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八十四 耐えられない恩恵

徐家の人たちの議論は修良の風に乗って、幸一たちの耳に入った。


玄天双煞の汚名を洗浄するどころか、逆に根付けたようだ。


「なぜこうなるんだ……先輩、俺はよいことをしたよね……?」


幸一は珍しく、自分の行いを疑った。


「よいことをしたと思うよ」


でも修良は相変わらず幸一を肯定した。


「そう言えば、俺は良い行いを提案した時、先輩は覚悟をしたほうがいいと言った。ひょっとして、こうなると予想したのか?」


「こうなると予想しなかったけど、幸一が期待した結果にならないと予想した」


「どうして!?」


幸一はさっそく修良を掴んで問い詰めた。


「幸一は前世の福徳を受け取ってから、自分の福徳の規模をちゃんと見たことがある?」


修良は淡い微笑みで幸一に聞き返した。


「いいえ、制御するのに精いっぱいで……」


幸一は頭を横に振った。


修良は眉の間に意識を集中して、脳内で霊界を見る第三の目を開けた。


すると、彼の目に映している幸一は、輝かしい光となった。ただ、一本の黒い鎖が浮かんでいて、光を人の形にまとめている。


「あれだけの福徳を呑み込んで、膨大な力を獲得した幸一は、霊的な次元ではほぼ光体、私の鎖がなければ、いつでも神になれるだろう」


「!!」


「『神級』の力を持つ幸一は、軽々しく普通の人間に恩恵を与えたら、普通の人間はどうなると思う?」


「!?」


修良に言われて、幸一も問題のあるところに気づいた。


「普通の人間は自分の福徳に相当するものしか受け取れない。もし、福徳の大きさに相応しくない膨大な幸運や、恩恵を受け取ったら、逆に運命を潰される危険性がある……」


「その通りだ。幸一は一粒の米をやるつもりだけど、彼たちにとって山一つを受けたことになるかもしれない。幸せになるどころか、潰されなかったのはもう幸いな結果だ。今回は屋敷の破壊と恐怖感だけで済んで、もう最善な結果と言えるだろう」


「なぜこうなるんだ……」


真実を知った幸一は、呆然と最初の疑問を繰り返した。


「ということは、俺はよい行いをしても、逆に相手に迷惑をかける……これじゃ、玄天双煞の汚名を洗浄できなくなるんじゃない!?」


「善行の規模によるね」


修良は幸一の肩を軽く叩いて、幸一を慰める。


「例えば、凶暴で残忍な人食い妖怪がいて、幸一は人々のためにそれをやっつけた。その規模の善行は神のなすべきことだから、みんなに幸福をもたらす」


「汚名洗浄のためとはいえ、人食い妖怪がいてほしくないな……」


解決法があるけど、幸一は更に困った。


幸一に落ち込む隙を与えない、修良は別の問題を上げた。


「ところで、今回の件は、もともと三虎観への依頼だったのね」


「!!」


幸一の全身が固まった。


同門の仕事を横取った上に、門派の汚名を広めた……


謝罪に行かないと……




芳蕊山にある三虎観は、玄天のもっとも小さな支部。


唯一の仙導師を含めて、二十三人しかいない。


仙導師は笑面仙君(しょうめんせんぐん)と呼ばれる男性。少年の姿をしているが、伝説によると、もう五百歳を超えている。


支部の管理方は放置主義。年二か月ほど、仙導師が三虎観に戻って、弟子たちの指導をする。それ以外の時間は仙導師が何処かに姿を消す。


そのようなところに弟子入りを希望する人は指で数えられる。その数の少ない希望者も、大体笑面仙君に会う前に忍耐が切れて、断念する。


だけどその反面、無責任な師匠に耐えられ、修行を続けられる人たちは、どれも自己管理意識が強く、硬い意志を持つもの。


人数の多い支部でよくある弟子たちの間の争いは、この三虎観には存在しない。


師匠がいない分、弟子たちは団結一致で、「親がいなくてもちゃんと育てられた!」みたいな妙な誇りを持っている。




三虎観は芳蕊山の下段にある。年中に普通の人々に開放して、人々の生活に手伝い、地元とよい関係を築いた。


「前回三虎観のみんなに会ったのは、二年前のことか。みんな、俺たちのことを覚えてるのかな」


三虎観の正門が視野に入ったら、幸一は一度止まって、周りを観察した。


山道はかなり整備されていて、道辺に鑑賞の植物まで植えている。


「きっと覚えているよ」


修良はにっこりと頷いた。


「幸一こそ、みんなのことを覚えているのかな?」


「もちろんだ!ここの首席弟子は常勝(じょうしょう)さん。二年前の玄天派総会で、手合わせをしたこともある」


「その手合わせはどうなったっけ?」


「俺が勝った」


「……」


「……」


「……」


「先輩?」


修良が黙って幸一の続きを待っていたら、幸一は疑問そうに修良を見る。


「それだけ?」


「それ以外?特にないけど……」


幸一はパチパチと無実そうに目を瞬いた。


修良は横に向けて、困りそうに長いため息をついた。


「……なるほど、覚えているからその依頼を横取ったのではなく、覚えていないからか……」


「先輩、何を言っている?」


幸一にもう一度聞かれたら、修良は真剣そうに幸一の目を見つめる。


「いいか、幸一。この先を進めば、面倒なことになる覚悟が必要だ。今なら、ここを去る選択肢もあるよ」


「覚悟!?まさか、今の俺は同門に謝罪もできないのか!?」


「『今』の話ではなく……」


修良はまだ何かを説明しようとしたら、上の階段から三虎観の弟子二人が降りてきた。


四人が目を合わせると、三虎観の弟子たちは化け物でも見たように口と目を大きく張った。


「ま、まさか……」


「そ、その顔……ほかの人のはずがない!あの、玄幸一だ!!」


「だったら、隣にいるのは……天修良!!何故ここにいる!?!」




「あの、顔のことはともかく、俺、確かに玄幸一です。唐突ですみませんが……」


謝罪しに来たので、幸一はとにかく「顔」のことを我慢した。


でも、事情を話し出す前に、三虎観の二人は何か呪文を念じた。


すると、山道の樹木と石がすみやかに位置を変えて、幸一と修良を真ん中に囲んだ。


「これ、防御の陣法!?なぜだ!?」


「動くんじゃないぞ!!」


驚いた幸一に、二人の弟子は力一杯で叫んだ。


「お前たちの処置は、みんなで検討するから!!」


「……」


幸一の困惑の注目の中で、二人は急いで三虎観へ駆け戻った。

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