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嫌われた男③

「カラ出張をしていたのですね?」

「それが、カラ出張だとは断定できませんでした」と田中が言う。

 浅井は工場に顔を出さなかったが、出張には行っており、愛知県の得意先に顔を出していた。そのことが確認できたので、処罰が下されることは無かった。

「では、問題ないのでは?」

「でもですよ。その得意先というのがいい加減な会社で、発注窓口となっている浅井さんは大のお得意様と言えるのです。浅井さんに頼まれれば、『会社に来ていた』と偽証することなど、何とも思わないでしょう」

「なるほど」

「流石に、賄賂をもらっているなんてことはないと思いますが、浅井さんはよく、その得意先に行くと言って何度か一人で出張しており、カラ出張をしているのではないかと前々から噂になっていました」

「頻繁に同じ得意先に通っていると怪しまれてしまうので、工場を出張先にしたところ、あっさりカラ出張がバレてしまった。そういうことですか?」

 社員にとっては、悪質な職務規定違反なのだろうが、浅井のカラ出張があかりの殺人事件に繋がっているとは思えなかった。

「はい。それに・・・」と田中は言って、急に黙り込んだ。

「どうしました?蒲生さんを殺害した犯人を捕まえるためです。知っていることがあれば、何でもおっしゃって下さい」

「贈賄とか汚職とか、そう言う問題になりませんかね?」

「我々は殺人事件の捜査を行っています。経済事件の捜査官ではありません」

「そうですか・・・」田中は躊躇いながら、声を潜めて言った。「これは会社にもまだ報告していないのですが、浅井さんは、得意先へ贈答用に用意したパソコンを自宅に持ち帰ったことがあるのです。わが社の製品はパソコンの部品としても利用されており、一月程前、新規得意先の購買担当部長へ贈答用としてわが社の製品を使用したパソコンを贈ろうとしたことがあります。実際に使って頂いて、わが社の製品の優秀さを知ってもらいたかったからです。ですが、得意先の方は、『個人宛は困ります』とパソコンを受け取りませんでした」

「なるほど・・・」

 田中は同じ職場で働いているとあって、浅井の情報に詳しかった。

「僕はてっきりパソコンは会社に返納されたものと思っていたのですが、社内では得意先の購買担当部長が受け取ったことになっているのを知ってびっくりしました」

「浅井さんがパソコンを横領してしまったと言うことですね」

「そうだと思います。ねえ、刑事さん、これ、会社が贈賄で捜査されるなんてことはないですよね?」

 贈収賄罪は基本的に公務員に対するものだが、不正な便宜を図ってもらう為にパソコンを送ったとなると会社法に則り贈収賄罪が適法されるかもしれない。だが、森は「ええ」と頷いた。杓子定規な森だが、ここは殺人事件の捜査を優先したいようだ。

「パソコンの件を蒲生さんに話してしまったのです」

「蒲生さんに!」

「はい。蒲生さんは、管理部の人ですし、頼りになる方ですから――」

 恐らく年は田中の方が上だろう。あかりは社内でも人望が厚かったようだ。

「話を聞いて、蒲生さんは何と言いましたか?」

「蒲生さんは僕の話を聞いて、非常に憤慨した様子でした。そして、『大丈夫、私に任せておいて。もしあなたの話が本当なら、浅井さんにはきっちり責任を取ってもらうから』と言っていました」

「なるほど・・・」

 あかりは浅井の不正の数々を知っていた。そして、不正の件を浅井に問いただそうとしていた。浅井に不正の件を問い質して、トラブルになり、殺害されたのかもしれない。

 田中は秘密を暴露する罪悪感から解放されて饒舌になっている様子だった。「蒲生さんが殺された日、浅井さんはリュックを背負って会社に来ていました。日頃はリュックなんて持って来ないのにと変だなと思いました。昼休みに机の下に置いてあったリュックを見たら、少しだけチャックが空いていて、中にロープがあるのが見えました」

 田中はそこで言葉を切って、森と石川の顔を見た。あかりが絞殺されたことは既に発表されていたが、殺害に市販のロープが使用されたことは、まだ発表されていない。田中はあかりの殺害にロープが使用されたことを知らないはずだ。

 田中の証言は重要だった。

「ロープですか⁉」

 森の反応は田中の気を良くしたようだった。

「ひょっとしてあれって・・・」と田中は二人の顔を交互に見た。

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