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九十二 偽りの救世主

「常勝さん、彼は私が始末し損ねたものです。私が倒します。常勝さんは一般人の保護を優先してください」


そう言って、修良は立ち位置を変えて、太陽太歳と観客の間に立った。


「分かった!気を付けな!」


常勝は一歩避けて、透明な結界を張り、観客の保護に回した。


修良は指を軽く鳴らすと、数本の棘が太陽太歳の胸から飛び出し、その大きな体を縛った。


棘が強く収縮し、太陽太歳を圧し潰すようにその巨体に食い込む。


棘から黒い霧が発され、太陽太歳の体に侵蝕する。


太陽太歳は焦るどころか、反って勝利を確信したように仰天に笑った。


「見せてやろう!救世主の力を!」


太陽太歳は力を絞るように体を強く引き締める。


すると、彼の体から強い金色の光が射出された。その太陽のような輝きは周りを照らし、修良の黒い棘を粉々に飛ばした。


「!!」


光はすぐに収縮し、金色の鎧となり、自由になった太陽太歳の体に纏う。


さっきまで化けものにしか見えない太陽太歳は、眩しい光に包まれたら、まるで天からの武将のように神々しく見える。


太陽太歳は光を両手に集中し、掌を天に突き出す。両手から射出した光は、舞台の中央で白い輝く柱となった。


大きさこそ違うが、その柱の形は、旧世界で修良が縛られた「神の幹」そのものだ。


「!!」


修良はその形に注意を取られた一瞬、柱から無数の光の縄が飛び出して、修良の体に付きまとった。




「先輩!」


幸一は前に出ようとしたが、体が釘付けられたように動けない。


よく見てみたら、腕の中の子供が太陽太歳と同じ色の光を放っている。


「この子っ……!!」


いいえ、子供だけではない。幸一の全身も同じ色の光が浮かんでいる。


幸一と子供の光が共鳴しているように同じ頻度で振動している。




手足が縄に掴まれた修良は、強引的に「神の幹」のほうに引っ張られる。


太陽太歳は手元の光で、また一本の大きな刀を生み出した。


光の刃はサッと長く伸ばし、修良の胸を貫く。




「!!この力は、まさか……!」


光の威力を体感した修良は、その力の性質を悟った。


一度幸一のほうに振り向いて、様子を確認した。


「修良さん!」


「来ないでください!危ないです!」


常勝は助太刀に入ろうとしたが、修良に止められた。


「そうだ!こんな悪鬼の結末を黙って見るがいい!見ろ!彼の力の本当の姿はとんでもない汚いものだ!」


太陽太歳が狂言を放っている間に、修良の傷口から破滅の力が溢れてくる。


破滅の力は混濁の黒色と灰色が混ざった霧と化し、触れた空間を蝕み、黒い空洞を残す。


「!!」


初めてその力を見た常勝は、骨が凍るほどの不気味を覚えた。


この感覚に比べたら、以前、骨が粉々にされた時に感じた陰気と恐怖は、氷山の一角に過ぎない。




「いいですか?太陽太歳さま?」


体が貫けられても、修良は優雅に笑った。


「破滅の力は私の制御を失うと、どうなるのか私にも分かりません。このままだと、あなたもこの力に侵蝕されます。今回こそ、元神まで潰されますよ」


だが、太陽太歳は全然心配していない。


「フン、ハハハハハ。そんなことはない。今のわしを庇護しているのは、人間の赤子程度の力じゃない。この世界の源とも呼ばれる『生命の霊気』だ!見ろ!」


太陽太歳は両手からもう一度光を放つ。


その光に直撃された破滅の力が形も残さずに打ち消された。


「やはり……」


その狂言から、修良はさっきの推測を確信した。




「生命の霊気だと!?」


太陽太歳が力を飛ばすと、幸一と子供の共鳴が更に強くなる。


幸一は自分の霊気が異常な速度で流出しているのを感じた。


太陽太歳が使っている力は自分の力と同じものだったら、まさか――


「この子は、俺の力を吸い取っている!?俺の力を、あの太陽太歳に転送しているのか!?」




異常の原因がその子供にあると気付くと、幸一は霊力を集中して、子供を腕の中から押しのけた。


落下した子供は逃げもせずに立ち直って、無機質の目で幸一を見つめる。操れ人形のように喋った。


「あなたはこっちのものよ。彼を滅ぼすのは、あなたの役目でもあるの」


「何を……!?」


子供の言葉の意味がさっぱり分からないが、それを考える暇もない。


幸一は子供を無視して、修良のほうに駆け付けた。




「先輩!」


幸一は細剣に霊力を注ぎ、修良を縛る光の縄を一気に切った。


細剣の名は「氷雨(ひょうう)」。仙道用の上質ものだが、名剣ではない。もともと強度の高い霊力を耐えられない。


でも、幸一は修良から教えられた霊気融合の方法を活用し、剣を壊さないまま強い霊力を注ぐことを可能にした。


幸一の霊力を吸収した「氷雨」は、青い星の光を輝ける。


そんな幸一を目にして、太陽太歳は興奮しそうにバカでかい目を大きく張った。


「いいぞ、いいぞ!貴様の匂いは極上だ!わしの肥料に最適だぜ――がぁぁぁぁ!!」


太陽太歳の言葉が終わ前に、破滅の力の霧が剣となり、彼の口を貫いた。




修良は散乱の霧を操り、大きな獣挟みに変化し、腰から太陽太歳の体を噛む。


だが、太歳は金色光に守られ、獣挟みが彼の肉体まで刺しこめなかった。


修良はもっと多くの力を出そうとしたが、幸一に呼び止められた。


「先輩はこれ以上手を出さないでくれ!!体が治ったばかりじゃないか!こいつは俺がやる!」


修良に拒絶の間を与えず、幸一は太歳の至近距離に飛んだ。


「他人の物を喰ったら、返さなければならないんだ」


幸一は太歳の口に手を伸ばし、破滅の力が変化した剣に一点の光を送った。


光と霧が融合すると、剣は鎖の形となり、太歳の口から体の中に入った。


鎖は目で見えない速度で太陽太歳の体内を一周して、彼の頂上から飛び出す。


幸一は風に乗って空に飛び、手を高く上げる。


「収!!」


幸一の叫びと共に、鎖が太歳の体から膨大な霊気を引っ張り出した。


鎖が幸一の腕に纏い、高速回転し、太陽太歳の霊気を抽出し続ける。


膨大な光の流れは竜巻のように太陽太歳を真ん中に巻き込む。


「なっ、あっ、ああああ、霊気がぁ!命の霊気がぁぁ!!!」


太歳は黄金の鎧と身を守る光を失い、断末魔を咆哮する。


光の竜巻から再び現れた太陽太歳は、体が枯れた土のように大きな亀裂がついた。


それでも彼は真っ赤な目で空に浮かんでいる幸一を狙い定め、口から血の混ぜた衝撃波を噴出する。


幸一は避けることもなく、冷静な目で太陽太歳を見下ろしながら、細剣氷雨を逆さまに浮かせる。


氷雨は速やかに回転して、無数の剣影となり、衝撃波を切り裂け、一直線に太陽太歳に落下する。


無数の剣は太陽太歳の体の亀裂に刺し込む。


衝撃に耐えられない舞台が崩れ、太陽太歳は深い穴の中に釘付けられた。


太陽太歳ゆらゆらと一本の手を上げ、枯れた声で空に質問を出す。


「なぜだ……わしこそ、不朽にふさわしい、じゃないか……」


「天命の星に、選ばれたんじゃないか……わしこそ、救世主になるものじゃないか……」


修良と幸一の注意力が太陽太歳に引かれている間に、あの子供が穴の傍に来ている。


子供は無機質な目で太陽太歳を眺めながら、幼い声で彼の質問に答えた。


「違う。あなたは、わたしが探している救世主じゃない」


「……」


それは、太陽太歳がこの世で聞いた最後の声だった。


「あなたが探している救世主とは?」


修良はゆっくりと子供の隣に歩いて、身を屈めて、その詳細を聞こうとした。


「……」


子供は修良の腕に抱きついて、猫のようにすりすりをして、小さく呟いた。


「暖かい……」


その一言だけを残して、子供はたくさんの光の玉となって、その場で散った。


「!」


さすが修良も、その言葉の意味を理解できなかった。


子供が消えた瞬間、幸一は胸に鈍痛を感じ、頭から変な画面が浮かび上がった。


一片の暗闇の中、彼は何かを探していて、幽冥界の深淵に舞い降りた。


懐かしい匂いに誘われて、生きることも死ぬこともできない、深淵で苦しめられている罪人たちの残骸に立った。


いきなり、一本の手が残骸から突き出して、彼の腕を掴んだ。


「!」


幸一は驚いた。自分の腕は、子供のまま。


それが幻像だと気づき、幸一はさっそく精神を集中して、意識を現実に呼び戻した。





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