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第25話 灯里ちゃんと行く箱根ダンジョン

「よし、これで全部収納できたかな?」


 俺は今、ティアの姿でリビングにいる。

 何をしているのかと問われれば、昨日購入した服を全て衣装収納【ドレッサー】というスキルに収納しているのだ。


 今日は碧依も用事があると言って朝から出かけているので、こうして堂々と家の中でティアの姿になっている。


「それじゃ、早速確認しよう。衣装選択(ドレスチェンジ)


 俺は正しく収納できたか確認するために、もう一つのスキル、衣装選択【ドレスチェンジ】を発動する。

 その途端、俺の目の前に半透明のウィンドウが現れる。


「新規登録を押せばいいのかな」


 目の前に現れたウィンドウにある新規登録というボタンを押下すると、先ほど収納した全ての服が、部位別に項目として表示される。

 なるほど、ここで好きな組み合わせをプリセット登録出来るわけだな。


 ……しかしこれは、非常に細かく設定できるようだ。

 髪型から靴まで、文字通り頭の先からつま先まで全てを設定できる。


 とりあえず、今日はこのあと灯里ちゃんとの箱根ダンジョンを予定しているので、上下の服装と下着だけを登録していく。

 もちろん組み合わせは、彼女が選んでくれたものをそのまま登録した。


「保存を押してと……名前か、これもそのままでいいか」


 最後に登録プリセット名の設定画面が表示されるが、とりあえず彼女がこの組み合わせをガーリーと言っていたので、【ガーリー】と登録しておく。


 俺は同じ要領で、昨日購入した全ての服の組み合わせを次々登録していく。

 彼女曰く、ボーイッシュにストリートにフェミニン……フェミニンってなんだ?



「これで全部登録完了だ。どれどれ、試しに……これでいいか」


 俺は正しく機能するか確認するために、【トラッド】と保存したプリセットを起動する。


 その瞬間、俺の身体が光に包まれたかと思えば、パッと一瞬にして着替えが完了する。

 ブレザーに襟付きシャツ、ギンガムチェックのミニスカートがポイントの学生風ファッションだ。

 灯里ちゃんはプレッピースタイルとか言っていたっけ。


 とりあえず正常に機能していることを確認した俺は、元の姿に戻そうとするが……


 はて? どうすれば戻るのだろうか?


「ん〜? 元の衣装にはどうやって戻せば……お、これかな?」


 画面隅の方に【デフォルト】と表示されている項目があったので、それを押下すると元の魔法少女コスに戻る。


「戻った戻った。……しかし、これは一体?」


 俺はデフォルトと表示された、その隣の項目を見る。

 そこには【戦闘用プリセット】と表示された項目がある。その項目を押下してみると、更に複数のプリセットが表示された。


「何かいっぱいあるけど、新規登録は出来ないのか」


 戦闘用プリセットの中には新規登録項目がない。完全に固定のようだ。

 物は試しと、俺は適当なプリセットに指を近づけたところで――スマホのアラームが鳴り響く。


「あ、やっば!遅刻遅刻!」


 灯里ちゃんとの集合時間に遅刻しないように設定していたアラームがタイムリミットを告げたところで、俺は慌てて家を出る支度を始めた。



★✫★✫


 

「ごめんね! 待った?」


「ううん。私もいま来たところだよ」


 俺が箱根ギルドに到着すると、既に灯里ちゃんは入り口の手前に立っていた。

 これでも集合時間の15分前なのだが、一体いつから到着していたのだろうか。



 そんな俺達は、まるでカップルの待ち合わせのようなセリフを交わしたあと、ギルドの中に入っていく。


 そのまま女性用更衣室に向かうが、俺は同じ轍を踏まない男だ。

 更衣室前で止まり、今日はこの服装のままで潜ることを告げる。


「私、今日はこのままの格好で潜るから、灯里ちゃんだけ着替えてきなよ」


「え? ティアちゃん、あの衣装に着替えないの?」


 因みに服装は、家を出る時にデフォルトの魔法少女コスからトラッドスタイルに戻してある。


 ようやく好奇の視線から解放されたんだ。あんな目立つ魔法少女姿にはならないぞ。

 とはいえ、元が美少女だからか、この服装でも結構視線は感じるけど……。


「あの衣装は特別な時だけ着ることにしたんだ。ほらほら、早く着替えてダンジョンに潜ろ」


「ええ〜、私、ティアちゃんのあの衣装好きだったのになぁ……」


 灯里ちゃんは渋々といった感じで更衣室に消えていった。


 むう……そんなに見たいなら、やっぱり着替えるか?



 ――いやいや、流されるな! 目立たないために普通の服を買ったんだから、ちゃんと使わないと買った意味がなくなるぞ。


 灯里ちゃんが更衣室から出てくるまで葛藤を続けていた俺は、結局予定通り、今の服装のままで潜ることにした。



――箱根ダンジョン 地下1F



「あ、ティアちゃん。今更だけど配信してもいい? って言っても、まだまだ無名の配信者なんだけどね」


 箱根ダンジョンに入ったところで、灯里ちゃんがLDカメラを起動させるが、俺が配信に映っても良いものかと質問してくれる。


「ん〜……良いよ。今日は灯里ちゃんとの初ダンジョンだしね」


 少し悩んだが、彼女がLDライバーなのは最初から分かっていたので、一緒に潜る時点でこうなるのは分かっていたしな。

 それに今から行うのは、彼女のパワーレベリングなのだから、その様子も配信に映しておいたほうが良いだろう。

 次の配信で急にレベルが上がってたら、リスナーも何があった? となるだろうし。



「あ〜あ〜……それじゃ配信するね。台本とかなんにも無いけど、準備はいい? ティアちゃん」


 灯里ちゃんは少し発声練習をしたあと、こちらを向いて確認してくる。

 俺はその言葉に軽く頷くと、配信が始まった。


「こんあか〜! あかりちゃんねるのあかりだよ。今日は箱根ダンジョンを潜っていこうと思います! ……わ!もうコメントくれる人がいる! 【ですの】さん、ありがとう〜! 二回目の配信だけど、頑張るね!」



 灯里ちゃんのオープニングトークが始まる。

 こんなに可愛いのに無名なのは意外だと思っていたが、なるほど。まだ二回目の配信ならば納得だ。

 それにこの性格にあの美貌なら、直ぐに人気配信者になるだろうな。


 ……なんて考えている間に、カメラが俺に回ってくる。


「今日は、びっくりするゲストを用意してるよ。誰だろうね〜? ……お願いします!」


 とりあえず無難に自己紹介でいいよな?

 あ、配信するならあのスキル使っておくか。俺は心の中で八方美人(アイドルスマイル)を発動し、一拍置いてから口を開く。


「初めまして、ティア・ロゼッティと言います。今日は縁があって、こうして灯里ちゃんと一緒にダンジョンに潜ることになりました。みんなよろしくね」


 昨日のチャラ男事件でもそうだったが、スキルによっては心の中で唱えるだけでも使えるものがある。

 でも配信者は分かりやすさ重視で口にする人が多いから、基本は俺もそれに倣うつもりだ。


「わー! わー! ティアちゃん! 本名言っちゃダメだよ!?」


「え、そうだったの? 私、そういうの詳しくなくて……ダメだった?」


「ダメじゃないけど、本名出しちゃったらリアルが特定されたりして、危ないんだよ。……ごめんね、私がちゃんと話していればよかったのに」


 そうだったのか、いつもはそんなこと意識せずに配信を見てたけど、この業界にも色々あるんだな。

 とはいえ、ティアという存在自体がそもそも偽りのようなものだからな。

 俺は灯里ちゃんに気にしないようにと伝えておく。


「大丈夫大丈夫。ほら、今からダンジョンなんだから、切り替えなきゃ危ないよ」


「う、うん。ありがとう、ティアちゃん」



 そのまま数分間トークを続けたところで、本格的に潜るために二人でパーティーを組む。



「それじゃあかりちゃん。パーティー結成しようか」


「うん。よろしくね、ティアちゃん!」


 俺と灯里ちゃんはお互いに探索者カードを取り出し、重ね合いながら、とあるワードを唱える。


「「パーティー結成!」」


 技術的なことだから俺も詳しくは知らないが、こうすることにより、探索者カードにパーティーとして認識される。


 何故パーティーを組む必要があるのかと問われると、例えば探索中は四人パーティーが基本とされている。

 そしてその中に必須といっていい回復役がいるとする。

 当然戦闘中は後方に控えているため、経験値なんて入るわけがない。

 だから回復役はやりたくない。でも回復役は欲しい。

 そんなジレンマを解消するために、何年か前に追加された探索者カードの新機能が、パーティー結成機能だ。


 色々と特典はあるのだが、その一番の効果はなんといっても経験値の共有だ。

 この効果のお陰で、倒したモンスターの経験値がパーティー内の全メンバーに、平等に分配されるようになる。


 勿論、距離的な制限があるので、一人だけ安全な場所でぬくぬくとレベルアップ……なんてことは出来ない。



 ――とまあ、思考はここまでにして、俺は攻略アプリを開きマップの更新状況を確認する。



「ふんふん……どうやら箱根ダンジョンは20層まで進んでるみたいだね」


「まだ解放されて3日しか経ってないのに、みんな凄いよね。私なんて1層で足踏みしてるのに」


 こんなに攻略が早いのもダンジョンのマップデータが高く売れるという理由が一番だろう。

 だが20層以降はCランク帯に突入するので、ここから攻略頻度は著しく落ちるとされている。


「うんうんそうだね。それじゃ、今から20層まで行こっか」


「……へ?」


 灯里ちゃんの可愛らしくも間の抜けた声が、箱根ダンジョン一層に小さく木霊した。

いつも読んでくださりありがとうございます!


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