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十三 俺は嫁じゃない!

珊瑚と分かれて、幸一と修良は昼ごはんにした。


「珊瑚のおかげで、手間を省けたし、悪い人も成敗された。先輩は今日何もしなくていい、ゆっくり休んでください」


現地の名物の錦羅スープを修良の茶碗に注ぎながら、幸一は楽しそうに笑った。


修良は一度目を伏せて、袖から何かを取り出した。


「幸一、手を出して」


「はい」


幸一は手を修良に差し出したら、一枚の金属が彼の掌に置かれた。


「これは……」


金属は黒銀の色で、掌の三分の一の大きさ、八卦図の形をしている。


表面には太極魚と八卦の模様が入って、裏面には細かい文字が刻まれている。


ぱっと見たところで、幸一の戸籍文書の内容のようだ。


「あなたの戸籍文書を探知する法具を作った」


「いつの間に!?」


「維元城のものをすべて回収してからすぐ着手し始めって、ずっと黒玉枕の中で粋錬(*1)していた。戸籍文書が一定距離に入れば、八卦の面で方向が示される」


*1 錬金のこと。


「こんなことができるのか?戸籍文書はなんの霊気もないのに!」


「霊気がなくても波動がある。世の中のすべてのものは自分の波動を持っている。同じ人によって大量に作られた偽物の戸籍文書はどれも非常に近い波動を持っている。その波動を把握して、更に誤差を計算して考慮に入れれば、追跡法具の制作は可能だ」


「すごい……こんなの、極めて繊細な技術と解析力が必要のはず。先輩って本当にすごい!天才だ!」


幸一の目に感服極めの光が輝いた。


修良はもうそのような眼差しに慣れたので、ただ淡々と微笑んだ。


「そういえば、幸一は珊瑚のことが好き?」


「え?」


いきなりな質問だけど、幸一は率直に答えた。


「うん、好きよ。いい人だし」




同時刻、官府で金芬飛の罪状を述べる珊瑚は、突然に謎のくしゃみをした。




「なら、これから珊瑚の手を借りて事件を解決するのをやめよう」


「どうして?」


「買い手の名簿を調べたところ、三分の一の人は富豪か地元の有力者、官僚までいた。珊瑚が左大類や金芬飛への態度から見れば分かる。たとえ相手が高位の人でも、彼は迷いなく取り締まるのだろう。下っ端役人が次々と有力者に手を出したら、きっと厄介視される」


「!」


修良の話で幸一は目が覚めた。


珊瑚の熱心に感謝するばかりで、彼の立場を考えなかった。


「それに、珊瑚の親が国の要人だったら、珊瑚の行為は彼個人の問題だけではない。下手にすれば、政治闘争に利用されるネタになるかも知れない。私たち仙道の人間が簡単に逃げられるけど、珊瑚は違うだろ」


幸一は恥ずかしそうに頭を下げた。


「ごめん、自分に都合のいいことだけを考えて、珊瑚を面倒なことに巻き込んでしまった……」


「分かったらいいんだ。次に会ったら、珊瑚にもう回収する必要がないと伝えて」


修良は満足そうに幸一の頭を撫でる。


(あの狐は幸一の戸籍文書に興味がないように見えるが、念のため、幸一から遠ざけたほうがいい。)


「あれ、先輩、探知器が光った!」


突然に、探知器に変化があった。


北西のほうを示す駒に、青緑の光が点滅している。


「この距離だと……歩けば半日くらいか」修良は点滅の頻度から距離を判断した、「ただ、大体の範囲しか探知できない。近くまで行ったら地道に探す必要があるかもな」


「じゃあ、やっぱり地面で行ったほうがよさそうね。先輩の体調のこともあるし、黒銀ちゃんを乘って行こう」


「ああ、そうしよう」


食事後、修良は黒玉の枕を道中に投げて、黒虎を出現させた。


二人は人々の様々な反応に構わずに、堂々と虎を乗って北西のほうに向かった。


新しい商機を匂った飲食店の店主は、幸一が座った椅子の周りに縄を張って、「半人半虎が座った席」と書かれた大きいな看板を立てた。


あれから三か月の間、店の商売はかなり繫盛だった。




*********




探知器の指示で、幸一と修良はある廃村までたどり着いた。


村自体はそう荒れ果てていないが、到着の時間はちょうど太陽が沈み、月がまだ昇っていない頃、村全体に怪しげな不気味さが漂っている。


「残った道具と黒い屑から見れば、ここは昔、石炭を発掘する村だろう。かなりの規模があったようだ」


修良は地面に残った石炭の屑を確認して推測した。


「こんなところで俺の戸籍文書を買う人はいるのかな」


幸一は一度見れば二度と忘れない優れた記憶力を持っている。すぐに名簿の内容を思い出した。


「ある劉石夢(りゅうせきむ)という人の住所はこの辺だと思うが……ひょっとしたら、人間じゃないかも知れないな」


「とにかく、探してみよう」


二人は村の中を少し探していたら、とある大きいな屋敷の前で人影を見つけた。


「!」


その人も幸一たちの気配に気づいて、振り向いた。


「珊瑚!?」


「幸一!」


意外なことに、その人は昼間頃に分かれたばかりの珊瑚だった。


「どうしてここに!?」


「緊急任務で来たけど、幸一たちは?」


「戸籍文書の回収に来たが、買い手が見当たらない」


「……」


気が合う友達とまた「偶然」に再会できて、幸一はとても嬉しかったが、修良の顔色が暗くなった。


こんな「偶然」、「偶然」のわけがない。


「あれ、修良さん、顔色が悪いですね。この美しくない場所のせいかな?」


珊瑚が気が利きそうに修良に訊ねた。


「ああ、こんな場所で普通に談笑できる一般人はそんなにいないでしょう」


修良は鼻で軽く笑った。


「大丈夫か、先輩。まず休む場所を探したほうが……」


「ここならいいんじゃない?」


珊瑚は目の前に屋敷を指さした。


「ここ?」


「さっきちょっと調べてみた。ごく最近に人が使用した痕跡がある。まだ誰かが住んでいるかも……」


珊瑚がそう言ったら、三人の周りに、突如に白い煙が現れた。


いいえ、煙と言うより、濃厚な霧だ。


白い霧が村全体を覆い、あっという間に三人の視線を遮った。




「っ!」


戸惑っていたら、幸一の手首は誰かに掴まれた。


「なにっ!?」


幸一はその誰かに引っ張られ、走り出された。


「ちょっと、お前、誰!?」


背中姿を見ると、その人の体型は幸一よりも小柄で、服装も修良や珊瑚と違う。明らかに三人以外の誰かだ。


走りながら、その人は幸一の質問に答える。


「小生は……君の、旦那だ!!」


「はあぁ!?ちょっと、人違いだぞ!」


「間違いはずがない!あの三人の中で小生の嫁がいれば、きっと一番美しい君なんだ!」


「!!」


その言葉を聞いた幸一はピンと止まって、その人を後ろに引っ張り、容赦なく腕でその人の頸を絞める。


「えええええ!!」


その人は悲鳴を上げた。




その同時に、涼しい風が白い霧を吹き払った。


修良と珊瑚は幸一たちと三歩離れた近いところに立っていて、幸一が一人の若い男子を制する場面を見ている。


「一体どういうことかはっきり説明しろ!お前が買い手か!!」


幸一はその人を地面に叩きつけた。


「ぎゃああ!!」


「やめろう、幸一。普通の人間だ。もう逃げられない」


修良は軽く指を鳴らし、風を収めた。


「普通の人間……?」


幸一は男を地面から放して、疑わしい目で彼を観察した。


外見と服装から見れば、二十代の書生らしい。


体型が弱弱しく、表情が固まっている。


「その霧はお前の仕業か?何故いきなり俺を拉致しようとした?」


「し、知りません!拉致だなんて、とんでもないです!小生はただ先祖様の啓示に従い……嫁を迎えに来ただけです!」


「じゃあ、なぜ俺をお前の嫁だと思った?」


「だって、物語はみんなそうじゃないか、書生の嫁になるのはきっと絶世の美人……」


「また言ったな!!」


「ぎゃああ!!」


幸一は再度男を捕まえようとしたが、珊瑚に止められた。


「どうやら誘拐の現行犯みたいだね、それがしが引き受けるよ」


珊瑚は笑いながら縄を出して、男の両手を縛った。


「それがしの大事な友達を傷付ける奴を許さない。刑を三倍にしてやるか」


「ええええ!聞いたことと違います!先祖様、助けてください!!」


男は全身でもがいた。


「その前に、聞きたいことがある」


修良は片手で男の頭を掴み、男の顔を自分のほうに向けさせる。


「あなたの名前は?玄幸一という人の戸籍文書を持っているのか?その先祖様というのは誰?」


「小、小生、小生は……」


幸一は人食い虎のように牙を剥いた、


珊瑚は笑顔で現実的な怖い話をしゃべている、


修良の手が冷たい、目が更に冷たい……


三人の「化け物」に囲まれた可哀そうな書生はただ震えていて、言葉が出ない。


「……」


「…………」


黙って対峙し続けていても仕方がないので、修良は目線を和らげ、やさしそうな笑顔を作った。


「大丈夫ですよ。正直に事情を説明すれば、あなたは牢屋に行きません。私が保証します」


「うあああ、菩薩様!!助けてください!!!」


藁にも縋るように、書生は修良に抱きついて号泣した。

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