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十四 やばい先祖

書生が落ち着いたら、四人は大きい屋敷の廃庭に来て、石机を囲んで座った。


「小生の名は劉石夢(りゅうせきむ)、この望石(ぼうせき)村の元村長の孫です」


「やっぱり、お前が買い手か……」


「ギクッ!」


幸一の獣のような目線に睨まれたら、劉石夢はサッと修良の後ろに隠れた。


「先輩の後ろに隠れるな!」


「幸一、まず事情を聞こう」


「……」


修良に言われたから、幸一は悶々と黙った。


「昔、村はかなり繁盛でしたが、小生の小さい頃から、石炭が枯れていて、みんなだんだん村を離れて行きました……その時、祖父は夢で先祖様の啓示を受けました」


「先祖様の話によれば、維元城の大富豪の玄家に、幸一という公子がいます。その公子を嫁に迎えれば、村は昔の繫盛を取り戻せると……」


「わけがわからん!」


ドカ!


幸一は拳を石机に叩きつけて、机が四つに割れた。


「ひっ!」


劉石夢はまた隠れそうとしたら、修良に肩を抑えられて席から動けなかった。


「続けて」


修良は菩薩のような慈悲深い笑顔を見せて、劉石夢を落ち着かせる。


「は、はい……その……公子を嫁に迎える話がおかしくて、祖父と父は本気にしなかったのですが、半年前に、仲介人が玄家の奥さんが幸一公子の戸籍文書を売っている話を持ちかけてきました」


「村を離れてから、うちの家計が下がる一方で、死馬に鍼と思って、謝金まで作って、戸籍文書を手に入れました。しかし、予定の迎え日に、公子が現れませんでした……その時、また先祖様から啓示がありました。今月中にこの廃村で待っていれば、幸一公子が現れると……」


「その先祖様はどこまで余計なことをするんだ!」


ムカムカの幸一は劉石夢に手を伸ばす。


「とにかく、それは不正契約だ。俺の戸籍文書を返してもらおう!」


「え、その、それは……」


劉石夢は困りそうに目をきょろきょろした。


「へぇ、そんなに幸一を嫁に迎えたいのか?おもしろい~」


珊瑚は傍ら笑い声を吹いた。


「い、いいえ!!そんなことないです!!」


劉石夢は一生懸命頭を横に振る。


「戸籍文書は小生が持っていない!先祖様のお墓に保管されているのです……」


「はぁ!?なぜ俺の戸籍文書をあんなところに!?」


幸一は石机の破片を叩いて立ち上がった。


たとえ偽物であっても、自分の身分を象徴するものを墓入りされるのが耐えられない。


「それも……先祖様が、そうすれば、さらにご加護をくださると……」


「珊瑚、その墓を荒らしたら俺はどんな罪になる?」


「えっ?墓を荒らすの?」


珊瑚は意外そうに何回瞬いきをした。


「そうだ。その先祖様とやらを引っ張り出して、問いただすんだ!」


「い、いけません!小生はどうなってもいいけど、どうか先祖様に手を出さないでください!」


幸一の拳の威力を見た劉石夢はビクビクしながらも幸一に乞う。


「すっかり悪人だよ、幸一」


修良は幸一と劉石夢の間に入って、代わりに話を続けた。


「劉さん、その墓はどこにありますか?」


「……い、言えません!うちが繁盛したのは、すべて、先祖様のご加護があるからです!先祖様を裏切るようなことは、できません!」


身を投げ出す覚悟で、劉石夢は口を噤んだ。


「ほら、こうなっただろ」


修良が決死の劉石夢を指さして幸一に見せる。


幸一はやっと自分のせっかちが逆効果になったことに気付いた。


「……」


「まあ、今日はもう遅いし、劉さんもかなり混乱しているだろう。ひとまず休んで、明日にもう一度話してみよう」


「仕方がない、先輩がそう言うのなら」


「それがしは別にいいけど、任務もこの辺だし」


「そういえば、珊瑚の任務ってなに?」


「それは……」


珊瑚は目じりで劉石夢を一瞥してから、神秘そうな笑顔を幸一に見せた。


「緊急かつ秘密だから、言えないよ~あ、でも、夜中に一人で抜け出すかも知れない。驚かないでね」


「ああ、分かった。驚かない。これ以上何も訊かない」


幸一はあっさり承諾した。


「……」


(本当はもっと気になってほしいけどな……)


珊瑚はつまらなさそうに笑顔を収めた。


二人から同意を得たので、修良はまた慈悲深い微笑みを作り出して、劉石夢に確認した。


「劉さん、今夜はお家に泊まらせていもいいですか?ご先祖様の墓を荒らさないように、私から幸一を説得します」


「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」


劉石夢もまた修良に泣きついた。




*********




三人を屋敷の客室に案内してから、劉石夢は食事を用意しに行った。


「先輩、回収不要のこと、まだ珊瑚に話さないほうがいいと思う。今朝助けられたばかりだから、今すぐそんなことを言ったら、違和感があるだろう」


珊瑚が別の部屋に入ったら、幸一は修良に耳打ちをした。


「ああ、もう少し様子を見よう」


修良は小さくうなずいた。


(あの狐がここに現れたのは偶然ではないと思うが、特に幸一を取り入れようとする様子もない。もうしばらく観察しよう。)


(それより、あの劉石夢が言った先祖様が気になる。幸一の美貌と聡明は有名だが、なぜ彼を迎えれば繁盛を取り戻せるような話を子孫に伝えたのか……)


(幸一の何を知っているのか……)




一方、厨房で食事を用意する劉石夢は、食材棚から慎重に二本の細い瓶を取り出した。


「こんな薬、本当に効くのかな、先祖様……」


「あの猛獣のような人たちに睡眠薬を飲ませても……」


先ほど幸一たちに伝えた先祖様の言いつけは、彼が受けた啓示の一部に過ぎない。


約一か月前に、彼は夢で先祖様の声を聴いた。


「望石村の古い屋敷で一か月を待っていれば、幸一公子が現れる」


「白い霧を合図に、幸一公子をわしの墓の前に連れてくるのだ」


「もしできなかったら、機会を見てこの睡眠薬を飲まらせよう。お前は事前に中和剤を飲むのだ」


「わしの墓までに連れてきたら、二人に婚姻の契約を結ばせる」


「さもないと、この家は没落の運命から逃れない」


劉石夢は目が覚めたら、寝室の机に二本の細い瓶が置かれていた。


彼は父や祖父から聞いたことがある。


先祖様は曾祖父の代から子孫たちにいろいろな啓示を与えていた。


望石村で石炭を発掘するのも先祖様の啓示だった。


先祖様の啓示に背けて、即時に幸一公子を家迎えなかったのは家が没落した原因かもしれない。


だから、今回はなんとしても先祖様の啓示を守るんだ!


家再興のために決心を付けた劉石夢は、思いきり睡眠薬を料理に入れた。


「えーい知らない!!全部入れよう!!」




「お、お待たせいたしました!どうぞ、ご遠慮なく召し上がってください!」


劉石夢は全力を尽くして作った料理を食卓に並べる。


「!!」


三人とも驚いた。


四つの炒め料理に、一つの肉鍋。白米の粒がピカッと光っている。お酒まで用意してある。とても廃村で食べられるものではない。


「いいですか?こんなすてきな料理を御馳走していただいて」


珊瑚の鼻が小さく動いて、丁寧に料理の匂いを嗅いだ。


「い、いいですよ、こんなところで一か月も一人で過ごしていたら、寂しくなってね……一緒に食べてくれる人がいて、う、嬉しい限りです!」


劉石夢は一生懸命さっきの不快な思い出を忘れ、客好きな主人を演出した。


「わざわざありがとうございます」


修良は劉石夢に礼をして、隣の幸一を勧める。


「ほら、幸一。劉さんはもうさっきのことを気にしていないようだ。あなたもはやく誤解を解けよう」


「もともと劉さんに怒っていない、ただあの先祖様とやらは……」


話の途中、幸一は劉石夢が震えているのに気付いた。


仕方なく話を変えて、頭を下げた。


「いきなり手を出して、すみませんでした。ご招待、ありがとうございます」


「い、いいえ!さあ、どうぞ!冷めないうちに!」


劉石夢は不自然に笑いながら、肉鍋を幸一の前に押した。




一応雰囲気が和らいだし、四人は食べ始める。


劉石夢はこっそり幸一の動きを期待していた。


しかし――


(えっ、なぜ野菜だけを食べている……?)


修良と珊瑚がどの料理も口にしたが、幸一は野菜ものだけを食べている。


「あの、幸一様、ご遠慮なく、肉鍋も是非……」


「肉は好きじゃない。動物だろ?」


「!?」


(菜食主義だなんて、聞いていないぞ、先祖様!!)


焦ってきたら、修良のほうから助け船を出された。


「幸一、仙道修行には膨大な精力を使う。あなたの体はまだ成長の途中、様々な栄養を取らなければならない。菜食は四十歳以降、断食は七十歳以降にしよう」


「でも、肉の歯ごたえは気持ち悪い……」


「じゃあ、スープだけでも飲もう。せっかく劉さんが作ってくれたんだ」


修良は肉鍋のスープを茶碗に注いで、幸一の前に置いた。


すると、珊瑚も横から勧めを入れた。


「それがしも肉より魚派だけど、劉さんの料理は美味しいよ!肉自体はダメだったら、肉汁入りの野菜を食べてみよう!」


珊瑚はさりげなくジャガイモを幸一の茶碗に入れた。


その一瞬、珊瑚の熱心な目線と修良の冷たい目線が会った。


「……」


(ふぅ――)


三人とも睡眠薬の入れた料理を食べたので、劉石夢はやっと一安心できた。




真夜中、劉石夢はおどおどと部屋を出て、三人それぞれの部屋の扉を叩いてみた。


返事が一つもないのを確認したら、劉石夢は幸一の部屋に入って、熟睡の幸一を背負い、庭に置いてある荷物車に運んだ。

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