第33話 全国デビュー……?
「ああああああああああ!!」
朝からの俺の絶叫が静寂なリビングに響き渡る。
何を朝から叫んでいるのかと問われれば、俺の視線に固定されているスマホにその答えがある。
「ああ……俺の、俺のパンツが全国デビューしてる……」
思えば灯里ちゃんのチャンネルを観たことがなかったことに気づき、チャンネル登録がてら昨日の灯里ちゃんとのダンジョン攻略を見返そうと思って見ていたのだ。
コメントで「ティアちゃん可愛い!」とか「足速っ!」とかの反応に、そうだろうそうだろうと気分良く見ていたまでは良かったのだが……
いざ戦闘シーンが始まるとパンチラ祭りだった。
確かに灯里ちゃんにパンチラを指摘されていたが、もしかしたら映ってないんじゃないかと一縷の望みを掛けていたのだが、こうもハッキリ映っているとは思わなかった。
「何がデビューしたの?」
「うお!? 碧依!? い、いつからそこにいたんだ……?」
急に後ろから声を掛けられ、慌てて後ろを振り向くとそこには不思議そうに小首を傾げながら立っている碧依がいた。
「たった今だよ。それよりお兄ちゃん、さっきの大声はなに? あたし、てっきりゴキちゃんでも出たのかと思ったんだけど」
そう言う我が妹の手にはゴキコロスプレー(凍結タイプ)が握られている。
ちなみにゴキちゃんと言うのはゴキブリのことだ。
碧依曰く、ちゃん付けすればゴキブリも怖くないらしい。
(俺がゴキブリを苦手なのを知っているからか、実家にいた頃から積極的に退治してくれたっけ……)
――って、今はとにかく誤魔化さないと!
このままでは女の子のパンチラ動画を眺めている変態お兄ちゃんという烙印を押されてしまう!!
「あ、ああ〜! ゴキブリ、ゴキブリな! 動画見てたら急にゴキホイホイのCMが流れてきてさ! スマホにゴキが映るからついビックリ! ……な、なんてな!」
突然のことに驚きながらも、俺は捲し立てるように一息で嘘の説明をする。
そのままチラっと碧依を見やると、ほっとした表情を見せながらも、若干のジト目を含んだ視線を俺に向けてくる。
「も〜、お兄ちゃんってば広告のゴキちゃんにまで驚いてちゃダメだよ? 何でもないなら良かったけど驚いて飛び起きちゃったよ……」
良かった。何とか誤魔化せたらしい。
けれど碧依には悪いことをしてしまった。
よくよく見たらパジャマも着崩れているし、相当慌てて来てくれたみたいだ。
「ごめんごめん、もう一眠りしてきていいぞ。まだ朝の6時なんだし」
俺は起こしてしまったことを謝りつつ、もう一眠りを提案するが、碧依は気持ちよさそうに背伸びをしながら答える。
「ううん、丁度いいし今から朝ごはん作るね。何食べたい?」
「それはありがたいけど、先に着替えてきた方がいいぞ? ちょっと人様には見せられない格好というか、流石に妹とはいえ目のやり場に困ると言うかだな……」
「ふえ?」
そう言って俺は頬を軽く掻きながら顔を少し背ける。
俺の言葉に碧依は自分の格好を見下ろすように首を下げると、見る見るうちに赤くなった。
キャミソールワンピースの肩紐が片側だけズリ落ち、下着の一部が露わになっていることに気づいたようだ。
「お、お、お兄ちゃん!! そういうのはもっと早く言って!! エッチ!」
碧依はそう言い残して、急いで自分の部屋へと着替えに戻った。
俺はその姿を尻目に見ながら、変態お兄ちゃんルートを何とか回避できたことに心底ホッとしていた。
その代わりエッチお兄ちゃんになってしまったが……
その後まだ少し恥ずかしいのか、碧依は顔の赤さを残しながらも部屋から出てくる。
そのまま何食わぬ顔で朝食の用意を始めたので、せめてものお詫びに俺も手伝うことにした。
★✫★✫
「え、お兄ちゃん今日も出かけるの? バイト?」
「いや、まあ夜までには帰るよ。明日はバイトだしな」
今は碧依の作ってくれた朝食に舌鼓を打ちながら、お互いの今日の予定を話し合っている。
今日のメニューはシンプルにベーコンエッグとウィンナー、それとシーザーサラダにお味噌汁だ。
「あたしが来てからお兄ちゃんがあんまり家に居る姿を見てないんだけど、いつもそんなに忙しいの?」
「ん〜、忙しくなったのは最近というかなんというか……」
「ふ〜ん……?」
俺が煮え切らない答えを返していると碧依は訝しむようにジト目で俺を見続ける。
別にやましいことをしてるわけでもないし、ダンジョンに行ってることくらいは伝えるべきだろうかと考えるが、すぐに考え直す。
碧依もダンジョンに潜るなんて言われたら堪らないし、やっぱり今は誤魔化すのがいいだろう。
俺が心の中ですまないと謝っていると、碧依は俺から視線を切る。
「まあ、あたしもあたしで今日もこれから予定があるんだけどね〜」
そういう妹の顔は何処か嬉しそうだ。
俺はその様子に小首を傾げながら、そういえば碧依も最近何かと出かけていることに気づく。
「そうなのか? そういえば昨日も朝から出かけていたけど、碧依こそ何をしてるんだ?」
「ふっふっふ〜! 秘密だよ〜! お兄ちゃんが教えてくれたら教えてあげよっかな〜?」
碧依はそう言って頬に両手を付きながら、器用に片目でウィンクを作る。
(むう……我が妹は中々取引上手になったじゃないか)
どうするべきかと頭を悩ませた瞬間、その刹那の内に、俺の灰色の頭脳はとある答えに辿り着いてしまった。
――まさか、まさかとは思うが……そうなのか!?
「あ、碧依……? お前、まさか彼氏でもできたのか……?」
俺の言葉に碧依はポカンと一拍置いてから、お腹を抱えて大笑いしだした。
「あは、あは! あはははは! も〜、お兄ちゃんってば、急にお父さんみたいなこと言わないでよね〜! 顔色も、声のトーンもそっくりだよ! ぷっ! あはは! 彼氏なんてないない!」
俺の真理に行き着いた答えを、碧依はないないと一笑に付した。
俺はその答えに何となく安堵しながら、誤魔化すように咳払いを一つする。
「ま、まあ、分かってたけどな……てか別に父さんの真似したわけじゃないからな?」
「ふ〜ん? お兄ちゃんはあたしに彼氏がいたら嫌なんだ?」
何が楽しいのか、碧依はニヤニヤとした顔で聞いてくる。
そりゃ嫌かと聞かれたら嫌かもしれないが、別に妹の恋路を邪魔したい訳でもないし、でもこのまま側に居てほしいとも思うし、なんというか複雑な兄心だ……
ついこの間まで何不自由の無い一人暮らしだったというのに、この数日ですっかり碧依に頼りっきりの生活に慣れてしまったようだ。
碧依のいない毎日なんて、考えただけで辛くなりそうだ。
とはいえ、そんな恥ずかしいことは碧依には言えないわけで……
「まあ、嫌というかなんというか――そんなことより、彼氏じゃないなら結局どこに行ってるんだ?」
「あ〜! ごまかした! ごまかすお兄ちゃんには教えてあげません! …………まあ、早ければ明日にでも言うね」
これ以上のやり取りは俺に分が悪いと判断し、話を強引に切り上げて行き先を聞こうとしたが、やはり教えてもらえなかった。
(しかし、早ければ明日とはどういう意味だろうか?)
気になる言い方ではあるが、待てば教えてもらえるなら別に聞き出す必要もないかと納得する。
ふと時計を見やると、そろそろ家を出るべき時刻にまで針が迫っていた。
今日は箱根ダンジョン30層くらいまでは攻略したいから、ガッツリ朝から潜る予定だ。
マップも21層で止まってるし、攻略しがいがありそうだな。
「まあ、教えてもらえるなら無理には聞かないよ。それじゃ、俺はそろそろ出かける時間だから用意してくる」
俺はそう言って立ち上がり、空になった食器を台所に持って行って洗おうとすると、碧依が止めてくる。
「あ、お兄ちゃん、食器はそのまま流しに置いといていいよ。時間なんでしょ? あたし洗っとくよ」
そう言って碧依は俺のもとまで来て、ひょいと俺の手から皿を取り上げる。
「……そうか? ごめんな、ご飯を作ってもらって、食器も洗ってもらって」
「いいのいいの。だってあたしが来た時に言ったでしょ? どーんと甘えちゃっていいよ! ってね。それにどうせならありがとうの方が嬉しいんだけどな〜?」
碧依は胸を張りながら、本日二回目のニヤニヤ顔を向けてくる。
本当に、碧依のいない生活はもう考えられないな……
完全に甘やかされてしまったらしい。
「いつもありがとな、碧依」
「うん。やっぱりそっちのが嬉しい!」
俺の言葉に碧依は満面の笑みを見せてくれた。
改まってのお礼はなんとも照れくさく、俺は逃げるように急ぎ足で支度を始めた。
「それじゃ行ってくる。碧依もどこに行くのか知らないけど、気を付けて出かけるようにな」
「うん、分かってるよ。それじゃ行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
――もしかしたら、碧依を俺のもとに送り出した父さんも、さっきの俺と同じ気持ちだったのかもしれないな。
俺はそんなこと考えながら、箱根ダンジョンに向かうべく家を出た。
いつも読んでくださりありがとうございます!
とても嬉しいことに感謝の連続投稿を終えたあと、ブックマークやPVが伸び、たくさんの反応をいただきました!
これも偏に応援をしてくれる皆様のおかげです。
もし「一目散にゴキコロスプレー持って駆けつける碧依ちゃん可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら
ブックマーク登録や、
下の評価欄を☆☆☆☆☆から**★★★★★**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります!
(すでに応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!)
さらに上のランキングを目指して頑張りますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!




