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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第十九章 天良鬼と皇太子
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六十五 鬼を追いかける少年

旧世界を滅ぼした悪鬼・天良鬼(てんりょうき)は新世界についた。


光も空気も、まったく新しいもので、彼にとって清らかすぎるものだった。


汚れた身を清らかな世界になじませるには時間がかかる。


悪鬼は長い眠りについた。


その間、彼はずっと夢を見ていた。


体がまだ人間に見える頃の夢だった。




「鬼さん、鬼さん!目覚めの時間だよ!」


騒がしい呼び声で、天良鬼は目が覚めた。


寝台にしていた古樹の下に、朝日色衣裳の少年がいる。


少年の年は十五、十六くらい、容姿端麗で、振る舞いが上品、なぜか口調だけが軽い。


「またあなたですか?還初太子」


鬼はため息をついた。


少年はこの世界の最強の国、龍華国(りゅうげこく)の皇太子。


こんな寂れた山に現れる身分ではない。


「よかった!伝説中の千年の眠りとかじゃなかったのね!目覚めてくれなかったら、お隣さんの白烏と一緒におはようの歌を歌ってあげようと思った!」


鬼と視線が会ったら、少年・還初(かんしょ)太子は陽射しのような笑顔を上げた。


鬼の隣の枝に休んでいる一羽の白烏も口を大きく開けて、「ガァガァ」と叫んだ。


「要らない。うるさい。白烏も、あなたも……」


還初太子に構う気がないように、鬼は背中を再び樹木に預けて、二度寝のふりをした。


「じゃあ、そろそろ観念して、私を弟子にしてください!師の命令があれば、私は喋らない茶碗にも湯呑にもなれるよ!」


「……」


天良鬼は大きくため息をついて、向きを変えて、もう一度還初太子を見た。


「……あなたこそ、そろそろ観念してください。私は弟子を取らないし、あなたのような人間界で大任を背負っている人も修行に向いていません」


「せんじつめれば、その大任を私に回させたのは、鬼さんじゃないか。私には荷が重すぎるから、責任をとってほしんだ」


「……」


そのだだをこねるみたいな言い方に、天良鬼は呆れた。


この人、腐っても一国の皇太子、顔の皮がなんて分厚いんだ!


自分の一時的な優しさで、こんな迷惑を作るなんて、思いもしなかった。




還初太子は龍華国の皇帝と亡き皇后の唯一の息子。


でも、生れた当初、皇后の座を狙う妃と野心家の大臣の陰謀により、すり替えられ、殺されかけそうになった。


幸運にも、赤ん坊の太子を自分の娘に連想した雇われ殺し屋は良心が目覚め、こっそりと太子を民間人に託した。


七年前に、妃と大臣はいよいよ皇后を死に追い詰めた。しかし、その行動により、彼たちの陰謀が気付かれた。証拠隠滅の工作をしている間に、彼たちは太子がまだ生きていることを知った。


妃と大臣は再び殺し屋を出して、血眼になって太子を探した。


数人の忠誠な護衛は太子を守って、天良鬼のいるこの山に隠れた。


それでも、勢力の強い妃の大臣の手下に見つけられた。


とある満月の夜に、月光を浴びいる天良鬼は、太子たちが崖の上まで追い詰められる場面を目撃した。


本来、人間界のことを干渉しない天良鬼だが、太子の身から強い霊気を感じた。


「あれは、死んではいけない人」


と彼は悟った。


何かに唆されたように、天良鬼は太子が崖から落ちた瞬間に太子を受け止めた。


その後すぐに、皇宮からの救援が駆け付けて、殺し屋たちを捕まえた。


太子は皇宮に迎えられ、正式に「還初」の名前と「太子」の地位を授けられた。




それから一年後、還初太子は数馬車のお礼を連れて、再び山に訪れた。


天良鬼はその礼を生活の貧しい人々に分けて欲しいと公式的に断った。


還初太子は分かりがよく、天良鬼の要求に応じた。


天良鬼はそれで一件終わりだと思ったが、それが「始まり」に過ぎなかった。




あれから、還初太子は毎年も一か月ほど山に訪れる。


最初は、「恩人のために何かをしたい」という理由で天良鬼にしつこく付き添っていた。


「礼などは本当に要りません。太子様は人々を守って、国を豊かなにしてください。それで私は助かります」


天良鬼に何度も断られたら、


「実は、いきなり皇太子になって、いろいろうまく行かなくて、すごい圧力を感じています。気持ちが晴れるまで、しばらくここで修行させてください!」と、


別の理由を付けて、天良鬼が宿にしている古樹や洞窟に勝手に泊まっていた。


天良鬼は心配で太子の従者に状況を聞いてみたら、


「皇宮では絶好調で、勉強も仕事も社交も完璧に成し遂げている。陛下にも大臣にも信頼されているから、こうして長期休暇を取ることが許された」


と真っ逆な事実を知った。


「……」


五里霧中の天良鬼は還初太子に開き直した。


「太子様、一体何がしたいですか?」


すると、太子も別の目的を告げた。


「皇太子をやりたくない!仙人様の弟子になりたい!」


「私は仙人ではありません。この世の人々の心の映しのような存在です。人間の理解で言うと、『鬼』です。今はこうして人間に見えるけど、人々は良心を失い、世が邪悪に満ちた時、私は悪鬼と化し、世界を滅ぼします。とても危険な存在です」


還初太子を引かせるために、天良鬼は誠実に正体を伝えた。


しかし、還初太子は驚くこともなく、素直にそれを飲み込んだ。


「そうか、分かった。じゃあ、これから鬼さんって呼ぶね。鬼さん、私を弟子にしてください!」


「……」


頑として変わらない還初太子に、天良鬼は途方にくれた。


今年になって、やっと引っ越しを決意したが、彼の監視を務めている太子の従者に泣きつかれた。


「太子様に言われました!鬼様を見失ったら、僕たちは命がないです!どうか、どうか何処にも行かないでください!!」


「……」




昔のいろいろを思い出して、天良鬼はますます困る。いっそ口を閉じて、そっぽを向いた。


「鬼さん、死んだふりをしないでください!責任をとってください」


還初太子は諦めるどころか、樹に登って、天良鬼の耳元で騒ぎ続けた。


面白がっているのか、白烏は一段高い枝へ跳んで、大声で叫んだ。


「鬼、責任取れ!鬼、責任取れ!」


「うるさい!」


天良鬼は一陣の風を出して、白烏を吹き飛ばした。


鳥に怒ってもしょうがないから、ダメもとにもう一度正攻法で還初太子を説得しようとした。


「あなたこそ、太子という大きな責任を背負っています。まだ慣れていないかもしれませんが、あなたにはそれを成し遂げる才能があるし、天命があります。圧力が大きいなのが分かります。しかし、ここで私と遊んで、現実逃避をしても何も変わりません」


「遊びでも現実逃避でもない!」


還初太子は天良鬼が座ている枝に乗って、天良鬼に迫った。


「ここにいるのは、鬼さんのことが好きだから」


「……っ!」


還初太子の言葉を理解するまで、数秒もかかった。


「なっ、何を……不謹慎な!」


それがいきなりすぎる「告白」だと気付いて、天良鬼は取り乱した。


生れてから十万年、初めて告白された。


「不謹慎?なんで?鬼って恋愛禁止?」


叱られても還初太子は無垢な瞳で問い詰めた。


「違う!私は、人間でも生き物でもない。いずれ、世界を滅ぼすかもしません……」


天良鬼は避けようとしたが、還初太子の両腕と木枝に逃げ道を塞げられた。


「じゃあ、世界が滅びる前に、恋をすればいいだろ?」


「冗談をやめてください」


本当に返事に困って、天良鬼は還初太子の腕を掴んで、押し返した。


「冗談じゃない。本気だ!私は鬼さんに一目惚れしたんだ。鬼さんが崖から落ちた私を受け止めたあの時から気付いた、鬼さんは私がずっと探している……」


「自重してください!さもないと、あなたをここから落とします!」


「落とされても本気だ!」


「……」


勢いでも負けた天良鬼は言葉に詰まった。


相手が引いてくれないなら、彼が引くしかない。


天良鬼は上に跳びあがり、一羽の鳥のように木の枝を抜けて、陽射しの中に消えた。


「あっ、鬼さん!!」


「怒らせたのか……本当に、本気なのに……」


還初太子は苦笑した。



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