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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第一章 百八回も売られた美少年
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四 十八歳の誕生日

家出してから六年後、幸一は玄天派の九香宮で十八歳の誕生日を迎えた。


朝の支度を元気よく終わらせた幸一は部屋の扉を開けた。


さわやかな風が吹き、すでに見慣れた九香宮の景色が目に入る。


六年前に、崖の上で見た城は九香宮の主城にすぎない。


九香宮全体は一つの大きいな山。一番頂上にある主城以外の部分はほとんど雲に隠されている。


山の麓は円形の河に囲まれ、河の外には、城壁に思われる石壁が立っている。


山の下段と中段に、踊り場がたくさん開拓されている。新入り弟子たちの寮や教室はこの部分に集中している。


山の上に行くと、ごつごつの岩が重なり合い、足の踏み場がほとんどなくなる。建物は貼り付けられたように山体と密着している。山体の周りにたくさんの小石が浮かんでいるが、どれも小さくて立てられないし、石と石の間の距離も遠い。法術なしで登るのがほぼ不可能。上級弟子の寮と教室はこの部分に集中している。


つまり、上に行けば行くほど、弟子たちのが高くなる。


そして、山の頂上にあるのは九香宮の主城。


玄天派の宗主・幸一の師・九天玄女(きゅうてんげんにょ)の居場所だ。


礼儀として、誕生日の朝一に、幸一は師のところに行き、過去一年の成果の報告と感謝の気持ちを述べる。


「よし、師匠のところに行こう!報告することはたくさんあるしね!」


幸一の部屋は山の上段の真ん中あたりにある。扉を開けば空。


幸一は手慣れた動きで先方の空に浮かんでいる小石に跳んだ。


足先で石を軽く踏んだら、幸一は矢のように急上昇しにいく。


途中で何回もほかの小石を踏み場に借りて、順調に山の頂上に着陸した。


今日は春分の日、六年前のような大きいな儀式はないが、玄天派の常例の儀式がある。


主城の広場に、儀式係の弟子たちはすでに仕事を始めている。


幸一を見かけたら、荷物を運んでいる三人の弟子が笑顔で彼に近寄ってきた。


「おはよう幸一、お誕生日おめでとう」


「今日で十八歳だっけ、おめでとう!」


「おめでとう幸一!今年もみんなとすてきな贈り物を用意してあるから、夜の宴会に期待しててね!」


「ありがとう!先輩たち!」


この三人は全員幸一の先輩、藍色の帯を服に付ける上級弟子。


「そうだ、高乗(こうじょう)先輩!仕事が終わってから時間をください!先日の続きをしたい」


いきなり呼ばれた高乗という青年の笑顔が硬くなり、ビクッと背を震わせた。


「えっ、それは、もう引き分けでいいじゃない……?」


「いいえ、決着付けないのはよくない!やっと先輩の防御を破る方法を見つけたんだ!次は俺が必ず勝つ!」


「あはは、それは、おめでとう……」


高乗は反論もせず、ただ苦笑いをした。


今までの経験によれば、幸一が勝利宣言をしたら、確実に勝利を掴む。ほかの人はどうあがいても無駄――一人を除けば。


「ああ、ついに、戦力十八位の高乗も突破されるか……これは天才と凡人の差。俺、どうすればいいんだ」


三人の中で、一番文人っぽい青年がやれやれと頭を横に振った。


「二十五歳で十二位のあんたが凡人だったら、二十八歳で二十位のあたしはどうするのよ!」


実際の年よりも若く見える女性は容赦なくツッコミした。


「幸一は特別だから……みんなもそろそろ慣れただろ」


高乗は仕方がなくいと嘆いた。


小さい頃から仙道の道に入り、三十歳前に上級弟子になれたの三人は、どれも間違いなく天才だ。


しかし、十代以降の弟子入り、僅か六年で自力で頂上まで登れる人は、門派が創立されてから、幸一しかいなかった。


一般的にいうと、十代前から仙道に入り、天賦の才能に努力の汗をくわえ、五年から十年の修行を積み重ねて、初めて中級弟子になれる。更に十年から二十年をかけて、上級弟子の扉に入れる。


だが、幸一は僅か三年で中級に入った。そして、先日についに準上級弟子の空色帯を手に入れた。


「そういえば、青渚(せいしょ)先輩、来月から時間はある?」


不意に、幸一は十二位の青年に期待な目線を送った。


「いえいえ、俺はいい!弱いし、脆いし、実戦苦手だし……」


青渚は急いで手を振る。


「何を言っているのですか!修良(しゅうりょう)先輩から聞いたぞ。青渚先輩の実力は十二位じゃない、弟子の中で上位六人にも入れるって!」


「……」


「修良」の名前を聞くと、青渚の顔は青ざめた。


(チクショウ、わざとだな。俺を幸一の次の踏み台にするつもりか)


「そういえば、修良はどこ?まだ任務から戻っていない?薄情なやつだな。自分が育てた幸一の大事な日なのに!なんでこの日の前に任務を受けるんだ!体弱じゃなかったっけ?」


明らかに幸一の誘いに乗りたくない青渚は話題を逸らした。


すると、幸一の目に憧れの光が浮んで、遠い空を見あげた。


「修良先輩は言った。体が弱いからこそ、動ける時にはなるべく貢献したいって。そして、必ず今日中に戻ると約束してくれた」


「……」


三人は無言を返した。


この九香宮でそのような的な目で修良を見るのは幸一だけだ。


十二歳の誕生日の夜、崖の上で幸一を迎えるのは修良だった。


修良の話によると、彼は維元城から仙道と深い縁を持つ人の存在を感じた。


調べた結果、幸一を見つけた。幸一に仙道との縁を気付かせるために、動物たちに頼んで、文字の葉っぱや花びらを幸一に送り続けた。


暖かい言葉を送ってくれた神様の正体がこの「仙人」だと知り、幸一のドキドキが止まらなかった。


でも、ちょっと疑問があった。


「どうして直接に教えてくれなかったの?もっと早く教えてくれれば、僕はきっともっと早く……」


「縁があるとは言え、他人の道を深く干渉してはいけません。仙道に入る件に関して、あなたの意志を最大限に尊重したい。今でもそうです。もしあなたが興味ないと言ったら、私はもうあなたの前に現れません」


その会話で、修良の神秘で高尚なが幸一の心の中に深く植え付けた。


幸一は迷わずに仙道の道に入った。


当たり前のように、修良は幸一の世話役兼教育係になった。


まもなく、幸一は気づいた。


修良は無理をして何か大きな法術を修行したせいで、体を壊してしまった。


体力を激しく消耗すると、あるいは大きいな術を使うと、体がかなり弱まる。その故に、強い術を使えるのにも関わらず、何年も緑帯の中級弟子でいて、上級に上がれない。


恩を返すために、幸一は逆に修良の世話役になった。


修行に関して、修良が主導権を握る。生活に関して、幸一が整える。


二人は良い兄弟子・弟弟子の関係を結んだ。


玄天派宗主・九天玄女、実の年は数千歳を超えるが、外見は二十代後半の女性。


彼女の下に何人かの仙導師や有能な上級弟子もいて、自ら弟子たちを指導することはほんの僅か。


幸一は彼女の直々の指導を受けたことのある、数の少ない弟子の一人だ。


表情も情緒も見せない師だが、幸一は彼女から深い慈悲と愛情を感じられる。


いつも半透明な白い帳に囲まれて事務を処理する九天玄女だが、今日は帳を上げて、対面で幸一の報告と感謝を聞き終わった。


「おめでとう、幸一」


静かな水面のような声で、九天玄女は幸一に答えた。


「贈り物を用意してあるわ。景媛(けいえん)に任せた。後で彼女から渡されるでしょう」


景媛というのは、先ほど広場で幸一と会話を交わした姉弟子のこと。


「ありがとうございます!お言葉だけでも十分嬉しいです!」


「そろそろ彼が戻るところだわ。迎えに行ってあげて」


「修良先輩が!?」


名前が出なくても、幸一はその「彼」が誰を指しているのか心得る。


一か月ぶりの修良に早く会いたくて、幸一は小走りで謁見の間を出た。


広場に出た途端に、一陣の灰色の風が空に現れた。


「修良先輩!」


幸一の呼び声と共に、兄弟子の天修良(てんしゅうりょう)は風の中心に現れた。


「おまたせ、幸一」


六年前と同じように、修良はやさしく微笑んで、幸一の前に舞い降りた。


「遅くなってごめん、心配してた?」


「全然!修良先輩は約束を破ったことがないから!」


修良の派手な帰還は、広場で儀式の陣を描いている弟子たちの注目を引き寄せた。


でも、誰も彼に話をかけていない。ただ彼と幸一のやり取りを観察した。


「実は、帰りの路線を変えて、半年前に注文したものを取りに行ったんだ。十八歳の誕生日、おめでとう」


修良は懐から掌二つ分の長さの小箱を出して、幸一に渡した。


「半年前から、わざわざ?!あ、ありがとう!」


幸一の目は感動に光った。


「さあ、開けてみて」


修良の催促で幸一はさっそく箱を開封した。


箱の中に眠っているのは、一本の短剣。


真っ白な刃が星屑の輝きを纏っている。どう見ても普通の金属ではない。


柄の材質も特別のように見える。青い鳥に似たような色だが、緑、紫、水色の淡い光も浮かんでいる。


剣身を装飾する模様は金色の糸で作られたもの。よく見れば、一本の太い糸は数えきれない細い糸が束ねてできたものだ。


「これは――」


幸一の不思議な表情を見て、修良はこの短剣の由来を説明した。


「剣身は白厄龍の椎骨を軸に、天晶石で鍛造したもの。柄は深淵鯨の卵の殻でできたもの。その金色の糸は、金魂蝶が羽化する前に吐いた第一本の生糸を集めて作ったんだ」


「!」


幸一が驚きで言葉に詰まったら、その説明を耳にしたほかの人たちはこそこそ議論し始めた。


「白厄龍の骨と天晶石って、どれも伝説中の幻の存在だろ?どうやって手に入れたの?」


「深淵鯨は確か、五百年に一度卵を生む珍獣で、総数は二百頭未満と言われいてる……」


「金魂蝶の羽化だって、百年一度だぞ。しかも第一本の生糸……一体何匹の虫から集めたんだ?」


「修良って、何歳?景媛より下?」


「知らないわよ。私が入門した時から彼はあんな姿でいたの」


「へぇ、意外にじじいの可能性だってあるんじゃ……ひぃ!」


正直な感想を発表する青渚は、一瞬、修良からの冷たい視線を感じた。


うまく外野を黙らせたので、修良は説明を続ける。


「普通の妖魔はこの短剣の輝きを見るだけで怯えて、近寄ってこないだろう。仙道の人間にもかなり効果があるよ。たとえ相手が不死身の術を身に着けたとしても、これを使えば、奴の筋や骨を簡単に断ち切れる。普通の人間に使う場合、相手が苦痛も感じないほど速さで瞬殺できる。傷口は髪一本の薄さで、血もでない」


「!!」


幸一以外の人は全員ぞっとした。


(なぜあんな恐ろしいものを送るんだ!!)


だが、文句を口から出す人は誰もいない。


残酷な使用説明を聞いても、幸一の顔に感服と感激以外の感情が一切出なかった。


「こんな貴重なもの、俺がもらっていいの?」


「いいよ。幸一のために作ったんだ。私は以前から幸一にたくさんの迷惑をかけた。これからも幸一を頼りにするから、これくらいのものはささやかな気持ちにすぎない」


「何を言っている、先輩。俺こそ、先輩からたくさんのものをくれた。居場所も、知識も、家族の温もりも……」


過去の出来事を思い出すと、幸一の目が潤んだ。


失態に気づいた幸一は目を拭こうとしたら、修良が一歩先に、指先で彼の目元を擦った。


「そういえば、これは今日の最初の贈り物っていいよね?」


さりげなく、修良は質問を投げた。


「ええ、師匠の贈り物は後で渡されるそうだ」


「よかった、どうしても一番目にあげたかったんだ!」


幸一の答えを聞き、修良はほっとしたように胸を撫でた。


そこまで言われたら、幸一はもう断る理由がない。


「……ありがとう!修良先輩!絶対大事にする!」


(お前が送る前に、送れる人はいないだろ!!)


ほかの人は心の中で一斉に叫んだ。


五年前のこの日、朝一に贈り物を幸一に渡し、告白までした上級弟子は修良の「相談」に乗せられた後、仙道を辞めたことが、みんなもはっきり覚えている。


真相を知らないのは幸一だけだ。


「大事にするより、いっぱい使ってほしいな」


「分かった!これから肌離さずに持ち歩いていく!」


「ありがとう……」


突然に、修良の体がフラと揺れた。


「先輩!」


幸一は熟練の動きで肩を上げて、修良を支える。


「……大丈夫、ちょっと急ぎすぎで、力の制御ができなっただけよ」


修良は疲れそうに身を幸一にゆだねる。


「また無茶しちゃって!今すぐ部屋まで送ってあげる!」


「でも、師匠への報告は……」


「後で内容を教えてくれ、俺が代わりにやる」


「でも、今日は幸一の誕生日、みんなはきっとたくさんの祝福を用意したから、私に構わないで、みんなと遊びに行ってほしい……」


「いいから!修良先輩より大事なことはない!」


幸一は浮遊の術を発動し、「強引的に」修良を下へ連れて行った。


「さすが修良だ……」


見慣れたやり取りだけど、みんなはやはり感服した。


玄幸一が天修良の「《《お気に入り》》」、「《《大事な弟弟子》》」、「《《宝物》》」、極端的に言えば「《《私物》》」であるのは、この九香宮では周知のこと――幸一本人以外に。


六年前に、幸一がこの九香宮に入ってまもなく、九香宮でいくつか特別な掟が生まれた。


新しく入門した弟子が、先輩や仙導師から、密かにその掟を教えられる。


一、修良の断りなしで幸一に近寄ってはいけないこと。


二、幸一に避けられている、あるいは、仲間外れされている感覚を与えてはいけないこと。


三、幸一から誘いがある時に、まず修良の判断を仰ぐこと。


四、いかなる時にも、幸一の容貌について議論してはいけないこと。


違反すれば自己責任、門派はその因果に干渉しかねない。

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