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小さな街灯

作者: なと

寂しい夜に寂しさが道に堕ちていた

静かに夏の電灯に照らされ

寂しさは仄かに光っていた

中島みゆきのわかれうたの流れるバーで

泣いている人がいた

生きてゆくにはこの小さな町は寂しすぎた

夢の夜の小道には

人間達の影も闇に紛れて魔性を帯びる

寂しい夜の人々が寄り添って

色街へと消えていった

夜の電灯の下

憲兵さんは宿題をしてない子を切り殺しにきた

花いちもんめでいらない子は

そっと便所の中で鬼のお面を被って

子守歌が何処からか聞こえる

真夏の通り道には古びた洗濯物が風に揺れる

刻が止まったような世界で

天道虫が今脱皮しようとしている

君も生まれ変わりなさい

学校の先生は言う






祭りのお面を被ったまま

外を散歩して

何処かでお会いしませんでしたか

懐かしい人は仏壇で眠っているはず

ドッペルゲンガーに夏休みの宿題を任せると

宿場町でかくれんぼ

道端に堕ちていた水晶の髑髏は

明日木星に人類は到達すると

便所の中で囁く魔物

潮騒の聞こえる小さな町は

子供達が支配する







通りは静けさだけの夏

蝉だけが生きているかのような世界の中で

真言の彫られた蛍石を飲み込んで

あの世の景色を見ようじゃないか

懐かしい風景が走馬灯のように雪洞提灯に映り

古びたキネマ館で音声のない白黒映画を見ているような夢

昭和は堕ちていましたか

見知らぬ旅人にそう囁かれて

夢を見る







夕暮れ時の影法師が通りゃんせを唄ってる

貝のぶつかりあう音がするさざ波の光のこぼれるのを瓶に入れ

右腕の落ちていた洗面台で夕べの夢を語れば

闇夜に蚊帳の外でお経を唱える法師様から

謎のマントラの描かれた蛍石をもらう

夢はいくつあってもいい

壊れかけた匣の中の骨は夢を見る

夏は魔術的だ







人生とは一本のマッチ

古狐はあの曲がり角でにたにた嗤い

回文怪人が教育テレビの中で暗黒童話を語る

黒い看板は猫を大事にせよという

カルピスの看板の目つきが異常

ややイカレ気味の脳で夏を味わえば

かき氷に涼やかな風鈴が魔を呼ぶ

旅人はポケットの中から小さな鈴を出し

宿場町の魔物を呼び出す








朝でも夜でもない煉獄の灼熱へようこそ

夏の炎で人は罪に焼かれて

炭の上のスルメイカのようにのたうちまわる

幽かな呼び声が山から木霊して

夕暮れ時には潮騒が耳から離れぬ

此処は魔境

浮かばれぬ魂があの隧道から呼んでいる

人の影だけが残されたあの石段に

ゆっくりと腰を掛けて

またあの夏を想う








夏の黒幕は金色の骨を持ち

久方ぶりの暗黒魔境はこの古びた宿場町

夏の日差しの中何か良からぬことを思案する眠れる通り

指先に止まる蝶に水をやり

燦燦と降りそそぐ太陽から逃げて影と混ざりあう

ここは魔境なり

ことりと音がして日本人形の首が堕ちる

溶けてしまったアイスがなにか奇妙な真言を描く






夕べの夜を瓶の中に詰めてやった

夜は蒸し暑い夏の湿り気を帯び

星が瓶の中で輝いていた

どうしてあのとき手を離したのだろう

燃えさかる炎の松明が光っている

海にさらわれたのだろうか

花ろうそくに火を灯すと今年もまた鎮魂の夏

夜を閉じ込めた瓶はまだ開かず

午後7時をすぎても

一向に外は明るい







この道はどこまで続いているのだろう

涙と苦しみと幸福と喜びで出来た古い道

ほら背中を叩く音がして

振り返ったら誰もいない夏の風が吹く

夜空の顔を知らないまま年を重ねる

いたずらに町は黒い影を招き

夢は幻

懐かしい日々は宿場町の写真と共に封をされ

今では紙魚の泳ぐアルバムの押し入れのなか








懐かしい街は何故か荒れ野の香りがする

海は人を呼び潮騒は人の声に似ている

夏は灼熱の熱で人々に幻と蜃気楼を魅せる

季節は儚く眩しい

だからこそ遠い街に呼ばれたような気分になる

小さな港町は潮の香りと無限の生命の巡りを教えてくれる

夏の木陰には魑魅魍魎が棲みひそかに人々を夏の夢をみさせる








夏の夕立は雷鳴を呼んできた

赤い花弁が雨のあとの路地に張り付いて

泣いたばかりの乙女のような紅い顔をしている

蛍光灯だけが静かな雨の中光っている

布団の中で確かにお前のせいだよと誰かが囁く

夏の香りは冷蔵庫の中のスイカの香り

夕暮れの闇の中飛び出した夕立の中

雷鳴と仲良くなりたかった






夏のお座敷には何かが潜んでいる

夕暮れの入道雲に乾杯して

ゆっくりと酎ハイを嚥下する

人生という文字を波打ち際に書いて

打ち寄せる波に消してもらって

少しだけ泣いた

誰もいない仏間でいつも足音がする

見上げる入道雲をいつも眩しく感じる夏の午後

夜の入道雲はどんな顔をしているのか知らない






街を行く人の面影に安らぎを感じ

老けゆく夜のとばりが下りる度に暗闇と仲良し

宿場町の瓦は秘密の経典に描かれる

懐かし道思い出街すべてあの世の入り口

古い町並みがかすかに吐息をつく頃

風呂場では胎児が眠る

夕暮れ時の長い影は子供を連れ去る魔術師

チオビタの看板は永い間この世を支配してきた







夢ばかり見ていました

宿場町には秘術があって

夜になると枕元で経典を囁く小僧が現れる

ブラウン管の中で夏が海を泳ぐ

とっくに金魚の餌になったというのに

タツノオトシゴが宿題したかと叱ってきて

僕は蚊帳の中で海におぼれそうになっている

あのお寺の賽銭箱に見つけた梵字は

果たして人を救うのか







寂しい夜に寂しさが道に堕ちていた

静かに夏の電灯に照らされ

寂しさは仄かに光っていた

中島みゆきのわかれうたの流れるバーで

泣いている人がいた

生きてゆくにはこの小さな町は寂しすぎた

夢の夜の小道には

人間達の影も闇に紛れて魔性を帯びる

寂しい夜の人々が寄り添って

色街へと消えていった







古町は夕暮れの心臓を知っている

夢ばかり見ていました

美術室の手の模型が動き出すと

そっと校舎は赤く染まる

トイレの奥から三番目には

花子さんがいるから寂しい子は寄っておいで

ベートーベンみたいな髪の先生は

密かに家に目玉の這入った瓶を隠している

両手の紐は赤く染めて

夕暮れの中消える







夏は生き物がぎっしり

ブリキのお弁当箱に入っているイメージ

懐古の魅力は若い人にも

郷愁に浸る器官が耳の蝸牛に棲みついている

若いとか年とかこだわりたくないんだ

皆で銭湯に入って皆で郷愁を味わいたいんだ

都市の夜にざわめきがひしめく浅草寺の

お守りはあの匣の中で時折ガタガタと音を立てる






古い町並みに入道雲は

人の知らぬ心を語りかけて来る

蝉の鳴かない夏なんて本当の夏じゃない

夏という病気は中毒性があるからお気をつけなさい

幻想になかに夏はあって涼し気に水の中で息をする

宿場町は炎天下の中ずっと孤独

神社で物音がするのは神様も独りは嫌だから

紐を赤で染めたら夜の街で踊る






夕暮れは朝焼けを知らないから

あんな人に慣れてない顔をする

夜の散歩は孤独を知る人が

夢の中で旅をするために必要な経典

夏の旅は水を求めるように

海に出よう入道雲を四角い窓に当てはめて

人間ってこんなものなのだと

人生を語る

古い建物を見てはこんな土地にも

歴史はあるのだと

静かな横顔







寂し気な町の隙間に大人しか知らない魔窟がある

小さな夏の抜け殻が足元に堕ちてる魔物の足音

夏休みの宿題をこっそり仏壇の下へ隠す

翌日梵字で国語のドリルが埋め尽くされ

祭りに蛍光色の幽霊が人に紛れ

違和感のない夢のあかし

蛍光灯の下でブリキの警察官が若干壊れかけ

今でも人を守っている







夏の夜は胎児が見知らぬ街で眠る

夜の花火は君の横顔を照らして

夕暮れの街に溶けてゆく

宿場町では回文怪人が夕べの枕に溶けて

冷蔵庫のアイスには妙な形の梵字がいつの間にか

蚊帳の中は魔物を寄せ付けない

夜の肝試しに神社の鳥居に赤い紐が吊るされ

次は君の番だよと合わせ鏡の中から笑顔で笑う君






夏のお相伴は盆暮れ正月

季節のめちゃくちゃになった部屋で

ただ夏だけが涼しい顔をして水槽の中を泳いでいる

マッチ一本を擦ると侍の小人がその上で

浪曲を上手に唄ってくれる

夕餉のおかずに海に還りたかったと

さめざめと泣くクラゲにため息

母のいない部屋は夕べの夢

黒い影がいたずらを





夏はただ黙って草原の上で風に吹かれている

人生とは一体何だろうという問いがマッチの火の上に灯る

動脈の血が祭り太鼓の音に振動している

ことりことりと心臓の音が蚊帳の内側で静かに寿命の音を数えている

洗面台から見える夏の風景の中に溶け込む招き猫の置物

夕方の猫の背中は人の人生を背負って



夏のお座敷には何かが潜んでいる

夕暮れの入道雲に乾杯して

ゆっくりと酎ハイを嚥下する

人生という文字を波打ち際に書いて

打ち寄せる波に消してもらって

少しだけ泣いた

誰もいない仏間でいつも足音がする

見上げる入道雲をいつも眩しく感じる夏の午後

夜の入道雲はどんな顔をしているのか知らない

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