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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第十四章 狙われた恋心
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四十八 幸一、恋の迷い道に?

*********


修良は過去の夢を見ていた。


幸一が生れる日に、彼が玄誠実のところに訪れた時の夢。


幸一の親探しはかなり難航だった。


どんな人を親にするのか、修良自身の考えが一つにまとまらない。


いずれ幸一を自分の元に迎えるために、親への愛情をなるべくつかないほうがいいから、忙しくて、冷たい親を選ぶべきだ。


それでも、人間界での生活を裕福に、楽しく過ごさせたい。子供にまったく無関心な親や、道具として利用するような親を選びたくない。


だが、幸一の魂は韓婉如の体に入ったから、修良は彼の選択に従うしかなかった。


韓婉如は旧世界から生まれ変わった汚れた魂、純白な魂の幸一と相容れない存在。


彼女だけではない、この家の四人の娘――幸雲、幸雨、幸霜、幸雪――も旧世界からの魂だ。


幸一の魂はこんな家庭を選んだのは、まだ旧世界に未練があるだろう。


なら、せめて、父親の玄誠実に幸一の世話を頼みたい。


しかし、玄誠実を考察した結果、修良は失望した。


類は友を呼ぶ、旧世界の魂はこの家に集まったことに納得した。


予定変更だ。


幸一が大人になる前に、彼の親との縁を切る。


彼に、自分を選ばせる。




「終わったよ」


九天玄女の軽い呼び声で、修良は目を覚ます。


二人がいるのは、九香宮主城最上階に密室。


星空のような天井に囲まれる青石板の床に、不思議な光の玉が不規則に浮かんでいる。


密室の真ん中に、青緑色の光の柱がある。


その柱の中に、液体か光の流れか、形容し難い力が満ちていて、修良は無重力状態でその柱の中にいる。


悪鬼化が進んだ彼の右半分の体は、もう完全に人間の形に戻った。


九天玄女の手に、白く光る球体を持っている。


「幸一の霊気は凄まじい力だわ。私が持っている、残骸から絞り出した旧世界の生命力が比べ物にならない。修復の時間が大幅短縮した。うまく利用すれば、あなたの悪鬼化を完全に止められるでしょう」


「……」


「でも残念だわ。あなたから旧世界の術を伝授されても、私は新世界の人間、旧世界の力を使いこなせない。あなたの悪鬼の力と中和できる力に転換するのは、やはり旧世界の魂が必要だ」


「……」


「なぜ、幸一に頼まないの?彼の修為でならもうできるようになったでしょ。それに、あなたの悪鬼という正体も受け入れたのでしょ?」


修良は細く、長い息を吐いて、目線を部屋のとあるところに送った。


「その理由は、宗主は誰よりも分かっているでしょう」


修良の目線の送り先に、青緑の光でできた透明な棺が置いてある。


棺の中に、修良とそっくりな青年が眠っている。


「一旦、その力が解放されたら、彼らは、もう私たちのものでなくなります。世界から幸一を奪えるのなら、私は永遠に悪鬼のままでいい」




********


冥清朗から事情を聞き終わって、幸一は閻羅殿を出た。


出口で無常たちが彼を待っていた。


「終わったか?」


「ああ、終わった。これから人間界に帰って調べてみる」


そう言って、幸一は来る時の方向に足を伸ばした。


「おい、このまま帰るつもりじゃないよな」


黒無常は幸一を呼び止めた。


「まだ何かある?」


「賠償だ賠償!」


白無常は請求書を幸一に突き出した。


「俺たちの鎖は黒金の原石を形に打って、八十一日も粋錬してできた法具、かなり高いぞ!」


「さっきも言っただろ!あなたたちが何も言わずに攻撃しに来たから俺は手を出した。正当防衛だった」


幸一はもう一度主張した。


「なんて生意気な、かつての同門の情に免じて、八割してやったのに」


黒無常はムッと顔を引き締まった。


「同門?あなたたちは玄天派だった?」


幸一はその妙な言葉に気付いた。


「いや……それより!さっさと賠償しろ!」


白無常はさっそく黒無常に目配せをして、話を誤魔化した。


「そ、そうだな!俺たちの案内がないと、お前は人間界に帰れないぞ」


黒無常も自分の失言に気付き、一度姿勢を正した。


「そんなはずがない」


幸一はその脅かしを信じなかった。


「俺をここに呼んだのは公務のためだろ?公務に私情を挟んで、俺を帰らせないと、お前たちのほうがまずくなる」


「残念ながら、俺たちが受けた命令は、お前をここに連れてくるだけだった!」


子供喧嘩みたいに、白無常はおどけた顔を見せた。


「じゃあ、自分で帰る。道は覚えているし」


「亡者の森で道に迷うぞ!」


幸一は無常たちの警告を全然気にしなくて、外へ歩み出した。




「二三日放っとけば、この幽冥界の怖さを知る」


黒無常は鼻でフンした。


「だよな。あんな顔したから、絶対森の『あいつ』に狙われる。俺たちでさえ、『あいつ』が厄介だ!」


何か大変やばいものを思い出したように、白無常は肩を震わせた。


「ああ、玄幸一はあんな性格だから、『あいつ』に襲われたら、いい喧嘩になるだろう」


「……ちょっと待って、喧嘩は良くないぞ。一応俺たちの管轄区域だから……大きな喧嘩があったら、俺たちも責任を問われるぞ」


白無常は不吉な予感をした。


「でも、あんな顔とあんな性格だし……」


そう言われたら、黒無常も緊張した。


「やべぇ、残業になるかも……」


二人は急いで幸一の後を追った。




幸一は来る時の道を辿って森に入ったら、すぐ異様に気付いた。


「来る時に、こんな石陣があったっけ?」


来る時に通った道の両側に、天まで届く高い樹木しかないのに、今両側にあるのは、不気味な霧に囲まれる石の群れだ。


「まさか、本当に道に迷ったのか?」


いつの間にか、空気の中にお酒の香りが漂う。


幸一は少しめまいをした。


そして、人の泣き声のような音を聞こえた。


「聞いたことがある。幽冥界への道で、様々な闇の誘惑に気を取られ、案内の役人とはぐれた魂はさまよう亡霊になる話……」


「これも、闇の誘惑なのか……でも、本当に困った魂だったら、仙道の人間として助けるべきじゃないか……」


迷っているうちに、石陣の向こうの霧が晴れていて、大きな屋敷が見えた。


「こんなところに、屋敷が……!」


そして、屋敷の扉が開かれた。


「あら、美少年!」


愛嬌のある女性の声と共に、薔薇色の衣裳を身に纏い、青紫の長い髪の若い女性が飛び出した。


「あなたは……」


その情熱的な姿勢に、幸一は良くない予感がして、思わず後退った。


「失礼いたしましたわ」


女性は幸一に優雅に一礼をした。


「わたくしは、閻婕妤(えんしょうよう)と申します。地同国の第五代皇帝の婕妤(*3)だったものです」


*3 婕妤:皇帝の側室の称号


「この森は『情痴林』というの。生前の愛情に未練がある魂はここに迷い込みしやすいから、そのような魂を導くために、わたくしはここに住んでいます」


「そうですか。幽冥界の役人の方ですか?」


相手が進んで身分を明かしたので、幸一はちょっと安心した。


「いいえ、やりたいから自分でやっているのです。わたくしもかつて苦い愛情を経験した人でした。それに、人間に転生する前に、もともと、閻羅王様の姪ですから、この幽冥界に自分なりに貢献したいと思っています」


「なるほど、閻さんはすごい人ですね」


「いいえ、大したことではありません」


閻婕妤は恥ずかしそうに目線を下げた。


「すみませんが、実は、俺は生きている人間で、用事があって幽冥界に呼ばたのです。人間界への帰り道をご存じですか?」


「知っています。でも、ここに迷い込んだということは、あなた……」


「玄幸一です」


「幸一様の心に、愛情に深い葛藤を抱えているから、ここに迷い込んだのです。その葛藤が消えない限り、わたくしが正しい道を示しても、幸一様はこの森から出られません」


閻婕妤は少し躊躇う口調で幸一に返事した。


「俺は愛情に深い葛藤を持っている?親子愛、とか?」


幸一はすぐに自分のごちゃごちゃの親子関係を思い出した。


しかし、閻婕妤は別の答えを出した。


「いいえ、どちらといえば、『恋』です」


「恋!?」


「はい。恥ずかしくて言いにくかったですが、ここに迷い込んだ魂は、皆、恋の悩み、未練、葛藤を抱えている方です」


「いや、俺はそんな悩みが……」


「きっとあります!ご自分が気付ていないだけです!」


幸一は否定しようとしたら、閻婕妤は彼の話を遮った。


「幸一様のような方が多くいらっしゃいました。わたくしの役目は、あなたたちを助けることです。今晩はうちに泊まって、わたくしに付き合ってください。相談に乗らせていただきます!」


「……お気持ちはありがとうございます。でも本当にそのような悩みが……」


「大丈夫です。恋の悩みは恥ずかしいことではありません。一晩中をかかってもわたくしに打ち明けない人はいません。きっとその悩みを解消してあげます!」


閻婕妤は親切に幸一の両手を握りしめて、甘い笑顔を見せた。


「……」


相手の動きはやさしくて、礼儀的なものだけど、幸一は何かよくない気配を感じて、サッと手を引いた。


「あっ、す、すみません!失礼なことを……ですよね。わたくしのような不審ものに触られて、きっと良い気分ではないですよね」


閻婕妤は寂しそうに頭を下げた。


「いいえ、俺は……」


閻婕妤の低い姿勢は幸一に申し訳ないと感じさせた。


(この人は何か誤解したようだが、悪い人じゃなさそう。ほかの手掛かりもないし、もうちょっと話を聞こう)


とりあえず、幸一は頷いて、閻婕妤の屋敷に入った。




閻婕妤は幸一を案内したのは枯れた花で装飾された雰囲気のいい寝室だ。


寝室の真ん中に、丸い食卓が置いてある。


「お酒とつまみを出しますから、ちょっと待っててね!」


「それより、まず話を……」


「飲みながら話しましょう!」


閻婕妤は幸一を部屋に置いて、兎みたいにぴょんぴょんと部屋を飛び出した。


「やった、やった!絶世美少年にあんな美味しい匂い!こんな獲物、千年もなかったわ!」


「まだ自覚はないかしら、あの年での恋、絶対に純粋で純愛、きっと極上な味がするわ」


「『他人の恋』って、お、い、しい~~」


躍起する気持ちを抑えきれない、廊下で自己陶酔に落ちた閻婕妤だが、いきなりの扉叩きに邪魔された。




扉を開けて見たのは、屋敷の外に立っている白黒無常たちだ。


「閻婕妤、さっき、人類の美少年の魂を見てないのか?」


白無常は単刀直入に質問した。


「人類の美少年?だれそれ?」


もちろん、閻婕妤は知らんぷりをした。


「玄幸一というものだ。彼は生きている人間で、俺たちは彼を人間界に送還しなければならない」


「知らないわ~もしかしたら、また人間の魂を失くして、わたくしに罪を着せるつもり?」


「よく言うな。お前は人間の魂をあれだけ盗み食ったくせに」


黒無常は冷笑した。


「あら、あの魂たちは自分でわたくしの森に迷い込んで、自分でわたくしに恋の悩みを打ち明けたの。わたくしは、たまたま彼たちが吐き出した恋の思念を食っただけだわ」


「この精神の境界では、意識は魂の一部。恋の思念を食うのは魂を食うのと同じだ」


「どのみち、法律違反じゃないわ!」


指摘された閻婕妤は堂々と威張った。


「分かったらさっさと帰りなさい、閻羅殿の貧乏畜たちと話をする暇はないわ!」


侮辱な話を投げて、閻婕妤はゴンと扉を締めた。


白無常は手もとに残っている鎖の残骸を思いきり地に叩いた。


「ちくしょ、閻羅王はあの方の『贖罪書』を握っていなかったら、とっくにあの猫かぶりの毒々しいやつを……!!」

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