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Gemstone  作者: 粂原
番外編
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第13章 その後

 輪の中心に居たロレッタとリューズナードよりも、周りの住人たちのボルテージが上がり、その日はそのまま「二人の仲直り記念」と称した宴会が始まった。宴会と言っても、やれることは限られている為、内容は普段の炊き出しと変わらない。皆で賑やかに食べて、騒ぐだけだ。


 娯楽の少ない環境だからこそ、こうして誰かの小さな幸せを大袈裟に分かち合いながら生活している。この温かさが好きだ。心からそう思う。


 やがてどっぷり日が暮れ、子供たちが眠気を訴え始めたことにより、宴会は幕を閉じた。それぞれロレッタは片付けを手伝うと提案し、リューズナードはいつも通り周辺の見回りに行こうとしたが、どちらも住人たちに引き留められる。長旅で疲れているだろうし、怪我もしているのだから早く休め、と自宅への直帰を言い渡された。これだけ騒いだ後に言うことか、とリューズナードは抵抗していたものの、聞き入れてはもらえなかったようだ。


 輪の中から摘まみ出され、ようやく観念したらしい。リューズナードがロレッタを見て言う。


「……帰るか」


「! は、はい……」


 ロレッタの心臓がドキリと脈打つ。一緒に自宅へ帰るだなんて、初めてのことではないだろうか。スタスタ歩き出した彼の背中を、慌てて追いかける。住人たちが居る手前、手を繋ぐのは躊躇われたが、隣に並ぶとそれだけでなんだか心がポカポカした。




 特に会話もないまま、リューズナードの自宅に着いた。家主が先に中へ入り、ロレッタもすぐ後に続く。


 建付けの良くなった扉を閉めた時、リューズナードがくるりと振り向いた。


「……おかえり、ロレッタ」


 彼自身も、あまり口慣れしていなさそうな言葉。少したどたどしい発音のそれが、ロレッタの体に優しく溶け込んでいく。


 この家は、紛れもなくリューズナードの自宅である。成り行きでここに住むことになったロレッタとしては、「人様の家に置いてもらっている」という意識が強い。言ったことはないけれど、帰宅時の挨拶は「お邪魔します」が妥当だと思っていた。


 しかし、この村の一員になった上で彼に迎え入れてもらえたのだから、もうその限りではない。これからは、ここがロレッタの自宅にもなるのだ。


「……ただいま、戻りました……」


 彼に劣らずたどたどしい発音になってしまったが、リューズナードは満足気な顔をしていた。


 それ以上、何を言えば良いのか分からずに視線を下げる。すると、土間の隅に彼が作ってくれた花束が置いてあるのが見えた。ロレッタが村を出る前に置いた状態そのままで残っている。


 持ち上げてみると、草花たちはほとんどが萎びてしまっていた。根から切り離され、養分を摂取できない状態で放置されていたのだから、仕方がない。分かってはいるが、悲しい気持ちになってしまう。せっかく、リューズナードがくれた物だったのに。


「……それ、そんなに気に入ったのか?」


「はい……。頂いた時、心の底から嬉しかったのです。それなのに、大切にできなくて申し訳ありません……」


「俺に謝る必要はないが……。王宮には、もっと立派な生け花やら造花やらが、いくらでもあったはずだろう。連絡手段ができたんだ、言えば好きなだけ送ってもらえるんじゃないか?」


「いいえ、私は、こちらが良かったのです……」


「…………」


 彼が黙ってしまった。困らせている。逆の立場なら、自分だってこんなことを言われても対応に困る。どうにもならないことで()()()なんて、小さな子供じゃあるまいし。


 帰って早々、呆れられたかもしれない。そもそも、疲れているだろう彼に、こんな面倒な問答をさせるべきではないのだ。悲しみよりも申し訳なさが勝ってきた、その時。


 それこそ小さな子供でもあやすかのように、ぽんぽんと頭を撫で付けられた。


「あ、あの……?」


「悪い。お前がそんな態度を取るなんて、珍しいと思って。他の奴らに同じことをしているのも、俺は見た記憶がない」


「申し訳ありません、はしたない真似を……」


「いいや。不思議と、気分が良い」


「え……」


「何も話さないでいるより、ずっと良い」


 そう言えば、この花束をくれたのも、ロレッタの口を噤んでしまいがちな態度を嫌がってのことだった気がする。よほど不快な思いをさせていたのだろうか。また申し訳なさが募る。ただ、彼の声は言葉の通り上機嫌そうだ。


「生憎、こんな環境だからな。王宮のような贅沢な暮らしなんてさせてやれないが、そんな物で良いなら、また用意する」


「! ……本当ですか……?」


「……俺が作るのでは、粗末な出来にしかならないが」


「いいえ! お手数をおかけして申し訳ありませんが、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「あ、ああ……」


 嬉しい言質が取れた。喜びのままに見上げれば、リューズナードが少したじろぐ。住人たちの圧に押し負けている姿はたまに見かけるが、ロレッタ相手にこんな反応をするのは珍しい。まだまだ互いに、知らない顔がたくさんある。


 これから、時間をかけて一つずつ、知っていけたら良いなと思う。


「それで、どれが良かったんだ?」


「……ええと……どれ、と言うのは……?」


「俺には、お前の喜ぶ物が分からない。だから教えてほしい。好きな花が入っていたから、気に入ったんだろう? どれだ?」


「いえ、特に、そういうわけでは……。どれも綺麗だとは思いますけれど……」


「??? それなら、何がそんなに良かったんだ」


「……リューズナードさんが作ってくださった物だから、嬉しかったのです」


「誰が作っても同じだろう。分かるように言ってくれ」


「こ、これ以上分かりやすく、ですか……!?」


 通じ合うまでの道のりは、果てしなく遠いようである。






第13章 その後  終

ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました!


第1部はこれにて完結、次ページより第2部が始まります。

更新ペースは落としますが、しばらくは毎日の更新を続けられるかと思いますので、引き続き見守っていただけますと幸いです。

よろしくお願い致します!

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