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八十六 骨、骨、骨

二年前、玄天派三年一度の総会が九香宮で開かれた。


総会では、支部の間の情報交換や親睦、修行の報告、法術の研究など、さまざまな交流が行われる。


そのなかで、みんなが最も期待している行事は武闘大会。弟子たちの玄天派での戦力順位は、毎回の大会の結果に合わせて、あらためて計算される。


当時、十六歳の幸一は初登場、初戦で三虎観の常勝に遭遇した。




常勝は早々試合場の真ん中で構えたのに、幸一がなかなか上がってこない。


新人だから緊張しているだろうと、


常勝は自分の齢の半分しかない幸一に手柔らかに対応するつもりだったけど、幸一と修良のやり取りを見たら、なんとなくムカついた。   


修良は、登校初日の子供を心配するように、幸一の髪の毛の結び方から、靴ひもについている装飾の玉まできっちりと確認した。


優しい微笑みでいろいろ注意点を話しながら、扇で涼しい風を幸一に送る。


戦闘後のお茶や点心まで用意した。


「……」


入門してから師匠に冷遇し続けられた常勝は、ひどい落差を感じた。


その上に、幸一は彼に一目をしたら、


「先輩は心配しすぎるよ。すぐ終わらせる」


と軽々しく勝利宣言までした。


そこまで言われた以上、常勝の自尊心が許さなかった。


気付いたら、もう幸一に皮肉を吐いた。


「玄幸一だよな。もういい歳だから、ママから離れたらどうだ?」


普通に、顔のことさえ言われなければ、幸一もそう簡単に怒らない。


でも常勝の言葉が修良を巻き込んだので、幸一は容赦なく言い返した。


「修良先輩は俺の母のわけがないだろ?先輩の目が悪かったら、武闘会より医者さんのところに行ったほうがいいいと思うよ」


「!」


前列で観戦する人たちの中で、数人が笑い声を零した。


常勝の顔がパッと熱くなった。


三虎観は玄天派の一番小さいな拠点、だからこそ、どこよりも負けず嫌い。


首席弟子の自分が、全門派の前で後輩に馬鹿にされてはいかん!


常勝は意地になって、また幸一に言い返した。


「修良?ああ思い出した。総部の九香宮で修行しているのに、何年も緑帯で昇進できない人がいると聞いた。その名は天修良だったな。武闘大会にも出なくて、戦力順位にも入らないな。なるほど、もう新人の下僕になったのか」


「!!」


幸一の瞳が一瞬拡張した。


「幸一!」


修良は幸一の腕を掴まなかったら、試合開始の前に戦闘はすでに開始した。


幸一は怒りを我慢して、試合場の真ん中に来て、常勝と話を続けた。


「修良先輩は大きな術を修行したせい体を壊した。この大会は総合戦力で勝負をつける。法術だけでの実力なら、修良先輩の右に出る弟子がいない」


「本当か?そもそも、体を壊したのは実力不足のせいじゃなかったのか?」


「!」


その解釈で、幸一は本気に怒った。


思いきり愛用の細剣を地に刺し込んだ。


「それなら、俺は修良先輩から教えてくれた法術だけを使って、先輩をねじ伏せてみせる!俺が勝ったら、修良先輩に謝ってもらう!」


「ふ、面白い、じゃあ、俺も法術だけで立ち向かおう!」


常勝は体術のほうに長けているが、さすが法術で新人に負けないと必勝の自信を持っている。ドヤ顔で愛用の槍を置いた……




ただ十五分で、幸一は常勝を空から地面に叩き落とした。


使った法術は修良から教えてもらったばかりの術「流音衝気(りゅうおんしょうき)」。


風を操り、気圧と音波で敵を攻撃する術で、威力が強いが、激しい傷害を与えにくいものだ。


しかし、手加減ということを知らない幸一は霊力を入れ過ぎたせいで、試合場の地面とともに、常勝の全身の骨を砕けた。




***


なんとなく当時のことを思い出したけど、幸一はどこか信じられなかった。


「確かに、とんでもない音がしたけど、全身の骨がないね……ね、先輩?」


幸一は気まずそうに笑顔を作って、修良に確認した。


「そうね、確かに、全身とは言えないだろう。七十二箇所だけだった」


「……」


修良にそう言われた以上、幸一は自分の「悪行」に観念しかない。


「そう言えば、その後、常勝さんは九香宮の救急室に運ばれて、私は幸一を次の試合の準備に行かせたような……なるほど、だから幸一は常勝さんの診断を知らなかったのか」


修良はゆるゆると事情の全貌を思い出した。


「手荒な真似をしてしまって、大変申し訳ございませんでした……」


幸一は三虎観のみんなに深く頭を下げた。


そして、後ろめいた気持ちでおだてまでした。


「でも、七十二箇所の骨が折れたのに、今は完全回復したのね、二年前よりもたくましく見えます!さすが常勝先輩です!」


「チクショウ!どこまで俺たちを侮辱する気だ!!」


機嫌が直るところか、三虎観の人たちの怒りがもう一度爆発した。


「えっ、ぶ、侮辱するつもりは……」


「その天修良が、常勝先輩にしたことを知らないとでも言いたいのか!!」


今回、三虎観の人たちの矛先は修良に向けられた。


幸一はぼうっとしてもう一度修良に確認を求めた。


「先輩……?」


「大丈夫。悪いことをしなかったよ」


修良は幸一にやさしい笑顔を返した。


「私は『破滅の棘』で常勝さんの骨を繋げて、生命の霊気を注ぎ、彼全身の骨を再生させた。それだけだった」


「だ、だよね!ありがとう先輩!」


幸一は嬉しそうに気を緩めたばかり、三虎観の人が更に詳しい内情を吐いた。


「よく言えるな!!その破滅の棘とやらは常勝先輩の骨を侵蝕し、折れなかった部分の骨も粉々にしたんじゃないか!」


「……」


あの時のことをもう一度聞かされ、恐怖と苦痛も一緒に蘇ったように、常勝の顔が青ざめた。


「あれだけ砕けられた骨だから、一度完全に破壊しないと、元通りに再生できません。破滅の棘は、ただ彼の骨を破壊したのではなく、体に散乱していた骨の屑を集めて、ずれた骨を正しい位置に配置したのです。再生する時に、元の骨のゆがみの修正や脆い部分の補強にも役に立ちました」


「なんて詭弁だ……!」


「い、いいんだ!!」


場面がますます混乱になっていく中、当事者本人の常勝は止めに入った。


「みんなは同門だから、過去のことをよしとしよう!」


「常勝先輩!」


もちろん、三虎観の皆は納得できない。


「確かに、天修良さんの言う通り、あれから、俺の骨の平衡性が強化されて、前よりも力強くなった。もともと、後輩の玄幸一を舐めた俺が軽率だった」


常勝の本心だと、あの悲惨な経験を二度と思い出したくない。


それに、万が一衝突になれば、この二十何人が自分と同じような破目になる可能性もなくもない……


この話を早く終わらせたほうが得策だ。


「そんな昔ことより……二人は用事があって来たのだろ?」


「さすが首席弟子の常勝さん、度量が違いますね」


修良は微笑みで常勝の判断を認めた。


「……」


幸一は常勝に向けてもう一度頭を下げた。


「常勝先輩、二年前のこと、本当に申し訳ございませんでした!でも今回は、本当に、謝りに来たのです……別のことのために……」


かなり言いにくそうな雰囲気になったけど、幸一は素直に土龍(どりゅう)村のことを説明した。




幸一はもう一度怒られる心の準備ができたが、三虎観の人たちはそんなに騒がなかった。


「なんだ、それくらいのことか……」


「二年前のことと比べれば、随分手加減したんじゃないか……」


「人間も妖怪も無傷で、玄幸一にしてもう上上だろう……」


「……」


どうやら、三虎観の人たちにとって、常勝のことと並べてみたら、土龍村のことがかなり小さく見える。


「事情は分かった。土龍村とは長年の付き合いだ。こちらから弟子を遣って、村人たちに説明をする。みんなは分かってくれるはずだ。お二人は気に悩まないでくれ」


常勝は穏便な解決法を提示した。


「本当に申し訳ございません!三虎観にお手伝いできることでもあったら、なんでも言ってください!」


幸一の熱い視線に見つめられて、常勝はなんとなくよくない予感がした。


できれば、これ以上幸一たちと関わりたくない。


けど、同門として、三虎観の首席弟子として、たとえ建前でも度量を見せなければならない――それは、二年前の一件からもらった深刻な教訓だ。


「それなら、困獣陣の修復を頼もう。あと、もうすぐうちの三虎祭だ。必要があったら、もろもろ手伝ってもらいたい」


殷実紀はこの対応法に賛同するように、一度常勝に頷いた。そして、さっそく「厄払い」をした。


「今日はもう遅いし、具体的な話しは明日にしよう。景姝、お二人に客室に案内してくれないか?」


「あっ、はい!幸一、修良さん、ついてきてください!」


みんながまだ幸一たちを忌憚しているのが分かって、景姝は速やかに二人を連れ出した。

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