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八十一 玄天双煞という汚名

玄天双煞(げんてんそうさつ)


いつの間にか、人間界で名を響かせた恐ろしい仙道の二人組のこと。


正統仙道の玄天派からの出身にも関わらず、二人は数々な凶悪事件を起こした。


悪行その一、些細な意見の違いで、人間と妖怪の平和関係を破壊し、妖界の広い土地を焦土に変えた;


悪行その二、些細な不満で、大量な人間に暴力を振る舞い、生身の人間を人食い虎の生贄にした;


悪行その三、些細な恨みで、妖界の扉を開けて、悪しき妖怪を人間の町を襲わせ、身内まで妖怪に献上した;


悪行その四、些細な遊び心で、善良な妖怪を脅迫し、反抗意志を示す妖怪を喰った;


悪行その五、些細な誤解で、幽冥界の役所を破壊し、役人を重傷した;


…………


悪行二十二、些細な下心で、町中の傷薬を買占め、商店街を貸切、ほかの利用者に大変ご迷惑をかけた;


悪行その二十三、些細な気まぐれで、(ちょう)家村のとあるおばあさんが曾孫のために用意した桃饅頭を盗み食った。




「その玄天双煞って、俺たちのこと!?」


修良(しゅうりょう)が集めた情報を聞いたら、幸一(こういち)は信じられない声を上げた。


「前の何件なら、誤解で変な話しになったのかもしれないけど、最後のはどいうこと?誰が桃饅頭の盗み食いするんだ!明らかに濡れ衣だろ!」


前世の意識を受け取ってから、幸一はすっかり大人になったつもりだ。


だけど、こんな身もふたもない悪質な噂を耳にしたら、さすが我慢できない。


更にひどいのは、噂を形にするものが目の前にいる。


「それに、これらはなんなんだ!?」


情報と共に、修良は参考用に数冊の本を持ち帰った。


書名はどれもかなり衝撃的なもの(あくまで幸一にとって)。


『転生したら玄天双煞!破滅の運命を回避するために、一生懸命改心しなくちゃ!』


『前世で玄天双煞と呼ばれた極悪非道の俺、今度の人生は世界平和のために尽くす』


『無能は継母だけど、愛する我が子を玄天双煞に育て見せます!』


『伝説中の悪女玄天双煞を目指したのに、なぜか敵国の冷徹皇子に執着された~政略結婚の溺愛が止まらない~♡』


……


「一体誰が書いたんだ!!名誉棄損だろ!!」


幸一が本を机に投げ出す寸前、修良は補強法術を放出して、宿の木製机を守った。


幸一に情報収集に行かせなかったのは正解だった、と修良は心の中で嘆いた。




「なぜ俺たちはそんなふうに伝わられなければならないんだ!!」


修良は拳が震えている幸一に涼茶を差し出した。


「落ち着いて幸一、これらの書名をよく見てくれ。『玄天双煞』以外のところは、流行っている娯楽小説の書名とあまり変わらないだろ」


「それは、つまり――」


「つまり、『玄天双煞』単独で人気を集められない。私たちの悪名の認知度はまだまだ低いってことだ」


「不幸中の幸いだけど……なんで残念そうな言い方?」


修良のその態度、本当は楽しんでいるじゃないか、と幸一は疑った。


「気のせいだ。実はとても困っている」


修良はニヤニヤしていて、とても困っているように見えない。


「困っているのは、認知度が低いってこと?」


幸一は疑わしい目線を返した。


「幸一、最近、かなり言うようになったのね」


「人間不信を教えてくれたのは先輩だろ……」


修良の趣味にどうしようもない。幸一は仕方なくため息をついた。


「とにかく、俺の噂なら前からすでに諦めたけど、今度は先輩までネタにされた。なんとかしないと……」


「私は別にいいよ。玄天派に帰らなくても。幸一と一緒ならどこにいても変わらない」


本心で言えば、修良は「玄天双煞」の異名を気に入った。


「幸一と一緒」なら、何を言われてもいい気分だから。


「玄天派に帰れるかどうか以前の問題だ!悪名が広まったら、俺たちだけじゃなく、門派の名誉まで傷付つける。師匠やほかの皆は誤解しなければいいけど……」


真面目に焦っている幸一を見て、修良はやれやれと笑った。


「宗主も、嘘つきになったな」




旧世界へ幸一を迎えに行く前に、九天玄女(きゅうてんげんにょ)は真摯な態度で彼に言った。


「……貴方は私と玄天派を今日まで導いた先生、幸一は私の大事な弟子です。ここは、いつでも貴方たちの帰る場所です」


でも残念なこと、どうやら、九天玄女は「玄天双煞」に帰る場所を提供するつもりはないようだ。




「その帰る場所のために、汚名を洗浄しようか」


修良は微笑みながら、指先で返事の白蝶を作った。




***


悪名に関して修良はどうでもよいけど、噂そのものを放置するつもりはなかった。


戸籍文書の旅に出てから、幸一がネタにされたのは初めてではない。


だが、以前の噂だったら、幸一が復讐公子だとか、人食い虎の変身だとか、親妹を青楼に売りつけたとか……みんな、内容がバラバラで整合性がない。


退屈な人々の遊び心によって偶然に生れたものだと考えられる。


「幸一を食べたら修為が上がる」という噂のあたりから、意図的な操作の痕跡が見えた。


そして、今回の「玄天双煞」の噂は、明らかに誰かの工作だ。


二人の行動範囲はとても広かった。人間界、妖界、幽冥界を往来し、天寿(てんじゅ)国の東から西まで広い土地を渡った。


二人の行動を把握するのは至難の業。


なのに、「玄天双煞」の噂では、二人が関わった数々なことに触れて、条項までまとまっている。


一般人が単純な趣味で成し遂げることではない。


意図的に噂を流す黒幕がいれば、その黒幕はしつこいほど二人を追跡していたのだろう。




「その黒幕は、かなりやばい奴に違いない!」


冷静に分析したら、幸一はまさに修良と同意見。


「あいつの目的は見えていないが、結果から遡って推測してみよう。噂の現段階の効果と言えば――」


修良は自然に幸一の手を取って、指を一本ずつ立てる。


「一、玄天派の名誉が傷付く;


二、私たちは一般人や玄天派のみんなに誤解される;


三、私たちが玄天派に戻れなくなる;


四、私たちは人間界、妖界、幽冥界の共通の敵になる;


五、最終的に、私たちは玄天派から追放される可能性がある;でも、玄天派は私たちを追放しない場合、玄天派のほうは大きな恥を掻き、人間界、妖界、幽冥界の共通の敵になる」


「ということは、俺たちより、玄天派を狙っているかも。玄天派と争いのある勢力は玄天派の実力を削るためにその噂を……」


「でも、その前に――」


修良は微笑みで結論に急ぐ幸一の話を遮って、幸一の指を戻して、優しく拳の形に包んだ。


「玄天派も私たちもこのような悪質な噂を放置するわけがない。私たちは必然に、その噂の源を辿る」


「!というのは、黒幕は、俺たちにやつを探してほしいってこと?」


幸一は再び手を開けたら、掌に一匹の黒い蝶が浮かんでいる。


「だと思うよ。噂は、招待状代わりのようなものだ」


修良が指先で方向を示したら、蝶はふわふわと窓の外へ飛んだ。


「でも、変な噂を流す暇があるのに、なぜ直接に会いに来ない?」


理屈が通じているが、幸一はやはり不思議と思った。


「直接に会いに来られない理由があるか、あるいは、私たちを迎えるために、別の何かを用意しているとか」


「……どのみち、よいことはなさそう」


蝶の姿が消えた空を眺めて、幸一の気持ちもちょっと曇った。


「そうね。噂を使って、露骨に『あなたたちのやったことを全部知っている』と宣言したあの黒幕、自分が普通の人間ではないことも示している。何かを用意しているのなら、きっとロクなものじゃない」


修良は頭の中でそのような「人物」を探ってみた。


しかし、この世で自分に気づかれずに二人をこまめに監視できる者は存在しないはず。


あるだとしたら、おそらく、「神」絡みだろう……


修良の気持ちが少し深刻になったら、幸一は拳を鳴らした。


「ちょうどいい。普通の人間じゃなかったら、殴る時に遠慮しなくていい!」


「……」


幸一のその反応が意外で、修良は数秒間ポカンと思考が止まった。


我に帰ったら、修良は思わず笑い声を漏らした。


「そうね、その時、思いきり殴ってやれよ」

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