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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第一章 百八回も売られた美少年
6/66

六 脱罪は先輩に任せて

背景は中華風なので、あえて外来語を避けています。序章の「外国人」が登場するところ以外に^_^

「二郎さん、こいつらから戸籍文書を回収したいので、手を貸してくれ」


取り立て人たちをぼこぼこにやっつけた幸一は、さわやかな表情で二郎を呼んだ。


二郎はビクビクと壁から降りてきた。


「あの……お坊ちゃま、性格が変わっていませんか……?」


「変わっていないよ。小さい頃に、不届き者たちを殴りたくても殴られる力がないだろ」


そう言いながら、幸一は彼を奴隷にすると叫んだ男の体を蹴り転がして、その胸の下から一枚の紙を回収した。


「そう、だったのですか……」


二郎は主人への理解がまだまだ浅いと自覚した。


「女性はどうしますか?」


「女には手加減をしたから、まだ動けると思う。自分で出すようにやつらを説得してくれ」


「……かしこまりました」


二郎は脱力そうに頷いた。


二人が戸籍文書を回収する途中、また十数人が玄家に向かって来た。


その中に、何人かは二郎が面識のある取り立て人だ。


二郎は思わず「やばい」と呟いた。


でも今回、彼が心配したのは幸一ではなく、取り立て人たちのほうだ。


「これ、どういうこと?何があったの?」


「玄家が用心棒を雇っただろ。情けない奴らだ」


新しく来た取り立て人たちは、まだ自分の危機に気付いていない。


「おいお前、玄家の人?」


一番先頭を歩く青年は戸籍文書を探っている幸一に話をかけた。


「そうだけど」


幸一は頭を上げたら、その青年ははっと息を飲んで、動けなくなった。


「お前、その顔っ!まさか、噂の孔雀を自殺させるほどの魔性の美貌を持つ玄幸一なのか!?」


「!!」


幸一がパキっと拳を鳴らした。


「退け――!」


突然に、屋敷の壁の曲がるところから、警告の声が響いた。


「はあ?」


青年は首をかしげる。


「馬鹿!周りをよく見ろ!全部、あいつがやったんだ!!」


「な、なんだと!?」


異様に気付いたがもう遅い、瞬く間に、青年は幸一の足元にねじ伏せられた。


ほかの取り立て人たちはぎゃあぎゃあとあっちこっちに逃げた。


「お前たち、さっき裏扉のほうにいたやつらだな」


幸一は牙を剥いた狼のような表情で、警告を出した二人に向かった。


「やばい!逃げろ!」


「クソ!他人のことに構うんじゃなかった!」


二人がぱっと駆け出したが、幸一は肉眼が認識できな速度で二人の後頸を掴んだ。


「ゆ、許してくれ!」


「べ、別に隠れてお前が倒されるのを期待したわけじゃないんだから!」


「どうやら、まともなやつは一人もいないようだな」


幸一は目をつぶって、二人を裁こうとしたとき――


「やめろ!!」


高い叫びと共に、一列の捕快(ほっかい)(*1)が走ってきた。


*1 捕快:中国古代のお巡りさん・警察


「先ほど通報を受けた!お前を暴力傷害の現行犯で逮捕する!」


一人の捕快はさっそく幸一の腕を掴んだ。


「不正契約を回収しているだけだけど」


幸一は無実な目で見返した。


「!!」


捕快たちの心臓は重い一撃を喰らい、全員動けなくなった。


「た、助けて……」


取り立て人の喚きで、捕快たちは理性を取り戻す。


「う、嘘つき!この現行犯……この惨状を見なかったら、お前の顔に騙されるところだったぜ!」


「ほう、不正契約はどうでもよくて、俺の正当防衛が阻止すべくというのか……」


幸一の鋭い目線から危険な意味に察して、二郎は急いで幸一に抱きついた。


「だめだ!お坊ちゃま!役人に手を出したら……」


その時、一陣の涼しい風が幸一の周りを走った。


青く光っているたくさんの氷屑が空から落ちて、幸一の怒りで赤くなった頬に触れて、溶かした。


「この術は……」


幸一は目を張って空を見上げた。


いつの間にか、空中に灰色の風の渦巻きが現れ、渦巻の中心に一頭の黒い虎が飛んでいる。


「と、虎ぁぁ!!」


「人間が乗っているぞ!」


役人たちが驚きの声を上げたら、すぐに一人の青年が虎に乗っているのに気付いた。


青年は虎の色と真っ逆な雪白の服を身に纏い、とても優雅な姿勢で虎の頭を撫でている。


「やっぱり修良先輩だ!」


幸一は笑顔を上げた。


「チクショウ!増援か!」


「でも、その服、玄天派の弟子の衣装じゃない!?」


「とうことは、玄天派の弟子がこの妖魔を捕まえに来たのか!?」


「なぜ俺が妖魔だ!よく見ろ、俺も同じ服を着ているだろ」


幸一は不服に自分の服に指さした。


「お前の顔……いや、悪行の前で服なんか注目するもんか!」


「また『顔』を言ったな――!」


「だめです、お坊ちゃま!」


二郎は必死に幸一を束縛したが、幸一に軽々しく押しのけられた。


「だめですよ、幸一」


幸一は捕快の手首を掴んだら、修良はふんわりと彼の後ろに降りた。


修良は幸一の手を取って、やさしく下へ抑えた。


「捕快さんたちに誤解されるんじゃないですか」


「でも……」


「驚かせてしまって、申し訳ありません。この件に関して、私から説明します」


修良は朗らかな笑顔で幸一と捕快たちの間に入った。


仙人の美貌に妖魔の凶暴を持つ幸一と比べたら、この気品穏かな青年はより人間に近く、信頼できる存在だと捕快たちは思った。


「こちらの玄幸一は玄誠実様の実の息子で、とても優秀な仙道の弟子です」


修了はまず幸一を捕快たちに紹介した。


そして、悲しげそうに嘆いた。


「皆さん、よく考えてみてください。小さい頃から家を離れた子が数年ぶりに実家に帰ったら、家が倒産し、父がいなくなり、母や姉妹たちが行方不明、家が知らない人たちに囲まれている……そんなことを見たら、どんな気持ちになるのでしょう?」


「更に、自分が奴隷やおもちゃとして売られて、獣のような凶暴で欲深い人たちに睨まれて、侮辱される……そんなことに遭ったら、どんな気持ちになるのでしょうか?」


「……」


修良の話を聞いて、捕快たちはもう一度落ち着いた目で幸一を見た。


じっと黙っていれば、無垢な美少年だった。


考えてみれば、確かに、彼は家族を失った可哀そうな若者で、不正契約の被害者でもある。


「いやぁ……気持ちは分からなくもないが、それでも、暴力は……」


捕快は困りそうに頭を掻いた。


「暴力ではありません、妖魔退治です!」


修良はきっぱりと言葉を置いた。


幸一本人を含めて、ほかの全員が「はぁ」の表情になった。


修良は手を一振りして、上空の黒い虎が河童が釘された木に飛んで、気絶した河童をくわえて運んできた。


「実は、数日前に、玄天派は通報を受けました。この維元城にすさまじい妖魔が潜んでいるようです」


「妖魔だと!?」


「えっと、この河童のことじゃないよな……」


最初は驚いたが、河童を見ると捕快たちは困惑そうに笑った。


この河童をいい訳に罪から逃れるなんて、あまりにも説得がない。


「もちろんこの河童さんではないです。この河童さんは大妖魔が存在する証拠の一つにすぎません」


修良は玄家の屋敷に指さした。


「皆さん、おかしいと思わないですか?十数年もこの維元城一の大富豪である玄誠実様が、こんなにも早く倒産に追い詰められました。どう考えても裏があるでしょう」


「!」


(そう言われれば……)


修良にそう言われたら、幸一も興味が湧いた。


「確かに、俺たちも不思議だと思っていたが……」


捕快たちはお互いを見て、一応修良の話に同意を示した。


「玄誠実様の倒産は人力によるものではありません。その裏になるのは、さっき申し上げた大妖魔です」


「えっ、どういうこと?」


捕快たちは両者の繋がりが全く見えなかった。


「その理由はこちらの玄幸一にあります。」


「!」


「仙道を修行する人間は、現世の家庭と縁を切ります。余程のことがない限り、家に帰ることはないです。しかし、実家が倒産し、実の父がいなくなるような大事件があれば、玄幸一は必ず家に帰ります。つまり、玄誠実様を信じられない速度で倒産に追い詰めた妖魔の本当の狙いは、玄幸一です!」


「!!」


「これからは仙道の秘密になります。あまり大声で言いたくありませんが……」


肝心なところまできたら、修良は困りそうにもったいぶった。


「だ、大丈夫だ!俺たち、役人だぞ!絶対秘密を守るから!な、みんな!」


「お、おお!口を裂けんでも言わない!」


いきなり謎解きに入って、みんなの好奇心が唆され、更に修良の話に集中する。


「先ほど申し上げたように、仙道を修行する人間は現世と縁を切る必要があります。『戸籍文書』というものは、国の力によって守られている、現世の人間であることの証明です。それが存在する限り、人間は完全な仙人になれません。それを奪われた仙道の人間は、どんな代償を払っても取り戻すでしょう」


「例えばの話ですが――皆さんは野望を持つ大妖魔、玄幸一は強い力を持つ仙道の弟子、皆さんは陰謀を使って玄幸一の戸籍文書を手に入れた、この行動について、考えられる目的はなんでしょう?」


いきなり、修良は学堂の先生に変身し、捕快たちに質問を投げた。


「ああ、分かった!」


さっそく手を上げる「学生」がいた。


「その戸籍文書を利用して、悪事に加担するように玄幸一を脅かすためだ!なにせ、妖魔は表で行動するのは難しいからな!」


「そ、それに!仙道を敵視する妖魔だから、玄幸一を仙道の裏切りものとして働かせるのも考えられる!」


「ずるい!俺も言いたかったのに!!」


「ご名答です!さすがこの町の平和と秩序を守る役人さん!」


積極的に発言する学生たちに、修良は満足そうに拍手した。


「やったぞ!つい先生に褒められたぞ!」


「見たのかお母さん!俺はお前が言った筋肉バカじゃね!うぅぅ」


自己感動し始めた数名の学生に構わず、修良は悠々と続けた。


「その大妖魔はきっと高い金額を出して、玄幸一の母親を誘惑したのでしょう。しかし、彼は二つの誤算がありました。一つ目、玄幸一の母親は負債返還のために、大量な偽物の戸籍文書を作って、たくさんの買い手に売りました。二つ目、彼以外にも玄幸一を利用しようとする妖魔がたくさんいました」


そう言ってながら、修良は河童に目線を送った。


「本当の戸籍文書は誰が持っているのか、おそらく妖魔たちも分かりません。なら、まず玄幸一を捕まえるでしょう」


「でも、善良な人間の買い手は玄幸一の状況を知れば、彼を捕えることはしないと思います。戸籍文書を返してくれるか、話し合いで問題を解決するのでしょう」


長々の布石が終わって、修良は幸一に決め手の質問を投げた。


「幸一、先ほど、戸籍文書を自ら返却する人はいましたか?」


「一人もいなかった」


「じゃあ、話し合いで問題解決をする人はいましたか?」


「一人もいなかった」


すると、修良はさわやかな笑顔で結論を宣言する。


「これで明らかになります。この人たちは《《全員》》――妖魔か、妖魔の手下になります!」


「!!?」


「玄幸一は彼たちから妖魔の汚い欲望の気配を感じたから、平和を守るために、妖魔退治したのです!!」

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