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第24話 赤羽さんとのデート(後編)

「アンダーバスト67cm、トップバストが83cmのCカップですね。……素晴らしいです。アンダーが細いので数字より大きく見えますよ」


「あ、ありがとうございます?」



 俺は今、下着専門店で女性店員さんに採寸してもらっている。

 店員さんのメジャーが少しこそばゆかったが、何とか耐えたぞ。


 採寸が終わった俺は、試着室から首だけ出すと、赤羽さんがスタンバイしてくれていた。

 その手には、既に何着もの下着がある。


「あ、ティアさん、どうでしたか?」


「えっと、Cカップだったみたい」


「アンダーはどうでした?」


 赤羽さんがアンダーを聞いてくる。

 ……アンダー? ああ、さっきのアンダーバストってやつか。確か67だったな。


「67cmって言われたよ。よく分からなかったけど」


「それじゃ、これかこれですね。B70かC65です」


 そう言って赤羽さんは二着の下着を俺に渡してくれる。

 ブルーにイエローに、どちらも装飾がとても可愛らしいが、これを着けるのかぁ……

 男としての尊厳が、ってそんなの今更か。


 観念して着けようとしたのだが、よくわからないので手こずっていたら、店員さんが優しく教えてくれた。



 ふむ、どちらも普通にいけるな。B70の方はゆったり目で凄く楽で、C65の方は少しだけ締め付けられてる感じがあるけど、気になるほどではない。


 ……なにより谷間が凄く強調されている。



「赤羽さん、こんな感じなんだけど、どうかな?」


 俺はそう言って、カーテンを少しだけ開け赤羽さんに下着姿を見せる。


「ふわぁ……想像の何倍も可愛いです……」


 赤羽さんは感極まったような声で褒めてくれる。

 そんなストレートに褒められてしまっては、俺も照れくさい。


「そ、そうかな? それじゃ、この二着とも買うことにするね」


 けれど悪い気はしないので、このまま二着とも買おうとすると赤羽さんが止めてくる。


「あ、待ってください。ここへは元々サイズ測定だけのつもりで来たんです。買うのは別の場所と思っていたんですけど。その、専門店はお高いので……」


 おや? サイズ測定もしてもらって、買わないのは良いのだろうか?

 俺は店員さんを見あげると、ニコリと笑って応えてくれる。


「ええ、まったく問題はございませんよ。実際にサイズが変わったと感じたら、測定だけして帰られるお客様がよくいらっしゃいますし、むしろそれが普通ですよ。お客様」


 なるほど、問題ないらしい。

 とはいえ、ここは大人の財力の見せどころだな。


 何より、折角赤羽さんが選んでくれた下着だ。買わない選択肢は端からないぞ。


「いえ、やっぱり買います。サイズもピッタリですし、何より友達が選んでくれた下着ですから。それから赤羽さん、他にも私に似合いそうな下着を、もう2〜3着持ってきてほしいな」


 俺が店員さんに買う意思を伝えると、赤羽さんが驚いたような、嬉しいような表情をして、新しい下着を見繕いに行ってくれた。


「お客様、本当によろしいのですか? その、当店は少々値が張ると言いますか……お値段設定がお高めと言いますか。それにお客様のご年齢ですと、これからまだカップ数が変わる可能性もございますが」


 店員さんが、おそらく俺のお財布事情を心配して聞いてくれる。

 見た目がJKでも、中身はバリバリのフリーターだ。


 ……とは言えないので、これでも探索者ですから。と言って押し通した。

 店員さんに言われて気づいたけど、この身体でカップ数は変わるのだろうか? そもそも成長という概念はあるのか?


 考えても分からないので、思考も程々にして赤羽さんが持ってきてくれた、新しい下着を試着していく。



 その後、赤羽さんが持ってきてくれた下着を全て購入し、店を出る。

 会計が五万円を超えた時は少々驚いたが、今日の稼ぎがあるので問題はない。


 店を出た俺たちは、ようやく服を選びに各ショップを覗いていく。



 それにしても、女性の下着ってこんなに高かったんだな。


 ……次からは見栄を張るのは止めよう。



 ★✫★✫



「ふぅ。とまあ、こんなところでしょうか。 ティアさん、どうでしたか?」


 赤羽さんは、やり切ったと言わんばかりに晴れやかな顔を見せてくれる。


「う、うん。本当にどれも可愛くてびっくりしちゃった。やっぱり赤羽さんに選んでもらって正解だったよ」


 服屋に着くなり、赤羽さんはパパっと、服を何種類も用意してくれた。

 正直、ライトグレーのロングスリーブリブニットに、アイボリーのシアーレースルーズニットをレイヤードするとか、下は黒のタックショートパンツとか言われても、まるで分からない俺は、可愛い! これも可愛い! と返事するだけで精一杯だった。



「えへへ、こちらこそ、可愛いティアさんをいっぱい見られて幸せでした。ガーリーにボーイッシュ。フェミニン、トラッド、ストリート。果ては地雷系まで全部似合っちゃうんですもん」


 赤羽さんは、うっとりしたような、恍惚とした表情で話してくれる。


「それじゃ、これ全部買ってくるね。赤羽さんは先に出て待ってて」


 実際赤羽さんが持ってきてくれた服は、どれも可愛かったので、全て購入させてもらうことにした。

 因みに先ほどの下着より遥かに多く購入したのだが、お値段は同等以下だった。流石ユージーさんだ。



「お待たせ、赤羽さん」

 

 俺は服をレジに通した後、店先で赤羽さんと合流し、再び歩き出す。


 今の俺の服装は、赤羽さんが選んでくれたフリルやリボンが多めのガーリー系な服に着替えている。


 さて、本当はお昼を食べたら箱根ダンジョンに再び潜る予定だったけど、買い物に結構な時間を使ったし、今日はやめておくか。

 何より服と下着が手に入ったのが大きい。赤羽さんには本当に感謝だな。



「赤羽さん、まだ時間あるかな? 良かったらご飯でもどうかな? 素敵な服をいっぱい選んでもらったから、お礼がしたいな」


 俺は赤羽さんに、服を選んでもらったお礼として昼食を提案する。


「あ、私もお腹が空いちゃいました。けど、お礼ってそんな……元々は私がティアさんにお礼をしただけで――」


「はいはい、いいから行こ。私、もうお腹ペコペコだよ」


 俺は強引に赤羽さんを最上階のフードコートへ連れて行く。

 このままだと日本人特有の、お礼にお礼を重ねる不毛な合戦が起きるのが明白だからな。

 ……まあ、俺が発端なわけだけど。



 そんなこんなで、フードコートに到着した俺たちはそれぞれ好みのものを注文し、会話に花を咲かせた。



 お互いの食器が空になり、そろそろ帰るかと席を立ったところで、この場にそぐわない無粋な声が俺たちに向けて放たれた。


「あ、お前、この前の初心者女!」

「ああ〜、相模原ダンジョンの時の可愛い子じゃん」

「うっは! しかももう一人、滅茶苦茶可愛い子いるじゃねぇか」


 誰だ? 声を掛けられた方へ体を向けると、いかにもなチャラ男の三人組がいた。


「赤羽さん、この人たちは知り合い……じゃないよね?」


 十中八九、赤羽さんの知り合いではないだろうが、俺は赤羽さんに一応確認する。


「は、はい。知り合いではありませんけど、相模原ダンジョンでパーティーに入らないかって声をかけられて、それで断ったんですけど……」


 なるほどな。妙に刺々しい雰囲気だと思ったけど、大方、赤羽さんに振られたから逆恨みって感じだろう。

 どの道、女の子を捕まえてお前だの、初心者女だの言ってくるような連中だ。

 こういうのには関わらないのが一番だ。



「ごめんなさい。私たち急いでますので、通してくれますか?」

 

 俺は赤羽さんの手を引いて、男たちを無視して横を通り過ぎようとしたところで、前を塞がれる。


「まあ、待てって。そっちの君さぁ、まだソロなら、あの時断ったの無かったことにしてやるから、どうだ?」


 先頭の男が俺の後ろにいる赤羽さんに向かって話しかけるが、手を繋いだ先の赤羽さんから、微かな震えが伝わってくる。


「ていうか、君も一緒にどうよ? 凄え可愛いし、大歓迎だよ」


「結構です。私も、この子も、パーティーは間に合っていますから」


「ふ〜ん……君も断るんだ。でもいいのかな? 先輩探索者の好意は素直に受け取るものだと思うけどねぇ? とりあえずさ、あっちで話そうよ」


 男はそう言って、俺の方へと手を伸ばしてきた。


 ――俺は殆ど反射的に、その手をパンッ! と片手で払いのける。

 こいつ! 普通に手を握ろうとしてきたぞ!


 手を払いのけられた男は、まさかこんなことをされると思ってなかったのだろう。

 みるみる顔を真っ赤にさせて、語気を強めてきた。


「なっ――テメェ! こっちが下手に出てりゃつけ上がりやがって!」

「かんちゃんダセェ〜」

「神崎、お前舐められてるぞ」


 神崎と呼ばれた男が、後ろの仲間二人にからかわれている。


「舐めやがって、我慢の限界だぜ……探索者の礼儀ってやつを叩き込んでやるよ!」


 神崎は敵意に満ちた目で、俺に向かってそう言い放つ。

 フードコートで食事していた周りのお客さんも、こちらの騒動に気づいたようで、俺たちの周りから離れる。

 ざわざわと、騒動の行方を見守るような視線が広がる。

 

 ……我慢? 我慢の限界だと? それはこっちのセリフだ。


 いい加減目障りになってきた俺は、すぐ横にあるテーブルに近づき、コツンッと叩く。


 その瞬間、テーブルが大きな音を立てて木っ端微塵に分解された。

 ただの一欠片すら残さず、文字通りの木っ端微塵だ。



「「「――――は?」」」



 男たちはもちろん、固唾を呑んで見守っていた周りのお客さんたちまで、目が点になっている。

 それはそうだろう。まさかこんな細腕から、あんな芸当ができると誰が思うだろうか。


 俺はゆっくりと男たちに近づき、一言だけ口を開く。


「やるの?」


「ヒィッ!!バ、バケモノ!!」


 男たちは勝てないと悟ったのか、踵を返して逃げようとするが、俺はそれを止める。


「待ちなさい!」


 俺の言葉に反応した男たちは、凍りついたかのようにその場に止まり、こちらを振り返ってくる。

 だがその目は、こちらに僅かな敵意と、邪なものを含んでいる。


 俺はその目を見て、二度とこんな馬鹿なこと考える気持ちがなくなるように、心の中でとあるスキルを使用する。



凍てつく視線(ドラゴニックスマイル)



 ――その瞬間、男たちは悲鳴を上げ始めた。



「あ、あああああああああ!!?」

「ひぃいいい!? やめて! やめてくれ!!」

「まだ、まだ死にたくねぇよぉおお!!」


 転がったり、頭を抱えながら叫んだりと、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。



 ……これは少しやり過ぎたかもしれない。

 凍てつく視線(ドラゴニックスマイル)が想定以上の効果を発揮したため、俺は直ぐにスキルを解除する。

 解除した途端男たちは正気を取り戻したみたいだが、完全に戦意を失い、震え続けている。



「次に私と、この子の前に現れてみなさい。私の友達に手を出したらどうなるか、分かるよね?」


 俺はゆっくりと男たちに近づき、次はないぞと暗に伝えると、男たちは頭を必死に振り続けた。


 結局、騒ぎを聞きつけてやってきた警備員に、自分たちから保護してくれと懇願する始末だった。



 その後、俺は俺で設備を壊したことや、正当防衛とはいえやり過ぎてしまったことで、警備員さんに謝るが、周りのお客さんが擁護してくれたこともあり、お咎めなしで終わった。

 壊したテーブルを弁償すると伝えたが、どうやら神崎たちが払うからどうか許してくれとのことだった。

 それはもう必死の懇願だった……



★✫★✫



「ごめんね、赤羽さん。私が食事に誘ったせいで、今日は散々な一日になっちゃったね」


「そんな、全然そんなことないです! むしろ逆です。さっきのティアさん、すごく格好良かったです!」


 俺達は上のモールから、ギルドホールまで下りてきて、丁度ギルドの外に出たところだ。

 外はすっかり暗くなっている。


 俺は赤羽さんに迷惑をかけたと謝るが、赤羽さんは否定し、そのまま言葉を続ける。


「それにティアさん、その……試着室の時もそうでしたけど、さっきも私のことを友達って言ってくれて、すごく嬉しかったです」


 そういえば、そう言った気がする。

 なぜか分からないが、この子はどこか放っておけない。

 だったら、ティアの間くらいは、そういう関係でも良いのかもしれない。



「ねぇ、赤羽さん。赤羽さんは、私と友達になりたいって思ってくれる?」


「お、思います! というか、ずっと、友達になりたいなって思ってて……」


 俺がそう聞くと、赤羽さんはぶんぶんと首を振り肯定してくれる。

 なら、答えは一つだな。


「ふふ、それじゃ、私たち両思いだね。私のことはティアさんじゃなくて、ティアって呼んでほしいな。それと敬語もいらないよ?」


「え、えっと。ティ……ティア、ちゃん」


 赤羽さんは、照れたような顔をしてそう呼んでくれる。本当はちゃんもいらないのだが、そこは個人の好みだろう。


「ありがとう赤羽さん。これからよろしくね」


 俺は赤羽さんに微笑みながらそう伝えると、赤羽さんも微笑みながら返してくれる。


「よ、よろしくね。ティアちゃん。それと、私のことも灯里って呼んでほしいな」


「うん。分かったよ灯里ちゃん」


 俺も俺でちゃん付けだが、流石に年の差があるので呼び捨ては抵抗があった。



 俺達はお互いの連絡先を交換して、現地解散した。


 久しぶりに友達ができて、俺はウキウキ顔で帰り道に就いていると、メールが入る。


「あ、灯里ちゃんからだ」


 その内容は、『明日の日曜日、一緒に箱根ダンジョンに行きませんか』とのことだった。


 ふむ、折角友達になったんだし、丁度良い。

 せめて上層くらいは、ソロで対処できるようになるまでレベルを上げるべきだろう。



 それじゃ、明日は灯里ちゃんのパワーレベリングだな。

気になるティアのカップ数は限りなくD寄りのCでした


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