな! しかも、あいつを倒すなんてマジで凄いな!」


 そう言ってリーダーが元気に頭を下げてくるが、一拍置いたあと、真面目な顔をしてこちらを見てくる。


「いや、マジでありがとな……正直、完全に死を覚悟してたけどさ、お前が……あ、いや、君? が来てくれて良かったよ。……ところで、君そんな可愛らしい服装だったっけ?」


 加えて説明するなら、カラミティウルフにボロボロにされたメンズライク系の服は、とても着用できないので現在はトラッド系にしてある。

 そして今回はしっかりとアンスコを着用している。

 俺は同じ鉄は踏まない男なのだ。



「ふふ、可愛いですか? ありがとうございます。ボロボロになっちゃったので、替えの服に着替えたんですよ」


 俺は男性探索者をからかうように返事を返すが、聞き捨てならない言葉が混じっていたので、でも……と言葉を続ける。


「でも、その言い方だと、さっきまでの服がまるで可愛くなかったみたいに聞こえますよ?」


 灯里ちゃんが選んでくれた服だぞ? まさか可愛くないわけがないよなぁ? と暗に圧をかけると、俺の凄みに押されたのか、リーダーは両手を前に突き出し首をぶんぶんと横に振る。


「あ、いや! そうじゃなくて! そもそも女の子だと思わなくってと言うか……」

「――はぁ!? 大輔あんたマジで言ってる!?」

「大輔くん……それはないですよ。駆けつけてくれた時から凄く可愛い女の子だって分かりますよ」

「ちょ!? お、おい祐介、お前も俺と同じだよな?」

「…………大輔、お前マジか」

「はあ!? 俺だけ!? だって暗かったし! 顔とか見てる場合じゃなかったし! キャップが飛んだ時、髪長いなとは思ったけどさ……」



 大輔と呼ばれた男性が仲間から総スカンを食らっている。

 ……中々楽しい四人組のようで、こうして助けられて本当に良かった。



「そ、そんなことより自己紹介しようぜ!俺、上田うえだ 大輔だいすけだ。このパーティーのリーダーをやってるぞ」

「大輔、その誤魔化し方は露骨だと思うぞ? あ、俺は下村しもむら 祐介ゆうすけ。 改めて、助けてくれてありがとう」

「さっきは本当にありがとね。私、左内さない 絵美えみ、祐介の彼女です。だから本当にありがとうね」

「私は右田うだ 里香りかと言います! 私たちを助けてくれて、本当にありがとうございました!」


「改めまして、ティア・ロゼッティと言います。Cランク探索者です」


 上田が誤魔化すように始めた自己紹介から会話が発展する。

 なんでもこの四人は幼稚園の頃からの幼馴染で、四人とも同じ大学に通うカップル同士とのこと。

 そして全員Cランク探索者から結成されたパーティーでもあり、その名も【馴染みの集い】だそうだ。


 ――そこは上下左右じゃないんかい! っと思ったのは秘密だ。


 そのまま話題は先ほどのカラミティウルフの話に移る。


「それにしても、あの漆黒の狼は本当に何だったんだろうか? ナイトウルフにしては黒すぎるし、何より強さが桁違いだったよな」

「さっきのオオカミ野郎か……今思い出しても寒気がするぜ」


 カラミティウルフだったと告げるべきだろうか、だがそうすれば鑑定スキルなんて物を持っているのが知られてしまう。

 ……ここは少し揺さぶりをかけてみるか。


「あの、カラミティウルフ……なんて名前のモンスターに聞き覚えはありませんか?」


「カラミティウルフ? なんだそりゃ」

「ずいぶん大仰な名前だけど、聞いたことはないな」


 他の2人も知らないと首を振る。

 誰も知らないのならば、俺が名前を断定したところで意味はないだろう。

 首を横に振り、勘違いの体で話を進める。


「いえ、ネットかどこかでそんな感じの名前を見聞きしたような気がしただけです」


「でもそうだな、確かにあの強さはまさに災厄と表現するにぴったりかもな」

「けどまあ、あのオオカミ野郎もティアちゃんが倒してくれたみたいだし、もう深く考えなくてもいいんじゃないか?」

「大輔は相変わらず短絡的だな……まあでも、考えたところで分かる問題でもないか」



 こうして雑談もそこそこに、馴染みの集いの面々は今回の出来事をギルドに報告するために戻るそうだ。

 帰りを護衛しようかと提案したが、帰るだけだから問題ないとのことだった。


 確かに、先ほどまで俺が通ってきた道に何も異常はなかったから大丈夫だろう。



「それでは、大丈夫だとは思いますけど気を付けて帰ってくださいね」


「ああ、ありがとな!」

「じゃあまた、ギルドで会ったら5人でご飯にでも行こうか」

「ちょっと祐介、それ死亡フラグよ? やめなさい」

「ティアちゃ〜ん!! 離れたくないよぉ〜!!」

 

 そのまま階段前で別れようとするが、その際に右田さんが俺の可愛さを相当気に入ったようで、やたら抱きついてきた。


 比較的身長の高い右田さんに抱きつかれることにより、高校生でも平均より少し背が小さいティアの顔の位置に、柔らかい膨らみが当たる訳で……


 美人だし正直堪能したい気持ちはあるが、俺の中身が男であることと、なにより人の彼女という罪悪感が凄まじいので、強引に引き剥がすことにする。



「は・な・れ・て・く・だ・さ・い」


「ああ〜ん、ティアちゃ〜ん……」


 結局、彼氏である上田に腕を引っ張られる形で階段を上って消えていく。


 ついさっきも見たような光景を尻目に、手を振りながら四人が上り切るのを見届けたところで、俺は30層を目指すべく歩き出した。


 だが、すぐに後ろを振り向き、すでに誰も居なくなった階段を静かに見つめる。



 ――そういえばLDカメラが浮いてたけど、まさか配信なんてしてないよな?


LDカメラ「大丈夫、ボク配信してないよ? ホントだよ?」

ティア「……」


いつも読んでくださりありがとうございます!


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更新お疲れ様です。果たしてカメラは何を写してたのか。応援してます。
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