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第28話 ティアーズブートキャンプ in 箱根ダンジョン

 俺は一抹の不安を抱えながら20層へ続く階段を下りるが、すぐに思い直す。


 大幅にダウンしているといっても、それでも元の俺より遥かに強いのは確かだ。

 それに攻撃スキルが使えないといっても今回の20層くらいなら何の問題もないだろう。

 

 しかし、一層から走ってる最中に感じていた体のキレの悪さの正体はこれだったのか。

 まさかこんな形で能力を制限されるとは思っていなかった。


 折角好奇の視線から解放されると思っていたのに……

 どうやら魔法少女コスと縁を切るのは無理そうだ。



 そんなことを考えながら階段を下りきった先は、暗闇だった。



――箱根ダンジョン 地下20F



「20層に到着したけど、これはちょっと暗いね」


「うん、夜の森……だよね。あ、でも見てティアちゃん、星が綺麗だよ! お月様も綺麗な満月だよ」



 階段を下りきった先は、深い夜の森だった。

 見た感じは十層の森を暗くしただけのようだが、この暗さは少し厄介だな。


 月の光が地面を照らしているので、一寸先は闇とまではいかないけど、それでも都会の光に慣れきった俺たちには辛いものがある。


「ランタンとか懐中電灯があったら……あ、スマホのライトなんてどうかな?」


 灯里ちゃんはそう言ってスマホライトで照らす。

 確かに見えやすくなったが、まだ暗い。

 どの道片手が塞がるし、どうしたものか。


 ――いや、こういう時にピッタリのスキルを持っていたじゃないか。

 俺は迷わずスキルワードを唱える。



「ライト」


 その途端、丸い光の玉が空中に出現し、俺たちの周りを十分な明るさで照らしてくれる。

 俺が使ったのは光源を出現させる生活魔法の【ライト】だ。


 思った通り、ライトは攻撃スキルには入らないようだ。ペナルティ中でも問題なく使えるぞ。


「わ!? ティアちゃん、それなに?」


 急に隣が明るくなったものだからか、灯里ちゃんが驚いて聞いてくる。


「ふふ、生活魔法のライトだよ。配信者さんでも使ってる人が多いよね」


「あ、言われてみれば配信でよく見るスキルかも……?」


 俺が言った通り、両手が塞がらない生活魔法のライトは、探索する上では必須級スキルだ。

 因みに、持ってない人はランタンやヘッドライトで対応していたりする。

 俺がそう説明すると、灯里ちゃんは何故か一瞬だけ疑問を浮かべた顔を見せるが、すぐに納得した顔を見せてくれる。


「これで光源問題は解決したし、本格的にパワーレベリング開始だよ、あかりちゃん」


「う、うん! あとはモンスターを探すだけだよね」


「あかりちゃん、絶対に私の側から離れちゃダメだよ。じゃあレッツゴー!」



★✫★✫



 俺は灯里ちゃんをすぐ後ろに連れて20層を歩き出すと、意外にもすぐにモンスターと遭遇する。



「ティ、ティアちゃん! オオカミだよ!」


「うん。ナイトウルフみたいだね」


 夜の森から俺たちの目の前に現れたのは複数のナイトウルフだ。事前に読み込んだ攻略アプリによると、常に大きな群れで行動し、練度の高い連携攻撃が特徴とある。

 

 ナイトウルフたちは、よだれ混じりの唸り声を上げながら俺たちを威嚇している。

 前方だけでも数十匹はいる。更に後方からも複数の気配を感じる。


「なんか凄く取り囲まれてるけど、だ……大丈夫だよね?」


 ナイトウルフたちは俺たちを取り囲むようにジリジリと全方位に展開する。

 俺が相手の出方を窺っていると、正面の一体が遠吠えを上げる。



 ――その瞬間、全てのナイトウルフたちが襲いかかってきた!


「き、きたよ!!」


「あかりちゃんはそこを動かないでね!」


 俺は冷静に敵の動きを観察する。

 大丈夫、ちゃんと敵の動きが見える。ステータスが低下していても、やはりこの程度の階層では相手にならないようだ。


 観察も十分だと判断し、思考を戦闘に切り替えた俺は体をくるっと回転させる。

 その瞬間、全力で解放されたステータスの感覚で、全ての敵の位置関係を瞬時に把握する。

 綺麗な一回転が終わった瞬間、俺は灯里ちゃんから近い順にナイトウルフを倒すべく駆け出す。


 止まることなく、拳、肘鉄、膝蹴り、飛び蹴りと、多種多様な技をステータスに物を言わせて決めていく。

 

 その様子を灯里ちゃんは顔を赤くさせ、何やら黄色い声を上げながら見ている。

 ふふ、どうやら彼女には俺がアクションスターのように映っているのだろう。

 

 俄然力が入った俺は、そのまま風のように倒し続け、最後の一匹を踵落としで仕留めたところで、ようやく動きを止めた。



「うん。こんなところかな」


 俺は周囲に敵影が無いのを確認し、パンパンと手を払いながら戦闘の感想を独りごちる。


 その様子を見ていた灯里ちゃんが、急ぎ足で俺の方に駆け寄ってきて口を開く。



「ティアちゃーん!! 下着! 下着! さっきからパンツ見えちゃってるよ〜!?」


「へあ!?!?」


 俺は灯里ちゃんの一言を聞いた瞬間にスカートを両手で引っ張るように押さえる。



 ――ゆ、油断してた! いつもの魔法少女コスのつもりで戦っていた!

 そういえばプリセットには上下の下着と服装しか登録していなかったのを思い出した。

 アンスコを登録することもできた筈なのに、完全に忘れていた……



「あ、で、でもすごいよ!! ティアちゃん強すぎだよ! 私もコメントの皆も、何が起こったのかまるで分からなかったよ!? ほら、コメントの皆も――ってパンツ禁止ー!!」


 俺は羞恥でうずくまっていたが、灯里ちゃんが切り替えるように感想を述べてくれる。

 

 ……やっちゃったもんは仕方ない。

 俺もこのまま何事もなかったように切り替えるべく、返事を返す。


「あ、ありがとう……あかりちゃんを安心させたくて頑張りすぎちゃったよ。それよりレベルはどう? 上がったかな?」


「ちょっと待ってね、ステータスオープン……わ! 凄いよ! もう16まで上がってる! それにスキルまで増えてるよ!」


 どうやらちゃんとレベルは上がっているようだ。パーティーの経験値共有効果のお陰だな。

 それにスキルまで覚えるなんて幸先が良いぞ。


「やったね、あかりちゃん! スキルまで覚えるなんて凄いよ。この調子でどんどん行こうか」


「うん! ティアちゃんのおかげだよ、ありがとう! あ、でも戦い方は、その……気をつけてね?」


「思い出させないで〜!!」



 俺の悲しい叫び声が夜の森に鳴り響いた。



★✫★✫



 忘れずにドロップ品を回収したあと、俺たちはそのまま森を進み、パワーレベリングを続けていく。

 ナイトウルフ以外にもウォーバットという蝙蝠型のモンスターも倒していくが、どんどん効率が落ちてきた。


「あかりちゃん、今のレベルはいくつ?」


「えっと、22だよ」


 できれば今日中にCランク相当のレベル30までは上げてあげたかったが、モンスターがもっと出てくれないことには厳しいな。

 もういっそ下の階層に進むべきだろうかと考えるが、すぐに考えを改める。

 俺だけならともかく、今のステータスで情報がない階層へ連れ回すわけにはいかないしな。



 ――いや、待てよ?

 俺は一つの方法を思い付き、それを実行するため灯里ちゃんに声を掛ける。


「あかりちゃん、ちょっと思いついたことがあるから試してみるね」


「え? うん、もちろんいいよ。でも何するの?」

 

「それなんだけど、モンスターをもっと効率よく倒せないかと思って、ここは暗い森だし多分こうすれば…………ほら来たよ!」


 俺は頭上のライトを更に上に、森の木々のそのまた上に上昇させる。

 ついでに目立つように大きくさせれば……読み通り、モンスターたちがわらわら寄ってきた。

 普通の獣なら逃げるだろうが、ここはダンジョンだ。人間の気配を感じれば、積極的に寄ってくるのがモンスターの性というもの。

 今回はそれを利用させてもらった。


「あかりちゃんは常にステータスのチェックをしててね! それじゃ全部倒すよー!」


「了解だよ! ティアちゃん頑張って! ほら、リスナーの皆もティアちゃんを応援するよ!」



 こうして灯里ちゃんとリスナーの声援を受けながら、俺はライトに寄ってくるモンスターをひたすら倒し続けた。

いつも読んでくださりありがとうございます!

皆さまの応援のおかげで、ブックマークが100件を突破いたしました! 本当に嬉しいです!


つきましては、感謝の気持ちに明日の投稿は2話連続投稿を予定しています!


29話は19時30分頃に

30話は21時00分頃を予定しています。


是非週末のお供に楽しんでやってください。



★✫★✫



システムUI「だからそんな装備(アンスコ未着用)で大丈夫か? って聞いたのに……」

ティア「パンツのことだったんかい!!」


もし「恥ずかしがるティアちゃん可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら

ブックマーク登録や、

下の評価欄を☆☆☆☆☆から**★★★★★**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります!

(すでに応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!)


さらに上のランキングを目指して頑張りますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!

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