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絶世の美少年は最悪な鬼に守られている  作者: 星琴千咲
第四章 すてきな旦那を求める
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十六 身代金にされた

「……幸一、幸一……起きて……」


意識朦朧の中、幸一は呼び声を聴いた。


彼はその声をよく知っている。


でも、なぜか体が怠くて、動きたくない。


「修良先輩……もう朝なの?もう少し……眠らせて……」


「どこか気持ち悪いところでもある?」


「ああ、ちょっと、頭が、重いような……」


幸一は無意識に手を上げて、額を触ろうとしてら、別の何かに触れた。


「?」


おかしい触感に目を開けたら――


「!!」


修良の顔は至近距離にある。


修良の額は彼の額にくっついている。


「せ、先輩!?どうした!?」


幸一の上半身が跳ね上がった。


「元気そうでよかった」


修良は一歩下がって、胸を下した。


「昨日、私たちはあの劉石夢に睡眠薬を飲まされたんだ」


「なっ…!!」


「彼はもう逃げたよ」


「……は、早く追わないと!」


幸一は寝台から飛び降りて、走り出そうとしたら、修良に後ろから腰を抱きしめられ、一枚の紙を額に貼り付けられた。


「でも幸い、彼の先祖様を捕まえて、戸籍文書を回収した」


「!?一体どういうこと!?何があった!!?」




昨日の夜、修良は力の一部を開放し、珊瑚たちを脅かしたが、お互いのために、とりあえず、その件を平和に運んだ。


黒須少尉は幸一の戸籍文書を修良に渡して、珊瑚と妖界に帰ることにした。


行く前に、黒須少尉は劉石夢に偽物の記憶を植え付けて、灰色の小狐に彼の世話を頼んだ。




でも、修良が幸一に伝えた経緯は別ものだ。


「知っているだろ。毒の修行をしていた私の体に、どんな毒も薬も効かない。夜中に物音を聴いて起きたら、劉石夢が逃げ出すところを見た。彼に尾行して、その先祖の墓までたどり着いた。その先祖は小さな妖怪一匹、ちょっと脅かしただけで、大人しくあなたの戸籍文書を差し出した。劉石夢はかなりの衝撃を受けたみたい、そのまま実家に帰った」


修良の話なので、幸一は疑いもしなかった。


「なるほど、やはり、その墓はこの付近にあるな」


「そうだけど、まだ荒しにいくすつもり?」


「いや、別に、戸籍文書を取り戻せば文句なし……そういえば、珊瑚は?」


「仕事に急いでいるみたいで、もう行ったよ。しばらく会うことはないだろう」


(本当は、もう二度と会ってほしくない。)


(あいつの正体は七尾の赤炎狐、妖界三軍の中で、精鋭集団の紅凛軍の若将軍。三軍総帥の大将軍の息子。人生体験のために人間界で遊んでいるわけがない。あの黒須少尉も、階級や修為がそれほど高くないものの、年の功があるようで、幸一の「福徳」のことをちょっと知っている。)


(幸一は前世から持ってきた福徳は膨大なものだ。しかし、彼の現世の修為では完全に受け取れない。)


(主人の管轄外の福徳、まるで金庫の外に置かれている宝物。持ってこいと言わんばかりだ。)


(今まで私の封印と玄天派の強い結界に守られているが、あの黒須少尉のような昔から幸一を知っているものから情報が流出される可能性が高い。)


(こうして、各地を周り、戸籍文書を回収する間にも、いろんな虫がついてくるだろう。)


(本来なら、あの黒須少尉をその場で抹殺して、見せしめにしたかったが、あの赤狐の言った通り、妖界の重要人物に手を出すのはさすがまずい。幸一もあの赤狐に好感が抱いているから、後始末はかなり面倒になる。)




修良の心の声が、幸一は知るすべもなかった。


「先輩、どうした?ぼうっとしてて」


「ちょっと思い出したことがある――」


修良はさりげなく話題を逸らし、鋭い目線で幸一を見つめる。


「私は以前言っただろ。外で食事をする前に、毒よけの術をかける。寝る前に、身の安全を守る結界を張る。なぜしなかった?」


「っ!」


いきなり指摘され、幸一は思わず半歩後退った。


「えっと、今回は私事の出かけで……その必要はないと思って……」


「普段から気を引き締めないと、必要がある時にはもう遅い」


修良は幸一の鼻の先まで迫る。


「わ、分かった。次から、きちんと術をかける……先輩、近いっ!」


「ならちょうどいい。敵にここまで迫られたら、どう対処するの?」


修良は幸一を壁際に追い詰めて、幸一の頸に手をかける。


「俺のこんな近くまでこられるのは先輩だけだ!」


幸一の顔が赤く染める。


「私を敵だと思って、対処法を考えよう。敵は私の形を借りてあなたを油断させる可能性だって十分ある」


「……」


幸一は困る。


普段の修良は温和でやさしいが、指導者になるととても厳しくなる。


特に、自分が言うことが聴かない時に、修良はいじわるな一面を見せる。


自分が態度をはっきりしないと、彼は絶対引かない。


(先輩は敵だったら、一体、どうすれば……いいえ、違う、先輩の姿に変化した敵に遭遇したら、本当に先輩を殴られるのか……)


幸一が悩んでいるうちに、修良に両頬を掴まれた。


(!)


口がアヒルみたいに押しつぶされたら、幸一はピンときた。


幸一は両手で修良の手を掴んで、ガムっと噛んだ。


「!!」


「俺だって敵が変化した可能性がある!先輩も油断しないほうがいい!」


「……」


威張る幸一と手に残した犬歯の跡を数秒間見ていたら、修良は楽しそうに笑った。


「幸一は勉強が速いね。でも、私は幸一を間違えるはずがない。この犬歯の跡、確かに幸一のものだ」


「じゃあ、俺も先輩を間違えない!ほかのものは先輩の姿になっても、俺に近づけられない」


幸一も笑って修良の話をそのまま返した。


修良は諦めたように軽く息を吐いて、やさしい笑顔に戻った。


「じゃあ、一つお願いをする。私がどんな形になっても、幸一はすぐ見分けてくれよ」


「もちろんだ……っ!」


突然に、幸一の頸に掛けられている探知機が光った。


共鳴しているように、オーンの音を発している。


「この光り、すぐ近くにあるって意味だよね?先輩が今回収したものか?」


「違うよ。回収した分はすべて探知から除外された」


「ということは……!」


別の戸籍文書がすぐ近くにあるのを分かって、幸一は急いで外着を着て、屋敷の外に駆け出した。




屋敷を出てすぐに、騒がしい声を聞いた。


盗賊風貌の男十数人が道辺の雑物を蹴飛ばしながら劉家の屋敷に向かってくる。


「ちくしょう!本当に何も残ってねぇな!」


「獲物が現れたと思ったら、廃村だなんて!ついてねぇ!」


「あのクソ女!実物は噂通りの上質もんじゃなかったら、絶対ぶっ殺してやる!」


一番先頭を歩く大男は苛立ちそうに刀を左右に振り回す。


「しかしお頭、どの噂もいいもんって言ってるけど、あいつ、一体どんな顔してるんだ?」


隣の下っ端っぽい細い男は困惑そうに頭を掻く。


「知るもんか!見たこともねぇし。みんなも欲しがっているから絶対別品に違いねぇ!さっさと探りを終わらせてこい!先に急ぐぞ!」


「はあ!」


頭分の一喝で、下っ端たちはあちこちに散らばって、価値のある物を探りに行った。


頭分はさっき質問をした細い男を含めた二人を連れて劉家の屋敷に直進してくる。


「あっ、お頭、べ、べっ、べっ、別品がいた!!」


一番早く屋敷の前の幸一に気づいた細い男は大声で叫んだ。


「すぅ――!」


もう一人の下っ端男は口を大きく開けて息を吸いた。


「!!!」


お頭の目が三倍大きく張られ、幸一を見つめて動けなくなった。


「なんだお前たち、強盗か?」


幸一は眉をひそめて、男たちに話をかける。


「捕快がここを離れたばかりだけど、俺は官府まで送ってやる。その前に、こういう紙、見たことあるか?」


幸一は偽物の戸籍文書を強盗たちに見せた。


だが、三人の強盗はただぼうっとして幸一を見ていて、まともな返事を出さなかった。


「べ、別品は、何を言っている?」


「き、聞こえねぇ、顔、顔が、顔が……!!」


「官府とか、言ってるんじゃない?」


「なんだと?その顔で俺たちを惑わせて、官府に送るつもりか?生意気な!」


「……」


口で話しても無駄だと分かって、幸一は強盗の頭分が握っている刀に手を伸ばして、


ガパッと鉄の刃を折った。


「!!!」




修良が屋敷から出た時に見た景色は、ぼこぼこされた強盗十数人が泣きながら幸一の許しを乞う場面だ。


「お、俺たちが悪かった!別品様!」


「どうか、どうかお許しを!!」


「持ってるお金もお宝も、すべて差し上げるから、命だけを勘弁してくれ!」


「別品」と言う単語を聞いたら、幸一の顔色がまた暗くなった。


「盗品はいらない。さっき、また別品って言ったのは誰だ……?」


強盗たちは一斉頭分のほうに目を向けた。


部下たちにあっさり売られた頭分は悔しながらも必死に知恵を絞って、幸一の「魔の手」から逃げる言い訳を考えた。


「ち、違うんだ!別品っていうのは、別品様、いや、あなた様のことじゃない!そ、そうだ!こ、こいつのことだ!」


頭分はしわしわの紙二枚を幸一に差し上げた。


「!!」


驚いたことに、二枚の紙は幸一の戸籍文書と身売り契約書だった。


「そこに書いてあるのは、あの有名な大富豪の玄家の別品息子だ。この間、あいつの母親を捕まえて、身代金の代わりにこれをもらったんだ。今、あいつを取りに行く途中だ。どうだ?ご興味があったら、あなた様に……ぎゃああああ――――!!」


頭分の話はまだ終わっていないのに、幸一に空の彼方に飛ばされた。


「継母は一体俺になんの恨みがあるんだ!!」


幸一は二枚の紙を握りつぶした。


「幸一、その契約に書いた日付は三日前のものだ」


修良の話で、幸一は肝心な情報に気付いた。


「!というのは、母はかなり近いところにいるのか!?」


修良はふっと軽く笑って、震える強盗の子分たちに質問した。


「そういえば、あなたたちは、どこでそのご婦人に会ったのですか?」



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