プロローグ
マンションで若い女性の遺体が発見された。
遺体を発見したのは、気の毒なことに近所に住む高校生で、野球部の朝練に参加する為、夜明け前に家を出た。自転車を飛ばして通学路を急いでいる途中、マンションの前を通りかかり、異様な物体に気が付いた。
遺体は道路に面したマンションのベランダから、首を吊る形でぶら下がっていた。
部屋は五階建てマンションの最上階にあり、ベランダから吊り下がった遺体は、ゆらゆらと風もないのに揺れており、遠目からでも人目を引いた。
朝焼けに染まる道路を自転車に乗って道を急いでいた高校生は、ベランダから吊り下がった遺体に気が付いて、「うわっ!」と驚いてひっくり返りそうになった。直ぐに人が首を吊っていると分かったそうで、気丈にもその場から、持っていた携帯電話で百十番通報している。
遺体はマンションの住人、蒲生あかりであることが確認された。
あかりはリンケン・グループという会社の事業管理部に勤務するOLだった。リンケン・グループは林賢陶器が名を変えたワイズウッドという会社を中核とした企業グループで、陶磁器メーカーとしてスタートし、今では陶磁器よりも陶磁器を製造する際の絵付の印刷技術を活かした電子回路基板や映像表示、メッセージボードなどの材料メーカーとして有名な会社だ。
自宅のベランダから首を吊っていたことから、自殺であると思われた。