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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第十一章 悪鬼の真相
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三十九 二つの意識

赤蓮(せきれん)の陣」は八重咲きの花の形をまねして組む陣法。


中心に一人、その人を囲んで六人で輪を作る。その六人の外に、更に十二人で輪を作る。


このように、輪の広がりにより、輪を組む人数が倍増し、一番外側の輪に百九十二人がいる。


中心の一人を柱に、それ以外の者は妖気で蓮の花びらを作る。


花びらの力が重ねに重ねて、巨大な血色の蓮を咲かせると、全員総力の百倍以上の妖力を生み出し、敵を焼き尽くす。


その陣を破壊するには、花の中心の真上から中心部に侵入し、柱となる人を倒す必要がある。


しかし、敵が一旦中心に入ると、花びらの力は一瞬で柱に集中され、柱の力が何倍も増大する。


万が一、柱が倒された場合、蓄積した力が制御を失って爆発する。無差別に周りのすべてを焦土に変える。


柱となる人は、膨大な力を耐え、陣の指揮も取る。上の上の妖力を持たなければ努めない。


その役を担うのはもちろん将軍の珊瑚だ。


珊瑚はその陣を「朽ち果てる深淵」に置いた理由は二つ。


「朽ち果てる深淵」は名の通り、なんの生気もない不毛な土地だ。


万が一、修良が陣を破る場合、爆発の威力は妖界に損害を与えない。


そして、古兀と黒須少尉の話によると、ここは旧世界とのつながりが強いところだ。


修良の身分や力を話すのに最適だ。




修良は珊瑚たちを待たせなかった。


陣が完成したすぐに、修良は現れた。


全身に破滅の気配が漂い、朽ち果てた土地を踏みながら一人で血の蓮に向かってくる修良は、まさに孤独の鬼だ。


「思ったより早くいらっしゃいましたね、修良先輩」


陣の中央に囲まれて姿が見えないが、珊瑚は妖力で声を修良に届けた。


修良は表情も見せず、返事もしなかった。


ただ静かに陣に近づいてくる。


袖裾が蓮の妖気に焼かれる距離まできても、陣破りのために空を飛ぼうとする様子がなかった。


「!!」


一番外の輪で陣を構える妖怪兵士たちは信じられない景色を見た。


修良は陣の妖気を平気に触れて、彼たちの隙間を通り、蓮の中に入った。


修良の全身からある種の黒い力が湧いてきて、彼が通ったところの蓮の花弁がその力に腐蝕されたように、黒の煙と化する。


慌てて修良を止めたいものもいるが、勝手の動きは陣を構える時の禁忌で、みんなは珊瑚の指示を待っていた。


「構わない。入らせてやれ」


珊瑚は冷静に命令を下した。




血色の蓮の中心に向けて、真っ黒な通り道ができた。


その道の果てに、珊瑚と修良が対面した。


「お前に二つの選択肢をやる」


修良は挨拶もなしで珊瑚に言い放った。


「一つ、幸一を返す。二つ、お前が幸一と交換する人質になる」


「三つ目はないですか?この妖界を滅ぼすとか」


珊瑚は修良の姿を観察しながら、淡々と笑った。


「お前がそう望むなら入れてやる」


修良は黒鉄のような声で返した。


「幸一は妖界城にいます。そこから人を奪い返すなら、確かに、妖界を滅ぼすほどの力が必要でしょう。修良さんはそんな力を持っているのなら、それがしと口論するより、直接に妖界城に行ったほうが早いかもしれません」


「……」


修良は足を動けなかったら、珊瑚は目をさらに細くした。


「行かないということは、本当は妖界を滅ぼす力を持っていないのか、あるいは、その力の使用を控えているのかな?」


「……」


修良の目に一瞬殺意に近い影が走った。


「あの時もそうでしたね。それがしたちと対峙する時に使おうとしたその力――」


珊瑚は一玉の炎を修良を囲む黒影に送ると、その炎がたちまち灰色になり、宙に消えた。


「幸一が来ると、すぐ収まったのですね。幸一に見せない理由でもありますか?たとえば、その力はこの世界に存在してはならないもの、とか?」




妖界城の動力部。


幸一は手伝いを申し出たら、古兀(ここつ)に大きな煉丹炉の前に案内された。


「怖いのかい?」


「これに入れと言われると、さすがちょっと引きます……」


自分より一倍高い煉丹炉を目の前にして、冷や汗を掻くのに行かなくても、どこかやばそうな感じがした。


「でも、やるのはただ俺の福徳を乱心した妖怪兵士に分けるくらいでしょ?別に俺を丹薬に作るわけじゃないし」


「そうじゃ。福徳は天地から良い力を引き寄せ、邪悪なものを排除する。生命体の再生や修復に役に立つ。本来、他人の福徳を横取りすると反噬を食らうのじゃが、おぬしの福徳がとても厚い、一生も使い切れないじゃ。自分の意思で他人に分ける場合、相手には損害もないし、おぬし自身への損害もない。ただ……」


「ただ……?」


古兀がためらうと、幸一の心臓がドキッとした。


「分ける時はとても痛い、気持ち悪いとか」


「違う違う」


古兀は笑って手を振った。


「痛くも痒くもない。ただ、来世のおぬしはズバ抜きの美貌や才能がなくなり、鳥の糞が頭に落ちるような凡人になるかもしれぬ」


「なんだ、それは別に悪いことじゃないでしょ」


この顔のせいで起きた諸々を思うと、幸一は逆にほっとした気分だった。


「おぬし、本当にいい子じゃのう。じゃあ、どうぞお入り」


古兀は煉丹炉の扉を開けて、幸一を誘った。




煉丹炉の中にたくさんの晶石が嵌められ、意味不明な呪文が刻まれている。


ちょうど幸一の頭くらいの高さの位置で、外が見える小さな穴が開いてある。


その窓から、幸一は外を覗いた。


古兀は黒と白の晶石でできた古びた杖を手に持って、何か呪文を唱えたら、床に広がる木の根から枝が伸ばし、煉丹炉を絡みつける。


煉丹炉の中の晶石と呪文から彩りな光が浮かびあがり、幸一は全身の霊力が煉丹炉と共鳴しているのを感じた。


まもなく、幸一の体から優しい白光が浮かんで、枝に吸われたように外へ流した。


すると、枯れた枝が太くなり、新しい葉っぱや新緑の小枝が生えた。


そして、枝にたくさんの蕾ができて、真白で小さな花がいっぱい咲いた。




「これはっ……まさに生命の霊気じゃ!」


幸一から抽出された力を見て、古兀は目を大きく張った。


「何の術も使わず、福徳の力だけで生命力を生み出すとは、おぬしの魂は、本当に人間のものなのか!?」


古兀は何に興奮しているのかわからないけど、幸一はその質問に答えた。


「人間ですけど……魂まではわかりません。人間に混ぜにくいような気がするから、前世は妖怪だったりするか」


「おぬしのような子は妖怪じゃったら、わしが一生の学を尽くしておぬしを立派な大妖怪に育てるじゃろう......残念じゃったのう」


古兀は悔しそうに長く嘆いた。


「そんなに残念ですか……」


古兀の反応が大きくて、幸一はちょっと妙だと思った。


「今のわしはおぬしを騙し、犠牲にするようなことしかできぬからじゃ」


「騙し、犠牲?」


「まだ気づいておらんのか?」


古兀は杖を上げて、幸一に指した。


「福徳は魂の中にあり、魂の光の一部じゃ。おぬしの福徳を抽出することによって、おぬしの魂も抽出できるのじゃ。わしが利用したいのはおぬしの魂じゃ!」


「俺の、魂!?」


「そうじゃ、おぬしの魂をもって、旧世界への道を開く。おぬしの魂はその体に戻る保証はない。悪いと思うが、これも旧世界で生を受けたおぬしが背負うべき業力じゃ」


幸一はまだその話を理解できていないうちに、古兀は杖を高く上げ、妖力を燃やし、何か大きな術を発動した。


「旧世界からの魂よ、おぬしの生まれた場所に導いてくれ!!」


煉丹炉が爆破寸前のように強く鳴動し、眩しい赤い光を炸裂した。


何かが体から、魂から、速やかに吸い取られている感覚が幸一を襲う。


ひどいめまいの中で、幸一の目は光を失い、膝が倒れる……




しかし、その時、鎖の音が聞こえた。


暗く、太く、山より重い、氷より冷たい鎖が彼の意志を体に引きとめた。




幸一は再び目を開けたら、窓から呆れた古兀が見えた。


「抜き出せない……何故じゃ」


古兀は驚愕な目で煉丹炉をぼーっと見つめている。


幸一から集めた白い光が雲のような形になって、煉丹炉の上に浮かんでいる。


煉丹炉は瑠璃のような透明な質になり、薄赤の光を浮かべながらも静かになった。


古兀の疑に答えるように、煉丹炉の表に数本の鎖の影が現れた。


「これは……」


古兀は小心翼々と杖の先で煉丹炉に触れた。


「そうか、そういうことか……」


「どういうこと?」


幸一は訳も分からなくて、古兀の説明を催促した。


「おぬしの魂に二つの意識が存在しておる。ほとんどの福徳は現世の意識ではなく、前世の意識につながっておる。おぬしは一般人と違って、前世の意識のほうが強いんじゃ」


(現世意識、前世意識……?勉強したことがないな……)


そういう場合じゃない気がするが、幸一はまず自分の知識不足を悔やんだ。


「現世の意識が前世の意識に飲み込まれなかったのは、何か封印のようなものによって、現世の意識が強められ、前世の意識を抑えられたからじゃ――その故、これ以上の福徳が抽出できない、魂も抜き出せないんじゃ!」

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