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八十九 恋の占い

数日後、三虎観(さんこかん)のお祭りは予定通りに始まった。


幸一(こういち)は準備の手伝いを何回も申し出たけど、みんなかなり遠慮しているようで、「何もしなくていい、お祭りを楽しんでくれればなによりだ!」みたいなあやふやな理由で幸一を断り続けていた。


幸一の微妙な申し訳ない気持ちで日課をやりながら、お祭りまでの日々を送っていた。




三虎観のお祭りは仙道だけの行事ではない。


弟子の人数が少ないため、三虎観は民間からの出店や出演を誘う。


仙道の披露場より、一般の民間祝日の感じに近い。


だが、一番の目玉はやはり三虎観の催し物――太陽が沈み、月が上がる前の間に行われる祈祷儀式。


「太陽や月が消えたとしても、仙道は人間界を守る」という古来の誓言から生れた儀式だ。


この世界には、特定な神明への信仰や宗教が存在しない。


人々が崇めるのは天地大道と先祖。


仙道は天地大道の真髄を求めるもので、天地大道の代行者でもある。


だから、どの仙道門派でも人々を守る義務を背負っている。




ここ数日、芳蕊(ほうずい)山の下にたくさんの出店と舞台が設置され、賑やかに装飾された。


お祭りの日の朝一から、観客が絶えずに寄ってくる。


山を降りて、人々の笑顔を目にして、幸一はやっと微妙な気持ちから解放された。


「幸一にとって久しぶりのお祭りだね。楽しんでいこう。それはみんなの気持ちへの一番いいお返しだ」


修良(しゅうりょう)は幸一の背中を後押した。


幸一はお祭りをあまり好きじゃない。


小さい頃に、お祭りの前に必ず山ほどのお誘いをもらう。


どの誘いも顔云々ばかりで、不純な匂いがプンプンする。馬鹿にされたとしか思えない。


また、お祭りに出る度に彼の顔を目当てに話をかけてくる人が絶えない。一日中も姉妹たちの白目の中で過ごしていた。


「お祭りはみんなと一緒のほうが楽しい」みたいな言い方をよく耳にするけど、幸一はただただ一人になりたかった。


あんなに遠慮していた行事だったのに、今はこの賑やかな雰囲気に心底から喜びを感じる。


これは、きっと修良が隣にいるおかげだ。


思い出してみれば、前世の還初太子(かんしょたいし)は無理やりに天良鬼(てんりょうき)をお祭りに連れていくことがあった。


今世の二人の立場が逆になって、ちょっと不思議な気分。




「先輩が一緒なら、お祭りでも何処でもいける」


幸一は修良に手を伸ばして、選択権を修良に投げた。


修良は微笑んで、優しく幸一の手を取った。


「もちろんだ。幸一は何処に行っても付き合うよ」




景姝(けいしゅ)の占いに行く約束があったので、二人はまず占い小屋に向かった。


景姝の占い小屋は木製の高台に立てられている。高台の周りに、すでに三周くらいの長い列ができている。


半分以上の客は年頃の女子、相談の多くは恋絡みのこと。


幸一と修良が列に入ると、たちまち熱い注目を浴びた。


ざわざわするのは女子たちだけではなく、幸一の顔を見て赤面になって、ウキウキする男子もたくさんいた。


「あら、あんな美少年も恋の悩み?」


「追慕者が多すぎて、悩んでいるでしょう」


「いや、恋とは限らないぞ。変態に付きまとわされたとか……あんな顔だから、変態みたいにしがみ付く相手の一人や二人がいるだろう」


「自分の悩みじゃなくて、友達の付き添いかもな。おれはあんな美貌を持っていたら、どんな悩みでも即座で消えるぞ!」


「……」


議論からさまざまな雑念を感じた幸一は一度深呼吸をした。


景姝と約束しなかったら、すぐにでもここを離れたい……


「かなり長いな、何か暇つぶしのものを買ってくる。殴りたいやつがいたら私が帰るまで我慢しててね」


「殴らないよ!こんなのもう特に慣れた!」


幸一の抗議の中で、修良は気持ちよさそうに露店のほうに行った。


「……」


(そういえば、地味な顔や、悪人みたいな顔の前世もあったような気がした。そんな顔の俺を見たら、こんな注目が一気に散るだろう。気にしない気にしない)


幸一はできるだけ周りの声を無視するつもりだった。


けど、


「美少年もいいけど、あたし、大人の旦那のほうが好みなの」


という議論を聞いたら、思わず神経を引き締めた。




「どうしたの?顔が強張っているよ。やっぱり殴りたいやつが出たのか?」


しばらくして、修良の声と共に、一枚の仮面が幸一の前に差し出された。


「!」


幸一が振り向いたら、お菓子の詰まった手かごを持つ修良がいた。 


「狐の面を使いたくないけど、これ以上のできのものはない。今回はやむをえず――」


そう言って、修良は仮面を幸一に掛けた。


「俺のだけ?先輩は?」


「私?必要はないだろ」


「いいえ、必要と思う!絶対必要と思う!」


幸一は仮面を外して、逆に修良にかけた。


「俺の分は自分で買ってくるから、先輩はそのままで待ってて!」


急いで仮面の露店に走り出した幸一の後姿を見て、修良は仮面の下で微笑みを浮かべた。




太陽が頭の真上に昇った頃、二人はやっと占い小屋に入った。


「いらっしゃいませ。大変お待たせいたしました。誠に申し訳ないですが、お待ちの方がたくさんいらっしゃいますから、おひとり様は一問限定になります」


景姝はニコニコに公式案内をした。


「質問は直接に教えてくれてもいいし、ここの紙切れに書いてもいいですよ~」


約束もしなかったのに、幸一と修良は同時に紙切れに手を伸ばした。


聞きたいことは、まだ相手に知られたくないから。


景姝はわくわくしながら二人の質問紙を手に取って確認した。


「先輩の一番好きなものを教えてください」


「幸一の一番好きな顔を見ていただけますか」


「……」


景姝の気持ちは一気に冷めた。


(占わなくても分かることを聞いてどうする?もしかして、あたし、舐められてる?)


まったくやる気がないけど、やるべきことはちゃんとやるのは仙道弟子としての教養だ。


景姝は右で幸一の手、左手で修良の手をもって、二人の霊気を感知する。


「あれ?お二人、霊気が繋がっていますね。お互いの体に、相手の霊気の波動がしますわ……」


「!!」


景姝はただ普通に確認したのに、幸一は勝手に「誤解された!」と思い込んで、慌てて弁解した。


「そ、それは、多分、先輩の心と連動している術をかけられているから!」


「へぇ、心と連動する術ですか」


景姝はニヤと口元を上げた。


「さすがですわ。あれって、お互いの心に相手への抵抗があると発動ない術ですよね」


「そ、そうですか?知らなかった!」


「私も知らなかった。幸一にしかかけたことはないから」


「……」


二人のやり取りの雰囲気を見て、景姝はますます分からなくなる。


(っていうか、心が連動できるだけの絆を持っているのに、お互いの大好きなものを占いに頼る必要は何処にある?幸一はともかく、修良さんはそこまでの間抜けとは思わないわ)


(まあ、確かに、景媛の言った通りだわ。二人とも霊気が強すぎて、普通に占っても見えない……)


(でも、女の勘をなめないでね、見えなくても分かるわ!)


景姝は二枚の紙切れにこそこそと文字を書き込んで、修良と幸一に一枚ずつを渡した。


「はい、お二人が求めている答えはかの場所にあります。そこに行って、ゆっくり探してみてください~」


幸一と修良はそれぞれ自分の紙切れを見ると、一個の地名とそこへ行く道順番が書いてある。


顔に疑問が浮かんだ二人に、景姝は神秘そうな笑顔で一言を添えた。


「一つだけ、特別な助言をあげます。お二人はすでに心が通じているとは言え、まだまだお互いのことを知る必要がありますわ」

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