八十五 恨みあり
三虎観は夜の団体修行を設けている。
夕食後の二時間は自由時間で、夜の団体修行まで、みんなそれぞれ用事を済ませるか、休憩をとる。
今日、王鋼と李鉄という二人が買い出しに出たばかりなのに、いきなり慌てて戻ってきた。
「大変だ!あの玄幸一と天修良が来ている!!」
「全員集合だ!大事件だ!!」
二人は観内で叫びながら走り回って、みんなを主殿に集めた。
「玄幸一と、天修良っ!?」
それほどの驚きを見せなかったが、三虎観の首席弟子――常勝は、心の中で誰よりも大きく反応した。
その二つの名前を聞くだけで、彼は骨からガタッと異様な音が出たような気がした。
常勝は今年三十四歳、少年時代から仙道と武道の達人で、名前通り、戦闘中に「常勝」だった。
しかし、二年前の玄天派総会で、彼は自分の半分の齢しかない十六歳の幸一に負けた……とても悲惨な形で……
常勝と違って、ほかの何人かがかなり取り乱していて、ざわざわした。
「あんな奴ら、何をしに来た!?」
「わ、わからない、とりあえず、外の困獣陣で足を止めた」
「最近、玄天双煞というよくない噂があちこち散らばっている。やはり、あの二人のことか……」
「特にあの玄幸一、復讐のために手段を選ばないと言われている」
「この間、あの天修良は手配犯になったな。平和協定を破って、妖界に挑発したらしいぞ」
「まさか、いよいよ正道をやめて、玄天派を潰しに来たのか……!?」
「全員で迎え撃つしかない!」
「宗主に報告しよう!!」
「あの、待ってください!」
混乱の中、一人の若い女性は冷静に手を上げた。
みんなを呼び止めたその女性は、九香宮の景媛の双子の妹、景姝だ。
姉と顔から能力までそっくりで、お互いの考えまで分かる。
二人が一緒にいると自分がなくなるのを感じて、景姝はあえてこの玄天派の一番小さな支部に入った。
「この間、手配犯のことで姉に確認したけど、何か誤解があったらしい。本当は、宗主が天修良を守るために手配したって。玄幸一も、聞いた話だと、基本的に正義感の強いいい子で、ひどい手段で復讐するような人間じゃないみたい。みんな同門だから、もっと彼たちを信用したほうがいいじゃない?」
「景姝、私も彼たちを拘束するのを賛成だ」
もう一人冷静でいられたのは、殷実紀という青年。三虎観の弟子の中で、二番目にあたる人物だ。殷実紀は落ち着いた口調で景姝に反論した。
「どうして?実紀先輩はいつも理性と事実で物事を判断する主義じゃない?噂に惑わされちゃだめだよ!」
「そう、俺は理性と事実で物事を判断する。だから、《《『らしい』、『聞いた話』、『基本的に』、『みたい』》》のような不確かな印象より、自分の目を信じる」
そう言って、殷実紀は悔しそうな視線を常勝に移した。
「あの玄幸一と天修良は、勝さんに何をしたのか、お前もその目で見たのだろ!」
「……」
景姝は返す言葉がなくなった。
「それに、明後日は一年一度の『三虎祭』、こんな時期に何かあったら、お祭りを楽しみにしているみんなにも申し訳ない」
「……」
「三虎祭?それ、なんですか?重要行事?」
ふいに、誰かが質問声を上げた。
「馬鹿か!この間みんなずっと準備しているんじゃないか!三虎観に入って何年目だ!?」
誰かがその空気を読めない質問を出したものを叱った。
「入ったのは今日初めてです」
「はぁ!?こんな大事な時に、冗談を――」
変な質問と答えに辿って、みんなが一斉扉のほうに振り向いたら――
「げ、玄幸一!!」
「お久しぶりです。三虎観のみなさん」
――さわやかな笑顔で手を振る幸一と、その後ろに静かに立っている修良の姿があった。
「嘘だ!困獣陣はしょぼく見えるけど、こんな短時間で脱出するはずがない!」
李鉄は信じられない声を上げた。
「すみません、しょぼく見えるから、壊してもすぐ直せると思って、脱出じゃなく、破壊したんだ……」
幸一は申し訳なさそうに説明したら、三虎観の人たちから強く反発を受けた。
「チクショウ!来た早々挑発する気か!!」
「いえいえ!実は、謝罪しに来たんだ!」
幸一はさっそく深いお辞儀をした。
「謝罪?」
「ほら、言ったでしょ!幸一はいい子って!」
景姝は前に出て、幸一を憤慨する同門たちと分けた。
「謝罪だと?遅すぎると思わないか?」
殷実紀は冷笑した。
「二年前、勝さんはどれほどの苦痛を耐えたのか、お前には分かるものか?いまさら謝罪するところで、許されると思うのか?」
「……」
幸一は小首を傾げて、困惑しそうに聞き返した。
「勝さんって、常勝先輩……?俺、常勝先輩に何かしたか?」
「はああ――!?」
一度静まった場面がまた騒ぎ出した。
「その件ために謝罪しに来たんじゃないのか!?」
「いいえ、別件で来たけど……」
「じゃあ、常勝先輩のことはどうするつもりだ!?」
「だから、常勝先輩に何を……」
幸一はますますわけが分からなくなる。
常勝の顔がますます暗い色に染められる。
「忘れたとでも言いたいのか!?」
王鋼は一歩前に出て、必死に情緒を我慢する常勝を指さす。
「二年前、お前は玄天派総会の武闘大会で、常勝先輩の全身の骨を折ったことを、ここにいる全員がこの目でしっかりと見てたんだ!!!」
「!?!?」
意外な事実に、幸一はかなりの衝撃を受けた。
小さく一歩を下げて、こっそりと後ろの修良に聞く。
「先輩、俺、そんなことしてたっけ……?」
でも、修良も意外そうな顔で聞き返した。
「ん?幸一は常勝さんが全身の骨が折れたことを知らなかった?」
「!?」
修良にも言われたので、幸一は極力で記憶を探った。




