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第26話 美少女トレインと心配事

「ひやああああああああああ!!」


 箱根ダンジョンを灯里ちゃんの悲鳴が駆け抜ける。

 

「どんどんいくよー!」



 俺は今、灯里ちゃんをおんぶする形でダンジョン地下19層の森ステージを最短ルートで爆走中だ。

 あと一層下りればマップ上では最深部になる。


「はいはーいごめんねー! 通りまーす!」


 俺は探索者やモンスターを猛スピードで素通りしていく。

 美少女をおんぶした美少女が通り過ぎて行くという、あまりに訳の分からない構図のせいか――通り抜けられた探索者の目が点になっていた気がする。


 お、道の切れ目が見えてきた。次はどっちだろうか?


「あかりちゃーん! 次の道はどっちー?」


「み、右だよー! そ、そろそろ階段があるはずー!」

 

 俺はおんぶで両手が塞がっているので、道案内を灯里ちゃんに任せてある。


 しかし何だろう、気のせいかもしれないが、今日は体のキレが悪い気がする。

 コレが太田教官の言ってた筋肉のコンディションだろうか……いや、ないな。

 

 因みに猛烈な速さで走り抜けているので、お互い大声じゃないと聞こえない。


「ここを右っと……あったあった! 20層へ続く階段だ!」


 灯里ちゃんの言う通り、階段が見えてきたのでラストスパートで駆け抜ける。


「はいとうちゃーく。あかりちゃん、お疲れさま」


「ふ、ふわあああ……腕が痺れたよ〜。コメントの皆も褒めてくれてありがと〜」


 俺は二十層へ繋がる階段の手前で灯里ちゃんを降ろすと、ぺたんと座り込み、腕をプルプルと振っている。

 それと連動するようにお胸の方もかなり……って何見てるんだ俺は!



「ほらあかりちゃん、休むなら階段で休もう?」


「う、うん」


 俺は灯里ちゃんを休ませるために、階段の少し進んだ先へ座るように誘導する。

 階段周辺はモンスターが出ないため、所謂セーフエリアとして作戦会議や一休みによく使われる。

 一層からこうして二十層手前までノンストップで駆け抜けたんだから、腕も痺れるはずだ。


「はぁ、ふぅ、ティアちゃん。今更だけど、どうして私たちこんなところまで来てるの? てっきり、もっと普通に攻略するものだと思ってたよ」


 そういえば、灯里ちゃんのレベリングだと伝えていなかったかもしれない。


「今日はあかりちゃんのレベリングをしようと思ってたんだけど、ごめんね、すっかり伝え忘れてたよ」


「わ、私の!? 嬉しいけど、どうして突然」


 俺が伝え忘れていた目的をしれっと話すと、その内容に灯里ちゃんが驚くが、どうしてと言われてもなぁ……そりゃあんな形の出会いだからな。

 それを伝えるために、俺は彼女にとある要求をする。


「ねぇあかりちゃん、もし良かったら私にステータス見せてくれないかな?」


「ティアちゃんになら良いよ? ステータスオープン……えっと、見せるには、ステータス公開」


 俺がステータスを見せるように要求すると、灯里ちゃんは直ぐに了承してステータスを表示させる。

 普段は自分にしか見えないため、そのまま俺に見えるように公開してくれる。


 因みに、LDカメラにはプライバシーの観点からステータスが映らないように作られているから、ステータスを公開しているインフルエンサーは口頭か、スマホに写してリスナーに見せる感じだ。


「ありがとう、レベルは……やっぱり低いね。あれ? でもDEXが30!?」


「えへへ、お恥ずかしい」


 表示されたステータスはレベル2だったが、DEXが30オーバーの尖ったステータスだった。

 レベル1の時点でどれか一つでも10を超えたステータスがあると探索者としての才能があると言われているが……これはまた随分と高いな。

 

 いや、今はそんなことよりレベルだ。


 思った通り低すぎる。初心者ならこれが普通ではあるけれど、本来、ダンジョンはソロで潜るものじゃない。

 パーティーを組み、安全に安全を重ね、これでもかというほどの安全マージンを確保してから潜るものだ。


「あかりちゃん、私たちが出会った時のこと覚えてる? あの時あかりちゃんは、下手したら死ぬところだったんだよ? これはソロで潜っていいレベルじゃないよ」


「うん。あの時は本当に怖くて、もうダメだって思ってたから……あ、でも本当は4人で潜る予定だったの」


 なるほど、何かしら問題が起こってソロで潜らざるを得なかったという訳か。

 だがそれは関係ない。危険なのが分かっているなら引く判断をするべきだった。


 とはいえ、灯里ちゃんにも危険を冒してでも潜る理由があったのだろう。

 そこまで踏み込む気はない。


「そうだったんだね。でもどれだけ完璧に準備をしてもね、前回みたいなことが起こるかもしれない。またソロで潜ることもあると思うんだ」


 ならせめて、今俺にできることは……


「だからこそのレベリングだよ。私は、あかりちゃんに死んでほしくないから」


「ティアちゃん……」


 そう、俺にできることと言えば、上層程度ならソロでも余裕! という位までレベルを引き上げることだ。


「もしかしたら、余計なお世話なのかもしれないのは分かってるんだけどね。それでもあかりちゃんには死んでほしくないんだ。私の初めての友達だから」


「ティアちゃぁぁん……私のこと、そんな風に考えてくれて……嬉しいよぉぉ」


 灯里ちゃんは顔こそ泣いていないが、声が半分泣き声に変わりかけている。

 少ししんみりさせてしまったな。それにお説教っぽくなってしまったし、話はこれくらいでいいだろう。


 大体、高校生の時にツノウサギにボコボコにされた俺のどの口が言ってるんだって話だしな。



「じゃあ行こうか、腕の痺れは取れた?」


「うん、痺れは取れたけど、でもいいのかな……こんなの、周りの人からズルだって言われない?」


 ふむ、所謂キャリー行為がどう思われるかという話か。それなら何の問題もないだろう。


「あかりちゃん、私たちがしてるのはゲームでも遊びでもないんだよ? 一つのミスで死ぬこともあるんだよ? それなのに、レベルを上げて安全圏からダンジョンに潜るのがズルいわけないよ」


 実際に、高ランク探索者にはレベル上げを手伝って欲しいという依頼が届くというし。

 ただし、結構な額を要求されるとも聞くけど。


「でもこういうキャリー? って凄く高額って聞いたよ。私、ティアちゃんに何もできないよ……本当にいいのかな」


「私があかりちゃんからお金取るわけないでしょ? それに私がしたいからするんだよ? じゃあ良いに決まってるよ」


 俺は一度ここで言葉を区切り、灯里ちゃんが頷くのを確認して、座っていた階段から立ち上がる。

 

「じゃあ今度こそ20層に行こっか。あ、その前に、一応私のステータスも見せてあげるね、あかりちゃんが安心できるように」


 考えてみれば、彼女にとっては未知の領域に連れ込まれた形だ。俺のステータスを見せることで少しでも安心させてあげなければ。

 ……見せるのは百の仮面(ペルソナヴェール)で偽装した方だけどね。

 そうして俺は階段を下りきる前に、ステータスを表示させる。


「ステータスオープン…………え? なにこれ」


「ティアちゃん? どうしたの?」


「――あ、ううん。なんでもないよ、ちょっと待ってね……ステータス公開」


 俺は内心焦りながら、以前偽装したステータスをそのまま見せる。


「わあ! ティアちゃん強い!」


 灯里ちゃんが俺の偽装したステータスに驚いている様子を尻目に、俺は別のことを考えている。



 さっきは本当にびっくりした。ステータスを表示させた途端、完全に思考が停止してしまった。



 ――まさか、ティア本来のステータスがとんでもなく弱くなってるだなんて。

 俺は原因を特定させるために、脳内でもう一つ本来のステータスを表示させる。



 名前 : ティア・ロゼッティ

 職業 :アイドル

 クラン:未所属

 レベル:603

 HP  :72,601(↓DOWN)

 MP :43,923(↓DOWN)

 STR :15,125(↓DOWN)

 DEF :12,100(↓DOWN)

 DEX :12,523(↓DOWN)

 INT :9,740(↓DOWN)

 LUK :8,893(↓DOWN)


 やっぱり、何度見ても大幅に減少している。元のステータスの見る影もない。どうなっているんだ?



 ……ん? なんだこのマークは? ステータスの隅に危険標識のような赤い三角のビックリマークがある。

 俺はそれをタップするイメージで詳細を見てみる。その内容は……



「な、なんだって!?」


「ひゃっ! 突然どうしたの? ティアちゃん」


「ううん、なんでもないよー。じゃあ行こうか」


 俺は灯里ちゃんに見せていたステータスを閉じて階段を下りていく。

 そして俺の脳内のステータスにはこう表示されていた。



――【警告】デフォルト、または戦闘用プリセット衣装ではありません。ペナルティとして、現在の衣装ではステータスが大幅にダウンし、攻撃スキルが一切使用できなくなります。

このペナルティは、デフォルト、または戦闘用プリセット衣装に戻すまで継続されます。

いつも読んでくださりありがとうございます!


システムUI「そんな装備で大丈夫か?」

ティア「大丈夫だ、問題ない……よね?」


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