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第16話 碧依と始まる同居生活

 カフェを出た俺はスマホで時間を確認するが、まだお昼過ぎだ。

 そういえば先ほどから隣にいる碧依があまり喋っていないことに気づく。


「碧依? さっきから静かだけど、疲れたか?」


「え? ううん、そうじゃなくて、あんな場面に遭遇して普通に怖かったっていうか……むしろお兄ちゃんこそどうなってるの? というかお兄ちゃんってあんなに強かったの?」


「いや、そんなにまくしたてられても答えられないよ」


 なるほど、静かだったのは怖くて放心気味だったわけか。

 強い理由は……さすがに話せないし、とりあえず軽くぼかして答えるか。


「まあ、俺は碧依より大人だし、さっきも言ったけど、碧依と同じ年頃の女の子が酷い目に遭ってたら止めるよ。それにあのまま放っておいたら、近くにいた碧依も標的にされかねなかったからな」


「も、もう。さっきからマジでシスコンっぽいよ? お兄ちゃん。……でも、それってあたしがあの店員さんと同じ目に遭ってても、ちゃんと助けてくれたってこと?」


「当たり前だろ」


 なにを当たり前のことを聞いているのだろうか、なんならもっと怒ってただろう。

 それこそ殴り倒してたかもしれない。


「ふ〜ん、そうなんだ? まったく……暫く合わないうちに、お兄ちゃんがこんなにシスコンになっちゃってたなんて思わなかったな〜」


「いや、シスコンっていうか、家族なんだから当たり前だろって話でだな」


 碧依は少し上ずった声で茶化すように話す。

 こういう話題はやはり恥ずかしいのだろう。顔が少し赤くなってるのが分かる。

 ……俺だって恥ずかしいので、とりあえず話題を変えよう。


「ところでどうする? 碧依は今日街に着いたばかりだし、まだ元気そうなら色々案内するぞ」


「うん! まだまだ元気だよ〜!」


 碧依は片腕をむんっと、力こぶを作るポーズを取り、言葉を続ける。


「それならあたし、ショッピングしたい! 家から色々持ってきたけど、持ちきれなかった分をこっちで買い足さなきゃ」


 そういえば碧依の寝具も無かったな。ちょうど良いし今日はこのまま碧依の必要なものを買い揃えるか。


 そうして俺は碧依を連れて歩き出した。


 そのまま近場のおすすめのお店を教え周り、最後にホームセンターに寄る。

  

「そういえば碧依は、ベッドか布団か、どっちが良いんだ?」


 寝具コーナーに着いたところで、碧依に聞いてみる。

 実家ではベッドだったと思うが、六年も前のことだから変わってる可能性もある。


「ん〜、昔からずっとベッドだったから、やっぱりベッドがいいかな……って高い! ベッドってこんなに高いの!?」


「ああ、一人暮らしでもしないと寝具の値段って気にならないよな。ちなみにこれはベッドフレームだけだから、このあとにマットレスにシーツだろ。それに毛布に掛け布団と、まだまだお金は掛かるぞ」


 俺の言葉を聞いた途端、はわわと分かりやすく青ざめる碧依。

 高いと言っても、せいぜい二、三万円なのだが、まだバイト経験がない碧依には、大金に見えるのだろう。


「お、お兄ちゃん。あたし、やっぱり布団で良いよ?」

 

 む、遠慮してるな? ここは兄として甲斐性を見せるべきだな。


「こらこら、働いてる大人を舐めるんじゃありません。ベッド一式くらい全然余裕だぞ。変な遠慮するな」


「でもお兄ちゃん、働いてるって言ってもフリーターじゃん。お給料とかそんなにないんじゃないの?」



 うぐっ、普通に痛い所を抉ってくるぞ、我が妹は……

 確かに給料が高いとは言えないが、普段から貯金している俺の懐が温かいのも事実。

 趣味のゲーム開発は全部自分でやるから、制作費も0円だしな。


「碧依もバイトすれば分かるようになるぞ。今年から高校生だし、バイトしてみるか? 楽しいぞ、毎月毎月お金が万単位で増えていくんだぞ」


「万単位……」


 ゴクリと生唾を飲み込む碧依。


「というわけだから、好きに選んでいいぞ。お兄ちゃんからの高校入学祝いみたいなもんだ」


「う、うん。お兄ちゃん、ありがとう!」


 ぱぁっと花が咲いたような笑顔で、そう言ってくる碧依。

 う〜ん。父さんじゃないんだけど、本当に父さんじゃないんだけど、俺の妹は天使かもしれないな。

 


「まあ、バイトしてみるかとは言ったが、無理にしなくてもいいからな。入学暫くは忙しいだろうし、金より友達のほうが大事だと思うぞ」


「うん。分かった!」


 そういって碧依はベッド一式を選び、ついでに新しいパジャマも選んでいく。

 さすがに持って帰れないので配送サービスを依頼し、会計を済ます。

 ちなみに、枕は実家から持ってきたから大丈夫とのこと。


 そのまま店を出ると、外が結構暗くなっている。スマホを見ると時刻は19時過ぎだ。思ったより時間が掛かってしまった。


「碧依、このまま近くのレストランで食べて帰るか」


 俺がそう提案すると、碧依はニヤリと笑って答える。

 

「ねぇお兄ちゃん、昼間教えてくれたスーパー寄って帰ろっか」


 レストランじゃなくて、スーパー? 俺は一つの答えを導き出す。


「ま、まさか、碧依はできるというのか……アレを!」


「ふっふっふ〜! それは見てのお楽しみだよ。それじゃ行こ、お兄ちゃん」


 こうして碧依とスーパーに寄り、様々な食材を買い込み家に帰る。


 早速調理開始と思ったが、ここで俺は袋ラーメンを煮る用の鍋しかないことに気付く。


「すまん碧依、小型の鍋しかないの忘れてた……」


 そうして碧依は本日二回目のニヤリ顔を俺に見せ、実家から持ってきたキャリーケースを持ってくる。


「ふっふっふ〜! それも抜かり無しだよお兄ちゃん!」


 キャリーケースを開けると、料理一式セットが半分を占めていた。

 スーパーに寄る時点で予想していたが、やはり碧依は料理ができるらしい。


「おお! やっぱり料理ができるようになったんだな」


「ふふん。あれから何年経ったと思ってるの。それじゃぱぱっと作っちゃうから、お兄ちゃんはテーブル拭いて待っててね」


 そういって碧依はキッチンに向かう。

 ――ジュウジュウとフライパンからお肉を焼く音が聞こえ、香ばしい香りがテーブルまで広がってくる。


 手料理なんて久し振りだ。待ち切れないと言わんばかりに、俺の腹の虫が騒ぎ出す。

 20分もしないうちに碧依が料理を持ってきてくれる。

 ……この香りは生姜焼きだ!


「それじゃ、いただきます!」


「はい、召し上がれ〜。あたしもいただきます」


 二人テーブルに着いたところで、揃っていただきますの合図をする。

 俺が先に食べるのを待っているのだろう。碧依は少し緊張した面持ちで、こちらをずっと見ている。


「はむ、こ、これは……うますぎる!!」


 噛んだ瞬間から、生姜の旨味と肉の旨味がダブルパンチで襲ってくる。

 美味い! 少々オーバーリアクションなのは承知の上だが、文句無しに美味い。


「いや、これは冗談抜きで美味しいよ。めちゃくちゃうまい!」


「ふふん。見てのお楽しみって言ったでしょ。これでもお料理は大得意なんだから。まあ、ご飯は時間がなかったからパックご飯だけど、炊きたてならもっと美味しかったんだから」

 

 俺がベタ褒めすると、碧依はホッとした顔を見せ自信満々に言ってくる。


  

「本当に美味しいよ。たまにでいいからまた作ってほしいな」


「え、何言ってるの? これから毎日使ってあげるよ?」


 え? 割と冗談で言ったんだが、真顔で返されてしまった。


「それは凄く嬉しいんだが、碧依は学校があるし、毎日は大変だろ? 無理しなくていいんだぞ?」


「ううん、全然大変じゃないよ。家でも割と週七で作ってたし、それに、…………お兄ちゃんに食べてほしくてお料理の勉強始めたんだし」


 後半が凄い小声でまるで聞こえなかったが、本人が大丈夫と言うなら甘えてみるのもいいかもしれない。

 正直これが毎日食べられるのなら、普通に食べたい。


「分かった。碧依がそういうなら少し甘えさせてもらうね。ありがとう、碧依」


「えへへ、お世話になるんだし、これくらいは当たり前だよ。どーんと甘えちゃっていいよ」

 

 兄として少し情けないが、その分別のことでお返しさせてもらおう。

 

「……ところで、さっきなんて言ったんだ? それに、のあとから、急に声が小さくなるから聞こえなかったぞ」


「ふえ!? べ、別に大したこと言ってないよ! 冷蔵庫に何も入ってないし、ゴミ箱はコンビニ弁当の容器だらけだし、生活力皆無のお兄ちゃんには、しっかり栄養あるもの食べてもらわなきゃ困るって言ったの! 私の生活のために!」


「せ、生活力皆無……」

 

 さっきの小声の部分が気になって改めて聞いてみると、碧依がとんでもない早口で捲し立ててきた。


 実際問題、碧依がくるまで掃除はあまりしないし、料理は三食コンビニ弁当という体たらくなので、かなり的を得ている。


 一応これでもバイト先では料理も一通り作るから、料理ができないわけではないのだが、自分のこととなるとズボラになってしまう。

 それに作れると言っても、喫茶店飯だけだけど……


「お、お兄ちゃん。今のは違くて、コンビニ弁当ばかりで心配って言いたくて」


 俺が少ししょんぼりしていると、言い過ぎたと思ったのか、碧依が少しあわあわしている。

 

 俺の身体の心配をしてくれたのか。本当に優しい子だな。

 

「大丈夫だよ。実際コンビニ弁当ばかりだったから返す言葉もないよ。それに、これから毎日おいしいご飯作ってくれるんだろ?」


「うん! まかせてね!」


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、晩ご飯を食べ終わった俺たちは、疲れもあってか早々に寝る支度をする。


 ちなみにお風呂は、俺が絶対に先に入るようにとの厳命を受けた。

 年頃だし、自分が入ったあとのお風呂を使われるのが気になるのだろうか。

 

 それから部屋割りは俺の部屋を碧依に貸すことにし、俺は予備の布団を使いリビングで寝ることにする。


「それじゃおやすみ、碧依」


「うん。おやすみ。お兄ちゃん。お部屋ありがとね」



 こうして、碧依がきた初めての夜は、静かに過ぎていった。

読んでくださりありがとうございます。

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