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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第四章 すてきな旦那を求める
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十七 妹たちの変なお芝居

法術で強盗たちを官府前に飛ばしたら、幸一と修良は蒼炎鳥を乘って急いで母のいた方向へ駆ける。


「その方向の先は柳蓮(りゅうれん)県、玄家の分家がある。母は助けを求めに行ったのかもしれない」


「分家というのは、お父様の姉の玄誠鶯(げんせいえい)さんだよね」


「えっ?先輩は誠鶯伯母さんを知っているの?」


「幸一の親戚だから、名前と住所くらいは把握している」


(本当は調べつくした。もともと、幸一の「母親の候補」だった人だから)


修良は遠い空を眺め、少しばかり、幸一の魂を抱えて親探しの日々を思い出した。




小さい頃から玄家の英才教育を受け、玄誠鶯も商売の達人。


利潤率と危険性が共に高い商売に夢中する幸一の父と違い、玄誠鶯は官府と良い関係を作り、公用施設を中心に投資し、堅実な経営法を取っている。


家業の規模は全盛期の玄誠実にはるか及ばないが、柳蓮県内では屈指の名門だ。




玄誠鶯の家に到着したのは午後。玄誠鶯が外出したので、幸一たちは使用人に応接間に案内してもらった。


使用人がお茶を出してから一旦退出した。


幸一は探知機を修良に見せる。


「さっきから探知機が光っている。至近距離に戸籍文書があるみたい。でも、さすがに親戚の家に売るはずが……」


「幸一兄さん!!」


いきなり、大きい声と共に、とある十二、十三くらいの少女が応接間に飛び込んできた。


「やっぱり、幸一兄さんですね!!」


幸一の顔を確認したら、少女は大きいな笑顔を咲かせて幸一に抱きついた。


「あなたは、幸芳(こうほう)なの!?」


幸芳というのは、玄誠鶯の一人娘。幸一の五歳年下の従妹だ。


二人は七年前の家族集会で一回しか会ったことがない。


当時に十一歳で、優れた記憶力を持つ幸一が幸芳を覚えているのはおかしくないが、小さかった幸芳が幸一を覚えているのは不思議だ。


「覚えてくれたの?嬉しい!!やっぱり、幸一兄さんはあたしの運命の相手ですね!」


「えっ?!なっ……?!」


幸一はびっくりした。


久しぶりの従兄に向かって、「運命の相手」ってどういう意味?


「叔父さんがあんなことに遭って、幸一兄さんはきっと大変でしょう?でももう大丈夫、大丈夫、これからあたしは幸一兄さんを守るよ。もう怖いものはないから!」


そう言いながら、幸芳は椅子に登って、幸一の頭を胸に抱きしめて、なでなでをした。


「ちょっと、幸芳、何を言っている?!放して!」


礼儀にならないから幸一は幸芳を押しのけた。


「あら、幸一兄さんはまだ知らないの?」


幸芳は腰に掛けている小さい巾着から、一枚の紙を出して、幸一に見せた。


「幸一兄さんはもうあたしの旦那さんだよ!」


「!!」


その紙は、幸一の身売り契約書だ。


(なんでお前までそんなものを持っているんだ!!)


従妹も強盗も同じだなんて……絶対どこか間違っている!


契約書に、明確的に幸一が婿養子として玄誠鶯に売却されると書いてある。


幸一は心の叫びを必死に抑えて、できるだけ平然な笑顔で幸芳に聞く。


「幸芳、その契約書は、どうやって手に入れたの?」


「これはね、先日、婉如叔母さんがうちに来て、幸世(こうよ)を養女に引き取ってくれないかって母に頼んだの。母が戸惑っていたら、叔母さんは、幸世(こうよ)を引き取ってくれたら、おまけに幸一兄さんを使用人としてうちにくれるって言い出したの」


「?!!」


幸一は重い一撃を受けた。


いままでも継母の所為にいろいろ衝撃を受けたが、今のは一番ひどかった。


実の妹の前で、自分はただの「おまけ」、道具人間。この対照はあんまりだ。


「そこで、あたしが抗議したの!幸一兄さんをなめないでください!七年前の家族集会で幸一兄さんを見た時からあたしは心を決めたの!幸一兄さんをあたしの花婿に迎える!幸世を引き取ってほしいなら、おまけに、幸一兄さんを婿養子としてくれよって交渉した!」


「……」


胸を張って宣言する幸芳を見て、どこからツッコミをすればいいのか、幸一はもう分からない。


修良は軽く笑って、幸芳にやさしく声をかける。


「でも、お二人は苗字の同じの従兄妹同士、結婚できませんよ」


「大丈夫、あたし、お父さんの苗字に改姓するから!」


「幸芳!」


突然に、扉の方向から大人の女性の声がした。


この家の主人、玄誠鶯は穏かな足取りで部屋に入った。


「何回も言ったでしょ。あなたのために幸一を買ったわけじゃないの。幸一と真面目な話をするから、あなたは遊びにでも行って」


「ええ~~でも、せっかく幸一兄さんに会えて、あたしだって話したいことがいっぱいあるのに~~」


「いいから」


玄誠鶯は幸芳の前まで来て、幸一の身売り契約書を回収した。


「……」


厳しくなった母を見て、幸芳はつぼくちをして退室した。




「これをお返しするわ」


玄誠鶯は身売り契約書を幸一に返し、韓婉如の来訪を説明した。


言葉遣いはかなり丁寧だが、意味が幸芳の話と変わらない。


「ごめんね幸一。婉如を説得してみたけど、彼女はあなたにまだわだかまりがあるようだ……」


「昔からのことですから、もう慣れました」


幸一は苦笑い以外の対応しかできなかった。


「誠実のことも……お力になれなくて、とても心苦しいわ」


「そんなに気に悩まないでください。父の事業の資料を見ました。かなり無茶をしてたらしい。みんなから手を貸してもらいなのも無理もない。幸世を引き取ってくれるだけでも大変助かります」


「実は、幸世のことなんだけど……」


玄誠鶯は困りそうに眉をひそめた。


「あの子はうちに来てから、変わったというか、ちょっと、変なの……」


「どういうこと……?」


穏かで有能な玄誠鶯がしどろもどろな話を吐いて、幸一も妙だと思った。


「見ればわかるわ、ついてきて」




玄誠鶯は幸一と修良を内庭に案内した。


一人の少女は箒で庭の落ち葉を集めている。


年は幸芳より少し下、地味な色の衣裳を着ている。


六年も会っていないが、幸一は一目で分かった。


その少女は妹の幸世だ。


「幸……」


幸一は声を出そうとしたら、玄誠鶯に止められた。


玄誠鶯はしばらく待つように幸一と修良に目配りをして、三人は回廊の片隅で幸世を観察した。


すぐに、幸一は違和感のある所に気づいた。


幸世が着ているのは使用人の服のようだ。髪もまとまっていない。


その上に、目に光がなく、背が縮んで、なんかにい怯えているように見える。


玄誠鶯は養女をいじめるような人ではないはずだ。もしかしたら、母との逃避行がひどく大変だったのか……?


幸一が疑問している間に、回廊の向こうから、幸芳が小走りで庭に入った。




「幸世!幸世!まだなの?!」


「は、はい!お姉さま!もう少々お待ちを……」


幸芳の呼び声を聴いて、幸世は動きを早くした。


「落ち葉なんて使用人に任せればいいって言ったでしょ!遊びに付き合ってよ!」


「で、でも…わたくしのような役立たずは、お姉さまの遊び相手に務められないかも……も、申し訳ありません!」


幸世は幸芳に向かって深く頭を下げた。


「あら、いつものあれをやるの?」


幸芳は目を瞬いて、何か了承したようにコッホンして、仁王立ちの姿勢を作った。


「この役立たず!たかが落ち葉掃除で、何時までやるつもりなの?!あたしのお菓子を作るのを忘れたの?!」


いきなり、幸芳は高い声で幸世を叱った。


「す、すぐやりますから!」


幸世は頭をもう一段下げた。


「ああそうだわ、明日のお茶会に着る予定の衣装に穴が開いている!あんたの仕業じゃないよね?」


「い、いいえ!わたくしは、何も……」


幸世は震えながら後退った。


「その表情、怪しいわ!インチキなことをしたのに決まっている!絶対あんたがあたしに嫉妬して、わざとやったのね!」


「そ、そんな!わたくしは、本当に、何も……も、申し訳ありません!」


「口答えするな!役立たずの分際で!今すぐ母に言って、あんたをこの家から追い出してやるわ!」


幸芳が離れる動きを見せると、幸世は地に倒れて、幸芳の裾を掴んで、涙ぽろぽろでお願いをした。


「わたくしの居場所を奪わないでください!お願い、お願いします!なんでも言うことを聞くから」


「じゃあ、幸一兄さんの戸籍文書をちょうだい!」


幸芳は喜んで手を伸べた。


「申し訳ありません……だめです」


突然に、幸世の涙が消えて、表情が不機嫌になった。


「えええ?今日はよくやったと思ったのに!」


幸芳は不満そうに口を尖らせた。


「まだまだですわ!お姉さまの台詞が不自然!誰から見ても演技だとバレます」


幸世は強気に主張した。


「だって演技だもん!いじわるな姉なんかやったことがないもん!」


「だから、本の書いた通りに合わせてくださいって言ったでしょ!」


「文字を覚えるのが苦手だよ!その本に興味もないし、読みたくない!」


「せめて、激おこを演じる時に平手打ちくらいしてください!」


「そんなことをしたら、あたしはお母さんにお尻ぺっぺんされちゃうよ!」


「もう!わたくしの幸せな結婚はお姉さまにかかってますの!お姉さまがいじわるしてくれないと、わたくしの旦那様が助けに来ないのよ!」


「あたしの旦那さんだってあんたが握ってるのよ!あの戸籍文書がないと、あたしと幸一兄さんは結婚できないの!」


「……」


「……」


「幸世の旦那って誰?あの二人、何をやっている……?」


二人の妙な一連のやり取りを見ても、幸一はさっぱり意味が分からなかった。

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