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第11話 赤羽灯里(後編)

 ツノウサギを倒したあと、私がポーズを決めるとコメント欄が盛り上がる――といっても、リスナーが少ないから少しだけど。


「ちょっと怖かったけど、無事に倒せました。魔石を落とさなかったのは残念だけど、対処法さえ知っていれば大したことはない相手って情報は本当だったね」


 私は初戦の感想をリスナーと共有し、なぜ簡単に倒せたかを種明かしする。


「ツノウサギは、まっすぐに跳ねて攻撃するしか方法がないから、一歩避けて絶対に躱せない空中で倒すカウンター戦法が、数年前に広まったんだよね」


 それさえ知っていれば、初心者殺しは敵ではなくなる。逆に言えば、それを知らなければ脅威であるのは変わらないけれど。


 自分の力が通用したのが嬉しくて、私はどんどん先へ進む。

 道中また現れたツノウサギを先ほどの戦法で倒す。


「あ! みてみて、魔石落ちたよ! 初ドロップ! これこそダンジョンの醍醐味だよ」


 三体目で魔石をドロップした。

 コメント欄のリスナー達も、「初ドロップおめ!」と一緒に喜んでくれるのが嬉しい。


 目標金額まで全然足りないけど、それでもこうやってコツコツ貯めるのも馬鹿にできない。

 私は魔石を腰のポーチにしまい込み、更に機嫌よく探索を進める。



 そして、曲がり角を抜けた先の小部屋で、ツノウサギが三体同時にでてきたのだった。



 コメント欄が少しざわついているのが目の端に入る。けれど私の戦法はちゃんと通用したんだ。さっきと同じ要領でやれば大丈夫のはずだ。

 私はそう結論づけ、闘う構えを取る。


「三体……対処法さえ知っていれば大丈夫、だよね」


 私は定石通り、まずは相手の出方を窺うが、三体がバラバラに分かれて近づいてきた。


「わっ! こういう場合、どのツノウサギから狙えば!?」


 向かって一番右の個体が足を踏み込む姿勢を見せる。

 私はこの個体をターゲットに決めるが、少し遅れて中央にいる二体目も攻撃の姿勢を見せる。


「同時攻撃!? た、盾!」


 私はカウンター狙いを中断し、狙いを定めたツノウサギの攻撃を慌てて盾で防ぐ。

 だが、二体目が既にこちらに向かって跳んできたのが見えた。


「痛っ!」


 二体目の攻撃が私の脇腹に当たる。私は衝撃で二、三歩後退するがなんとか耐える。


 HPを見ると三割ほど減っている。

 ――マズイかもしれない、けれど、この程度で逃げ出したら探索者になった意味がなくなる。


 私は気合を入れなおし、私に攻撃を当てた個体に突っ込む。


「はあああ!」


 その勢いのまま剣を振り下ろすが、跳んで躱された。だが躱した相手は今、空中にいる。

 この隙を見逃すもんか! 私は一歩踏み込み、振り下ろした剣を無理やり横薙ぎにして、空中にいるツノウサギに振るう。


「ここだぁ! やった! まず一体!」


 横薙ぎに振るった剣は、見事空中のツノウサギに届いた。

 だが、次の瞬間背中に衝撃が走り、つんのめる。


「――あぅ!?」


 私は首だけで後方を見ると、一番左にいた三体目が私に攻撃を仕掛けたのが分かった。


 今ので二回目のダメージ、HPを見ると残り四割程度だ。あと一撃耐えれるかどうかのライン。

 鼓動が、早鐘を打つように響く。ソロで気絶したら終わりだ。


 私は、明確な死が迫ってきていることに気づく。


 それでも取り乱しちゃ駄目だ、慌てちゃ駄目だ。

 私は前に転がりツノウサギたちから少し距離を空け、腰に装備したポーチから小瓶を取り出す。


「お守り代わりだったけど……」


 私は小瓶の中に入っていた赤い液体を飲み干す。


「うっ、苦ぃ……」

 

 口の中が少し苦くなるが、先ほどまでの痛みが全て引いていく感じがする。


「よし、全回復してる!」


 私は直ぐにステータスを確認し、HPが回復しているのを確認したあと、残りの二体に気を向け直す。


「残り2体、一撃で倒せるのは分かってるんだ。だったら、ダメージ覚悟で!」


 私は、ダメージを負うのを覚悟で一番近くにいたツノウサギを狙い剣を振り下ろす。

 その個体は私の振り下ろした剣を跳んで躱すが、さっきと同じ要領で剣を横に薙ぎ、無防備のツノウサギを倒す。


「よし、あと一体――うぐっ!」


 剣を横に振ったままの、隙だらけな私に残る一体の攻撃が刺さる。

 けれど、これで一対一だ!


「ふぅ、いつでもきなさい!」


 私はいつもの戦法に戻し、突っ込んできたツノウサギを躱して、剣を振り下ろす。



「た、倒したぁ……」


 三体いたツノウサギを見事全滅させることができた。

 気が抜けたのか、私はその場にペタンと座り込んでしまう。

 

「はぁ……はぁ……本当に死ぬかと思った、でも倒せたよ。ちゃんと見ててくれた?」


 呼吸を整えながら、カメラの向こうにいるリスナーに言葉をかける。

 コメント欄は私を心配する声で一杯だった。


「え? 途中で飲んでた赤い液体はなにって? あれはね、HP回復ポーションだよ。もしもの時のお守りだったんだけど、初日で使うとは思わなかったかな、あはは……」


 無理やりだったけど、三対一でも勝てた。

 慢心はあったかもしれないけど、それでも私の力がちゃんと通用したんだ。


 私はスマホを取り出し時間を見る。配信を始めてからもう50分程度経過している。今日はもう十分だろう。


「みんな、今日はそろそろ帰ることにするね。ポーションもなくなっちゃったし、これ以上は危険だよね」


 私は帰る決断をリスナーに伝え、そのまま来た道をマップを見ながら戻る。


 暫く歩みを進めていると、その道中にまた三体のツノウサギの背中が見えた。


「えぇ……どうしよ、また3体同時は無理だよ」


 本当にどうしよう。遠回りする選択もあるけど、そうなるともう一時間ほど掛かるルートになってしまう。

 リスナーの皆は、「引き返そう」「戦おう」「やり過ごそう」と色々な意見を出してくれる。



 少し悩んだ結果、私は隣の小部屋でやり過ごすことに決める。

 小部屋に入ろうと一歩踏み出した瞬間、ツノウサギがくるっとこっちを見て目が合う。


 ――気づかれた!!


 その瞬間に私は走り出した。後ろから追ってきている気配を感じる。

 ツノウサギは脚力は強いけど、走り自体はそこまで速くないと聞いた。


「このまま走りきれば撒けるはず……え! 嘘でしょ!?」


 もう少しで後方のツノウサギたちを撒けると思った、その瞬間。

 今度は前の通路から二体のツノウサギが姿を現した。

 一体ならまだしも、二体の横を通り抜けるのは難しい。

 このままじゃ挟み撃ちにされちゃう! 私は目の端に見えた部屋に飛び込んだ。



「い、行き止まり……?」


 急いで飛び込んだ先は、完全に行き止まりの小部屋だった。


「呆けてる場合じゃない! すぐに戻らな――っ!」


 私が小部屋から出るよりも早く、ツノウサギがわらわらと入ってきた。

 

 その数は五体。


 最悪だ。三体でもポーションを使ってギリギリの戦いだったというのに、五体は無理だ。絶対に無理だ。

 私は泣き出したい気持ちになるが、泣いたところで何も起こらないのを知っている。

 泣く暇があったら突き進め! 私はダメージ覚悟で突破することを決め、出口に向かって走り出す。


「ぐっ――あぅ……キャッ! ダメ、突破できない」


 無理やり通り抜けようとしたが、攻撃を受ける度の衝撃で一、二歩下がってしまい、結局突破できなかった。

 

 受けた攻撃は三回、おそらく次に攻撃を受けたら気絶してしまうだろう。


「それでも、諦めるわけにはいかないの!」


 私が最後の力を振り絞り、もう一度走り出そうとしたのと、私に向かって跳んできた複数のツノウサギが見えたのは同時だった。

 

「あぐっ!…………ぁ」


 

 ――そこで私の意識は途切れた。



★✫★✫



 次に目を覚ましたのはギルドホールの医務室だった。

 正確に言えば目を覚ました私に、ここは医務室だよと、看護師の格好をした女性に告げられた。


「あ、あの! 私、どうして生きてっ!?」


 私は死を覚悟したのに、目が覚めたら医務室に寝かされていたこの現状をまるで理解できず、側にいてくれた看護師さんに問い詰める。


「落ち着いて、大丈夫だから。あなたはダンジョンで気絶したのよね? それは間違いないかしら?」


 看護師さんは、私を落ち着かせるためにゆっくりと、語りかけるように話してくれる。

 その姿に私は少し落ち着くことができ、ゆっくりと答える。


「は、はい。複数のツノウサギに追い詰められて、逃げられなくて、私、あの時絶対に死んだって思ったんですけど、どうしてここにいるんですか?」


「うんうん。あの子が話していた通りね」


 看護師さんはなにか、得心がいったという顔でうんうんと頷く。

 あの子、とは誰だろうか?


「あの、あの子が話していたというのは?」


「ピンクの髪をしたとっても可愛い女の子が、あなたをおぶってダンジョンから救出してくれたのよ。その子が偶然通りかかった小部屋で、5体のツノウサギにやられたあなたを助けたから、ここで看てあげてほしいって私にお願いしたのよ」


 ……そんなことがあったんだ。まるで奇跡のような、あんな絶望的な状況で生きているなんて、本当に奇跡だ。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない! その子にお礼しないと!!


「あ、あの! その子はいまどこにいますか!? 私、お礼がしたくて!」


 私が急に興奮したせいか、看護師さんはまた落ち着かせるように喋りかけてくれる。


「落ち着いて、その子はもうここにはいないわ。5分ほど前まではいたんだけどね、急に帰っちゃったのよ」


 お礼をしたかったが、もう帰ってしまったらしい。

 でもお礼をしなければ、私の気が収まらない。


「あの、ではせめて、その子の名前を教えてもらうことはできますか?」


「う〜ん、それがその子ね、名前も名乗らずに帰ってしまったの。私も長い間この医務室に勤めているけど、あんな子は初めて見たわ。きっと別のダンジョンを拠点にしている子だと思うの。だってあんな格好ここで見たことないもの」


 それが本当ならお礼を言えるチャンスはもう来ないかもしれない。

 けれど、あんな格好とはなんだろうか?


「あの、あんな格好ってそんなに特徴的な格好の子だったんですか?」


 もしそうなら探せるかもしれない。

 といっても、探索者は似たような格好をしている人が多いから、特徴と言ってもそんな分かり易い格好なわけないよね。


「それがねぇ、私はあんまり詳しくないんだけど、魔法少女? っていうの? それともアイドルかしら? とにかくそんな感じの衣装を着た子だったわ」



 ……特徴大有りだった。

 いくら探索者といっても、そこまでゲームみたいな格好に振り切った人は見たことがない。


 探索者の装備は基本的には二種類ある。

 自衛隊や警備会社が使用する既存の防護服と、各アパレルメーカーがダンジョン産の素材で作成する衣服だ。

 特にダンジョン産の衣服はデザイン性が高く、ステータス補正などの特殊効果が宿るから人気だ。

 ……まあ私みたいに、ジャージや普段着でダンジョンに挑む人もいるけれど。


 それでも、ダンジョン産で作られた魔法少女の衣装なんて聞いたこともない。

 いや、もしかしたらオーダーメイドや宝箱からのドロップならあるかもしれないけど。


 あれ? でも魔法少女ということは、私とそんなに年が変わらないのかな?


「あの、その子は私と同じくらいの年でしたか?」


「ええ、そうよ。むしろあなたより若く見えたかもしれないわ。とっても綺麗で可愛くて、まるでお人形さんみたいな子だったわよ」


 やはり私と同年代なのだろう。何せ、私自身が探索者カードが発行できる最年少の15歳なんだから。

 

 けれど、これで特徴は分かった。

 ピンク髪で、魔法少女風のとっても可愛い子を探せばいいんだ。

 目的も果たせず、あのまま死んでいたかもしれない私の命を救ってくれたその子に、どうしてもありがとうと告げたい。


 

 その後、私はもう元気になったので大丈夫です! と看護師さんにお礼を言い、急いで家に帰った。


 

 少しだけ晩御飯に遅れてお父さんに心配されてしまったけど、駅を乗り過ごしてしまったと誤魔化した。

 

 実は今日死ぬかもしれなかった、なんて絶対に言えない。

 私が死んでしまったら、お父さんがまた絶望してしまうかもしれない。

 そうならないためにも、私はもう慢心も力の過信もしてはいけないと、改めて誓うことにした。


 

 ……因みに、自分の配信を見返せば助けてくれた女の子の姿が分かることに気づいたのは、翌朝のことだった。

読んでくださりありがとうございます。

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