第19話 いざ行かん! 箱根ダンジョン(中編)
箱根ダンジョンに入るために階段を下りている俺は、やはり十段ほど下りた辺りで、透明な膜のようなものに引っかかる感覚を覚える。
相模原ダンジョンで感じたのと全く同じだ。
俺は気にせず歩みを続け、階段を下りきる。
――箱根ダンジョン 地下1F
「これは、相模原ダンジョンと似たような景色かな」
階段を下りきって周りの景色を見渡すが、前に入った相模原ダンジョンとよく似た景色だ。
ところどころ違うところはあるが、どちらも鍾乳洞って感じだな。
……しかし、人が一杯だな。
解放されたばかりのダンジョンだから仕方がないとはいえ、右を見ても左を見ても探索者だ。
「とりあえず今日は、行けるところまで頑張ってみよう」
俺はそう考えたところで、人混みから逃れるために進み始める。
★✫★✫
――箱根ダンジョン 地下9F
「流石にこの辺りまで来ると、人が目に見えて減ってきたな」
昨日解放されたばかりの箱根ダンジョンのマップは、現在九層まで更新されてある。
解放されたばかりなのに随分更新が早いと思うが、これにはちゃんと訳がある。
ダンジョンデータは政府に高値で売れるからだ。
特に箱根ダンジョンのように解放されたばかりのデータは需要が高い。
先駆者たちが端から端までマッピングしたデータを、俺たち一般探索者がこうしてアプリで恩恵を受けるってわけだ。
というわけで、ありがたいマップを頼りに現在は九層を進んでいる。
最短ルートを進み続けて、一層進むのに大体10分のペースだ。
「また出てきたな」
俺が歩みを続けていると、前の通路から切り株に目がついたモンスター、"スタンピ"が出てくる。
俺に気づいたスタンピは、高く跳び上がり、その平の体を活かした踏みつけ攻撃をしてくる。
「当たらないよっと」
俺はスタンピのスタンプ攻撃をサッと躱し、攻撃の反動で硬直しているスタンピに向かって腕を振り下ろす。
「ほいチョップ」
俺の手刀を受けたスタンピは、パッコーン!っと割れ、そのまま素材を残して靄となる。
「ふう。結構溜まったんじゃないか?」
スタンピのドロップ品をアイテムボックスに放り込みながら、数を確認する。
――アイテムボックス
・ツノウサギの魔石×55
・ツノウサギのツノ×20
・スライムの魔石×7
・スライムゼリー×3
・ツムツムリの魔石×11
・ツムツムリの殻×2
・スポアランナーの魔石×5
・モフリスの魔石×21
・モフリスの柔毛×8
・バイトマウスの魔石×7
・オオムカデの魔石×3
・ランページピグの魔石×8
・ランページピグの肉×2
・スタンピの魔石×6
・スタンピの樹液×3
道中出会うモンスターは片っ端から倒したため、魔石も素材もそれなりにドロップしていた。
ツノウサギだけ多いのは前回のステータス検証の時の分が丸々残っているからだ。
赤羽さんを助けるために換金どころじゃなかったからな。まあ、あの時は探索者カードも無かったからどの道無理だったけど。
「換金が楽しみになってきたぞ、この階層帯だと魔石は1個数百円だろうけど」
俺は換金を楽しみに進んでいると、下へ続く階段を見つける。
「ここを下りれば10層か。前人未到……ってわけじゃないけどな」
更新されているマップが九層までというだけで、マップデータの販売に興味がない生粋の探索者たちは、とっくにもっと下の層まで降りているだろう。
それでも俺は少しの興奮を胸に、階段を迷いなく下りる。
――箱根ダンジョン 地下10F
階段を下りきった俺の目の前には、青々とした緑がどこまでも続く、一面の平原が広がっていた。
空には太陽が燦々と輝き、光が大地に降り注いでいる。
風が吹き、柔らかな土の匂いと、揺れる草花の香りが俺の鼻腔をくすぐりながら抜けて行く。
俺は暫くその光景を眺め、ハッと我を取り戻す。
「そうだった、ダンジョンの景色って十層ごとに変わるんだった」
ダンジョンは十層ごとに景色が変わる。
そんな当たり前のことは、色んなダンジョン配信を見て知っていたはずなのだが、今までの自分とは無関係の世界だっただけに、忘れてしまっていた。
「す〜は〜……凄いな。吹く風と漂う匂い、本物の平原みたいだ。この感覚は配信を観るだけじゃ分からなかったな」
俺は少し感動して、その景色を5分ほど堪能したあと、探索を再開する。
「あれは、取り巻きのツノウサギが10体に……あのデカいのもツノウサギか?」
適当に箱根ダンジョンの十層を探索していた俺とエンカウントしたのは、一層で出てきたツノウサギと、その五倍はあろうかという大きさのツノウサギだった。
ここで俺は、新たなスキルを試すことにする。
「見透かす瞳」
スキルワードを唱えたあと、そのままデカいツノウサギに目を向けると、俺の視界情報に変化が出てくる。
名称 :ドンツノウサギ
レベル:15
◆ドロップ品
・ドンツノウサギの魔石
・ドンツノウサギの鋭角
・ドンツノウサギの肝臓
他にも各種ステータスが表示されている。
「うん。鑑定成功だな」
俺が先ほど使用したエンジェルアイは、所謂鑑定スキルだ。
事前にスキル効果を読んだだけで、実際に使うのは初めてだったが、読み通りの効果だ。
「ドンツノウサギか、レベルは低いけどあの巨体だ。少しは手応えがありそうだな」
情報は手に入った。とにかく先手必勝でいこう!
俺は両腕を正面に突き出し、スキルを使う。
「まずは数を減らす! 竜の衝撃波!」
俺の突き出した両腕から高威力の衝撃波が激しく吹き荒れ、正面のドンツノウサギ達に迫る。
「まだまだぁ! このまま一気に畳み掛けるぞ! 爆発する――んん?」
俺は衝撃波で程よく取り巻きを散らし、親玉をぶん殴るためにぐっと踏み込んで拳を引いたのだが……
衝撃波が直撃した途端、目の前のドンツノウサギ達は全滅し、黒い靄となった。
「え? あ、あれ?」
取り巻きだけでなく、あの巨大なドンツノウサギまで消えている。
「まさか一撃で終わるなんて……そりゃレベル差は歴然だったけど」
俺は、先ほどまでそこにいたツノウサギ達のドロップ品を前に、己の行場を失った拳を呆然と見つめるのだった。
「ま……まあ、大きくてもツノウサギだしな。それに命を懸けた戦闘を求めてるわけじゃないし、これくらいが丁度良いのかもしれないな」
少しの間呆気に取られていた俺は、そう思うことにして、ドロップ品を回収していく。
そんなこんなで探索も程々に、十一層へ続く階段を見つけることができた。
「それじゃ11層に……ありゃ?」
今日は行けるところまで進める予定だったのだが、十一層への階段を下りようとしたところで、小さくお腹が鳴る。
探索に夢中で気づかなかったが、一度意識しだしたら最後、腹の虫が騒ぎ始めた。
少し悩んだ俺は、結局空腹の誘惑に勝てず、一度お昼を取るために帰ることにする。
だが、ここまで朝から何時間も掛けて来た道を、今から帰るのでは大変だ。
――と普通の探索者ならそう思うだろう。
俺は帰るために、とあるスキルを発動する。
「不思議な輪」
天使魔法の一つであるスキルを発動すると、俺の目の前に金色の小さな輪が現れる。
「どの辺りがいいかな」
俺は一層のマップを見ながら、人がいなそうな行き止まりの小部屋に目星をつけて、そこをイメージしてみる。
すると金色の輪が、グワっと俺をすっぽり飲み込めるサイズまで大きく広がった。
「なるほど、こういう感じなんだ」
俺は、迷いなくその輪の中へ足を向けた。
そのままその輪を通り過ぎた頃には、俺の姿はもう箱根ダンジョン十層のどこにもなかった。
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