第15話 再会と不穏な気配?(後編)
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「見りゃわかんだろ! 2人だよ、2人!」
大きな音を立てて入ってきたガラの悪そうな二人組の男が、別の店員さんに案内され席に座る。
その顔はとても赤く、随分酔ってるらしい。
変に難癖をつけられても困るので、俺はすぐに視線を切り、テーブルを拭いてくれた赤羽さんにお礼を言う。
「すみません、ありがとうございます。」
「いえいえ、すぐにお料理をお持ちいたしますので、もう少々お待ち下さいませ」
その後、運ばれてきた料理に俺と碧依は舌鼓を打った。
残るは碧依のデザートのみとなったところで、先ほどの二人組がまた騒ぎ出した。
「お客様。大変申し訳ありませんが、他のお客様のご迷惑となってしまいますので、もう少々お声のボリュームを落としていただけますでしょうか?」
おそらくカフェのマスターだろう、温厚そうな壮年の男性が二人組を注意する。
「はあ? こちとらお客様だぜ? 飯食って騒いで何が悪いんだよ。いま気分良いんだからどっか行け、ほら!」
「っ!……う、うぐっ!」
ガラの悪い二人組の片割れが、マスターの肩を押して突き飛ばす。
かなりの力だったのか、マスターは数メートル吹き飛ばされ、俺たちのテーブルに激突する形で止まる。
「おいおい? なに大げさに吹き飛んでんだよ。軽く小突いただけだぜ?」
「ば〜か、お前のステータスで軽く小突いたら大抵の人間はああなるっての! いい加減力加減覚えろや」
「そりゃそうか、悪かったなおっさん! でもこれ以上うぜぇこと言われたら、次は手が出ちまうかもしれねぇぜ?」
人を突き飛ばしていて、悪びれず笑い合う二人組を見ていて気分が悪くなったが、そんな事よりマスターに怪我がないかが心配だ。
「大丈夫ですか? どこか痛むところはありませんか?」
「え、ええ。少し驚いただけですよ。……いつっ!」
俺は突き飛ばされたマスターに手を貸して立たせようと思ったが、マスターは腕を押さえて苦悶の表情を浮かべる。
「お父さん!? 大丈夫!?」
「ああ、灯里。大丈夫だよ、少しぶつけただけさ」
テーブルにぶつかった時にできたのだろう。マスターが袖を捲ると、打ち身の跡ができていた。
「大変! すぐに冷やしたタオルを持ってくるね!」
赤羽さんが急いでキッチンに向かおうとするが、その先にいる二人組の男が赤羽さんに声を掛ける。
「お? ねぇちゃん、可愛いじゃねぇかよ! そんなやつ放っといて、俺たちと別の場所で飲み直さねぇか?」
「そうそう、軽く小突いただけで大げさだぜ。そんな事より俺たちと仲良くしたほうがお得だぜ?」
赤羽さんは二人を無視し、横を通り過ぎようとするが、片割れが赤羽さんと腕をつかんで無理やり止める。
「まぁまてよ。俺らはBランク探索者だ。分かるだろ? DランクだのEランクだの、底辺で足踏みしてる連中とは違う、本物の探索者だ。」
「これでも俺ら、こんなところでバイトするなんて馬鹿らしくなるくれぇ稼いでるんだぜ? 好きなもの食わせてやるし、どこでも連れてってやるぜ? なんならパーティ組んで稼がせてやろうか?」
「結構です! 離して! 離してくださいっ!」
先ほどマスターを突き飛ばした時から、かなりのステータスだと思ったが、Bランク探索者なら納得だ。
赤羽さんが振り解こうとするが、そんな力で掴まれてはそう簡単に振りほどけないだろう。
変に目立ちたくなかったが、いい加減我慢の限界だ。
特に、碧依と同じくらいの歳の女の子への乱暴は黙ってられない。
俺は二人組のところに向かうために一歩踏み出した。
「お、お兄ちゃん!? 危ないよ!」
隣にいる碧依が、動き出した俺を心配するように声をかけてくるが、俺は安心させるように碧依の目を見ながらゆっくりと頷く。
「大丈夫だ。お兄ちゃんにまかせろ」
俺はそのまま二人組のところにツカツカと歩み寄り、赤羽さんの腕をつかんでいる男の腕を掴む。
「その子の腕を離せ」
「あ? なんだ兄ちゃん、テメェこそ離せや」
男は凄い形相で睨んでくる。流石の気迫だが、ここで弱気になったら負けだ。
自分のステータスを信じろ!
「やりすぎだと言っている。いい加減その子の腕を離せ」
「ハッ! じゃあ離させてみろよ!」
自分に絶対の自信があるのか、男が挑発するように言ってくる。
――俺は少しずつ力を加えていく。
「ほらどうした? 離してほしいんだろ? やって……ぐ!? あ、があああ!!」
力を半分も込めないうちに男は喚き出し、堪らず赤羽さんの腕から手を離す。
そのまま俺の手を振り払おうとするが、俺は構わず力を込め続ける。
「がああああああああ!! おい! もう離してるだろ! テメェも早く離せ!!」
「お前がその子にしたことをやり返してるだけだろ。どうだ? 自分の力で振りほどけない気分は」
俺が男の腕を締め続けていると、もう片方の男が割って入ってくる。
「テメェ! あんま調子のんなよ! Bランク探索者にケンカ売って、タダで帰れると思うんじゃねぇぞ!」
片割れの男が殴りかかってくるが、俺は空いた片手で軽々と払い除け、お返しに少し手加減して相手の腹を軽く殴る。
「ごはぁっ!!」
俺に殴られ、苦悶の表情を浮かべたと思ったら、次の瞬間糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
HPが切れたんだろう。
「おい! 大丈夫か!! テメェ、なにしやがった!!」
「なにって、軽く小突いただけだが?」
軽い意趣返しとして、マスターに言い放った言葉をそっくりそのまま返してやる
「な、なんだテメェ……なにもんなんだ!」
「ただの客だよ。お前もこのまま大人しくしてもらうぞ」
俺は男の腕を掴んだまま引き寄せ、地面にうつ伏せの状態に倒し込む。
そのまま相手の肘を背中越しに捻り上げながら、マスターに声を掛ける。
「マスター、今のうちに警察を呼んでください」
――その後、やってきた警察へ事情を説明する。
実際に怪我を負わされたマスターや、カフェのお客さんの証言と防犯カメラの映像が決め手となり、スムーズに二人組の引き渡しが終わった。
★✫★✫
「いやぁ、本当にありがとうございます。あのまま暴れられていたら、娘がどれほど危険な目に遭っていたか……」
男たちが連行されたのを見届けたところで、マスターが俺にお礼を言ってくる。
マスターが倒れた時、赤羽さんがお父さんと呼んでいたから、そうなのかと思っていたが、やはり親子らしい。
「あの、私からもお礼を言わせてください! 助けていただき、本当にありがとうございました。私、あんな力で掴まれたことなんてなかったから、凄く怖くて……」
赤羽さんも俺にお礼を言ってくれるが、その身体は少し震えている。
あんな風に、無理やり腕を掴まれては怖く思うのも当たり前だ。
「いえ、気にしないでください。そんなに大したことはしていません。それに、碧依と同じくらいの歳の女の子が酷い目に遭っているのを、見たくなかっただけですよ」
そう言って俺は隣にいる碧依の頭に手をポンと置く。
「ちょっとお兄ちゃん、普通に恥ずかしいんだけど、あとシスコンっぽいよ。その理由」
碧依が少し恥ずかしそうに文句を垂れる。そんなことないと思うのだが……
それより、これ以上立ち話をしても邪魔になるだけだろうし、マスターにそろそろ店を出ると告げる。
「それでは俺達はこれで失礼しますね。お会計をお願いします」
「いえいえ、とんでもない! 娘と私の恩人からお金なんていただけません。それに、私がテーブルにぶつかったせいで、折角のお食事も台無しでしたでしょう」
――結局、お詫びとして今回の代金は無料で押し切られ、ついでに半額クーポンを一ヶ月分頂いてしまった。
「それでは、どうかまた必ずいらしてください。本当にありがとうございました」
「いつもは静かで居心地が良いお店なんです。絶対にまたきてくださいね! お兄さん!」
マスターと赤羽さんはそう言って、店を出る俺たちの見送りをしてくれた。
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