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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第十五章 中途半端な告白
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五十一 不意打ちの告白

「紫苑さん、まだ苦しい?薬を作ってあげようか?」


修良に距離を置かれたのを感じ、幸一はぼんやりと紫苑の世話に戻った。


紫苑は布団の中に隠れて、細い声で幸一に返事する。


「……幸一様、お願いがあります……これ以上、おのれに構わないでください」


「えっ、どうして!?」


「おのれは、とても弱いです。兄弟子様のご機嫌を損なうような事になったら、おのれは、きっと消滅されます」


「何を言っている!先輩はそんなことをするはずが……」


「いいえ、あの方は、怒っています!」


紫苑は力を絞って、強く主張した。


「お願いです、おのれはお二人の中に入るつもりがない、とあの方に伝えてください!」


「そ、それは一体どういう……」


幸一は更に訳が分からなくなった。


「あの方は、幸一様の恋の相手ですね」


「はああ!?」


いきなり過ぎな話で、幸一はびっくりした。


「あの閻婕妤に狙われる人は、皆、顔がよくて、魂に刻まれるほどの恋を持っている人です。お二人のやり取りを見れば分かります……」


「なんで紫苑さんまでそんな話をするの!」


「事実ですから……幸一様は気付いていないかも知れませんが……幸一様は、あの方を見る目はとても輝かしい、とてもやさしいものでした。あの方に触れられた時に、顔が赤くなって、全身の気配も柔らかくなりました」


「そ、それは……幽冥界で見た幻像を思い出して、幻像の先輩は変なことをしたから……!」


あの幻像を思い出すと、幸一はまた耳まで昇る熱さを感じた。


「幻かどうか関係ありません、幸一様のはあの方に好意があるのは事実です。おのれは弱いから、人の心への察しはとてもいいです」


(さっきまで自分のことを卑下していたのに、なんでいきなりこんなに自信を持つようになった?)


幸一は紫苑の思考回路を理解できなかった。とにかく、もう一度怯える紫苑を慰めた。


「俺と先輩は家族のような関係で、一緒にいるのが心地よいだけだ。さっきいきなり赤くなったのは、幻像の余韻のせいだ。本物の先輩は俺にそんなことをしないし、俺も変なことを考えていないから……二人の関係で紫苑さんにご迷惑かけることはないよ」


そう。


本物の修良は自分との接触はいつも心地よく、親しい距離に止まっている。


時に冗談やいじわるをするが、決して「仲良し」を越えるようなことをしない。


そう思うと、心を躍らせる温度が一気に冷めたような感覚がして、妙に寂しさを覚えた。


「幸一様のお気持ちは、おのれが口を出すようなことではありません。ですが、助言をさせてください。幸一様は気楽な気持ちであの方に向けているのだとしても、あの方の気持ちは決して軽いものではないでしょう。気を付けないと、幸一様は傷付けられるかもしれません、どうか、お心掛けください」


「……」


(無理か……)


幸一は諦めた。


(先輩と距離が一般の弟子兄弟より近いのは認めるよ。でも、それも先輩が小さい頃から俺のお世話をしていて、俺は先輩の体調に気を付けていて、お互いに支え合っているからだ。別に、世間がいう恋人関係じゃないんだ……)


(そもそも、仙道を修行する人は恋をするのは、あまり聞いたことがない。感情に関する雑念は修行の邪魔になるから。先輩もきっとそんなことに興味がないんだ。)


いろいろ思っているうちに、幸一はまた気持ちの沈下を感じた。


(そういえば、さっき先輩はどうしたの?ひょっとして、俺がいきなり手を引いたから、俺は悪鬼のことが気になると誤解したのかな……)


(口にしないけど、先輩も紫苑さんのように、自分の原形に気になっているのかもしれない……だめだ!先輩に伝えないと!)


恋とか妙な誤解より、修良先輩のほうが先だ!


幸一は急いで修良を探した。




その時、修良は旅館の茶室でお茶を用意して、二郎と話をしていた。


「二郎さんがついているというのに、どうしてあんな怪しいものが付いてきたのかな?」


「わ、わたしも知りません!幽冥界から連れてきたってお坊ちゃまが仰って……幽冥界のことは、わたしのような一般人が知ろうとも知る術がありません!」


修良はいつも以上の温和な態度で聞いたら、二郎の冷汗が三倍も増した。


「では、幽冥界で何があったのか、幸一から詳しく聞きましたか?」


「ざっくり聞いたけど、わたしは霊的なのことがよく分からなくて、お坊ちゃまに聞いたほうが早いかと……」


「幸一は今あの怪しいものの世話に忙しいから、邪魔したくありません。二郎さんから教えてくれませんか?」


修良の笑顔の輝きが更に増して、二郎は逆らう勇気を失った。


「は、はい……」




「なるほど、幸一のお父様のことか……」


修良は驚くこともなく、二郎の話を聞き終わった。


(もう用済みだから、玄誠実のことを完全に忘れた。今回は、私の不慮だな……)


「で、その紫苑という怪しいものについて、ほかの何かを知っていますか?」


「いいえ、紫苑さんについて、詳しく聞いていません……ただ、怨霊の手から助け出した魂だとお坊ちゃまはおっしゃいました」


「フン、よくも自分のことを『魂』だと言えるな」


鋭い視線を二郎から逸らして、修良は独り言を呟いた。


「あの、修良さん、わたしは、もういいですか?ちょっと、土地売買の処理に戻りたいですが……」


やっと標的から外れた気がして、二郎はさっそく逃げる言い訳を付けた。


「分かりました。二郎さんは仕事に戻ってください。幸一のお父様のことは、私が解決します」


修良は二郎より先に席から立ち上がった。


「えっ!?ど、どうやって!?」


「幽冥界のものに『相談』します」


(やばい、これは絶対やばい相談だ!旦那様が危ないかも!!)


直感の優れた二郎だから、すぐ修良のやろうとすることの危険性に察した。


それでも、彼には修良を止める力がなく、見送りしかできなかった。




「先輩!」


修良が個室を出ると、後ろから幸一の呼び声がした。


「……」


(さっきは大人げないことを言ったな、いつもの様子に戻ろう。)


修良は考えことをして、振り向くのが半歩遅かったら、


幸一のほうが走り出して、後ろから修良に抱きついた。


「!!」


修良は驚愕で動きもできなかった。


「ごめん、先輩!先輩の治療を断ったのは、触られたくないじゃない!先輩がいないと俺は嫌なんだ!」


「体の修復は大変だっただろ?ちっぽけな傷に霊力を浪費させたくない!」


「でも、たとえ体が修復されなくても、先輩は先輩だ!どんな姿でも、俺は先輩が好きだ!」


「――!」


修良ははっきり見える。


幸一が自分の胸に巻きついた手に、自分の心と連動する印が光っている。


彼の心臓の鼓動が高ぶっている。


「……」


しかし、修良は返事に困った。


(《《またか》》……)


(なぜ、《《いつも》》こんな反則な打ち方……)


「で、でも、別に、魂に刻まれるほどの恋とか、そういう意味の好きじゃない!先輩まで誤解しないでください!」


「……」


修良がその「告白」に返事を出す前に、幸一はその線を切った。


ほっとしたのと同時に、修良はちょっとがっかりした。


小さくため息をついてから、いつものようなやさしい先輩の表情で、幸一に聞き返した。


「分かった。誤解しない。でも、『魂に刻まれるほどの恋』、それはなんだ?」




二人が修良の部屋に入って、幸一は閻婕妤(えんしょうよう)の一件の経緯を話した。


閻羅王(えんらおう)の姪で、地同(ちどう)国皇帝の婕妤の怨霊、恋を食っている……プッ」


何処かデタラメみたいな「設定」を聞いて、修良は思わず吹いた。


「笑わないでください!本当に凶悪だった!弱弱しく装って、先輩の幻をひどい形で利用して、俺を混乱させようとした。さっき、いきなり手を引いたのも、あの幻像の余韻があったから……」


「ふん~どんな幻像だった?」


幸一の顔に微熱があがったのを見て、修良も気になった。


「……えっと、どう話せばいいのか……あった!」


言葉で言うのがちょっと変だと思うので、幸一は実際の行動で表現することにした。


幸一は布団を棒に巻いて、自分の外着を布団に着せた。


「この布団を俺の体で、枕を俺の頭だと思ってください!」


「まずは、こうして――」


「それから、こうで、後は、こんな感じかな……」


「……」


幸一の再現が下手だけど、修良はなんとなく幸一がされたことを理解した。


いいえ、幸一がされたことよりもっとひどい方向で理解した。


まだ笑顔を維持しているが、身に纏う気配は完全に破滅そのものだった。


「なるほど、だから幸一は私を警戒したのか」


「いや、警戒じゃなくて、ただ……」


修良は固まった笑顔で窓を開けて、一度咳払いをした。


すぐに、巨大な爆雷の音が響いた。


「や、山が割れたぞ!!」


「ああ、なんと恐ろしい!」


人々の悲鳴も届いた。


「竜巻に爆雷?高原の天気って随分変わるものだな……」


幸一は戸惑った。


修良はゆっくりと窓を閉じて、さわやかな笑顔で幸一に向けた。


「あの怨霊の後ろ盾の閻羅王、あと三百年の任期があったっけ?」


「だそうだ。だから、紫苑さんを人間界に連れてきて、玄天派に守ってもらおうと……」


「もうその必要はない。その閻羅王を、三日で辞任させる。怨霊とやらの元神を潰してやる」


「そんなすごいこともできるのか!さすが先輩!」


幸一は修良の決意を正義のためだと理解して、また修良に感服した。

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