七十九 帰還禁止令
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旧世界の遺跡から戻って、もう一ヶ月も経った。
一度悪鬼化して斬られた修良の腕はすっかり人間のものに回復したが、悪鬼の力を解放しすぎたせいで、体の所々に黒いカビが残っている。
幸一は膨大な福徳の力を制御するために、毎日も瞑想や霊気の操縦に大量な時間をかけている。
思い出せは、二人が玄天派を離れて、旅に出たきかっけは、幸一の母親が幸一の戸籍文書を大量に偽造し、売りまくったことだった。
偽物の戸籍文書を回収する途中からい、いろいろあり過ぎて、当初の目標をすっかり忘れた。
この日、洗濯物から戸籍文書の探知機を見つけた幸一はやっと思い出した。
「そう言えば、俺の戸籍文書を雪男に渡した妖怪と、変な噂をばらす犯人の探しは全然進んでいないな」
少し前に、幸一を食べれば法力が急増するという噂をばらす妖怪がいた。
幸一と修良はその噂で集まった野良妖怪たちをまとめて「教育」した後、噂をばらす黒幕を探し出すことを野良妖怪たちに命令した。
「それなら、もう心配する必要はない」
幸一の質問に、修良から意外な返事があった。
「えっ、まさか、もう見つけたのか!?」
「見つけたよ。妖怪さんたちはかなり踏ん張ったらしい。この間、ちょこちょこと報告しに来ていた。幸一の修練が邪魔されないように、教えなかっただけだ」
修良は例の巻物を出して、幸一に妖怪名簿を見せた。
その巻物は修良の法具、名前が記入された妖怪を喰う力がある。
役に立つ情報を持ってきたら名前を削除すると修良は野良妖怪たちに約束した。
当初、その巻物に入れられた名前は百近くもあったが、今残っているは僅か十数名だ。
何と言っても、「元神まで潰される」、「生きることも死ぬことも生まれ変わることもできない」などで脅かされた以上、真面目に働かないものはいない。
「一体誰!?俺に恨みのあるやつか!?」
幸一はサッと床から立ち上がって、今でも犯人を殴ろうとする。
「落ち着いて、もう心配する必要はないと言っただろ」
修良は幸一が落とした洗濯ものを拾って、代わりにかごに置いた。
「妖怪がやったことだから、もう適切な担当者に通報した」
「適切の担当者……珊瑚か!」
「そう、あのおせっかい狐だ」
珊瑚というのは、千七百歳もある美形好きな狐妖怪。
かつて妖界の軍で将軍を務めていたが、事情があって、今は人間界と妖界の紛争を処理する使者をやっている。幸一の前でかなり馴れ馴れしい言動をとっている。
修良は自分の手であの馬鹿犯人、いいえ、「犯妖」を懲らしめるのも考えたが、頻繁的にお見舞いに来る珊瑚を追い払うために、やはり妖界役人の彼に任せた。
「珊瑚なら確かにもう心配する必要はない」
「……」
幸一の珊瑚への評価が相変わらず高いもの。修良は鼻で小さくフンだ。
「じゃあ、俺たちはどうする?そろそろ玄天派に戻るか?力の制御について、師匠に見てもらいたいんだし、師匠とあの冥清朗のことも気になるし……」
そう言って、幸一は修良の顔をじっくり見た。
一度完全に悪鬼化した修良は、自分の人間としての顔を覚えていない。
今の顔は、冥清朗という人を真似して師匠に造られたものだ。
冥清朗は仙道の始祖、幸一の師匠の九天玄女の恋人だった人。
数千年前に行方不明になった。
幸一のことを処理する途中に、修良は幽冥界で記憶が削除された冥清朗を見つけた。
あの時、幸一のことが緊急だから、修良は幽冥界を管理する閻羅王を猿に変えて、人質として九天玄女に投げた。
その後、冥清朗の件はどうなっているのか、向こうから一斉連絡がなかった。
でも、幽冥界から何も上がってこないから、九天玄女がうまく処理したんじゃないかなと幸一たちは思った。
「……」
幸一が修良の顔をぼうっと見て、静かになったから、修良はすぐその理由に気づいた。そして、自分を嘲笑うように軽く嘆いた。
「……そうだね。この顔は、冥清朗のものだ。私はもう天良鬼の姿を思い出さないから。でも、もし幸一は覚えているのなら、作り直すよ」
「うんん、冥清朗と全然違うと思う」
幸一は頭を横に振って、話の速度を落とした。
「今考えているのは――顔が同じなのに、なぜ先輩だけがこんなにきれいに見えるんだ」
「っ!」
あまりの驚愕で、修良はビクッと足元が揺れた。
その口調、その言葉、今世の十八歳の幸一が言えるものじゃない!
しかも、絶世の美貌を持つ彼は、自分の外見がきれいだと……!?
まさか、前世の還初太子の意識を受け入れた同時に、その分厚い面の皮も取り入れたのか!
「どうしたの、先輩?悪鬼の力がまた発作したのか!」
修良の様子を見ると、幸一は一気に修良の胸に逼った。
「霊気を分けてあげる」
そう言いて、幸一は両手で修良の両頬を掴んだ。
けど、唇が重なる一歩先にと止まった。
ただ、緊張しそうに修良の目を見つめる。
「……」
この間、何回も霊気の融合をしたから、修良は分かる。
幸一は癖がある。
自分の誘導で被動的に接触する場合、幸一はかなり固まり、いろいろ躊躇う。
でも、自分の状況を心配して自ら接触してくる場合、迷いなく唇を重ねる。
いわば、幸一は本当に衝動になったら、動きが止まらない。
でも今は、幸一が自ら駆け込んだのに、いきなり止まった。
この日々の癖に矛盾する反応は、一つのことを証明した――今の幸一は、冷静だ。
修良は口元を上げながら、片手で幸一の顎を取った。
そして、唇が触れそうに触れない距離で、軽く聞いた。
「幸一、天良鬼の顔の話題を逸らしたな」
「!!」
幸一はさっと体を後ろに引いた。
図星だと知って、修良は困りそうに笑った。
「幸一は本当に大きくなったな。答えたくないくらいで、誘惑の手段まで使うとは」
「そ、そんなことはない!ただ……俺、いいえ、還初太子は顔が変わった云々言い張ったけど、彼もそんなにはっきり覚えていないんだ!」
慌てて弁解する幸一の姿を楽しめるように、修良はわざと挑発な目線で幸一を見つめる。
「そうかな~?」
修良が簡単に誤魔化せる柄じゃないから、幸一はまた別の言い訳をする。
「ああ、そうだ!ちょっと思い出した!確かにいろいろ違うけど、今の顔も天良鬼と結構似ているんだ!顔より気質!先輩の気質は、ずっと変わらないから……だから、作り直す必要はないんだ!」
「……」
幸一はなんのためにこの話題を回避しているか分からない。
でも、必死に誤魔化そうとしているから、修良は今回、彼を見逃すことにした。
「幸一が気にしないというのなら、私はどんな姿でも構わない」
修良は幸一を引き戻して、両手で幸一の顔を取り、二人の額を重ねた。
「でも、本当に何か理由があったら、私に隠さないでほしい、いい?」
修良の温度に触れたら、幸一は全身が暖かくなるのを感じた。
「分かった……先輩に隠すことをしない」
ちょっと後ろめいたけど、おとなしく約束をした。
(ごめん、先輩。)
(もう少し、時間をくれ……)
(天良鬼の顔を覚えていないわけじゃない。)
(でも、たぶん、まだ思い出したくないんだ……はっきり思い出したら、笑えなくなるかもしれない……)
玄天派に戻る準備を整えてから、二人は民泊を退却した。
三源高原の霊気はとても豊富で、景色もいい。
二人は召喚獣を乗らなくて、疲れるまでに歩くことを決めた。
民泊から出て、ゆっくり景色を楽しめるつもりの二人の前に、一匹のキラキラしている白蝶が舞い降りた。
「宗主からの伝言だ」
修良はその蝶を指先に止まらせた。
「こんなに長く離れてて、師匠も心配しただろう。何を言った?」
「……『戻ってくるのではない』」
修良は一度目を細くして、平静な口調に幸一に伝言を伝えた。
「!?まさか、九香宮に何か厄介な事件でも……」
師匠からそんなことを言われたのは初めて、幸一は嫌な予感がした。
「いいえ」
修良は幸一を落ち着かせて、伝言を補完する。
「『玄天双煞』の汚名を洗浄するまでに、戻ってくるのではない、と言った」
「『玄天双煞』?何それ!?」




