八十八 人助けをしよう
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幸一と修良は様子見に外に出たら、三虎観の弟子一人が小さな子供を連れいてる中老な男を止めている場面を見た。
中老の男の髪の毛が黄土色、服がボロボロ。左足が怪我したようにぶら下がっていて、杖で半分の体を支えている。その足の状況に配慮しているのか、三虎観の若い弟子が男の体を止める力が非常に弱かった。
子供はまだ四、五歳くらい、かなり地味な衣裳を着ていて、茶色の髪が頭の後ろで辛うじて短い尻尾に束ねている。見た目で男の子か女の子か分からない。手に一輪の黄色の花を持って、ぼうっと中老の男を注目している。
「どうしましたか?」
幸一は前に出たら、三虎観の弟子がピリッと肩を震わせた。
「ぎっ、玄幸一……」
「道長様!」
三虎観の若い青年はまだ返事していないのに、中老の男は杖を捨て、ドスンと幸一に跪いた。
「!!」
「どうか、どうかこの子を弟子にしてくれ!」
「だから、困ります!お伝えしたように、うちの師匠は不在で、先輩弟子たちはただいま修行中、もう少し、もう少し待っててくれないか!」
「あの……」
幸一は三虎観の弟子に視線を向けたら、分かりのいい弟子が名前と弟子歴を乗り出した。
「慶合十五年入門、乾小枝です」
「乾先輩、この方のことを俺に任せて、乾先輩は常勝先輩たちを呼んできてください」
「えっ!」
乾小枝は反射的に背筋が震えたが、すぐに失態に気づいて、幸一に同意した。
「そ、それは、ありがたい!ちょっと待ってください、すぐ戻るから……」
乾小枝は修行場に向かって何歩を走ったら、また振り向いて、緊張しそうに幸一たちに呼びかけた。
「俺が戻ってくる前に、何もしなくていいから!待っててくださいよ!」
「……」
「どんな目で俺を見ているんだ……」
印象の改善を考えてもしょうがないから、幸一は中老の男の対応に戻った。
「どうぞ起きてください。あそこでゆっくり話をしましょう」
幸一は男の体を支えて、大きな榕樹の下に置いてある長椅子のほうに移動した。
男は嘆きのように事情を語り始めた。
「わしは、罪人だ。許されない大罪を犯した。この足は、その罪の報いだ……」
幸一はその言葉に連れられ、一度男の左足を見た。
膝の下からぶら下がっていて、膝の骨も、足の筋も壊れたようだ。
男が罪人だと知っていても、その惨状を見ると、幸一は思わず眉をひそめた。
「先日、黒白無常はわしの夢に現れて、わしに、死後の判決を伝えてきた――『まもなく、お前は地獄の底に落ちる。もう輪廻に入ることすらできない。地獄の底で永遠に苦しめられる……』」
「輪廻に入れない、永遠に苦しめられる?そんなことあるのか!?」
幸一は驚いた。
そもそも黒白無常は人間に死後の刑罰を伝えるのかな……
「あの、ただの夢の可能性は――」
「ない……わしは、こう見えても、若い時に仙道を目指したことがある。だから、知っているんだ。それは本物の幽冥界からの警告だ……」
そう言って、男は顔を両手の中に埋めた。
長椅子の後ろで二人の会話を見守っている修良は、目を細くして、男をじっくり観察する。
不意に、子供が彼の裾を引っ張った。
「これ、あげる」
子供は持っている黄色の花を修良に差し出す。
「……」
子供の顔が白くて、無表情だけど、修良の心底に、何か痒くて柔らかい感じが湧いてきた。
修良は優しい笑顔でその花を受けて、子供を胸に抱きあげた。
「ありがとう。名前は?」
「……」
子供は無返事のまま、男のほうに視線を移した。
「黒白無常たちはこう言った――本来、生きている人間に死後の判決を伝えることはない。だが、お前にあの子供がいる。あの子はこの世界にとってとても重要な人物になる。お前が死ぬと、あの子は生きていられない。だから、生きているうちにあの子を仙道に預けよう。わずかだが、お前の罪滅ぼしにもなるだろう……」
「この子が……」
幸一は不思議に子供に目を向けた。
「だから、なんとしてもこの子を最強な玄天派に入らせたい!」
幸一たちが会話をしているうちに、常勝と殷実紀が駆け付けた。
幸一が男の話を簡単に二人に伝えると、常勝は真剣顔で男に返事した。
「なるほど、事情は分かった。でも、仙道の修行には『恵根(*1)』がいる。『恵根』がなければ、入門もできない。うちの師匠はただいま不在中、代わりに俺が入門の申し込みを処理する。まずその子の『恵根』を見させてもらいたい」
*1 恵根:天賦、素質
そう言って、常勝は子供に手を伸ばした。
「さあ、こっちにおいで」
「……」
子供は常勝に一目をしたら、頭を別の方向に振り向いた。
「勝さん、表情が硬い」
殷実紀に注意されたら、常勝はちょっと不自然な笑顔を作って、できるだけ柔らかい声でもう一度話をかけた。
「ごめん、怖かった?大丈夫だ。お兄さんはいい人だ」
でも、子供はもっと修良にしがみ付いて、顔を修良の胸の中に隠した。
「困ったな……」
常勝は眉間を掴んだ。
「そんなに先輩がいいのか……確かに、先輩がいいけど……」
修良が優しく子供を慰めるのを見て、幸一はちょっと微妙な気持ちになった。
「この子の名前は?」
殷実紀が中老の男に聞いたら、男は困惑しそうに聞き返した。
「えっと……『恵根』とやらのことを、そちらの方にやってもらえいないかね……その子も彼のことが気に入っているし」
なんとなく舐められたような気がして、常勝はいっそう手を放した。
「どうやら、その子は修良さんと縁があるようだな。代わりに、修良さんが見てくれないか?それと、ここより、人の多い九香宮のほうに預けたほうがよいかもな」
「っ!」
幸一はドキッとした。
修良と縁があるって……もしその子が玄天派に入ったら、修良がお世話担当になるかも……
「できなくもないが、私にはそのような権限を与えらえていません。九香宮の規定では、仙導師の判断が必要です」
修良が頷かなかったので、幸一はほっとした。
「それなら仕方がないな。一度、お二人を九香宮に連れてもらえないか?」
殷実紀が提案した。ついでに、修良と幸一を追い払えばとも思った。
修良はまだ可否を言ってないのに、中老の男は困った顔をした。
「そ、それはちょっと……九香宮は、かなり遠いだろ?わしの命は数日しかないかも知れないし、足もこのざまで……」
「実は、俺たちは事情があってまだ戻れないんだ。申し訳ないけど、召喚靈獣で送ってあげよう!」
幸一は袖から一本の青い羽を出して、空に投げる。
強い風と共に、巨大な青い鳥が現れた。
「どうぞ、乘ってください!」
「あああああ!!」
男は叫んで、お尻もちをついた。
「できない!絶対できない!!」
「なんで?飛ぶのはだめなのか?」
「いや、飛ぶの問題じゃ……」
殷実紀は何かを言おうとしたが、修良のほうが一歩早く黒玉の枕を投げた。
枕は黒銀の毛並みの巨大虎に変化した。
「それなら、陸上から穏便に行きましょう」
「いやああああ!だめだ!!勘弁してくれ!!」
虎の雷鳴のような咆哮の中で、男は常勝の足を掴んで、必死に頭を横に振った。
「修良さん、幸一……うち、馬がいるから、普通に送ってあげたらどうかな」
「でも、馬だと、その方の足が……あ、そうだ!」
幸一はピンときた。
「その足を治せばいいんだ!」
「えっ、治せるんですか!?しかし、骨も筋も完全にだめになったって医者さんから言われて……」
中老の男は驚いた。
「先輩なら治せるよ!な、先輩!」
「!!」
幸一の言っている意味に気づいて、常勝と殷実紀は震えた。
「あの、馬はだめだったら、馬車で……」
常勝はまだ止めようとしたが、男のほうはもう躍起した。
「お願いします!ぜひ、お願いします!!」
「先輩、この方の足を治してあげてください!俺は霊気をあげる!」
「幸一がそう言うのなら」
修良はヒマワリのような笑顔で承諾した。
まもなく、三虎観の中で盛大な悲鳴が響いた。
「実紀、彼らを泊まらせて、俺、間違ったのかな……」
常勝は自分の判断を疑った。
殷実紀は無言にため息をついた。
あの二人が玄天双煞と呼ばれる理由はなんとなく分かった。




