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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第五章 本当の買い手
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二十一 本当の買い手はすぐ傍にいる

半時間後、幸一は幸世を屋敷から強引に連れ出して、修良が指定した青楼(せいろう)仙縷閣(せんるかく)の前に来た。


「この馬鹿妹!継母のせいで俺はどれだけ大変なことにあったのも知らないくせに!今日の今日こそ、継母の最愛な娘のお前を青楼に売りつけて、復讐してやる!」


幸一は青臭い演技で悪役を演じ続ける。


幸世は怯えながらも、彼女が憧れる主人公のように不服な意志を見せた。


「修良様はきっと、わたくしを助けにきます!」


「よくも修良先輩の名を口にしたな。お前が現れる前に、先輩はずっと俺と一緒だった!お前がすべてを壊した!お前さえいなければ……!」


(なんでこんな台詞を言わなければならないんだ、先輩!早く出てきてすべてを説明してくれ!)


幸一凶暴を装って、幸世を地に突き落とす。


そして、密かに何処かにいるはずの修良を探す。


「や、やはり、修良様が取られたことに根を持ったのね……で、でも、わたくしはもう過去のわたくしではなりません!お兄様にどんなひどいことをされても、わたくしは、絶対修良様を離れません!!」




まだ青楼の営業時間ではないが、二人の言い争いはすぐ周りの野次馬を集めた。


「なんだ?男の取り合いか?」


「あらあら、あんな美人が平凡の女子に男を奪われたの?絶対悔しいのね」


「でも、あの妹はぶりっ子の可能性だってあるよ。言ってることは、小説のぶりっ子主人公にそっくりだもん」


「どっちもいい人じゃないかもな」


「……」


みんなの憶測を耳にして、幸一は悪役を演じることにちょっと後悔した。


この場面を見せたら、亡くなった父は怒りで生き返ったかもしれない。


「とにかく、早く青楼の人を呼ぼう!」


幸一は青楼の扉を叩こうたら、思わず足を止めた。


青楼の扉がうち側から開かれ、その中から修良が出てきた。


「先輩……?」


「修良、様……?」


修良は兄妹の驚きの表情を見ていないように、にっこりと二人に微笑みをかけた。


「幸世お嬢様を連れてきて、ありがとう、幸一。さっそく金額の交渉をしよう」


「先輩……一体、何をしている?」


修良の行動について、幸一は徹底的に理解不能になった。


「う、うそでしょ……?」


最悪な予感をして、幸世は地面に倒れ込んだ。


「どうしたの、幸世お嬢様。先日、私と一緒に暮らすことを承諾してくださったのでは?私はこの店の店主です。私と一緒に暮らすことは、この店の一員になることですよ」


「!!」


「真実」を聞いた幸世は、顔が真っ白になった。


「心配しないで、幸世お嬢様は聡明で、物分かりが早いから、すぐ売れ子になります。お金も稼げるし、将来にいい男を掴められ、身請けしてもらえるでしょう」


「そ、そんな……どうして……」


幸世は自分の体を抱えて、震えが止まらない。


「先輩、もうこれ以上は……」


(たとえいたずらでも、これはやりすぎだ!)


幸一は修良を黙らせようと前に出たが、修良から一通の呪文を頸に飛ばされ、声が出られなくなった。


修良の目つきも一変し、冷徹な視線で幸世を見下ろした。


「ふん、人間の妄想はすごいものだな。自分が不幸になった責任を他人に押し付けて、可哀そうな様子を装えば、奇跡の助けをもらえるとでも思ているのか。みずから自分を卑下にする人間は、普通の人間からも尊重をもらえないのに、格上の人間を引き付けるなんて、最初から不可能だ」


(!!)


初めて、幸一は修良の目から本物の「冷たさ」を見た。


修良の仕打ちを防ぐように、幸世は耳を塞いで悲痛に叫んだ。


「もう、嫌だ!みんな、みんな嘘つきだ!!」


幸世に目から、大粒の涙がぽろぽろ落ちた。今回は本物のようだ。


「ずっと一緒にいてくれると言ったのに……お母さんも、お姉さんも、みんなもわたくしを置いて行った」


「何がいい旦那さんが迎えにくるのよ、そんな人、いないじゃない!!」


「もう嫌だ!家に帰りたい!迎えに来て!お母さん――うあああああ!!!」


幸一は号泣する幸世を慰めようとしたら、修良に手首を掴まれた。


ほぼ同時に、人込みの中からフードを被っている女が駆け出した。


「幸世!お母さんはここにいるよ!!」


(!!母!)


幸一は一目で分かった。その女は六年ぶりの継母の韓婉如(かんえんにょ)だ。


「お、お母さん!!」


幸世の目が大きく張った。


韓婉如は幸世を強く抱きしめた。


「ごめんね!あなたのために、伯母さんのところに送るしかないの!」


「嫌だ!お母さんと一緒に居たい!!」




(なるほど、幸世の本当の望みは母と一緒にいることか。幸芳との馬鹿馬鹿しい芝居からまったく読めなかったな……)


幸一はやっと修良の一連の行動に納得した。


(幸世をここまで誘導できて、母まで引っ張り出した先輩は、すごい……)


そして、感服と感謝の視線を修良に送った。


修良は幸一の頸を軽く拭いて、禁言の術を解けた。




親子の感動の再会を邪魔するのが悪いと思うが、幸一はこの機会を諦めるわけにはいかない。


幸一は慎重に韓婉如たちに近づいた。


「ご無沙汰しております。お母様」


「!!」


韓婉如は幸一の顔を見たら、全身で警戒し、幸世を更に強く抱きしめた。


「幸一……いろいろ聞いたわ。やはり、あなたは復讐のために戻ってきたのね。ついに、私たちの番なのね」


「……復讐なんて思っていない……そもそもやっていない!俺の本物の戸籍文書を返してほしいだけだ」


母に「いろいろ」な噂を説明する気力がないので、幸一は単刀直入に本題に入った。


「それと、偽物の戸籍文書で締結した契約はご自分で解決してくだい。買い手たちからもらった大金を返さないときっと牢屋入りだ」


「お金を持っていないわ。旦那様の借金返還に全部使ったの」


「だから俺を売りつづけたのか?実の子じゃなくても、お母様はお姉様たちを普通に接しただろ?なぜ俺だけにいつもひどい扱いをするんだ!」


韓婉如と幸世の親子愛を目の前にして、幸一が感じた落差が更に大きくなり、やっと長年の怨念を口にした。


「もともとお前は……っ!」


いきなり、韓婉如は凍り付いたように動きが止まった。




韓婉如の目は幸一の後ろの修良に釘付いた。


幸一は韓婉如の変化に気づかなく、もっと強い口調で問い詰めた。


「まあいい、ほかのことはもういいから、せめて本物の戸籍文書を返してくれ!」


「……も、持っていないわ……」


韓婉如は震えるように頭を小さく横に振る。目は修良から離れなかった。


「誰に売ったのか?教えて!」


「あ、あの人……」


韓婉如は震える手を上げて、幸一の後ろに指さした。


「あ、あの人に売ったの!」


幸一はさっそく振り向いたが、そこには修良しかいない。


「先輩に?なんの冗談だ、先輩は……」


しかし、修良はなんのこともないように、懐から一枚の紙を出した。


「これのこと、ですか?」


「!!」


その紙を見た瞬間、幸一の額の真ん中に光が走った。


(この感覚は――本物だ!)




*********




「……先輩、これは、どういうこと?」


「正当な手段で買い取った」


驚愕の幸一に向かって、修良は平然として説明した。


「……何時のこと?」


「前回の任務の後、九香宮に戻る途中。幸一を売っている人がいると聞いたから見に行った。すると、お母様に会って、これを買い取ったんだ」


「なぜ俺に教えなかった?!」


「聞かれなかったから」


いたずらっぽく笑っている修良に幸一はどうしようもない。


ただムッとなってこ間の鬱陶しさを吐いた。


「先輩!もういたずらをやめてくれ!!俺はどれほど悩んだのか分かってるだろ!」


「幸一は他人を信用しすぎるから、教訓が必要だ」


「ああ、これはひどい教訓だ!最も信頼する先輩にやられた!謹んで教訓を心に刻みつけます!」


プンプンと負けを認めながら、幸一は戸籍文書に手を伸ばした。


「これで一件落着。俺は今すぐ戸籍文書を官府に届けて、戸籍を削除してもらう――」


だが、修良はふっと笑って、幸一の手を避けるように戸籍文書を高く上げた。


「幸一は、おいくらを出せるの?」


「は?」


「これは私が誠心誠意を持ってお母様を説得して、その上に大金を払って、やっと手に入れたものだ。たとえ幸一本人でも、取り戻いしたいのなら、お金を払う必要があるんだ」


「はああ――?!」


思わずの発言に、幸一は呆気にとられた。

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