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五十四 本当の母親

「ね、姉様……」


幸一は言葉を失った。


救出行動の展開は完全に彼の想像を超えた。


どうすればいいのか分からなくなったら、後ろから知っている声が響いた。


「幸一?どうしてここに」


「珊瑚!?」


なんと、しばらくぶりの珊瑚がそこにいた。


「さん、珊瑚こそ、どうしてここに!?」


「えっと……友人が結婚したのを聞いて、寄り道でお祝いに来たけど……」


珊瑚はもう一度をこの場面を見て、試して事件の経緯を整理する。


「結婚!?この妖怪と、幸雲姉様が!?」


「奥さんは幸一のお姉さんか、通りに名前が似ているな」


「雷鳴さん!お願い、死なないで!あなたが死んだら、私も生きていられないわ!!」


一方、幸雲は雷鳴に飛び込んで、号泣した。


「とにかく、まず術を解けてくれないか?お姉さんまで焼けどをする」


「あっ、はい!!」


言われたら、幸一はさっそく術を解けた。




「こちらの白雷鳴さんは、幸一も知っている白迅の従兄だ。前回の妖界大戦で大けがをしたせいで、ずっと人間界で静養していた。一か月前の、扉破り事件の夜、彼は妖界兵士が人間の女性を攫うところを目撃して、その女性を助けた」


珊瑚の説明を聞いて、幸一ははっと我に返った。


「ということは、彼は姉様を攫ったのではなく、助けたのか!?でも、なぜ姉様を人間の里に返さなかったの?叔父様たちは誤解しているぞ!」


「返すもんか……!」


雷鳴は苦しそうに息を調整し、地面から身を起こした。


「あの者たちは、幸雲を、醜い初老の男に売ろうとした!!」


「!?」


幸雲の状態も少し安定になって、雷鳴の話に続けた。


「そうだわ。叔父様の家に来てから、叔父様たちは、たくさんの縁談を持ちかけてきた。時には子ずれの男の後妻、時にはお金持ちの妾……全部断ったけど、もうその年で、結婚しないと追い出すぞって脅かしに来た。望まない結婚だったら、追い出されるほうがいいと言ったけど、ある日、野菜の収穫を手伝いする時に、通りかかりの老いた商人に気に入られた。商人は大金で私を買おうと言い出したら、叔父様はすぐ承諾したの……!」


「なんてひどいな!」


売られた経験を持つ幸一は、姉の気持ちを痛いほど分かる。


「私は怖くて、その夜に逃げ出したの。途中で狼の妖怪に山奥に攫われて、もう一生がそこで終わると思った時に、雷鳴さんに助けられた……」


「雷鳴さんは妖怪だけど、とてもやさしくて、私に居場所を与えてくれた。叔父様が雇った法師たちまで倒して、私を守り続けていた」


「だから、俺の身分を勘違いしたのか……ごめん、俺は、何も知らずに」


真相を知った幸一は二人に向けて深く頭を下げた。


しかし、幸雲は幸一に振る向かず、ただ涙を拭きながら、雷鳴と見つめ合う。


「でも、やっぱりだめなのね。私のような不幸なものは、『幸運』という名に相応しくないのね」


「何を言っている姉様、真相はもう分かったから、俺は……」


「だって、幸一が来たから!もう聞いたわ、幸一は復讐のために、実の母親と妹まで青楼に売りつけたの!私のような異母姉に、きっと、もっと容赦なく……!!」


幸一の話を無視し、幸雲は雷鳴の胸で泣き崩れた。


「泣くな!幸雲、俺は死んでもお前を守る!」


雷鳴は幸雲を強く抱きしめる。


「……」


そういえば、前にも似たような場面があった。


幸一は感動より馬鹿馬鹿しいと思った。


家族は一体どんな目で自分を見ているんだ。


「どうしてそのような話なったの!?ってか、なぜ姉様までそんなデタラメを信じるの!?俺たちの実の母親はもういなくなっただろ!!」


「もう隠さなくていいのよ!過去や未来まで見える仙道の力を手に入れた幸一は、もう知ったでしょ――」


反論を許さないように、幸雲は大きい声で返した。


「自分の本当の母親は、婉如さんのことを!!」


「!!!」




*********


俺の本当の母親は、継母……?何を……」


幸一は幸雲の話をすぐ飲み込めなかった。


「婉如さんはあなたを身ごもってから何回も死に掛けそうな事故に遭って、あなたを生むために危うく死んだから、あなたのことがとっても怖かったの。どうしてもあなたを育てたくないって、あなたを私たち四姉妹の母に押し付けたの」


幸雲は雷鳴に抱きついて、泣きながら訴え続ける。


「その後、母は急病ですぐなくなって……幸一のせいだと信じたくなかった、信じたくなかったのに……!!」


「……嘘、だろ……俺の、本当の母親は……」


幸一の目が焦点を失い、言葉を繋げなくなる。


「……あの、お姉さん、すくなくとも今の幸一はあなたたちを加害するつもりがない。まず屋敷に戻って詳しく話し合ってくれないかな?雷鳴の治療もしなければならないし」


気まずくなる場面に、珊瑚が調停に入った。




姉から詳しい事情を聞いた幸一は他言もなくて、雷鳴の屋敷を離れた。


山を下りたら、まず幸雲を預けられた叔父の家に戻って、彼たちの悪行を暴いた。


もちろん、叔父は認めなかった。


彼たちと口論する気がなく、幸一は千鈞もある村の鎮妖石を叔父の庭に運んで、叔父一家の前でその石を粉々に打ち砕けた。


「幸雲お姉さまはもうこの山の主と結婚した。これ以上彼女の幸せを邪魔するものには、この石のような結末を用意してある」


と言い残して、その場を去った。




「幸一!待って!」


幸一は蒼炎鳥に乗って柳蓮(りゅうれん)県に戻ろうとするところ、駆け付けた珊瑚に止められた。


「どうしたの、珊瑚」


「表情、暗すぎ!」


幸一の生気のない目を見て、珊瑚は幸一の頬を摘んだ。


「いたっ!」


「幸一の気持ちは分かるが、さっきのやり方があまり良くないと思うぞ」


「ああいうのが一番早いから……」


「今は早いけど、後は面倒なことになるかもしれない」


珊瑚は一度ため息をついた。


「ここに来る途中、幸一と修良さんのいろんなよくない噂を聞いた。妖怪を騙して、快楽のために元神まで潰す悪鬼とか、妖怪も人間も踊り食いする邪道に踏み入れた仙道の美少年とか……」


「……」


また「受けのいいネタ」にされたみたいが、幸一は反論する気力がない。


「とりあえず、それがしは柳蓮県までついてあげる。お母さんと話をするだろ?お姉さんんの結婚のこともあるし、それがしが代わりに説明してあげるよ」


「いいんだ。母に嫌われるのにもう慣れている。今回は本人の口からそのわけ聞きたいだけだ。聞いたらきっと吹っ切れる」


口でいいと言っていても、幸一の暗い表情は全然吹っ切れそうに見えない。


珊瑚は仕方がなく、一枚の手札を幸一に見せた。


「実はね、それがしは今、人間界の見習い捕快以外に、妖界の駐人間界使者を兼務している。幸一と修良さんに脅かされたって通報を複数受けたんだ。その経緯を調べなければならない」


「なんで?珊瑚は妖界の将軍じゃない?」


「前の件で将軍職を降りた」


「!?まさか、俺と先輩が起こした騒ぎで……」


自分を助けるために修良がやらかした一件を思い出して、幸一は申し訳ない気持ちになった。


「別に幸一たちのせいじゃない。それがしは無茶なことをしたから。それに、別件で修良さんに聞きたいことがある」


珊瑚は全然気にしないように、軽く頭を横に振った。


「先輩は今幽冥界にいる。姉の件が終わったら合流しに行くつもりだが……」


「じゃあ、それまでに同行させてもらおう!この間、それがしの顔に免じて、妖怪を食わないでね」


「もともと食っていない……」


幸一は珊瑚の勝手の決定に承諾したら、二人が蒼炎鳥に乗って柳蓮県に出発した。


そして、珊瑚の心配通り、その後、「玄家の息子は復讐のために、山の妖怪を解放し、その妖怪に姉を売り出した」という噂が梁谷嶺あたりから広げられた。

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