第34話 死の影
――箱根ダンジョン 地下1F
「さてと、早速コイツを使ってみるか」
ティアの姿で箱根ダンジョンに入った俺は、灯里ちゃんとのダンジョン帰りに購入した探索者用のスマホと、同時に買っておいたLDカメラを取り出す。
「LDカメラ起動っと」
そのままLDカメラを起動させると浮き上がり、俺の目の前でピタッと待機する。
これは配信するために購入した訳ではない。
「探索者用スマホと連携させて……お、できたできた。んでもって次は、攻略アプリとLDカメラの連携っと……」
LDカメラは配信する以外にも用途はある。
例えば今俺がしたように、探索者スマホと連携させることで、政府が配信している攻略アプリを更に便利に使えるようになる。
LDカメラの投影機能でダンジョンマップを視界の好きな位置に配置できつつ、自分がどこにいるかのマーカーも表示されるようになる。
更にはLDカメラの映像から、リアルタイムで未到達エリアのマッピングまでしてくれるのだ。
つまり、これからは俺もマップを政府に売れるようになった訳だ。
「まさか、LDカメラにこんな使い方があるなんて知らなかったな」
とはいえ、マップの売買で変に目をつけられても厄介だし、自分用のマップとして活用していこうと思う。
探索の準備が終わった俺は近くの小部屋まで移動し、周りに人がいないことを確認してから、とあるスキルを使用する。
「不思議な輪」
このスキルは何も帰還専用ではない。俺が一度訪れた場所ならどこへでもワープできるのだ。
移動範囲はダンジョン内限定ではあるが、破格の効果を持ったスキルだろう。
向かう先はもちろん、20層だ。
「よし、早速レッツゴー!!」
行き先を決めた俺は、金色の輪をくぐり20層へとワープした。
――箱根ダンジョン 地下20F
「ほい到着っと」
20層までワープした俺は、視界の隅に表示されたマップを頼りに、現在マッピングされている最深部の21層まで全力ダッシュを始める。
「おお! 流石探索者用と謳うだけはあるな」
俺の移動に合わせてマップ内のマーカーも自動で動き、自分が今どこにいるのが一目で分かる。
今まではスマホで都度マップを確認してたけど、こうして常に視界に映るようになった今、その手間もなくなった。
「どんどん行こう!」
★✫★✫
――箱根ダンジョン 地下25F
現在俺は、箱根ダンジョン25層である夜の森を爆走中だ。
何と表現すれば良いのか、視界のマップがどんどんと埋められていく感覚が楽しくて、端から端まで移動しながら進んでいる。
因みに今日の服装は、動きやすさ重視のメンズライクスタイルだ。
大きめの白のボタンシャツに、さらに特大サイズの紺色パーカーを羽織ることで、ボリュームのある上半身を演出している。
対して下は、シンプルな黒のショートパンツと厚底のハイテクスニーカーのコンパクトな組み合わせ。
仕上げに長い髪は耳の後ろで丸め、その上からキャップを被っている。
灯里ちゃん曰く、大きめな服に埋もれることで俺の小ささが際立ち、最高に尊いとのことだ。
尊いはよく分からないが、割と中性的な見た目になっていると思う。
……まあ、顔が抜群に可愛いから近くで見たら一発で美少女だって分かるけど。
「なんか変だな……?」
いや服装のことではない、この階層自体についてだ。
こうしている間にもマッピングを続けているのだが、先ほどからえも言われぬ違和感が胸の奥でざわつくように広がっている。
違和感の正体を走りながら探り、あることに気づいた俺は、思わずその場で立ち止まる。
そのまま耳を澄ませるように目を閉じた。
「……やっぱりそうか、静かすぎるんだ」
24層までの夜の森は、モンスターの気配や虫の鳴き声が、そこかしこに溢れていた。
だがこの25層に入ってからは、怖いくらいに静かなのだ。
思えば、この階層に来てからまだ一度もモンスターと遭遇していない。
「でもまあ、邪魔がいない分マッピングが捗るからいいことか」
違和感の正体を突き止めた俺は満足して、そのまま深く考えずにマッピングを続けるために走り続ける。
「俺はマッピングの王になる!!」
そんな調子の良いことを考えるくらいマッピングハイになっている最中だった。
――不意に脇道の方から聞こえてきた激しい怒号が、俺を現実に引き戻す。
「バカ!! 避けろ!!」
「そんなこと言われたって! こいつ速すぎ――うぐっ!?」
「何よこれ、なんでこんなのがここにいるのよ!」
「このモンスター、どう考えても20層クラスじゃないよ!?」
聞こえてきた声の方に目を向けると、男女の四人組が黒い影のような何かと戦っている。
光源として用意したのであろう、探索者の腰に下げられたランタンが激しく揺れ動いている。
――速い、とにかく速い。
その影は地上を左右に高速で移動しながら、執拗に一人の探索者に攻撃を加え続けている。
その攻撃は空気を引き裂くような音でしか確認できない。
ティアの目を持ってしても影しか捉えられないなんて、相当なモンスターだろう。
いや、ステータス低下の影響のせいでもあるだろうが……
俺は助けに行くべきか迷う。
ダンジョンは勝手な手助けはマナー違反なのだが、どう見繕っても劣勢なのは明らかだ。
「あがぁ!? ――っ」
「祐介!! くそっ! こいつ、今度は俺がターゲットかよ! うぐぅ!」
「祐介ぇ!! やだ! 死んじゃやだ!!」
「落ち着いて絵美ちゃん! HPが0になっただけだよ! 回復ポーションを使えば大丈夫だから!!」
「ポーションって言ったって、こんなの……使う隙がないじゃない!?」
ついに祐介と呼ばれる探索者が黒い影に倒されてしまった。
そのまま黒い影は、その速さを引き継いだままもう一人の男性に攻撃を加えていく。
後ろの女性2人も援護したいようだが、黒い影があまりにも速すぎて下手に動けないのだろう。
このままだと目の前のパーティは全滅してしまう。
そう思うやいなや、俺は四人組のもとまで駆けつけるために全力で走り出した。
そのまま声が届く距離まで近づいたところで、目一杯息を吸い込み、走りながら大声を上げる。
「大丈夫ですか! 救援は必要ですか!?」
「な、なんだお前!? いや無理だ! こいつは明らかに異常なモンスターだ! 子どもは逃げろ!! 俺たちはもう助からない! ギルドにこの事を報告してくれ!」
救援申請は拒まれてしまったが、助からないと諦めているなら手を出しても良いと判断する。
俺は走る力を更に強めて、黒い影へと加速する。
「ふっ!!」
そのまま思いっきり地面を蹴りつけ、跳躍しながら黒い影へと上空から拳を振り下ろす。
「――!!」
だがその影は俺の拳をいとも容易く避けてしまう。
そのまま滑るように地上を移動し、木々の奥へと消えて行ったかと思えば、木々という遮蔽物を利用し俺達の周りを高速で旋回していく。
その動きはまるで、突如乱入した俺を警戒しているかのようだ。
「お、おい! 俺は逃げろって言っただろ! 何してるんだ!!」
「私はその言葉に頷いた覚えはありませんよ。それより集中してください、奴は一体何なんですか?」
「わ、わからないんだ。俺たちが探索してたら急に森の奥からやってきて――――うぉわ!?」
話している最中に、黒い影が男性に向かって驚く速さで攻撃を仕掛けてくるが、俺はそれを男性を引っ張る形で強制的に躱させた。
ガチンッ!! とさっきまで男性探索者の頭があった位置に、空気を噛みちぎったかのような強烈な音が残る。
その一撃は、さっきまでとは比較にならないほど速い。
「――っ!?」
躱されたことに驚いたのか、黒い影は一瞬動揺した素振りを見せるが、直ぐにまた森の奥へ消えて周りを旋回し始める。
今の姿では攻撃スキルは使えない……けれど全てのスキルが使えなくなったわけじゃない。
打てる手はある。
「お、お前……あいつの攻撃が見えてるのか!?」
黒い影の攻撃に対応したことで男性が驚いているが、生憎とそれに返す余裕はない。
こうして目で追うだけでも精いっぱいだ。
「そんなことより、今から奴の注意を私に向けさせます。その間にそちらの男性を回復させてあげてください」
「挑発スキル持ちか!? ……いや、無理だ、俺も使ったけど効かなかったんだ! それにそうするとお前が――」
「ではいきます、注目の的!!」
俺は男性の言葉を強引に遮り、アイドル魔法の一つである注目の的を発動させる。
この魔法はその名の通り、注目……つまり挑発効果を相手に与える。
「――ッ!! ……グルルルル!!」
俺の挑発が効いたのか、黒い影は旋回を止めてその場に留まる。
その見た目は黒く、夜の森を更に黒く染め上げた漆黒の狼だった。
――チャンスだ!!
俺はこいつの正体を探るために追加でスキルを発動させる。
「見透かす瞳!」
鑑定効果を持つ見透かす瞳によって金色に輝いた俺の瞳に、驚愕の情報が映し出された。
名称 :カラミティウルフ
レベル:102
◆ドロップ品
・カラミティウルフの魔石
・カラミティウルフの鋭爪
・カラミティウルフの影毛【レアドロップ】
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