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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第七章 惨殺の理由
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二十八 対立

「先輩!やっと見つけた!母と幸世は……!」


幸一(こういち)はさっそく韓婉如(かんえんにょ)幸世(こうよ)に駆け付けたが、珊瑚(さんご)はただ信じられない目で灰燼を見つめていた。


「二人とも無事のようだが、かなり怯えていて、しばらく、《《何も話さなくなる》》かも」


最後の言葉を発する時、修良(しゅうりょう)は韓婉如を覗いた。


「っ!!」


その視線と言葉の意味を察した韓婉如は大人しく口を噤んだ。


せっかく命を拾ったから、修良の「禁忌」に触ってはいけない。


それに、真実を知った以上、どんな顔で幸一に向けるのか、彼女はまだ知らない。




母親と妹が無事で、幸一はとりあえず一安心した。


「あの妖怪たちはどういうこと?なぜ母たちを狙う?」


「さあ、私もよくわからない」


修良は上手な演技で知らんぷりをした。


「凶悪な気配が伯母様のお宅で現れたのを感じて駆け付けた時、お母様と妹さんはもう攫われた。急いでここまで追いかけたが、間一髪で、すぐ奴らを倒すしかなかった」


「そんなこと、信じられるとでも思う?」


いきなり、珊瑚の声が割り込んだ。


いつもの気楽な陽気な声ではなく、何か我慢しているような硬い声だった。


珊瑚は床で拾った一枚の名札を手に握り、目に夕焼けの光が浮かんで、修良を睨みつける。


「修良さんの腕でなら、百妖長程度の妖怪を生き捕まるのは簡単では?」


「申し訳ございません。そんな余裕がありませんでした」


「それがしの目はとってもいい。先ほど、奴らが行動する前に、修良さんは何か法術を施したのではなかった?」


「そうですね。私は一度法術で彼たちを拘束しようと試みたけど、制圧できなかったので、慌てて大きな術を発動しました」


珊瑚の怒りの込めた問詰めに、修良は顔色一つも変わらなかった。


「珊瑚、何かあったのか?顔色が悪い……」


幸一は質問をしようとしたが、珊瑚は一歩引いて、表情を更に引き締めた。


「この二人は妖界三軍の蒼鋭(そうえい)軍の百妖長、焦明(しょうめい)焦暗(しょうあん)。なぜか兵士たちを率いて妖界の扉を強行突破して、町を荒していた。事情はまだ調査中だが、明らかに異常だ……」


「俺もおかしいと思う!」


緊張になった雰囲気を読み取って、幸一は進んで話の接ぎ穂を取った。


「余程の事情がなければ、妖界の正規軍は人間界との掟を破るはずがない!俺たちは師匠から命令を受けて、妖界の役人と協力し、事情をはっきりするんだ」


「余程の事情か」修良はさりげなく顎を擦った、「例えば、操られた――とか」


珊瑚は何かに刺されたように一瞬目を細くして、硬い口調で続けた。


「操られても本人の意思でも関係ない、彼たちは妖界正規軍の一員だ。正式な調査と尋問される前に惨殺されたことは変わらない」


「!」


珊瑚の手に赤い炎が燃え上がり、長い刀の形となり、シューと修良のほうに伸ばした。


「先輩!」


刀の先が修良の顎の下まで届き、幸一が慌てて声を上げたが、修良はびくともしなかった。


「そう、私が彼たちを惨殺しました。どうしますか?」


修良は緊張感なさそうに軽く鼻息を吹いた。


「これは我が軍への挑発だと見なす。場合によって、人間界と妖界の間の問題になる」


珊瑚の真剣の怒りに向けて、修良はただ微風が吹くように返事をした。


「そうなったら、私を自由に処分すればいい。人間界と妖界にご迷惑をかけません」


「二人とも、何を張り合っている?まずは妖界の人呼んで判断を訊こう!」


雰囲気が更に険しくなって、幸一は調停に入った。


「珊瑚、先輩は無謀にあんな強い術を使わない!きっと何か理由がある!」


「――だろ、先輩、もっと詳しい状況を……」


「幸一、気を付けたほうがいい。あなたの先輩は、想像以上の隠し事を持っているようだ」


珊瑚は丁重に名札と腰の帯に収めて、幸一の話を待たずに土地廟を去った。


「珊瑚……」


珊瑚の身分にまだ気づいていない幸一は、彼が激怒した理由が分からなかった。


それに、珊瑚だけではなく、修良の様子もいつもと違う。


二人が争った理由に見当がつかないが、何か危険なことが自分の知らないところで密かに動いていることを確かに感じた。


「行こう、幸一。お母様たちを送り返そう」


修良は説明しないまま、幸一を促した。




韓婉如と幸世を玄誠鶯(げんせいえい)の屋敷に送り返してから、幸一と修良は仙縷(せんる)閣で青渚(せいしょ)と合流した。


「妖界軍の奴の話によると、扉が破られた後、向こうはすぐ各地に人員を派遣した。混乱を起こしたのは乱心した蒼鋭軍の一部の兵士、今のところ特に重大な被害報告がない。兵士たちは何ものに操られたようで、混乱に乗じて何かを探していた様子だった」


青渚は二人に簡単に状況を伝えた。


「妖界軍の奴はまず掴まれた兵士を妖界に送り返す。一時間後に鐘楼の下に集合し、俺たちと一緒に調査のことを検討する。俺たちはまず人間界の官府に報告しに行く」


「破られた複数の扉は、みんな何処にある?」


修良は何かを心得たように自分の顎を軽く掴んだ。


上京(じょうきょう)蜜桃郷(みっとうきょう)梁谷嶺(りょうこくりょう)、とこの柳蓮県(りゅうれんけん)


「分かった。ここはあなたたちに任せる。私はほかのところを調べに行く」


そう言いながら、修良は袖から黒玉枕を投げて、黒銀虎を放った。


「でも、すでにほかの弟子が行ってるぞ。修良が行く必要は……」


「別途に調べたいことがある」


「修良先輩、何を知ったのか!なぜ母たちは狙われる……」


修良は幸一の質問に答えず、一陣の風と共に姿が消えた。


「おかしい、修良先輩も珊瑚も絶対おかしい、そう思わないか?青渚先輩!」


ますます困惑する幸一は青渚に同意を求めた。


「珊瑚って誰?修良はいつもあんな神秘主義じゃなかったっけ?」


でも、青渚は修良の行動を意外と思わなかった。


「いつもなら、一言の説明くらいはくれるのに!」


「それは幸一だけの特別待遇だろ?俺たちはいつもわけが分からないままだ。まあ、修良のことだから、心配する必要はない。今回の任務をサボるための言い訳かも」


「修良先輩だけは任務をサボるようなことは絶対しない!」


「それも幸一だけの見解じゃ……」




「幸一」


幸一と青渚は修良のあれこれについて議論したら、横から呼び声がした。


振り向いたら、珊瑚と妖界軍の軍服を身に纏う数人の男がいた。


「珊瑚!」


珊瑚を見て、幸一はさっそく前に出た。


「よかった、さっきの話を続こう。俺もいろいろ訊きたい」


「ごめんな、幸一。実は、頼みたいことがあるんだ」


珊瑚は苦笑いを作った。


「頼みたいこと?」


「妖界に来てくれないか?」


「えっ?!」


「幸一は焦明と焦暗が殺されたところを目撃しただろ。証人として、妖界軍の報告会で発言してほしいんだ」


「……そうか、分かった!」


幸一は数秒考えただけで快諾した。


「正直に見たことを話す。でも、先輩の人柄もちゃんと妖界軍の皆に伝える。目撃証人だけじゃない、俺は先輩の証人にもなる」


(そんなの伝えたらまずいだろ……)


傍らで話を聞いた青渚はつっこもうとしたら、異様に気付いた。


「ちょっと待って、なんで幸一は修良の人柄を妖界軍に証明する……まさか、修良は何かをやらかしたのか!」


「ごめん、青渚先輩、後は任せる。行こう、珊瑚!」


「ありがとう、幸一」


「ちょっと待って、一体何があったのか教えてくれ!宗主に報告しなきゃ......」


青渚の質問を無視して、珊瑚は幸一を連れてその場を去った。


代わりに青渚の前に立ったのはガッツリした体格の妖界軍の大男だ。


「玄天派上級弟子の向青渚(きょうせいしょ)さんですね。俺は妖界三軍の蒼鋭軍の廷眉(ていび)少佐。事件調査と報告のご協力をお願いします」


「……」


体格のわりに丁寧な言葉だけど、その目からの眼差しは明らかに友好とは言えない。


ほかの妖界軍のものも厳しい目線で青渚を見ている。


知れたことだ。自分の同僚を殺した人の仲間によい顔をするはずがない。


自分の立場に気づいた青渚は、心の中で修良と幸一を百回罵った。


(あの二人、任務をサボっただけじゃなく、お尻拭いまで俺に押しつけたな!!)





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