表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第二十一章 純白な悪鬼
74/74

七十四 真っ白な憧れ

ほんの少し前に、幸一はバラバラになった祭壇に登って、神の幹の残骸に触った。


すると、柱は微弱な振動を出した。


旧世界が滅んだ時、もう知るものはいないかもしれない。この祭壇と神の幹は、天良鬼を処刑するためのものではない。


古い伝説によると、これらは新しい神となる人を迎えるためのものだ。


でも、還初太子は死ぬまでに、その神が自分であることを知らなかった。


還初太子の生で、彼の魂は神となるための任務をすべて完成したが、予定のないひどい殺戮行為によって、天罰を受けた。


それでも罪を清算しきれなかったから、旧世界が滅びる前に、平安という少年に転生し、破滅の苦痛を経験した。


平安という少年はよくやった。すべての人は罪を他人に押し付け、自分だけの救済を求める腐りきった世界で、ただ一人で良心を保った。


平安が死んだ後、すべての記憶も感情も洗浄され、神としての新生を迎えるはずだが、その魂は悪鬼に攫われたゆえに、神にならなかった。


前世を思い出した幸一は知っている。


世界の意志は、旧世界の徹底的な終結を求めている。


古い世界は消え、新しい世界の養分となる。そして、新しい世界もいずれ終結を迎え、次の世界の養分となる――それは世界の循環というものだ。


この遺跡で自分を祭れば、前世で結びつけなかった一つ循環が完成する。


世界の意志は彼を呼んでいる、催促している、求めている。


だけど、そんな終わり方は彼の望むものではない。


幸一はもう一度空を仰いぐ。


破滅の日に空をかける悪鬼の残影を見た。


彼は神の幹から手を引き戻し、祭壇を後にした。




幸一が本当の目的地は、砂の海だ。


そこで、魚人たちが真珠を採取する隧道が残っている。


迷宮のような隧道の深い深いところに、還初太子はお宝を隠した。


旧世界に来る理由は、そのお宝のためだ。


目印の鯨の骨の下で、幸一はを両手で砂を掘る。


まもなく、彼はお宝に触った。


「……あった!」


嬉しい気持ちで砂から七色光る真珠貝を掬いあげたばかり、いきなり、後ろから厳しい声がした。


「何をやっている?」


「!」


幸一の動きが止まった。


信じらないように、少しずつ振り返って、手の届くところまで来ている修良に目を向けた。


「先輩……どうして、ここに……?」


「神の幹のほうに誘導したのに?」


修良は幸一の疑問を補完した。


「幸一のやりたいことに気付いていないと思う?」


「こっ、幸一じゃないよ。還初太子で呼んでください」


幸一は慌てて白を切った。


「言っただろ。私にとってのあなたが一人だけだ」


修良は顔色を変えずに、幸一の目をまっすぐ見る。


「そんな、強引だな。あれから二回も生まれ変わったから、さすが違いがあるだろ……?」


修良の強い眼差しに心を焼かれて、幸一は気まずそうに目線を避けた。


「幸一より強引な人は何処にいる?」


修良は人間の左手で幸一が真珠貝を持つ手の手首を掴み、重い一言を置いた。


「あの時、もう言ったはずだ。私はほかのものになるつもりはない」


「!」


幸一はちょっと動揺したけど、やはり諦めずに真珠貝を懐に収めた。


「でも、もう世界が変わったんだ!先輩は悪鬼でいる必要がなくなる。悪鬼のままだと、先輩は人型を維持するために、膨大な生命力を取り込まなければならない。旧世界の残骸はいずれ全部消える。先輩はまた悪鬼になるかもしれない!」


「私はどんな姿でもいい。それに、あなたから霊気を分けてくれれば、私は消えない」


修良は安定な声で幸一を落ち着かせようとした。


しかし、その発言は逆に幸一を刺激した。


幸一は修良の手を振って、強く反発した。


「先輩がそれでよくても、俺はよくない!」


「!」


修良は驚きで目を大きく張った。


幸一の体から、黒い力が湧き出ている。


世界が滅んでいても汚さなかったその魂に、魔が生れたなんて……そんなこと、ありえるのか……!?


「なんで俺なんだ!?先輩は、鬼さんは旧世界の悪意を、世界を滅ぼした罪を背負ったのに……なのに、旧世界の福徳は、全部俺に振り込まれた!そんな理不尽なこと、おかしいだろう!!」


幸一は修良の両腕を掴んで、必死に訴えた。


その澄んだ目から、修良は初めて闇のような葛藤を見た。


「先輩は、世界が進化するための道具じゃない!だから、俺はその福徳をすべて念力に変えて、願う。きっと、先輩を元の姿に戻せる!!」




幸一の不穏な感情に共鳴し、遺跡が強烈に振動した。


隧道の天井に亀裂が現れ、欠片が落ちてきた。


でも、修良は一歩も動かなかった。


彼の心臓は、獣の牙に噛まれたような激しい痛みを感じた。


まさか、幸一に心魔が生れたのは、自分のためなのか……!


いくら本人の福徳ても、あんな膨大な力を一気に変えるような無茶なことをしましたら、幸一はきっと消滅する。


なぜ、もっと早く幸一に打ち明けなかったのか。


悪鬼でいることは、もう苦痛ではない。


理不尽とも思っていない。


むしろ、悪鬼でるから、幸一を守られる。


悪鬼でるから、思うままに幸一を縛られる。


悪鬼でるから、幸一を感じられ、生きている実感がある。


……


言えなかった理由は、修良はもう気づいている。


(私は、還初太子の約束も、幸一の気持ちも信じていなかったようだ……)


(心のどこかで、まだ幸一に拒絶されるのが怖い。)


(私の臆病が、幸一を追い詰めた……)


「それは、あなたの心魔なのか……」


自分を責めながら、修良は脆い何かを包むように、幸一の両頬を手に取った。


浄心の呪文を唱えようとしたら、幸一に口を塞げられた。


幸一の体が魔の気配に纏われているが、両目の光がさらに増した。


「心魔じゃないよ。それは、俺のずっとしたかったことだ。還初太子の生の前から、そうしたかった!」


「還初太子の生の前から……?」


修良は戸惑った。彼は還初太子以前の幸一を知らないはずだ。


幸一は一度軽く苦笑して、逆に修良の両頬を掴んだ。


「先輩はもう自分が天良鬼だった頃の姿を思い出せないだろ?それ以前の自分の姿も忘れたのだろう」


「そう、だろう……」


修良の生は長すぎる。寂しい過ぎる。


何かを覚える必要もないし、誰かに覚えられる必要もない。


還初太子が現れる前に、ずっとそう過ごしてきた。


幸一は目を閉じて、何か美しいものを思い出したように、幸せそうに微笑んだ。


「でも、俺は覚えてる。魂に焼かれた、あなたの純白な姿。俺は――ずっとずっと昔から、あなただけを見つめていた……」


「!」


ふいに、修良も思い出した。


はっきり聞こえなかった、還初太子の最後の言葉は――


「本当は、あなたを、真っ白な姿に戻してあげたかった……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ