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第2話 魔法少女になった俺

「どうしてこうなった?」

 俺、桃谷ももや 天霧あまぎり28歳男性フリーターは、自分の格好をみて心底そう思った。

 

 上は白をベースとしたブラウスで、所々に黄色いラインが入っている。下は紫ベースのミニスカートで、白いフリルが可愛らしい。

 

 肘まで覆う白と紫を基調とした手袋に、同じデザインのニーソックス。その足先はリボンが付いた紫色の可愛い靴を履いている。

 

 そしてさっきから首を動かす度に目に入るピンク色の髪の毛が左右の膝裏辺りまで伸びている。所謂ツインテールだ。

 明らかに現実的な長さではない。ていうか視点も低い気がする……


 なんだこれは……本当に、どうしてこうなったんだ?

何故か頭がガンガン痛む。俺は思い出そうと、必死に記憶を遡る。


 

★✫★✫

 

 

「あ、桃谷くん。明日から来ないでいいからね」

 

 突然バイト先の店長からそう告げられた。

 

「え? あの、まさかクビってことですか?」

 

 そんな馬鹿な、現代社会でいきなりクビの通告だなんて、そんなのがまかり通るのなんて、ラノベやゲームだけじゃないのか?

 大きなミスだってしてないし、勤務態度だって真面目だったつもりだ。バイト仲間や店長との関係だって良好だと思っていたのに……

 

「も〜、やっぱり気づいてなかったんだね。レインで既読の人数が一人だけ足りなかったから、多分君だろうなって思ってたんだよね」

 

 そう言われて直ぐにスマホを取り出し、レイン――メッセージアプリを開くと、バイトのグループレインに結構な数の通知が溜まっていることに気付く。

 

「すみません店長。今までグループレインを使う機会がなくて、だからすっかり気づかなかったと言いますか……」

 

 俺のバイト先の喫茶店【イブニング・ルー】の従業員が全員参加しているグループチャットは、基本的には遅刻や欠勤の報告等に使われている。たまに雑談なども入るが、無遅刻無欠勤の俺にとっては、優先度が下がってしまうので普段はあまり見ていない。

 

「まあ、桃谷君は無遅刻無欠勤だもんね〜。本当に助かってるよ〜。あ、それでどうして来なくていいかって話に戻るんだけどね、ほら昨日ウチの横にダンジョンが出来たでしょ?」


 そういって店長はちょんちょんと人差し指を隣に向ける。


 ――ダンジョン。今から三十年前に突如世界中に現れた巨大な謎空間。それは物理や化学を無視した存在だ。

 ダンジョンの中にはモンスターが居て、倒すと魔石が落ちたり、宝箱からは地球上に存在しない物が入っていたりと、所謂異世界ファンタジーお馴染みのダンジョンだ。

 宝箱の中身は言わずもがな、魔石は新たなエネルギー源になり、ドロップ品は新技術の発展として世界各国で研究が盛んに行われている。


「あの時は驚きましたよね。大きな地震が起こったと思ったら、次の瞬間にダンジョン発生ですからね。でもそれがどう関係してるんですか?」


「ダンジョンの上にはダンジョン庁が管理するギルドホールの設置が義務付けられているからね。その工事の関係で、周辺の土地を政府が買い取ってギルドの敷地にするんだけど、ウチは喫茶店だからギルドのテナントとして使ってみないかって言われたんだよ」


 昨日からダンジョン庁らしき人間がやってきて、とんでもない速さで工事を進めている。

 ギルドホールには食事が出来る店はもちろん、ショッピングに宿泊施設まである。


「それで、明日からウチの喫茶店をギルドホールに入れる工事をするんだよ。だから明日から来ないでいいからねって報告を、昨日グループレインでしたんだよ」


 なるほど。そういう理由なら納得だが言い方がとても紛らわしいと思う。

 というか、そんな大事な報告をレインでしないで欲しかった。


「了解です。因みに喫茶店の再開はいつ頃の予定なんですか?」


 工期が長そうなら、久し振りに趣味に没頭するのも悪くないだろう。

 貯金だってそれなりにある。


「工事自体は明日のうちに終わるみたいなんだけどね、ダンジョンを調べるために、最低でも一週間は掛かるって言われてるの」


 思ったより短いな。ギルドの中は世界各国の有名企業がテナントに入るから、大型モール並みの大きさが通例だ。

 それが一週間で建つんだから相当速い、というか異次元の速さだ。

 これもダンジョンが齎した魔石やドロップ品を使用した技術だそうで、その恩恵は計り知れない。


「なるほどです。それにしても本当にクビじゃなくてよかったですよ」


 俺の言葉に店長がごめんごめんと軽く謝ってくれる。


「確かに紛らわしい言い方だったね、でも桃谷君はウチの主戦力だからね。むしろこれまで以上に頼りにさせてもらうよ! なにせウチの隣、というより神奈川県で3つ目のダンジョンなんだから」


 ダンジョンは全都道府県にあるわけじゃない。法則性は見つかっておらず、どこに出来るかは完全にランダムと言われている。

 そして俺たちの住むこの箱根に、3つ目のダンジョンが出来たのだ。神奈川県では既に横浜ダンジョン、相模原ダンジョンがある。


「そう言ってもらえると嬉しいです。なんならお給料の方も上げてもらったりなんて」


 ダンジョンが生まれたことによって発生する経済効果でお給料アップ、なんて都合の良い妄想をしてしまう。

  

「うん、もちろんだよ! ウチの店がギルドに入るわけだからね。これまでとは比べ物にならない人が出入りするはずだよ。政府から補助金もたっぷり出るし、お給料アップ期待しててね!」


「マジですか! お給料アップ期待してます! 超期待してます!」


 軽い冗談のつもりだったのに、なんて嬉しい誤算。店長様ダンジョン様ありがとう!

 もちろん、その分仕事も増えるだろうが、喫茶店の仕事はやりがいもあるし、純粋に好きだから楽しみが勝る。――と、ここで時計を見ると20時55分。閉店5分前だ。


「店長、そういえばギルドって24時間運営ですよね? うちはどうするんです?」


 お店の閉店作業をしながら店長に軽い疑問をぶつける。


「それなんだけど、うちは今の時間のままを予定してるよ。ギルドには24時間営業のフードコートもあるからね。無理に営業時間を延ばす必要はないよ」


「了解です。いつも通りで良いのは安心しました。でもお客さんが増えるなら、うちの人数で捌ききれるか少し心配ですね」


 この喫茶店の従業員は店長を除けば5人だ。特別繁盛しているわけでは無く、どちらかと言えば知る人ぞ知る隠れた名店という雰囲気だった。

 あと美人店長と美人店員が多いお店としても割と有名だった。因みに俺は話題に上がらない……なんでや?


「それも大丈夫だよ。もともと満席になっても私一人でも捌ける席数にしてるし、頼れる桃屋くんもいてくれるわけだしね〜?」


 店長は満面の笑みで答えてくれる。

 考えてみれば、俺より3つも年下なのに自分のお店を持っているのだから、素直に尊敬できる人だ。

 

 しかし、一週間後にはこの落ち着いた雰囲気もガラッと変わってしまうのかと思うと、少し残念な気持ちになる。

 それでも給料が上がるなら甘んじて受け入れよう。

 


「それでは店長、また一週間後によろしくお願いします」


「うん。こちらこそだよ。それじゃ気をつけて帰ってね。お疲れ様〜」


 手早く閉め作業を終えた俺と店長は、裏口で挨拶を交わし、俺は自転車に乗り帰路に就く。

 

 その途中、給料が上がるから前祝いでもしようとコンビニに寄って、普段飲まないお酒を大量に買って、家で一人宴会をしたはずだ。


 そして今に至る?


「いや、何か大事なこと抜けてないか? 何で酒盛りしたらこんなフリフリな可愛い姿になるんだ?」


 思い出せ……まだだ、まだ何か記憶が抜けているはず…………


 確かコンビニからの帰り道だ、突然降って湧いた一週間の休みと給料アップにすっかり舞い上がった俺は、普段行かない海の方へ行ったんだ。

 そこには誰かが忘れたのか、何故か釣り竿が置いてあって、テンションマックスで釣りを始めたんだっけ。


「なかなか釣れないな、でも釣りは我慢だ!」


 とか言って、五分くらいで飽きて釣り竿をグルグル回した時に、何かが引っかかったんだ。


「キタキタ! 大物が来たぞ! えっ? うわっ」

 

 突然強い抵抗が入って喜んだ俺は、勢いよく竿を引っ張ったんだけどこれが重くて、死闘の末に急に抵抗が無くなって尻もちをついちゃったんだ。


「逃した魚は大きかったぜ……ふっ、今回はお前の勝ちだ」


 高いテンションの所為で馬鹿なことを言ってたら、海が渦潮のようになったんだ。

 それで暫く見届けたけど、結局何も起こらなくてそのまま帰ることにしたんだ。


 その後、一人宴会をしている最中に何故か急に力が溢れてきて、一つのワードが頭に浮かんだんだっけ、確か……


「確か……メイクアップ」


 呟いた途端目の前に半透明のゲームのウィンドウのようなものが浮かび上がった。そこにはこう表記されていた。



――キャラクター選択


  ▶ティア・ロゼッティ(選択中)

   桃谷 天霧


――空きスロット【0】

読んでくださりありがとうございます。

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※本日はあともう1話投稿予定です。お楽しみください。

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