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三十 決闘申し込みはかわいい

案の定、正門の外に、妖界軍の軍服を着ている武将風の男が佇んでいる。


男の外見は人間の二十代半ばくらい、高く結んでいる長い髪が真っ白、全身の妖気が白い炎のように燃えていて、長刀を構え、餓えた獣の目で幸一を睨む。


「幸一様……」


珊瑚家の使用人は何かを言おうとしたが、幸一は彼を後ろに庇った。


「この強い敵意、侵入者だな。大丈夫だ。俺がやつける」


「ち、違います!珊瑚様の同僚の白迅(はくじん)様です!」


使用人は慌てて駆け出そうとする幸一を引っ張り止めた。


「えっ、珊瑚の同僚なのか?」


「珊瑚と関係ない!お前に用があるから来たんだ」


白迅という男は犬歯を剥いて、幸一に吠えた。


「俺は蒼鋭軍の副将、白迅。お前は玄天派の玄幸一だろ!」


「そうだけど、何かご用?」


相手の態度が悪いが、一応珊瑚の同僚だし、幸一はとにかく話を聞いた。


「受け取れ!」


白迅は長刀をひと振りして、一陣の風を巻き起こした。


風の中から、小さな黒い影が幸一の真正面に飛ばされた。


「!」


目も手も早い幸一はその黒い影を掴んだ。


その黒い影の正体は一匹の子狼だ。


体は幸一の手の大きさしかないが、両目に凶悪な赤い光が宿っている。


腰を掴まれた子狼は牙を剥いて、獣の唸りで幸一を威嚇している。


「かわいい!!これを俺に?」


幸一は嬉しそうに白迅に聞き返した。


「こいつ!なめてるのか!」


白迅は更に大声で吠えた。


「それは、末代までお前を許さないという意味――決闘の申し込みだ!」


「決闘!?なんで?」


「受け取った以上、決闘に承諾ということだ!さっさと出て俺と戦え!」




「幸一様、出てはいけません、珊瑚様のお帰りを待ちましょう……」


「別にいいけど」


使用人は心配しそうに止めようとしたが、幸一はすんなりと認めた。


「えっ!?」


妖怪の武将と手合わせの機会がそうそうない。


幸一は困るどころか、子狼を懐に押し込んで、わくわくな気持ちで正門を出た。


「でも、場所を変えたほうがいいじゃない?ここは珊瑚家だし、うっかり何かを壊したらよくない」


「壊す?」


白迅は不適に笑った。


「その前に、お前をぶちのめす!!」


叫びと共に、白迅の妖気が弾丸の形に化して、流星のように幸一に突進した。


「!!」


猛速度だけど、幸一が避けられないものではない。


幸一は後ろに避けながら、袖から細剣引き出し、白迅の長刀に迎え撃つ。


(なんだ、勢いはよかったけど、速度も力もいまいち、珊瑚と比べ物にならないな……)


何回か武器を交わしたら、幸一のわくわく感が落ちた。


(こういう螺旋のような走り方も、相手より速くならないと、攻め切れないし、逆に武器攻撃の威力を落とすだけじゃ……!)


「ふん、かかったな!」


もう一回武器を交わしたら、白迅は迅速に引いて、幸一と距離を取った。


「!!」


幸一はやっと気づいた。白迅の妖気によって、一つの鳥かごが作られて、自分はかご中に閉じ込められ。その鳥かごの頂点から一本の妖気の縄が伸びていて、白迅の腕に繋がっている。


「なるほど、力が弱かったのは、これを作っているのが原因か!てっきり弱いやつと思った!」


「こいつ、なめるな!!」


ドヤ顔で幸一に傑作を見せたのに、皮肉みたいなことを言われて、白迅の怒りは更に


燃え上がった。


「じゃ、手抜きなしでいい?初対面の人、いいえ、妖怪に全力を出したら、先輩や師匠たちに怒られないかとさっきから心配で……」


「なめるなと言っただろ!!お前はもう逃げられない、これから我が軍の地獄の牢屋に行くんだ!」


「へぇ、そんなところがあるんだ!」


幸一は緊張する様子もなくて、妖気の檻に手を伸ばした。


「無駄だ!俺の妖気に触れた人間は焼かれ、白骨に……!!」


白迅の宣言の中で幸一は無事に檻を握った。


「ちょっと痛いけど、我慢できないものじゃない」


幸一は目を閉じて、手のひらから白金の光が浮かんだ。


「神妖逆転」


幸一の呟きと共に、白金の光は妖気の鳥かごに広げ、すべての妖気を上書きした。


色の変えた妖気が一気に白迅に逆流する。


「なっ……!!」


驚きのあまり、白迅は保護の術も忘れ、逆流の強い衝撃に飛ばされた。


幸い、彼が地に落ちる前に、後ろから誰かに受け止められた。


「おっと!危ない」


「珊瑚!」


振り向いたら、作り笑顔の珊瑚がいた。


「何をやっている?白迅副将。大将軍の命令を違反する気か?」


白迅はすみやかに珊瑚から離れ、体勢を整えた。


「俺は回りくどいことが嫌いだ!こいつの兄弟子が説明してもらえないなら、こいつを捉えて、その兄弟子の出頭を要求すればいい!」


「正規軍は盗賊みたいなことをするのか?美しくない」


「仙道の奴が先に手を出したんだろ」


「一人の行為を仙道のことにするな、大きな問題になる」


「珊瑚、お前は嘯風(しょうふう)様に蒼鋭(そうえい)軍の権限を委ねられたのに、仲間を守れなかった!俺を止める資格なんてない!!」


珊瑚の話を聞かず、白迅はもう一度長刀を構えた。


その言葉を聞いて、珊瑚はめずらしく不愉快そうに眉をひそめた。


「委ねられたんじゃない、押し付けられた……まあいいか、幸一とやりたいなら止はしない」


話がまだ終わっていないのに、なぜか珊瑚は諦めたように引いた。


その代わりに幸一に声をかける。


「幸一、こいつはちょっと馬鹿なところがあるけど、一応、それがしが面倒を見ている蒼鋭軍の副将だ。手加減してくれ!」


「分かった。白迅さんは俺を傷付けようとしなかったから、俺も穏便に対応する」


珊瑚に頷いたら、幸一は相談口調で白迅に訊いた。


「乱闘になると力を把握しにくいから、一撃で勝負したらどう?」


幸一は白金の霊気を収めて、剣を構えた。


「チクショウ!どいつもこいつも舐めやがって!一撃でお前を仕留めてやる!」


白迅は狼のような遠吠えを放ち、全身の妖気を燃やす。


白い妖気が一匹の巨大な狼の形になり、白迅を包む。


幸一は左手の中指と人差し指で軽く剣身をなぞり、念を注入する。


二人は睨み合い、土地蹴り、真正面から衝突―――一筋の鋭い青い光が、巨大狼の心臓を貫いた……




「なっ、何なんだこいつ!!」


地に倒れて、辛うじて腕で上半身を支える白迅はまだこの結果を信じられない。


珊瑚は冷ややかに笑った。


「言ってなかったっけ?幸一はそれがしと互角にやり合っていた」


「嘘だろ!玄天(げんてん)派宗主の直弟子とは言え、この年の人間が『神妖逆転』のような秘伝術を使えないだろ!」


「幸一は特別だから」


「あの、白迅さん、この子をもらっていい?」


幸一は二人の隣に来て、懐から決闘申し込み用の子狼を掴み出した。


「きゃあきゃあ騒いでて、かわいい」


「それは、決闘申し込み専用の法具妖怪だ!」


「じゃ、いつでも決闘に応じる」


「なめやがったな!!」


白迅が更に分からなかったのは、幸一の危機意識のなさだ。


その気楽な態度は、まるで自分を嘲笑っている。


「幸一のことはそれがしが担当する。それより、扉を破った百妖長の中で、まだ一人が行方不明だ。白迅副将も探しに行ってくれ」


珊瑚は白迅を引っ張り立てた。


不服だけど、白迅はここを引くしかなった。


白迅を追い出したら、珊瑚は幸一に向けた。


「大将軍との対面許可を取れた。行こう」


「うん」


やっと妖界の頂点に立つ人物と対面する。


幸一は気を引き締めた。




幸一は授業で勉強していた妖界城に連れられると思ったが、珊瑚が案内したところは大きな庭園だ。


正しくいえば、大きな庭園のようなお宅だ。


妖界軍の頂点に立つ大将軍がこんな風雅のところで仕事を処理するのは想像できない。


「ここは……」


幸一が口を開いたら、珊瑚は彼の疑問を回答した。


「実は、この前に大将軍が襲われて、負傷した。今はまだ静養中で、ここは奥さんの別館だ」


「襲われた!?妖界軍の大将軍が!?」


幸一は驚いた。


大将軍が妖界での地位は玄天派の宗主が仙道での地位に似たようなものだ。


師の九天玄女(きゅうてんげんにょ)が襲われて負傷することなんて、幸一は考えもできない。


「大した怪我をしなかったが、警備が一時的に大将軍の周りに集中した。その隙に、扉が破られた。いわば、奇計で虚を突くってことね」


「本当の目的は扉か。でも一体何のために人間界を襲ったんだ?俺の家族まで……」


「それは妖界と仙道が協力して調査していることだ。幸一の協力が必要だ」


「ああ、もちろん!俺も早く事情を明かして、先輩の疑いを洗いたい」


「疑いね……」


珊瑚は密かに肩をすくめた。

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