第13話 妹、来襲
「ふう。とりあえずこんなもんかな……って、もう昼じゃないか」
俺は綺麗になった部屋を見渡し、額に浮かんだ汗を気持ちよく拭う。
朝から始めた掃除だが、もうお昼になる。
何故こんなことをしているのか――俺は昨日の父さんとの電話を思い出す。
『明日!? 急すぎない? ああ、3月ももうすぐ後半だし、今くらいが丁度いいのか』
考えてみれば、世間一般ではあと二十日もしないうちに入学式が始まる時期だ。
『そういうわけだ。念を押すがくれぐれも、碧依に変な虫が付かないように頼むぞ』
『分かったってば、それじゃ電話切るよ』
話もそこそこに電話を切る。そうか、碧依が明日からこの部屋に……この……部屋……に……って汚い!
そんなこんなで、こうして俺は朝の貴重な時間を掃除に費やすこととなった。
「我ながら完璧な仕事だな」
改めて綺麗になった部屋を見渡し、俺は自分の仕事に満足した。
これなら碧依がいつ来ても問題なく出迎えられるだろう。
季節外れの大掃除が終わった俺は、BGM代わりにテレビを点け、コーヒーを淹れにキッチンに行く。
『次のニュースです。アメリカ、そして中国で、探索者の不審死が相次いでいます。亡くなった探索者は、本来立ち入るはずのない階層で――』
インスタントコーヒーにお湯を注ぎながらニュースを聞き流していると、不意に玄関のチャイムが鳴る。
まさかもう来たのだろうか? そう思い、俺は玄関を開ける。
「はい、どちら様で――」
「えへへ、来ちゃった」
玄関をガチャっと開けるとそこにいたのは、頭の横から髪をぴょこんと片側に寄せて結び、肩先へ流したサイドテールに、人懐っこい顔と勝ち気なツリ目が特徴の女の子。
――実に二ヶ月ぶりの妹だった。
「へぇ〜、これがお兄ちゃんの部屋なんだ。綺麗にしてるね。それに1LDKって意外に広いんだね」
部屋に招き入れた途端、物珍しそうにあちこちと首を回しながら感想を告げてくれる碧依を見て、俺はギリギリ掃除が間に合ったことに安堵した。
「まあな、これでも自立した大人だからな。これくらいは普通だよ」
「ふ〜ん? 家ではあれだけゴロゴロしてるのに?」
そういって碧依は冷蔵庫を開け、なにかを確認したあと、今度は冷蔵庫の上に指を置きツーっとその指を滑らせた。……姑かな?
「やっぱり、あたしが来るから慌てて掃除したでしょ?」
「え……そんな事はな、ないぞ?」
若干どもってしまった。
「見たら分かるよ。冷蔵庫に飲み物しか入ってないってことは、普段から大して使ってないんでしょ? なのに冷蔵庫の上にホコリ一つないんだもん。バレバレだよ」
ふふんっと、名探偵のように推理を披露してくれる。
俺は諦めて素直に認めることにした。
「バレたか、碧依の言う通り慌てて掃除したよ。見栄張ってごめんな」
「うえっ? 謝らなくていいよ! だってお兄ちゃん、あたしを気遣ってお掃除してくれたんでしょ? だから……」
碧依はそこで言葉を区切り、一度俺から視線を逸らすが、すぐに戻す。
「だからありがとね、お兄ちゃん」
俺の妹は天使だったのかもしれない。
はにかみながら気持ちを伝えてくれる、その姿はまさに――って、なに父さんみたいなことを考えてるんだ俺は!
俺がしょうもないことを考えていると、くぅっと小さな音が鳴る。
音の発生源に目をやると、真っ赤な顔をしてお腹を押さえている碧依の姿があった。
「そういえばもうお昼だな、俺もお腹が空いたしお昼にしようか。外食で良いか?」
「も、もうお兄ちゃん。そこはもっとさり気なく誘導しないと女の子にモテないよ」
「はは、悪い悪い。それじゃ行こうか」
昨日の俺の不安をよそに、ぷりぷりと可愛らしく怒る妹を連れて、俺は家を出た。
道中、どこへ連れて行こうかと悩んだが、折角なので店長から教えてもらった、お洒落なカフェに行くことにした。
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