八十三 不慮な裏目
部屋が空室になったら、幸一は袖から一本の青い羽を取り出す。
幸一は二本指で青い羽を挟んで、霊力を入れたら、羽が一本の青く光る細剣になった。
幸一は剣先で流れた光で部屋の床に円陣と描いてから、剣を円陣の中心に置いて、自分はその隣に立った。
「濁音穢影、無所遁形」
幸一は呪文を唱えながら、両手の人差し指と中指を目の前で十字を作る。
そして、右手の二つ指で迅速に左手の指を擦って、空を向ける。
すると、円陣の中心に置かれた細剣が垂直に空中に飛んだ。
「清氷流雨——!」
幸一は陣の名前を呼び出すと、細剣は陣の中心に刺し込んだ。
円陣から無数の氷の針が浮かんできて、雨の帳のように広げていく。
針の微かな動きから、幸一は妖怪の気配の方向を掴めた。
幸一は方向を指で指示すると、氷の雨が一気に地下に突入する。
とっさに、床の下から悲痛な叫びが響いた。
「がぁぁぁぁ!!」
続いて、一匹の黒影が地下から床を突破し、天井へ飛び上がる。
「!!」
幸一はまだその黒影をはっきり見ていないのに、その黒影が慣性のまま屋根まで破って空へ飛んだ。
「あ、あれは!?妖怪なのか!?」
外で様子見の徐家の人たちは騒ぎ出した。
修良は指先から一陣の風を飛ばし、その黒影を抑えて、部屋へ送り返した。
妖怪の正体を見るために、みんな急いで部屋に駆け付けた。
「!?!」
部屋の中に、一匹の巨大鼢が腹ばいに倒れている。
大きさが大人の男性くらい、人間っぽい服を着ていて、苦痛なう喚き声を漏らしている。
幸一は細剣を一度抜き出して、鼢の隣の床に刺し直した。
「お前は何者!?なぜこの家の下で喚きをしていた!?」
「う……ぼ、ぼくは……この土龍村で生まれ育った鼢妖怪、名は――」
鼢は力を絞って、小さな目を張って、幸一を見る。
でも、幸一の顔を見た瞬間、全身が固まって、言葉が止まった。
「うん?どうした?名はなんだ?」
「幸一、剣を人の頭の隣に刺すという聞き方はよくない」
修良は幸一の後ろ来て、やさしく幸一に注意した。
すると、鼢の小さな目が五倍も大きくなって、悲惨に叫んだ。
「いやああああああああ――!!!」
「お許しください!!お許しください!!!」
みんなのわけも分からない視線の中で、鼢は狂ったように床を掘る。
でも、幸一に尻尾を掴まれて、一歩も地下へ進められない。
修良の袖から妖怪を食う巻物が飛び出して、自動に展開した。
「なるほど、以前噂の件で会っていた鼢妖怪の徐徐さんですね」
修良は妖気と照らし合わせて、鼢妖怪の身分を明かした。
「は、はい!ぼくです!どうか、どうか勘弁してください!!」
逃げることを諦めて、徐徐は幸一と修良に土下座をした。
「あの時、ぼくは何も知らなかった!!お二人が噂の玄天双煞だと知っていたら、尾行なんて絶対しませんでした!!」
「はぁ!?なんでお前まで玄天双煞を知っているんだ!?」
もともと冷静に事情を聞くつもりの幸一はいきなり大声を出した。
「きゃあ!お許しください!お許しください……!!」
「……」
幸一が思わなかったのは、徐家の人もその言葉に反応して、ざわざわ議論し始めた。
「玄天双煞っ……!」
「確かに、玄天双煞だと言ったな……」
「ああ、あの噂の……」
「まさかね……」
人々が自分を見る目が疑わしいものになったのに気付いて、幸一は長いため息をついた。
仕方がなく、幸一は鼢の頭に一本の呪文を描いた。
「鎮静」
「――」
鼢がぼうっとなっていて、やっ落ち着いて話ができるようになった。
「あの日、お二人から任務を任されたけど、ぼくはひどい社交恐怖症で、ほかの妖怪みたいに人脈に頼って情報収集もできないし、あちこち歩き回ってご依頼した噂をばらすのもできなかった……このままだと、きっとあの巻物に食われる、せめて、死ぬ前に、安静に暮らしたいと思って、生れたこの村に戻った……」
「この徐家は、今年いっぱい倉を立っていた。ここの地下に住めば、生きている間に食べものに困らないと思って、屋敷の下で穴を掘った……」
「だけど、ぼく、臆病すぎで、なかなか安眠できない。いつも喰われる悪夢を見ていて、喚いていた……本当は、みんなを怖がらせるつもりはなかった……これだけを、信じてください……」
徐徐はぽろぽろと涙を零しながら事情を説明した。
「なんだか、可哀そう……」
「よく見てみたら、ちょっとかわいいかも……」
徐家の人たちから、なんと鼢を同情する声が上がった。
「ここにいる理由は分かった!任務のことはもうどうでもいいから、ここから離れて、元の生活に戻れ」
「えっ、い、いいんですか!?」
幸一の要求を聞いて、徐徐は信じられないように目を輝かせた。
「その『生きることも、死ぬことも、転生することもできない』刑罰をもう受けなくていいですか!?」
「ああ、そうだ。先輩、こいつの名前……いいえ、残ったすべての名前を削除してくれ」
「幸一がそう言うのなら」
修良は軽く笑って、指を振一りして、巻物にある名前を全部抹消した。
「あ、ありがとうございます!この命の恩を決して忘れません!これから玄天双煞様の信者になります!!」
「そんなことより――その『玄天双煞』という呼び方は、一体どこから聞いたんだ!!」
もう一度汚名で呼ばれた幸一は我慢できず、拳で床を叩いた。
「ひっ!!」
徐徐はまた怯えて身を縮めた。
半時間後、幸一と修良は徐家の人のビクビクの視線の中で、徐家を離れた。
「信じられない、あんな絵のような二人が、玄天双煞だなんて……」
「伝説によると、玄天双煞は少年と青年の二人組。月も星も恥じらう絶世の美貌を持つ少年だけど、時に人食い虎に変身し、人を引き裂ける;優雅な仕草と温和そうな微笑みを持つ、いかにも善良に見える青年だけど、平然と残忍な悪知恵を差し出す……人の外見に騙されてはいかないな……」
「だな、みんなも聞いただろ、あの鼢が言った、とんでもない残酷な刑罰……」
「もうやめて、鼢の喚きなんからより、そっちのほうが怖いわ」
「新しく修繕された屋敷も壊されたな……」
「なんであの二人を招いたの?」
「仕方ないだろ!玄天派の衣裳を着ていて、進んでついてきたから……」
「これから慎重に人を選べ……妖怪の信者を持つ仙道の人間だなんて、聞いたことはない……」




