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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第二章 美貌は花の如く、捕快珊瑚の登場
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八 悪党がいればぶちのめせばいい

玄家の前で発生した一連の騒動の消息がすぐ広まった。




玄家の唯一の息子は仙道の力を手に入れて、人食い虎に乗って帰還した!


自分を冷遇していた継母と姉たちを維元城から追放し、


父親を自殺に追い詰めた悪党たちを爽快に成敗した。


彼が帰還した日、玄家の前は血まみれになり、切断された手足があちこち散らされていた……




「……で、町の語り部たちがそう語っています」


二郎から最新情報を聞いて、幸一はパキッと朝ごはんの箸を折った。


「なんで俺は殺人鬼みたい語られなければならないんだ!母と姉たちのことも、俺と関係ないだろ!」


「まあまあ、世の中にそういうざまあ系のものが流行りやすいから。他人事みたいに笑って聞き捨てよう」


修良は気楽そうにお茶を一口飲んだ。


「先輩にとって確かに他人事だけどな……」


「何を言っている。幸一のことは他人事のはずがないだろ」


修良は二郎より先に幸一に新しい箸を渡して、やさしい微笑みをかけた。


「ああいう噂は完全に悪いことじゃないと思うよ。少なくとも、しつこく取り立てに来る人は大幅減るだろう」




修良の考えは正しかった。


その吹っ掛けすぎた噂が、戸籍文書の回収に役立った。


自ら進んで戸籍文書を返却し、解約を求める人が何人もいた。


また、「お金はいいから、どうか、命だけを……!」などを口にして、震えながら幸一に土下座する人までいた。


殺人鬼に扱われるのが不本意だが、ある意味で幸一はあの噂に助けられた。


買い手たちが支払った契約金は全部継母に持ち逃げされた。


実家にはもうお金が残っていないし、幸一自身も貯金がほとんどない。


解約後の返金は継母が掴まれた後にすると約束しかできなかった。


買い手たちがその保証もない約束をすんなり受け入れたのは、あの噂のおかげだろう。




夕日に照らされている維元城の商店街。


今日の契約回収を済ませた幸一と修良は並んで歩いている。


「これは維元城にある最後の一枚か。よくも気付かれずに同じ町で十二回も売ったな。買い手たちは馬鹿かよ!」


幸一は手元の点心を食べ終わったら、名簿と筆を出して、一人の名前を消した。


ちなみに、そのは点心は先ほどの買い手に強引に押し付けられた「お礼」だ。


修良は幸一の話に続かなかった。ただ笑顔で通行人たちに適当に手を振っている。


「ん?先輩、さっきから何をやっている?」


「殺人鬼にされたくないなら、周りをもっとよく見ればどうかな?」


「……」


幸一はやっと気づいた。


街中の人々は恐れ恐れの目で彼を見ている。


修良の言った通りだ。いつもムキムキな怖い顔をすると、誤解がますます深まる。


幸一は元気な笑顔を出して、自分をじっと見つめている焼き鳥屋の男に挨拶をした。


「こんにちは!今日はいい天気ですね!」


「ぎゃあ!」


その男はさっそくお店を捨てて、何処かへ逃げた。


「……」


「もうどうでもいい……」


挫折を味わった幸一は印象作りを諦めて、本題に戻った。


幸一は回収したばかりの戸籍文書を手に握って、目を閉じる。


「違う。これも偽物だ」


数秒後、彼は結論を出した。


本来、官府に鑑定を依頼しないと真偽が分からないが、幸一は仙道の力で、その文書が自分とのつながりを感知できる。


維元城で回収した戸籍文書はすべて偽物だった。




「やっぱり、そう簡単には行かないな……本物は、まだ母が持っているかもしれない」


「そうかもしれないね」


修良は適当に応答した。


「だから、母を追いかけるのが先だと言ったんだ。先輩はなぜ止めるんだ」


「この国の法律では、継母でも母親だ。親にどんな深い罪があっても、親を捕まえて官府に送る子供はまず刑を受けなければならない。お母さまは官府や朱執事たちに任せたほうがいい」


「……」


幸一は言葉に詰まった。


確かに、この国の法律の元で、彼自身から継母の罪を問うのが難しい。


(ああ、悔しい……)


幸一は拳を握った。


幸一の鬱陶しい気持ちを読み取ったのか、修良は別の提案をした。


「私たちはこのまま各地に行って、戸籍文書を回収しよう。つ・い・で・に・お母さまの居場所を探って、朱執事たちに知らせをしよう」


「それはいい!」


幸一は秒で立ち直った。


修良も気持ちよく次の提案をする。


「この間、二郎さんに頼んで、いろいろ情報収集をしてくれた。お母さまは遇花(ぐうか)城の方向へ逃げたようだ」


「遇花城か、確か、そこにも買い手がいた……」


幸一はさっそく名簿を確認した。


「!!」


名簿に書かれた名前を見ると、幸一は大きく息を飲んだ。


この名前で締結した契約は、かなり印象深いものだった。


幸一の驚きを見て、修良は横から名簿を覗いた。


「ああ、この人か、確かにやばい奴のようだ。よくない噂もかなり多い」


「よくない噂?」


修良からよくない噂を知った幸一はある決定を下した。


「……先輩、相談したいことがある」




******




二日後、遇花城の西、とある豪邸の前で、絶世の美少年が豪邸の主人をぶちのめす事件があった。


その豪邸の主人は左大類(さだいるい)という男性、かなり有名な高利貸し商人だ。


五十過ぎの年で並みの身長なのに、七十代以上に見える顔と三百斤もあるでぶでぶの体を持っている。


もともと、高利貸し商人に良い噂があまりない。


この左大類の風評が、商売だけではなく、私生活でもかなり悪かった。


貧乏出身の少年少女を奴隷として購入し、快楽のために虐待する……など闇の噂がしばしば聞こえる。


それでも、彼は国への税金を滞りなく納めていて、役人たちとも良い関係を維持している。


官府としても、たかが奴隷数人のためにこの金穴を失いたくない。その豪邸で発生する惨劇は一切不問だった。




だが、この左大類の幸運は幸一の出現によって断ち切られた。


幸一は左大類と屋敷の用心棒たちを正門の外に蹴り飛ばした。


豪邸前の敷地で、幸一は左大類の厚い脂肪に何回も蹴りつけたが、肉の弾力で足が何回も押し返されて、とても気持ち悪かった。


とは言え、本気で普通の人間を「やっつける」こともできないし、いっそう腹が立つ。


左大類の悲痛な叫びはすぐにたくさんの野次馬を引き寄せた。


呆気にとられた人々がざわざわ議論し始めたら、修良は一列の少年少女をつれて、豪邸から出てきた。


少年少女たちは特徴的な服を着ている。


ある人は皇妃、ある人は花魁、ある人は武将、ある人は仙人、ある人は妖怪……盛大な芝居のように、みんなそれぞれ異なる役になっている。


共通なところは、体にあちこち傷だらけのことだ。




「皆さん、聞いてください!」


修良は一対の少年少女を連れて、野次馬の前に出た。


「これは喧嘩などではなりません。あの少年は正当防衛をしています」


あれが、正当防衛だと!?


人々はもう一度幸一の容赦のない打撃を見て、目玉が飛び出そうになる。


「数日前、この屋敷の主人、左大類は不正契約であの少年を奴隷として購入しました。これは、証拠の契約書です」


修良は契約書を人前に突き出した。


人込みの先頭に立っている書生(しょせ)(*1)数人がその契約内容をざっくり読んだら、思わず大きく息を飲んだ。


*1 中国古代の学生




「な、何を書いているの?」


文字を読めない人たちは書生たちに訊く。


「だ、だめだ、破廉恥すぎで言えない!」


「よ、よくもこんな人間性を侮辱するような遊びを堂々と契約書に載せて……」


「目が、目がぁぁ――あああ!!」


「僕、汚れちゃう!!」


書生たちは苦しそうに顔を覆った。


具体的に何を書いているのか分からないが、とにかく人間性的にやってはいけないことだとみんなは理解した。


修良は説明を続ける。


「先ほど、私たちが解約の相談を申し込んだが、左大類は解約を断って、問答無用で少年を拉致しようとしたのです!幸い、あの少年は仙道の弟子で、身を守る術を持って、即時に反撃しました」


修良の話は大分正しい。


問答無用で手を出したのは幸一のところだけが事実と違う。


「そして、私たちはでの屋敷内から助けを求める声を聴きました。ちょっと探してみたら、この人たちを見つけました」


修良は豪邸から救出した一対の少年少女を人込みの前に軽く押して、やさしく話をかける。


「さあ、みんなに真実を伝えて、彼はもう逃げられないです。私たちも、みんなもあなたたちを守ります」


少年少女はおどおどと幸一に踏み台にされた左大類を一目見て、やっと安全を確信した。


少年少女は泣きながら、左大類から受けたあれこれの虐待を訴えた。




事実を知った野次馬たちはひどい衝撃を受けた。


涙腺の脆い人は涙をこらえて、正義感の強い人は憤慨しそう歯を食いしばった。


「以前からよくない噂を耳にしたが、本当にこんなことをやっているのか!」


「こんな人でなしと同じ町に住んでいるなんて!」


「一年前、俺は屋敷から悲鳴を聞いて通報したけど、役人たちはまったく反応しなかった!」


「怖いわ!こんな人が隣に住んでいるなんて、うちの子供たちが心配だわ!」


「もっとやれ!お兄ちゃん!」


戸惑っていた野次馬たちは幸一を応援し始めた。




これは幸一のお願いだ。


この左大類の罪と変態さを晒すこと。


契約の内容からすでにこの人の悪さを知ったので、虐待に関する噂が高確率で本当だと考えた。


実際に屋敷に入ったら、やはりとんでもない怨念と悲しみを感じた。


救出を修良に任せて、幸一は左大類をみんなの前でぶちのめした。


これで、官府は嫌でもこの事件を調査しなければならない。

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