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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第二十一章 純白な悪鬼
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七十五 おかえり、幸一

二人が話している間に、遺跡の振動が更に猛烈になった。


いつの間にか、極光がこの白灰色の世界に降臨し、触れたものを取り込む。




「本当は、あなたを真っ白に戻したかったのに、あなたを悪鬼にした。俺は、そんな自分を許さない!」


再び修良を見る幸一の目は、涙で潤んでいる。


幸一は自分の額を修良のに重ねて、小さな子供が甘えるように願った。


「お願い、先輩、俺を拒まないでください。あなたがすべてを背負ったから、俺はこの福徳を手に入れた。世界より、俺はこの力をあなたに捧げたいんだ……」


「……」


修良は諦めたように、一ため息をついて、悪鬼の右手でやさしく幸一を抱きしめた。


「私は、幸一を拒んだことはない――でも、幸一は、私を拒んでいるだろ?」


「っ!?」


幸一が気を緩んだ一瞬、修良は手を幸一の懐に伸ばし、誕生日の贈り物の短剣を引き出した。


「純白じゃない私を、そんなに気に入らないのか?」


歪んだ笑顔を見せながら、修良はその短剣で思いきり自分の右腕を切り飛ばした。


「!!」


その予測できなった行動に、幸一は反応もできなかった。


修良の右腕は空中で数本の長い鎖となり、二人を真ん中に囲んだ。


「私は何を研究しているのか、ずっと気になったのだろ?」


修良は勝気で笑った。


「私たちの力は、相反するものだ。条件が満たせば中和できる。幸一の力が抑えきれないこの日のために、私は自分自身を結界に変える術を研究していた。それは、世界から幸一を守る、私の最後の切り札だ」


「!!」


幸一は呆れて、言葉も出なくなった。


修良は幸一だけに見せていた温和な一面を剥がし、悪鬼の執着顔を丸見せた。


「幸一は本当に甘すぎる。こんな私を純白に戻そうとしているなんて。昔の私なら、多分悪鬼になりたくないのが願いかもしれないが、今の私は、幸一以外のものは要らない」


「幸一がどこかに消えて、私の存在を忘れるくらいなら、私が消えて、幸一に私のことを永遠に覚えさせるほうが望ましい」


そう言って、修良は短剣を自分の胸に向けた。


幸一は震える。意識が空白になりそう。


彼の体を纏う魔の力も大幅に揺れた。


なぜ、こうなるんだ。


自分のすべてを投げ出して、修良を真っ白に戻して、修良の存在を守ってあげたいのに、


どうして、修良が消えそうになるんだ……?


自分こそが相応しくない力を手に入れた、この世に生れるべきではない人間。


修良こそが、純白な身ですべての罪を背負わせられた無実な存在。


なぜ、修良は自分のために身を投げ出すんだ……?


「どうして……」


情緒も思考も混乱に落ちて、幸一はぼうっとして呟くしかできなかった。


修良はただ仕方なさそうに微笑んだ。


「一番大切なものを一度失ってから分かる、と言いたいところだけど――


多分ね、ただ、私は生粋な悪鬼だからだろう」


そして、短剣を自分の胸に差し込む。


「だめだ!」


間一髪な時、幸一は両手で短剣を掴んだ。


「先輩が消えるなんで!俺は絶対にさせない!」


鮮血が幸一の掌から垂れる。でも、修良は差し込む力を抜かなく、自分の胸で赤い痕跡を描いた。


「それは、ちょうどいいだろ?幸一は純白じゃない私を拒んでいるから……」


「違う!先輩を……先輩を拒むわけがない!俺は、どんな姿の先輩も好きだ――!!」


幸一の声がまだ完全に落着していないのに、修良はいきなり短剣を放し、幸一を強く抱きしめた。


「じゃあ、幸一がやりたいことは、自分を犠牲にして、私一人を永遠の後悔と孤独に残すことなのか?」


荒い息がする声で修良は至近距離で幸一に問う。


「そんなわけが、ないだろ……」


幸一は血まみれの手で修良の背中を掴む。ずっと我慢していた涙が、ついにこぼれ落ちた。


手に描かれた修良の心に連動する印が強く光っている。


修良は幸一を自分の体にもっと強く縛って、もっと強い口調で問い詰める。


「悪鬼だの世界だのもうどうでもいい、幸一の本当の願いを教えてくれ!」


「本当は、先輩と……ずっと一緒にいたい…ずっとずっと昔から、あなたの傍にいたい、あなたと、ずっと一緒にいたい!」


修良の執着に縛られた瞬間、幸一の固執が嘘のように消えた。


本当の願いを解き放つと、魔の気配も彼の体から消えていく。


修良はもっとも優しい声で幸一の耳元で囁く。


「なら、私に縛られつづけよう。あなたは昔から未来永遠まで私の『幸一』だ。それ以外の何者でもない。私の隣以外に、何処にも行かないで」


二人を囲む鎖は回しながら範囲を収束する。


やがて幸一の体に沈んで、姿が消えた。


幸一が前世から福徳を受け取る道は、再び封鎖された。


前世の意識を受け取ってから、ずっと高いところに浮かんでいる幸一の心は、やっと安定に着陸した。


幸一は知っている。


自分は縛られたのではなく、受け止められた。




極光は旧世界の遺跡を侵蝕し続ける。


世界の意志はただ静かに進化の力を求む。


黒と白、二つの星が交わりながら、極光に覆われた空を切り裂け、遠くへ飛んでいく。




世界の縫い目。


そろそろの夜明けなのに、空に太陽の光が見えない。


代わりに、青緑の極光は森を明るく照らす。


夢幻のような景色だが、珊瑚は美しさを感じない。


その力は膨大で強い。だけど、感情の波紋の一つもない、まるで生きていない。


修良が最後に放った龍はもう特に潰された。


極光は空から大地まで降りた。


幸一が生み出した黒洞は極光に囲まれて、ちらちらと消えそうに揺れている。


「頭が痛いな……」


珊瑚は眉間を掴んだ。世界の意志の波動は彼の頭の中に押し続ける。


「しかし、紫苑さんも幸一を探す任務を押し付けられたとは、一体どれほど人不足、いいえ、神不足なんだ」


紫苑は地に倒れ込んで、失神したように黒洞を眺めながら呟いている。


「おのれは……なんてことをした……」


「さっきから聞きたいけど、どうして紫苑さんが悔やんでいるの?話しを聴けば、幸一がそうしたかっただろ?」


珊瑚は紫苑の反応を理解できなかった。


「しかし、その心魔を引き出したのは、おのれです、万が一、幸一様に何があったら……」


「それでも幸一がそうしたかっただろ?紫苑さんと関係ないことだ。修良さんは文句があるかもしれないけど、八つ当たりをするような人間では……あっ、鬼か、それなら言いにくいな、ハハ」


「そんな恐ろしいこと言わないでください!」


珊瑚は紫苑の気持ちを楽にするためいに冗談を言うつもりだけど、逆に彼の緊張感を煽ったようだ。


「ぷっ、悪い悪い。紫苑さんって、本当におもしろい魔だな」


珊瑚は笑い声を我慢して、紫苑を慰めるように彼の肩を軽く叩いた。


「幸一が心魔にやられたら、普通に、『心魔』の紫苑さんは喜ぶべきではないか?あなたが強いことの証拠だぞ」


「分かりません……おのれは、確かに強くなりたいです。でも、強さを求めれば求めるほど、知らない方向に引きずられたようです。自分は何を目指していのか、そもそも、どうして魔として生れたのでしょうか……魔物である以上、魔物らしいことをやっていいのでしょうか……」


紫苑は迷った。


思い出せば、彼はいつも誰かに鼻先を引っ張られていた。


怨霊に監禁され、幸一に救出され、修良に任務を与えられ、幸一に命令され……誰に従って、いいえ、寄生する――それは魔のあり方なのか?


世界の意志が目の前にあっても、彼に答えを出すものはいなかった。


「それはちょっと哲学な問題だな。それがしは研究したことがないけど……そんな真面目に自分の存在意味を考える紫苑さんは、美しいと思うよ~」


珊瑚は指を鳴らして、キラキラ効果を紫苑に付けた。


突然に、極光が強く揺れ始める。


均衡で流れている光の帳に混乱が生じた。


光が増した部分が現れ、薄くなって消え始める部分もあった。


「?」


二人は空を注目したら、黒洞のほうにも変化があった。


二、三人も余裕に呑み込める大きさの洞窟は揺れながら縮んでいく。


「こ、これは、心魔が消える……」


紫苑は慌てて手を伸ばしたが、珊瑚は彼より先に何かを感じて、その動きを止めた。


黒洞完全に消えると同時に、眩い白い光が炸裂した。


光の中から浮かんできた二人の影を覗いたら、珊瑚は長い一息を吐いて、気軽そうに紫苑に言った。


「紫苑さん、あんな自信のないことをおっしゃったけど、あなたはとっても美しいことをしたと思うよ」




極光の覆われた夜が明けて、朝一の太陽の光が深い峡谷に差し込む。


修良は左腕で幸一を抱えて、子供のように安心に眠っている幸一頭に、やさしく口づけをした。


「おかえり、幸一」



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