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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第十三章 父の召喚は冥府から
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四十五 「継母」の改心?

自分の不幸を嘆く妖怪たちを追い払ってから、幸一と修良は蒼炎(そうえん)鳥に乗って急いで柳蓮(りゅうれん)県に戻った。


玄誠鶯(げんせいえい)に保釈されたおかげで、韓婉如はしばらく牢屋に行かなくて済む。


しかし、限定期間内で返金を集められなければ、刑が課される。


絶境に追い詰められた韓婉如(かんえんにょ)は、最後の切り札を出した。


二郎は幸一を呼び戻したのは、その件の詳細を伝えるためだ。


「古い土地?うちにそんなものあった?」


「ええ、正しく言えば、玄家代々が受け継ぐ土地で、支脈の当主であれば、誰でも一部土地の権利を持っています」


「でも、(げん)家の支脈が多いし、当主の誰でも持っているのなら、かなり小さい土地のはずだ。それほどお金にならないだろ」


幸一はその土地の価値を疑った。


「いいえ!これをご覧ください!」


二郎はいきなり興奮しそうに、一枚の地図を机に広げた。


「その土地は、『世界の龍穴』にあります!」


「『世界の龍穴』!?」


「世界の龍穴」、一つの湖を中心に広がる、自然豊かな高原地帯。


そこの土地は霊気を生み出す源に繋がていて、この世界で最も風水のいいところだと言われている。


そこで土地を占有すれば、世の中の権力、名声、富をやすやすと手に入れる。更に、先祖の墓をそこに作れば、子孫まで利益をもらえる。


この時代の貴族、大富豪、有名人の先祖はほとんどそこの土地を持っていると言われている。


現に、両大国の天寿(てんじゅ)国と地同(ちどう)国の皇室はそこで一番大きい面積の土地を占めている。そして、土地争奪を防止するために、高原に駐軍までした。


昔から有名な伝説で、今や主のない空地はもうない。


そこの土地が欲しいものがいっぱいいるが、売り出す人は指で数えられる。


「ですから、ほんの小さな土地でもかたり高い金額になります!!」


「なるほど、余程のことがないと手放したくないのも分かる。でも、なぜ俺に相談を?母がそれを売ればいいの話だろ?」


「それは、奥様がいきなり継承権を放棄して、お坊ちゃまに任せるとおっしゃいました」


「えっ、なんで!?」


幸一は驚いた。


「分かりません。それに、旦那様がいなくなった時、奥様がお嬢様たちに継承権を放棄させたので、今、継承権を持ているのはお坊ちゃまだけです」


「おかしいな。俺に任せれば、恨みで売却しないかもしれないのに。絶対おかしいだろ、先輩!」


韓婉如の決定を理解できず、幸一は修良の助言を求めた。


修良は軽蔑そうに鼻で笑った。


「死んだ良心が蘇って、罪滅ぼしでも企んでいるのかも」


「家の資産を俺に任せても不正契約や公的文書の偽造など罪は軽減できないだろ?何かの罠じゃないか?」


幸一は修良の言葉の裏に隠された意味が分からなくて、更に困惑した。


「なら、構わなくていいんだ。前も言っただろ。幸一はもう仙道の人間だから、家族との縁を切るのだ」


「えっ!し、しかし、旦那様がいなくなって、お嬢様たちが継承権を放棄した今、お坊ちゃまはもううちの当主ですよ!」


修良の助言を聞いて、二郎は取り乱した。


冷たい家族がいなくなったら、幸一が戻ってくると彼はずっと信じていた。


「なるほど、当主か……」


幸一は短く考えていたら、きりっとやることを決まった。


「やっぱり売却しよう!家の資産がなくなれば、当主にならなくて済む」


「えええええ!」


(そんな決断をさせるために相談したんじゃないんだ!)


二郎はひどく後悔したが、幸一の頑固さが彼もよく知っている。


「さすが幸一、優れた判断だ」


自分の意見と違うけど、修良はその決断に満足した。


(お前が黙ってくれないか!!)


「うっ!」


二郎が危うく文句を言い出すところ、ニコニコした修良はいきなり右腕を抑え、苦痛そうな声を漏らした。


(またそれか!もう騙されないぞ!それはお坊ちゃまをたぶらかすための演技だろ!)




「先輩!!」


幸一は素早く修良を支えた。


「まさか、あ……『あれ』のせいか!?」


悪鬼を口にしたかったら、二郎の存在に気づいて、途中で言葉を変えた。


妖怪の古兀(ここつ)にも憚られる身分で、二郎のような普通の人間は簡単に受け入れないだろう。


「そう、あれだ……」


修良は素直に認めた。


(あれって何だ!?)


二郎は聞きたくても、会話に入る余地がなかった。


「……幸一、悪いけど、今回の土地売買は自分で行ける?わたしは九香宮に戻って、宗主に『あれ』を診てもらう」


「ダメだ。売却は後回しでいい、先に先輩を九香宮に送り返す!」


「大丈夫だ。青渚(せいしょ)あたりを呼んで来る。早くお金を返還しないとお母様は牢屋入りだ。幸一はああ言っても、本当は自分を育てくれたお母様のことを心配しているんだろ。私を助けるために幸一のお母様が牢屋に入ったら、私は自分のことを許さない」


「先輩……」


修良の気遣いに幸一は感動した。


でも修良の企みは別のところにある。


(その土地を売れば、幸一は玄家と絶縁できる。あの目障りな人間の女とも綺麗に決着をつけられる。)


修良は冷笑を心の中に納めて、低い姿勢で二郎に頼んだ。


「二郎さん、今回の土地売買の件、同行をお願いできますか?」


「えっ、いいんですか!?」


二郎は意外を感じた。


強力のりみたいに幸一にくっつく修良が幸一を自分に任せるってこと!?


「何を言っていますか。幸一を任せられる人は、忠誠な執事のあなた以外にいないじゃないですか?」


「忠、忠誠な執事、わたしが!?」


ただ一言で、二郎が修良への印象がひっくり返されそう。


(ひょっとして、今まではわたしの勘違いだった!?この人はちょっとあれだけど、お坊ちゃまを本気で思っているいい人かも!)


「では、私は青渚に伝言を出してから寝る。幸一は二郎さんと売却のことについて話し合おう」


「売却のことは後で聞くから、今夜俺は先輩と一緒に寝る。何かあったら、すぐ対応できるから!」


修良の顔色が更に悪くなったことに気づき、幸一はもっと強い力で彼を支えて、客室のほうに向かった。


「……」


また置き去られた二郎は、ぼうっとして幸一の後姿を見つめていた。


(あれ?前にも似たようなことが……ひょっとして、相手にくっついてるのは、お坊ちゃまのほう!!??)




翌日、幸一と二郎は蒼炎鳥に乗って高原地帯に出発した。


午後、呼ばれた青渚は玄誠鶯の屋敷に訪れ、修良と共に九香宮へ向かった。


二人は修良の黒銀虎に乗って、雲の上を駆ける。


涼しい顔で先方を眺める修良を見て、青渚は不満を漏らした。


「こんな速度で空をかけるほどの力が残っているのなら、俺が迎えに来なくても帰れるんじゃないか」


「呼ばないと、幸一に余計な心配をかける」


「つまり、俺に余計な使いをかけていいってこと?暇人ならほかにたくさんいるだろ!」


「でも、こんなのを見たことがあるのはお前だけだ」


修良は右の袖をめくり、腕を青渚に見せた。


「!!」


修良の右手首以上、胸までの体は真っ黒な枯れ木のような姿だ。所々鱗や毒々しい棘もついている。




青渚は修良の真っ黒な右腕を一度見たことがある。


あれは三年前に、二人が子供の失踪事件を調査した時。


とある邪教を狂信者する人間は、教祖の「太陽太歳(たいようたいさい)」から富と権力をもらうために、子供を生贄に教祖に献上した。


たくさんの子供の生命力と怨念を喰らった「太陽太歳」は大した修為がないものの、人間離れの膨大な力を手に入れた。


修良と青渚二人が力を合わせても抑えきれなかった。


やむを得ず、修良は大きな術を解放した。


その術で「太陽太歳」から子供たちの魂を奪い返し、やっと化け物を倒した。


でもすぐ後に、修良の体の一部が悪鬼化した。


青渚はてっきり術の反噬だと思って、修良が何かいけない術を修行していると思い込んだ。


修良に術のことを訊ねたら、なんと、「幸一に教えたらお前の魂を奪い取る」と脅かされた。


その一件は青渚の修良への「闇印象」の源だ。



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