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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第七章 惨殺の理由
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二十六 妖怪軍襲来

蒼炎(そうえん)鳥の翼で二時間以上かかった距離でも、転送陣で行けば数秒間しか掛からなかった。


幸一(こういち)青渚(せいしょ)が転送された場所は、柳蓮(りゅうれん)県の真ん中にある鐘楼の上。


鐘楼の下から騒ぎが聞こえ、町のとある方向に、白灰色の火炎が高く燃えている。


「あそこは……青楼街!修良先輩が心配だ!」


「えっ、修良(しゅうりょう)は青楼にいるの……?!」


青渚の疑問がまだ終わっていないうちに、幸一はもう鐘楼を飛び降りた。




二人が仙縷(せんる)閣の前で見たのは、白灰色の炎に包まれる建物と、炎の外で建物を囲む数十匹の巨大な狼だ。


「!!」


狼たちの毛が逆立っていて、仙縷閣に飛びかかろうと凶暴な勢いで唸り声を発している。


「あの炎は修良先輩の法術、保護の結界だ。妖怪狼たちから仙縷閣を守っている!」


幸一はサッと袖の中から細剣を引き出して、仙縷閣の扉の前に飛んだ。


もともと仙縷閣を目標にしていた狼たちは一挙に幸一に飛びかかる。


「待って、幸一!」


幸一が剣を出す寸前、青渚の呼び声と共に横から長い棍が現れて、狼たちを薙ぎ払った。


狼を飛ばした青渚は愛用武器の棍を握って、幸一の一歩前に立つ。


「よく見ろ、あいつらの体に妖界正規軍の甲冑をまとっている。何か事情があるかもしれない。手加減するんだ!」


「!」


青渚に注意されて、幸一も異様に気付いた。


妖界の正規軍なら、いつも人間の形を保っているはず。


その上に、人間界と妖界の間の掟を守り、人間を襲撃するようなことをしない。


事情がはっきりする前に重傷をさせたら、両界の間で問題になるかもしれない。


二人に考えの余裕を与えず、一度飛ばされた狼たちは陣を整えて、次の攻撃を発動した。


「分かった!俺も動物保護主義者だから!手加減する!」


幸一は細剣の方向を変えて、地面に刺しこんだ。


その同時に、全身の霊気を剣に注ぎ、法術を放った。




幸一と青渚を中心に、数百以上剣が氷柱の山のように地面から高く突き出て、半円形の障壁を形成した。


攻撃の勢いが止まられなかった数匹の狼は、顎や前肢が剣の先に突き抜けられ、悲惨な叫びを上げた。


「誰が、動物保護主義者だって……」


その猛烈な法術を見て、青渚は冷汗を掻いた。


最初の注意をしなかったら、狼たちはすでに幸一の剣の下の亡魂になっただろう。


幸一の戦闘力はすでに上級弟子に入る。まだ昇格できなかったのは、彼が加減ということを知らないからだ……




予想以上の重い一撃を喰らって、狼たちの行動も遅くなり、幸一たちに状況確認の時間を与えた。


仙縷閣の窓から人々の嬉しい声が聞こえる。


「やった!助かった!」


「仙道の方が助けに来てくれ!」


「おかしい、結界だけ張って、先輩はどこに行った?」


落ち着いた幸一はまず修良を探した。


誰かに状況を訊こうとしたら、仙縷閣の扉が開かれて、牡丹が知らせに来た。


「幸一様!修良様は玄誠鶯(げんせいえい)様のお宅に行きました!『狙いはそこ』とおっしゃったのです!」


「!!」




家族の危険を知った幸一は狼たちの処理を青渚に任せて、至急玄誠鶯の家に駆け付けた。


玄誠鶯の屋敷も修良の結界に覆われているが、屋敷の正門と壁の一部が壊された。


砕かれた壁に巨大な野獣の爪痕が残っている。


幸一は急いで屋敷入って、居間で用心棒たちに囲まれている玄誠鶯一家を見つけた。


「幸一兄さん!」


幸一を見た途端に、幸芳(こうほう)が幸一の胸に飛び込んだ。


婉如(えんにょ)叔母さんと幸世(こうよ)が妖怪に攫われたの!!」


「!!」


「修良さんが追いかけに行ったわ。大体二十分前に、北西のほうへ」


玄誠鶯が指さした方向を確認したら、幸一は息も変えずに屋敷を飛び出した。




「蒼炎、上から先輩たちを探して!」


幸一は蒼炎鳥を空に飛ばし、自分は城内を走りながら、修良の気配を探る。


数本の街が過ぎたら、また妖怪狼に遭遇した。


狼の数は一桁だが、その中に、狼の腕足と人間の体を持つ「狼人」の妖怪がいた。


その「狼人」も妖界正規軍の甲冑を身に纏っている。


無人になった街を荒した妖怪たちは幸一を見たら、すぐに幸一のほうに集まってくる。


「やっぱり変だな、何もない街でなにをやっている……」


おかしいと思っていても、幸一には考える暇がない。


「狼人」は槍を突き出し、幸一に突進する。


「でもちょうどいい、人型だったら話を聞けるだろ!」


幸一は高く飛んで、空中で身を翻しながら、袖から十数本の白い羽を投げ出した。


「俺の家族をどこに連れて行った!!」


白い羽は針のように狼人の背中に差し込んだ。


「造雷!」


幸一は短い呪文を唱えると、白羽の先からピリピリと小さな光が現れて、狼人に雷撃を喰らわせた。


「ガァァァ!!」


かなり効いた一撃だが、狼人は倒れなかった。


狼人は槍で体を支え、目から狂気な光が輝き、全身の筋肉が炸裂したように膨らんで、白い羽を全部飛ばした。


「!こんな温和な法術はダメか……」


仕方がなく、幸一はまた細剣を出した。


もうちょっと力を出そうと構えたら、いきなり、何処から数本の長い縄が狼たちの陣に飛び込んで、つぎつぎと狼たちの頸を巻いた。


「!!」


空から凄まじい速さで金属の光が現れて、狼人の槍を切断した。


光と共に落下したのは捕快服の男。


男は狼人を蹴り倒し、狼たちの頸に繋がる縄を狼人の体に巻いた。すると、反対側にいる妖怪狼たちの頸が締められ、両方の動きも封じられた。


電光石火のような行動に幸一は呆気にとられた。


普通の人間捕快はこんな腕を持つとは!


でもその男の顔をよく見たら、幸一は納得した。


「珊瑚!!」


「幸一」


いつもの笑顔ではなく、珊瑚は引き締また表情で幸一に応えた。


「すまない、この町のみなさんにご迷惑をかけた」


(なんで珊瑚は謝るの?)


幸一の疑問がまだ口から出ていないうちに、狼人と似たような風格の甲冑を着ている数人の兵士が走ってきた。


狼人と狼たちの装備は青色の基調だが、後に来たこの兵士たちの装備は赤色の基調だ。


新しく登場した兵士たちは珊瑚の前で報告をした。


「珊瑚様!城内で暴れた蒼鋭軍の兵をすべて確保した!百妖長の三人はまだ見当たらないが……」


「一人はここにいる」


珊瑚は狼人を引き上げて、縄ごとに兵士たちに投げた。


「先に連れて行こう。それがしは残った二人を捕まえに……」


「待って!」


狼人が連行されるのを見て、幸一は止めようと声を上げた。


「俺の家族が攫われた。奴に居場所を聞きたい!」


「幸一の家族が!?」


その話を聞いた珊瑚は怪訝そうに目を大きく張った。

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