第31話 あわわ人形と新しい買い物と
「あ、あわわわわわわわわ」
「あかりちゃん大丈夫? ……ありゃ、聞こえてないや」
今、俺の横では灯里ちゃんが、ガタガタブルブルと震えるあわわ人形と化している。
どうしてこうなったのか、それはほんの5分前に遡る。
――5分前
「こんばんは、買取お願いできますか?」
「よう、誰かと思えばお嬢ちゃんじゃねぇか! 一瞬誰だか分からなかったぜ。今日はお仲間と一緒かい?」
俺は灯里ちゃんを連れて買取カウンターまでやってきた。
買取カウンターの窓口は沢山あるのだが、どうやら前回と同じ男性に当たったようだ。
前回の魔法少女コスと違い、灯里ちゃんセレクトの服を着た俺を見て、目を丸くさせながら答えてくれた。
しかし、相変わらずガタイのいい男だ。
「私だって普通の格好くらいしますよ? そんなことよりこれ全部お願いしますね。今回は種類こそ少ないですけど、数は前回より多いですよ」
俺はそう言って、背中のバックパックごと受付の男性に渡す。
「おおう、こりゃまた随分と多いな。少し時間が掛かると思うが、すぐに済むからちょいと待ってな」
受付の男性は受け取ったバックパックの中身に驚きつつも、手早く読み取り機械に放り込んでいき、解析結果が映ったモニターを読み上げる。
「ナイトウルフにウォーバットって……おいおい、これ全部20層のモンスターじゃねぇか! お嬢ちゃんらのパーティーでこれをやったのかよ。マップも更新されたばっかだってのに凄えじゃねぇか!」
「あ、いえ、私なんてただ見てただけで、全部ティアちゃんが倒したんです。凄くかっこよかったんですよ!」
灯里ちゃんは受付男性の賛辞の言葉を訂正し、俺一人の手柄だと、持ち上げるように話してくれる。
その言葉を聞いた男性は目を丸くさせながら、口を開く。
「……そりゃまた凄えな。そういや前に来た時も一人だったけど、お嬢ちゃんは普段からソロでやってんかよ。やっぱりただ者じゃねぇな?」
灯里ちゃんの賛辞の言葉に少し照れて呆けている俺に、受付の男性が驚いた表情を見せ何者かと聞いてくる。
だが20層くらいなら他にも到達してる人がいるはずだ。
「別にそんなに驚くことでもないと思いますよ? 更新されたばかりなだけで、20層まではD〜Cランクじゃないですか」
「そりゃそうだが、俺が驚いてるのはお嬢ちゃんの年で、それもソロでCランクに届いてることに驚いてるんだよ。まさかお嬢ちゃん、その見た目で実は3、40歳とか言わねぇよな? いや、なんなら男だったり……?」
「15歳の女の子です!!」
まったく、何を言い出すのかと思えば、こんなに可愛い女の子を捕まえて何を言ってるんだこの人は。
俺がぷりぷり怒っていると受付の男性は、わりぃわりぃと頭を掻きながら謝ってくれる。
「悪かったって……ほらよ、今回の買取金額だ。これで問題なけりゃ全て買い取らせてもらうぜ」
怒っている間に解析が終わったようで、受付男性は買取査定表を渡してくれる。
俺はそこに記された金額を見て驚愕の声を上げる。
「ええ!?」
「どうしたの? ティアちゃ――あ、あわわわわわわわわ……」
俺の驚きに釣られた灯里ちゃんが、俺の手元の査定表を覗き込みあわあわしだす。
――そして今に至るという訳だ。
査定表に書かれていた金額は、なんと30万跳んで8千円と、過去最高額だった。
俺ですら驚くんだから、高校生の灯里ちゃんが思わず思考放棄するのもよく分かる金額だ。
「ははは、流石にお嬢ちゃんでも驚くか。まあCランク帯の魔石だからな、最低でも買取単価は2000円からだし、他のドロップ品も多かったからな。それにCランク帯は専業探索者としてやっていけるラインだから、今のうちに慣れとけよ」
確かに、探索者ティアとして金を稼ぐと決めたんだから、これくらいで驚いてちゃ世話がないな。
……例え俺の月収に近い収入を一日で得たとしても。
「あかりちゃん。とりあえず半々でいいよね?」
「あわわわ――って、ええ!? 私、貰えないよ!? だって何もしてないもん」
俺が半々で分けようと提案すると、あわわ人形から復活した灯里ちゃんは首をブンブンと横に振り、受け取りを拒む。
彼女をおんぶしている間や、戦闘中は灯里ちゃんにバッグを持ってもらっていたわけだから、何もしてないことは無いと思うのだが。
「そんなことないよ。だって探索中はずっとバッグ持っててくれたでしょ? 当然受け取る権利はあるよ」
「で、でもそれだけで半分は多すぎると思うよ……」
なるほど、貢献度が気になるわけか。
どう分配したものかと考えていると、受付の男性が声をかけてくる。
「こらこら、お互いの言い分は分かるが、そういうのは予め決めとかねぇとダメだぜ? ほら、後ろ見てみな」
そう言われて後ろを振り返ると、他の探索者たちも買取カウンターの列に並び始めていた。
いい時間だし、これから丁度混む時間なのだろう。
――って冷静に分析してる場合か!
「「すみませんでした!」」
俺たちはさっさと買取を済まし、カウンターから飛び出るようにギルドの入り口まで戻った。
★✫★✫
「10万円なんて大金、本当にいいのかなぁ……」
結局、金の問題はしっかりしないと色々面倒事の種になるだろうと思い直し、今回は2:1で分けて、俺が多めに貰っておくことにした。
「いいのいいの。それよりずっと配信を続けてるみたいだけど、大丈夫?」
俺の言葉に灯里ちゃんは、配信中だったことを忘れていたようで、慌ててカメラに向かって話し出す。
「わわ、すっかり忘れてた! ……というわけで、本日の配信はここまでになります。みんな楽しんでくれたかな? 今日はティアちゃんも一緒だったから、あんまり話せなくてごめんね。また次の配信も楽しみに待っててね!それじゃおつあか〜!!」
そう言って灯里ちゃんは配信を終了させ、LDカメラを回収する。
「おまたせ、ティアちゃん」
「ううん。それより、切り忘れで配信事故とかにならなくて良かったよ」
俺が少し安堵してそう伝えると、灯里ちゃんはそれは大丈夫だよと説明してくれる。
「私もよく分かってないんだけど、ダンジョン由来の技術で、切り忘れて家バレとか、更衣室をうっかり映しちゃうとかは絶対にないんだって」
灯里ちゃんの説明によると、ダンジョンから離れすぎたり、他にも映してはいけない場所に近づくと警告音が出たり、配信自体が強制終了したりするそうだ。
「それを聞いて安心したよ。それじゃ、今日はここで解散しよっか」
「あれ、私はシャワー浴びてから帰るけど、ティアちゃんは? 今日のお礼にお背中とか洗ってあげようと思ってたのに……」
ここで解散しようとすると、灯里ちゃんがとんでもない発言をぶっ込んできた。
いやいや、いくら何でもそれはアウトだから!
「だ、大丈夫だよ。汗もかいてないし、それじゃまたね灯里ちゃん」
このままではシャワーに連れ込まれかねないと判断した俺は、堪らず逃げるように入り口に向かう。
出る直前で後ろから灯里ちゃんが手を振りながら声を掛けてくれる。
「ティアちゃん! また一緒にダンジョンに行こうね!また連絡するからー!」
「うん。またね」
俺も手を振り返してギルドから出る。
正体を隠している俺が悪いのだが、灯里ちゃんの無防備な発言に顔が赤くしながら歩いていると、スマホショップが目に入る。
「……そういえば灯里ちゃんに渡してる連絡先って、天霧としての俺の連絡先なんだよな」
前回のカフェでの事件で、天霧としての俺とも面識があるわけだし、変なボロが出ない内にティア用のスマホを持った方が良いかもしれない。
そう判断した俺は、スマホを契約するためにショップに入った。
「しかし、探索者用のスマホがあるなんて知らなかったな。中々いいスマホが手に入ったぞ」
店から出た俺は、新しく契約したスマホで早速灯里ちゃんに連絡する。
「新しいスマホに変えたから、前の連絡先を消して、こっちの連絡先を登録してね……これで送信っと」
念のために、天霧としてのスマホでも同様の内容を記したメールを送る。
「よし、これで大丈夫だろう。それと……こっちも次の探索までに使い方を覚えないとな」
俺は手にぶら下げた袋を見ながら、独りごちていると早速ティア用のスマホが震える。
確認すると、灯里ちゃんからの了解メールだった。
「ふふ、灯里ちゃん返信早いな――て、そろそろ帰らないと碧依が心配しそうだな」
もうすぐ家に到着だと思ったところで、ティアの姿のままだったことに気づいた俺は、慌てて公園に戻り、変身を解いてから家に帰った。
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