覚え書き 1209 金髪ノ超新星大爆乳、降下セリ
帝国歴1018年 ヴルガータ帝国属州トラキア中部にて
魔王を倒した勇者にして、先日のプロシア王国軍の侵攻を退けたヴルガータ帝国属州トラキアの若き総督エムオウ・クルツ・ランドゥは丘の上の自身の守護聖人の神殿へ参拝に一人で向かった。
浅黒い肌をした赤毛で180㎝ほどの大柄なトラキア人のエムオウは丘の頂上の神殿に行く50段はあろう階段の中段まで登っていた。その時、階段のてっぺんから子供が雨宿りできるくらい突き出た胸をブルンブルン上下に揺らしながら二十歳くらいの金髪大爆乳の大柄な白い肌の女が階段を駆け下りてきた。
「はうぁっ」
パツンパツンに服が膨らんだ大爆乳が激しく上下に揺れ動いているのを見て、エムオウの脳みそは激しく揺らされて理性も削ぎ落されていった。残された剝き出しの本能の指令で心臓の鼓動は高まり全身の血液が下半身に送り込まれた。哀しい男の性として股間のアレが屹立してしまったので慌ててソレを抑えた。エムオウは大爆乳のおこす振動で立っていられないかのようにしゃがみ込んでしまった。大女はエムオウの隣まで降りてくると止まった。
「な、なんだ、マルガリータ。とっとと行けよ」
エムオウが顔を真っ赤にしながら俯いていると大女がエムオウの襟を掴んで屈んでいる上体を起こし、にやにやしながら隆起した股間を見た。
「さすが魔王を倒した勇者様。大陸一の標高ね。すぐ噴火しそうで苦しそうだから上にベンチがあるから連れて行ってあげましょう」
「結構だ。やめろ、いや、やめてください」
だが大女は足に力の入らないエムオウを引きずるようにして階段を上って丘の上に連れて行った。
丘の上は開けた場所で神殿の前の広場にあるベンチへ金髪大爆乳女が必死に発射を我慢しているエムオウを腰掛けさせた。
「君が側にいては収まるものが収まらない。とっとと帰ってください」
「せっかくの偶然の再会だから、もっと楽しみましょうよ」
金髪大爆乳女がエムオウの胸の乳首らへんをさするとついに股間の火山は爆発してしまった
「はあああぁうううぁあぁっ」
ズボンの前はびしょ濡れになり裾から垂れた熱い白いマグマは脚を伝って地面まで垂れていった。
「まあ、勇者様ったら、その歳でおもらしして恥ずかしくないのかしら」
これがエムオウとマルガリータの2度目の出会いである。
覚え書き1203 ケツアナ勇者の「履歴書」
帝国歴1018年 第2回 ヴルガータ帝国属州トラキア議会議事堂にて
「人類の歴史は人類と人類の戦いであるが、人類と自然との闘いでもある。自然との闘いに勝利するためには科学の進歩が必要である。
今こそ人類は人類と人類との闘いをやめて、自然とのみ闘う歴史へと進化するときである。それこそが平和な人類社会のあるべき姿である。
人類は科学の進歩のみ、この過酷な世界において自然との闘いに勝ち、生き抜くことができる。科学の進歩に貢献することは我々の明白な使命でありそれを阻んではならない。
進歩を阻むものを待ち受けるのは落伍でしかない。落伍者は弱者となり強者に食われ続ける。
トラキアの民はいつも帝国の貴族どもに奴隷にされ食われ続けていた。最古の帝国パッラヴァにまず奴隷にされた、ペリシテ帝国の元でも奴隷だった、古代エトルリア帝国にも奴隷にされた、帝国崩壊後一時の自由ののち、またヴルガータ帝国に奴隷にさせられた。トラキアは文明の周辺で遅れていたために奴隷にされたのだ。
だからトラキアの完全なる独立には帝国に対抗できる国力のため科学の進歩を加速させなければならない」
扉が閉じられた他に誰もいないヴルガータ帝国属州トラキア議会議事堂の控室で赤髪の大柄な20代ほどの青年が正装をして演説練習をしていた。
練習を終えた後、青年は壁にかけられた世界地図を眺めた。大陸各地で今もいくつもの戦争が行われており人類と人類との闘いは終わりそうにない。
そして属州トラキアでは大規模な灌漑による農地開拓事業が失敗し荒廃した農地のみ残され、治水事業の失敗が原因とされる大勢の死者も出た洪水被害も昨年起きた。
これは彼にとって自然との闘いの敗北であると同時に独自の通貨と独自の法律を持つ属州トラキアが帝国からの完全な独立が遠のくことを意味する。
属州トラキアは戦争にこそ巻き込まれていないが日々、隣国の軍事的脅威は高まっていた。
青年はうめくようにつぶやいた。
「戦争は嫌だ。戦争は嫌だぁ」
そのまま 頭をかかえるようにうずくまっていると扉をノックする音がして青年よりも年上の30代ほどの黒髪で白い肌のヴルガータ人の秘書官が入ってきた
「総督閣下、大丈夫ですか?お時間でございますが」
「ちょっと立ち眩みがしただけだ。大丈夫すぐ行く」
青年は立ち上がり議場に向かった
「ランドゥ総督にお尋ねします。あなたが帝国を蹂躙した魔王を倒したとき、あなたは冒険者ギルドから勇者の称号を得るのに必須な剣術試験に何度も落ち、冒険者パーティーのリーダー経験も無く肩書上はただの「荷物持ち」の少年でしかありませんでした。それなのに魔王討伐後のどさくさに紛れ、あなたが冒険者ギルドに不適切な額の献金をして不正に勇者の称号を得たとの疑惑があります。また一部のあなたに関する公式文書であなたが魔王を倒した時点で勇者であったように受け取れる記述があり経歴詐称では、という疑いもあります。これらについてあなたご自身で説明していただきたい」
今日、議会での初登壇になる右欲系野党「トラキア買国党」の黒髪で白い肌のヴルガータ人で先の補選で選ばれた貴族出身の新人(といっても議員秘書あがりの50代だが)議員トーマス・フォン・ボルグリックが自己紹介や信念、政策理念を述べ終えた後、早速、ヴルガータ帝国属州トラキア政府のトップである総督を批判した。
「総督エムオウ・クルツ・ランドゥ君」
議長に名を呼ばれ、赤髪で浅黒い肌の大柄なトラキア人の若い総督はいやいやながら壇上に上がった。
「ご質問、ありがとうございます。先生、疑惑は全くの誤解に基づいているものです。先生もご存じの通り、私の得意とするところは小山の如く押し寄せる巨大なヒュドラの大群も一撃で倒すことのできる強力な広範囲攻撃魔法です。冒険者ギルドから勇者の称号を得るのに必須な試験科目「剣術」はからきしだめで何度も落ちたのはご指摘の通りです。そこで特例として「特別」手数料を、もちろん私のポケットマネーでいくばくかギルドにお支払いし、魔王討伐の功績を考慮していただいた上で得た勇者の称号です。たとえ手続きに瑕疵があろうとも…ですよ。」
「黙っていれば聡明で端麗」といわれる彫りの深い顔をしたエムオウはうつむき手元の資料をいじりながら答弁しつづけた。属州トラキア議会では新人議員は初登院に際し必ず30分間与えられ自己紹介や政策理念を述べ政府の閣僚と質疑応答することができる慣例になっている。これは総督であるエムオウ自身が定めたものである。
属州政府が任命した官選議員ではなく民選の新人議員は名前を売るために総督の疑惑の追及に大いに張り切る。秘書上がりの新人議員は自分の答弁が総督を動揺させ追い詰めていると勘違いして喜んでいるようで先輩議員たちの顔色を伺った。だがエムオウはこの新人の質疑の後に討議される議題が気になって仕方ないので何度も読みこんだはずの資料をそわそわしながら確認していただけである。
議場にいる他の議員たちは自分たちよりはるかに若い総督の答弁をまじめに聞かない悪弊について知っていた。また総督の「前職」に関する疑惑は何度も蒸し返され新人議員の初登壇の「演目の十八番」でもあるので総督側の返答もパターン化されているので皆まともに聞いておらず居眠りしている議員もいた。
「つまり肝心なことは、先生。授与された称号はギルド公認の正規ものだということです。ですから私が正規の勇者の称号を保持しているというのは紛れもない事実であります。また経歴詐称疑惑ですが、確かに私的な場では魔王討伐時、私は勇者だったと言うことが便宜上あったかもしれません。しかし一度たりとも自分が魔王討伐の際、勇者であったことを選挙公報などで経歴として載せた覚えはありません。そもそも私は魔王討伐の功によりヴルガータ皇帝陛下からトラキア総督の任を賜ってから6年間、選挙無しでこの地位にいますので公職選挙法やそのほかの法に抵触する機会自体ないと思っております。」
「総督、あなたはギルドにカネを渡した事実自体は否定なされないのですね。法的問題を問うているのではなく政治倫理の問うているのです。肩書を詐称し、不当にカネで得た人間が総督にふさわしいか、あなたの資質を問うているのです。いくつものいかがわしい疑惑があるような者は潔く総督の地位を辞すべきという考えはないのですか」
ここで貴族出身の何人かの議員たちから拍手が起こった。今現在は貴族には免除されている相続税を今後、課税対象とする増税案が政府内で検討されており、増税を主導している総督の評判は貴族たちからすこぶる悪かった。
「先生、属州トラキアは魔王軍の侵攻を直接受けていないので魔王を倒した勇者という経歴はあまりプラスにならなりません。別に私は勇者として食っているわけではなくこの肩書は総督には不要なものです。総督の職務に関係のない過去の肩書の入手方法ごときで辞職とかはしません。しかし、初登壇で私の首を狙ってきた新人議員は先生が初めてです。これは期待のできる大物議員の卵ですね。孵化する前に割れそうですが」
議場内で乾いた笑いが起こった。経歴詐称疑惑について特に新しいネタを得ているわけではないボルグリック議員は話題を変えた。
「ではあなたが人々から「エキセントリック・エレキテレツ」と呼ばれていることについて新人議員である私にご説明いただけないでしょうか」
「先生はご存じだとは思うのですが、私の最も得意とするのは雷系の攻撃魔法です。それでわたしは帝国北部では魔王軍と戦う中で帝国北部のひたすら醜いゴブリン族や、二足歩行するトカゲの化け物リザードマン族を滅ぼしました。総督就任後は帝国南部の属州トラキアとヴェネチア共和国国境付近に生息する豚顔のオーク族どもを2か月で絶滅に追い込みました。そいつらを聖絶する際、雷撃を豪雨のように浴びせたのでそのように呼ばれているのだと思います。」
「その際に国際法に反する越境攻撃をしたのは事実ですか」
「魔物討伐をする際に各国に事前通告しております。そして総督は外交官と同等の免責特権が認められております。なんら国際法に反したという事実はございません」
ボルグリック議員が再度登壇して発言しようとすると傍聴席から「手ぬるい!やる気があるのか」「税金泥棒仕事しろ」とヤジが飛んだ。
属州トラキア議会の議場は古代の野外円形劇場を改修し頂上に天窓のあるドームで新たに覆った建物内にある。ゆるい傾斜のすり鉢状をした半円形の議場の最下部に政府の閣僚席と演壇がありそれを取り囲むように議員席があり議場の最後方上部は傍聴席となっている。壁には白い魔晶石の照明がはめ込まれ魔力によって光っているため屋外よりかは薄暗いが天窓から日の光も差しているため十分な明るさがある。議員席は200席ほどあるが、議員定数は300である。議員の8割は貴族出身で、属州トラキアを構成する西部のトラキア大公領、北部のアンシェンバッハ伯領、中央のトラキア総督府、東部ダキア県から各地の人口に応じで200議席が振り分けられ、そのほかに官選の議員が100名いるが、議場には議員は100名ほどしか出席していなかった。採決は定数の過半数ではなくその日の出席議員の過半数が賛成すればよく、属州トラキア総督政府は意図的に批判的な議員たちが地元に帰っている時を狙って度々「緊急招集」して議会を開催している。(もっとも魔王に帝都を蹂躙された皇帝の権威が低下するなか、トラキア大公領は帝国から半独立状態となっておりトラキア大公には属州トラキア議会で成立した州法に対し拒否権があり独自の条例が認められている)
「各国からの抗議について具体的に…」
ヤジが収まった後、ボルグリック議員が質問を続けようとすると
「ケツ穴勇者もヘタレ議員も辞職しろ!!」「不倫勇者について聞けよ、ポンコツ議員」「堕ろし損ないがヒトヅマ好きなのは本当かよ。」
再度、複数の傍聴人や議員からヤジが飛んできた。動揺したボルグリック議員は慌てて原稿を入れ替えた後、質問を再開した。
「えーっ、クルツ総督、いま議場内からありましたように、あなたが不倫勇者と呼ばれている理由についてお答えください」
支持率が20%前後で推移していると言われる総督エムオウは罵詈雑言に耐性ができたのか、散発するヤジを気に留めず登壇した
「まずケツ穴勇者と呼ばれていることについて、先生にお応えします。私は娼婦街の路地でこの世に生まれ落ち、すぐに捨てられました。そこで修道院の運営する孤児院の施設長に拾われました。トラキア人といえども育ててくれた彼には今でも感謝しております。しかし施設の運営は厳しく彼は運転資金が底を尽きるたびに10歳くらいからでしたか私を男娼として変態貴族どもに提供しました。もちろんそのことを恨んではいません。施設よりもいいものが食べられるいい機会でもありましたので。しかしそこで変態貴族どもに、このような場でいうのはふさわしくないことをされまして、そのことを揶揄するあだ名である、とだけ述べておきます。ただ、そのとき荘園で農奴をこき使った「あがり」で地べたに這いずり泥水をすする貧民をよそ目に贅沢も変態行為を享受する貴族どもみてその富の根源でありこの世をゆがめる根源である農奴制をいつか廃止してやろうと思いました。」
ここで、オ〇マはスパイになりやすい、というヤジが傍聴席から飛んだがすぐに警備の者に制止された。
「静粛に皆さん。ここは属州各地から選ばれた人の集まる場所です。そのあなた方が適切に言葉を発することを選べないなら沈黙していてください」
属州トラキア議会議長ゾナス・フォン・リューリクが言った。ゾナス議長はエムオウと同じ浅黒い肌をした30代半ばのトラキア人である。ただし髪の色はトラキア人に多い金髪である。エムオウのような赤髪はトラキア人には珍しい存在である。エムオウは議長に一礼すると発言を続けた
「さて、つぎに、先生のお尋ねの不倫勇者ですが、私がとてつもない強力な攻撃魔法といういわゆる「チート能力」を得て魔王を討伐したあと皇帝と謁見した際に、農奴制の廃止を強く進言しました。そのため事あるごとに農奴制の廃止を唱える私は帝国貴族の搾取マシーンを無くそうと目論む目障りな奴に思われたのでしょう。それにただでさえヴルガータ人の帝国の王侯諸侯にとって魔王を倒すくらい強力な力を持ったトラキア人である私が帝都にいるのは脅威でしかなかったのかと思います。2回ほど暗殺未遂をされた後、わたしは用心のために信頼する修道院長の運営する僧房の宿舎で寝泊まりすることにしました。ですがある朝、目が覚めると見たことのない裸の金髪女性が寝ていました。驚いているとそいつの旦那と称する貴族がほかの貴族と一緒に部屋に踏み込んできました。」
「つまり不倫の現場を抑えられたということですね」
「ヒトヅマと当時16歳の少年の私が寝ていたことは事実ですが、これは不倫ではなく美人局です。農奴制を死守したい帝都の王侯貴族どもの返り討ちに会い、嵌められたのです。その人妻も2週間前はただの娼婦、旦那も男爵家の三男坊。そいつは子爵になり、娼婦に至っては夫と別れた後、帝国元帥の奥方に収まった。わたしはたまたまポストの空いた属州トラキア総督に帝都から追放同然に任に赴かされたのです。まあ今となっては栄転だと思っています。」
「書記の方、今の「追放同然」の言葉はしっかり記録してください。総督、下半身にスキャンダルを抱えた人間が総督としてふさわしいと思われますか」
そうだ、そうだ、やめちまえ、というヤジの中、エムオウは内務長官からもたらされた分厚い極秘資料を取り出して、演壇の台にこれ見よがしに投げるように置いた。
「ボルグリック先生、いや皆さん。あなたがたは奥さんにいつも誠実なのですか」
ほぼ男性しかいない議場が議員席も傍聴席も静かになった。
「先生、当選してからわずかあなたですら、いくつもの色っぽい噂をお聞きしています。補選の選挙期間中という大事な時に奥さんが実家に帰った「本当の理由」とか。あるいは奥さんは知らないであろう懲りずに最近雇った美人秘書とのアレコレとか。独身の私には理解できない行為ですが既婚者は奥さんだけでは満足できないのは男性に悲しい性なのでしょう。まあ、ここは先生方の浮気などの身辺調査を発表する場ではないのでこれ以上は差し控えますが」
ボルグリック議員の顔は青くなったが、意を決したように登壇した。
「……では、あなたが行った農奴制の廃止ならびに人身売買禁止についてお尋ねします。はっきりいって農奴制の廃止は経済面で言えば大失敗でありました。奴隷売買の禁止は何人もの高貴な社会の柱石の生活を破綻に追い込みました。属州トラキアを支えてきた貴族に荘園が維持できなくなり、かつて愚昧な血と知性の農奴が貴族の優れた指導と恩寵の元で喜びながら耕していた豊かな地方の荘園は、今は見る影もなく荒廃していきました。農奴制廃止後、堕落し愚かな怠け者となった解放農奴たちは、都市部に流れ職がないと税金でのうのう給付を受けて遊び暮らしています。総督、あなたの決断で農奴制を復活し属州の柱石である貴族の伝統と自由を守るため農奴制を復活させる意思はありますか」
エムオウは新人議員の発言を聞きながら暗い表情になった。貴族を中心にわずかばかりの補償金だけで帝国に何百年と根付く農奴制を(属州トラキア領内だけとはいえ)廃止されたことに対し怨嗟の声があるがここまでストレートに人身売買や農奴制を擁護する議員はいなかった。
エムオウは登壇すると落ち着きを払おうと咳払いした後、低い声で話だした。
「(読み飛ばし可)先生、属州トラキアは農奴制の廃止以降の方が穀物の生産量は多いです。農地が荒廃したらあり得ないことです。生産量に対し人口の主に想定外の流入による消費量の増加に追い付いていない。食料増産のため今まで農地でなかった荒れ地の開拓がうまくいっていないのが属州トラキアの農業問題の根幹です。その問題の解決を阻む宿痾は議会が農地改革関連法案を通さないことです。解放農奴や移民・難民、小作農の方が自分の耕作地を持てるように貴族の土地所有制限に関する法案がことごとく廃案に追い込まれるので自作農が全然増えない。自作農より小作農の方が、生産性が低いことは統計としてきちんとあります。誰が自分の畑ではない、収穫してもすべて持っていかれる他人の畑に愛着を持って熱心に作物を育てようとしますか。何かを育てることの意味を貴族は理解していらっしゃらない。自作農の農地が小作農の農地よりも生産性が良いことはデータとしてあります。未だ土地を持てない解放農奴の方は同じ荘園で小作農として安くこき使われている。人身売買の禁止や貴族が農奴を殺しても何をしても罪を問われないような生殺与奪の権を廃止し移動の権利も得た解放農奴に人権は与えられたがそれに見合う生活が送れないのではあまり意味がない。これは許すべからざることです。また農奴制があったほうが農奴は大事にされたという意見にははっきり否定したい。帝国の貴族どもが農奴を「大事」にするのは利益の出る財産だからです。だから所詮モノ扱いだから貴族どもは病気や高齢で働けなくなったら平気で山に壊れた家具のように捨てる。貴族どもは自分が寄生虫であることを自覚すべきだ。社会のマイノリティでしかない貴族どもが尊重されるのは間違っている。貴族どもは僕が税制度に疎いことをいいことに当初の就任直後の大改革が終わるのをじっとやり過ごした後、貴族出身のお歴々の先生方は勝手に法解釈を改悪して様々な特権を奪い返すだけでなく、おまえら貴族は伝統と自由いうわけのわからないことを言って収奪を正当化する法案を押し通して属州を蝕んでいる。これは許さざるべき裏切り行為で……」
エムオウはだんだんと興奮しだし髪が逆立てながら机の両端を軋むほど強く掴みながら話し続けてると、壁に照明として埋め込まれている白い光を放つ魔晶石が魔力を帯びすぎて赤く光り熱も発し出した。議場での魔力の使用は規則で禁止されている。議長が少し慌てて呼び鈴を鳴らした。
「……時間になりましたので、そこまでです総督。次の議題に移ります。トーマス・フォン・ボルグリック議員。ようこそトラキア議会へ」
議場が拍手と総督へのヤジに包まれ、総督エムオウは渋々自分の席に戻った。議長は議事を進行した。
「皆さん。続きまして本日の議題に移ります。内務長官アンシェンバッハ伯爵君。どうぞ」
内務長官シャオロン・フォン・アンシェンバッハ伯爵はヴルガータ人には珍しい金髪をした長身の白い肌の美青年で総督エムオウが今現在も法的には所属している冒険者パーティー「ハートフルホワイト団」のリーダーで正規の勇者の称号保持者である。総督職はあくまで役人のトップでしかないのでエムオウは身分制の上では平民でしかない。たいしてシャオロンはエムオウとともに魔王を倒したという功績で貴族となりアンシェンバッハ伯爵の地位を得て、属州トラキアに属するがトラキア北部アンシェンバッハ地区に大幅な自治権をもった領地を持っている。アンシェンバッハ伯が壇上に登ると傍聴席からは彼推しの女性の傍聴人から黄色い声があがったがすぐに警備員に制止させられた。