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第29話 階層更新……からの出来心

「まさか本当に今日の間にレベルが30になるなんて思ってなかったよ。ありがとう、ティアちゃん!」



 俺たちは灯里ちゃんのレベルが30になったのを確認したあと、20層の階段に戻りステータスの確認をしている。


「たしかスキルも覚えたんだよね、どんなの覚えたの? ――あ、ごめん今のはマナー違反だね」


 彼女が覚えたスキルが気になってつい聞いてしまったが、そもそも公開義務はない。

 今の発言はマナー違反と取られてもおかしくないのだが、それでも灯里ちゃんは気にせず教えてくれる。


「そんなことないよ、だってティアちゃんのおかげで覚えたんだもん。えっとね、感覚強化ってスキルと縮地だよ」


「2つも覚えたの!? あかりちゃん凄いよ!」


「えへへ、ありがとう!」


 俺は今、心底驚いている。何せ俺はレベル604で覚えたスキルが1つだけなのに対して、レベル30で2つは凄い。

 元々オールステータス1の俺と、DEX30超えの灯里ちゃんとの才能の差というやつだろうか。


 いや、俺だってこうしてティアの姿になれば大量のスキルがあるわけだから、何の文句もないけれど。


 

 そんなやり取りを挟んでいると、俺のスマホからアラーム音が鳴り響く。

 帰りの時間を忘れないように設定していたのだ。


「あ、もう夕方だね。そろそろ帰らないと夜になっちゃうし、帰ろっか」


「うん。私もお父さんが心配するだろうし、夜までには帰りたいかな――あれ? でも帰りってもしかして、また……?」


 行きのことを思い出したのだろう、灯里ちゃんは顔を少し青ざめながら聞いてくる。


「残念ながら……あかりちゃんにはまた腕を痺れさせてもらいます。といっても、レベルが30まで上がったんだから、意外と余裕かもしれないよ」


「た、たしかに! それはちょっと楽しみかも!」


 俺の言葉に灯里ちゃんは、意外にも乗り気な様子を見せる。

 行きは痺れて本当に辛そうだったから、ステータスの効果を実感したいのだろう。

 

「まあ、本当は帰還スクロールがあれば一番なんだろうけどね」


「でもあれって1本で数百万円はするんだよね? 私、そんなの絶対に買えないよ……どこか大きいクランに入ってる人しか持ってないイメージだよ」


 俺の言葉に灯里ちゃんは少し渋い顔をしながら答える。

 ダンジョンから帰還する方法は2つある。

 一つはこれまで通り自力で帰還する方法と、帰還スクロールという使い捨てのアイテムを使って、ダンジョンの入口に瞬時に戻る方法だ。

 と言っても、後者は高額な分頻繁に使う人は少なく、緊急時の脱出用として使うのが常だ。

 そして灯里ちゃんの言う通り、大手クランならこういうアイテムも支給してくれると聞くので、クランに入るメリットは大きいだろう。


 だが俺は今のところクランに入る予定はない。何せ俺には帰還スクロールとほぼ同じ効果の使い方ができる、不思議な輪(ミスティックリング)があるからな。

 今は灯里ちゃんがいるから使えないけど。

 

 ――と色々考えたところで思考を区切り、俺は灯里ちゃんをおぶってまた一層まで駆け抜けた。



――箱根ダンジョン 地下 1F



「はい入口にとうちゃーく! お客さん、腕の方はご無事ですかー?」


「凄いよ! ぜんっぜん痺れてない! まだまだ余裕だよ!」


 長い道のりを終え、俺がタクシーの運転手風な聞き方をしていると、灯里ちゃんは興奮しながら俺の背中から降りる。

 良かった。ステータスの変化を実感してくれたみたいだ。


「それじゃ退場ゲートに向かおうか」


「うん!」


 俺たちは退場ゲート向かい、受付嬢さんに探索者カードを渡す。


「お疲れさまでした。……あら、ティアさん、並びにあかりさんは本日20層まで到達なされたのですね。おめでとうございます。お二人ともCランクに昇格になります。」


「え!? どうしてですか?」


 灯里ちゃんが昇格と聞いて驚いている。前回の俺と同じだな。

 受付嬢さんが灯里ちゃんに昇格システムの説明を始める。


 因みに受付嬢さんが、灯里ちゃんのことをあかりと呼んでいるのは、探索者カードに【あかり】で登録しているからだ。

 パーティーを組む際に、名前欄にあかりとだけ記載されていたから間違いない。


 探索者は配信者が多く、プライバシー保護の観点からカードには愛称等、自分の好きな名を書けるようになっている。

 カードを取得する際に、マイナンバーカードを紐づけてあるから本名をカードに書き込む必要性がないというわけだな。

 俺は面倒だから、本名にしてるけど。


 ……なんて考えている間に、受付嬢さんの説明が終わり、探索者カードを返却してくれる。


「それではどうぞお通りください。お疲れさまでした」


「「ありがとうございます」」

 

 受付嬢さんに労われた俺たちは、そのままギルド入口に戻る。


「ん〜! 今日は本当に疲れたね――って一番疲れたのはティアちゃんだよね、本当にありがとう。それじゃシャワー浴びて帰ろっか」


 灯里ちゃんは疲れを噛み締めるように、大きく背伸びをしながらお礼を言ってくれる。


 おや? このあと、ある意味メインイベントが待っているというのに、彼女はそれを忘れているのか、それとも気づいていないのか……

 俺はイタズラ心が出てしまい、少しだけ灯里ちゃんをからかうことにする。

 

「ううん、気にしないで。それよりあかりちゃん……帰る前に何か忘れてないかな〜? ほらぁ、これこれ」


 そう言って俺は、片手の手のひらを裏返しながら、親指と人差し指で輪っかを作る。

 所謂お金を意味するジャスチャーをチラチラと見せながら、灯里ちゃんにわざとらしく問いかける。

 

「へ? 何かあったっけ? ――ハッ! や、やっぱりレベリング料を!?」


「――っぷ! あはは! 違うよ〜! 換金だよ、換金。ほら見て私のバックパック、パンパンだよ」


 灯里ちゃんが本気でびっくりしたリアクションを見せてくれたので、くるっと回り背中のバックパックを見せたところで、イタズラタイムを終了させる。



「んも〜!! 本気で焦っちゃったよ…………ティアちゃんのこと、嫌いになったかも」



 年甲斐もなく、俺がイタズラ成功! と言わんばかりに喜んでいると、ぷくっと頬を膨らました灯里ちゃんから衝撃の言葉を受けてしまった。


「――あえ!? ご、ごめんね! ちょっとだけイタズラ心が出ちゃったというか! ……とにかくごめんね!」

 

 ――や、やり過ぎてしまったか!?

 灯里ちゃんから放たれた「嫌い」と言う言葉に、想像以上のダメージを受けた俺があたふたしながら謝り倒していると……


「うふ、あはは! ウソだよー! 私がティアちゃんのこと嫌いになるわけないでしょ? さっきのお返しだよ!」


 灯里ちゃんは我慢の限界と言わんばかりに、笑いながら嘘だと告げてくれる。

 ……どうやら灯里ちゃんの方が一枚上手だったみたいだ。


 俺が目を閉じて心底ほっとしていると、急に柔らかいものに包まれる感触で溢れてくる。

 何事かと目を開けると、目と鼻の先に灯里ちゃんの顔があった。


「ティアちゃんのこと大好きだよ! ぎゅーっ!!」


「わわわ!? あ、あかりちゃん!? 急に抱きつかないでー!」



 ……端から見たら、まるでバカップルのようなやり取りを挟みながら、俺たちは買取カウンターへ向かった。

いつも読んでくださりありがとうございます!


本日は、21時00分頃にもう1話投稿予定ですので、そちらも是非お楽しみいただければ幸いです!



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